その夜、瑠海はひどく退屈していた。  
番組改変の時期はどのテレビ局もそうなのだが、通常のドラマやバラエティーが一切なく  
なってただ長いだけの番組がひたすら続く。興味のある内容ならまだしも、薄っぺらなもの  
ばかりとくれば、退屈もするだろう。  
「あー、もう飽きた」  
だらりと寝そべっていたソファーから起き上がって伸びをすると、急に甘いものが食べたく  
なってくる。そんな時はいつもの一言だ。  
「お兄ちゃん」  
だが、いつも瑠海の言う通りに使い走りをする兄、佑助の反応がない。疲れているのか  
脇のソファーですっかり寝入ってしまっているようだった。  
「ねー、お兄ちゃん。アタシトリプルベリーパフェが食べたいな。それとカレーまんも」  
せっかく可愛くおねだりしても、全然目を覚まそうとしない。瑠海はテレビだけではなく、  
頼みの兄にも置いていかれる形になってすっかり臍を曲げてしまった。  
「もう。可愛い妹のお願い聞いてよ。お・き・て♪」  
むにむにと頬を抓っても、鼻をつまんでも、スウェットの襟元を捻り上げても、佑助は夢の中  
に行ったっきりだ。  
「お兄ちゃんのバカ!」  
何をどうしても兄を起こすことが出来ず、瑠海はぽつんと床に座り込んだ。こんなことがある  
筈ない、いつも嫌々ながらでも瑠海の頼みは何でも聞いてきた兄だ。今までだってそうなら、  
これからだって決して変わりない。  
そう、例えこの兄とは血が繋がっていないとしても。  
 
「…呑気な顔しちゃって」  
トリプルベリーパフェが食べられないことも大きいけれど、今の瑠海にとってはまず願いを  
聞いてくれないこの兄を何とかしたいという気持ちがあった。  
「無防備な顔しちゃって。アタシならそんな顔してても大丈夫って思ってんでしょ」  
先程よりも強く鼻をつまんでやる。佑助はわずかに眉根を寄せて身じろいだだけだったが、  
瑠海を満足させるにはそれで充分だった。  
「お兄ちゃん、アタシだって女の子なの。家の中に血の繋がらない異性がいたら複雑なん  
だからね」  
瑠海の心の中の暗い感情が炸裂した。  
高校生になっても子供みたいなことばかりしている幼稚な兄だけれど、瑠海にとってはたった  
一人の兄で、いつでも一番の理解者でいるつもりだった。血が繋がっていないことを知った  
のは二年前だが、だからこそ余計にずっと一緒にいられると思っていた。  
なのに。  
脳裏に金色の髪が翻った。  
あの女が全部邪魔をする。  
いつの頃からか知らないが、佑助の側にはいつもあの金色の髪をした女がいて、何かに  
つけ纏わりついている。それを絆だなどと言われても感覚がついていかない。そんなこと  
があってはならないのだから。  
ヒメコと呼ばれるその彼女を決して嫌っている訳ではない。むしろ姉のようで大好きなのに  
今夜だけは何故か許せなかった。  
「ねえお兄ちゃん、お兄ちゃんはずっとずうっとルミと一緒だよね。離れたりしないよね。  
やだよそんなの」  
 
普段なら絶対言わない言葉だ。それを言わせるのはいつも表に出てこない感情がこんな  
時に限って溢れて止まらないからだ。瑠海すらも意識していない感情だった。  
「お兄ちゃん、あの女とやらしいことなんか、してないよね」  
「んー…」  
その時初めて、まるで返事のように佑助が声を発した。  
「して、ないよね」  
「んー」  
「だったら、アタシがしてあげる」  
家の中には他に誰もいない。母の茜は一週間前から仕事が残業続きで、今夜も帰宅は  
日付が変わる頃だろう。後は兄の目が覚めさえしなければ良いのだが、別にこうなったら  
途中で起きても構わないとさえ思っていた。  
「貰っちゃうね、お兄ちゃん」  
スウェットの上から股間に触ってみた。特に何の兆しもない。軽く握ってみても同じだった。  
ならばとズボンの仲に手を差し入れて直接握り込んでやると、途端に生き物みたいに跳ね  
上がるような反応が返ってきた。  
「ふ…ふっ」  
男のそんな一物など、こうしてまじまじと見たこともなければ触ったこともない。だが今の  
瑠海にとっては格好のオモチャになっていた。一番大好きな、たまに生意気なことを言う、  
けれどやはり嫌いになることなど有り得ない兄のモノだ。他の男のモノなどとはきっと違う  
に決まっている。  
間違っているとしても、今はそう思い込んでいた。  
 
つけっぱなしのテレビからは、相変わらずくだらない芸人のトークが繰り広げられている。  
ああ確かこの話は前にも聞いたことがあるな。この芸人ももう終わりだな。そんなことを頭の  
片隅で考えながら、瑠海は目の前の面白いオモチャにすっかり夢中になっていた。  
扱けば手の中でむくむくと大きくなる。キノコみたいにそそり立ってきた先からはだらしなく  
たらたら濁った白い液体が垂れ落ちている。こういうのって、何ていうんだっけ。  
考えても分からないことは、試してみるだけだと指先でぬらぬら液体を絡ませながらぺろり  
と一物の先を舐め上げた。  
「ん、くっ…」  
気持ちが良いのだろうか、刺激が届いたのか深い深い夢の中から佑助が意識を浮かび  
上がらせようとしている。  
「ダーメ」  
おいたをする子供にそうするように、飴玉のように舌先で転がしていたそれをぴんと指で  
弾いた。また面白いことに、ぴんと張り詰めきったそれが更に硬くなる。  
「わ、面白ーい」  
初めてのことで興奮もしているのか、瑠海は扱く手を休めることもなくぱくりと深く銜え込んで  
喉奥まで迎え入れた。嬉しい。心から嬉しかった。こういうことは恋人同士になったらするもの  
だと小学生の頃読んでいた少女雑誌で見たことがあった。今夜、別に佑助はしてもいいとは  
言わなかったけれど、こうしているのは紛れもない事実になった。  
何にせよ、まずは既成事実が大事だものね。あの女がまだこれをしていなければいいんだ  
けど、と宝物のように一物を握る瑠海の表情は危ういほどに恍惚としていた。  
「お兄ちゃん、お兄ちゃん…アタシのこと好きって言って」  
 
何も知らないまま扱き続けてきたけれど、すぐに一物全体が痙攣するようにぶるっと震え  
出した。いけない、ソファーを汚しちゃう。咄嗟にそう考えた瑠海は再びそれを大きく咥えて  
口を閉じた。  
その瞬間、断続的に流れ込んでくる何か苦い、しょっぱい、生臭くてまずいもの。それでも  
一滴たりとも零したくなくて、むせながらも瑠海は時間をかけて口の中に放たれたものを  
飲み下した。やはりまずくて涙が溢れ出す。  
「はあ、はあ…」  
さすがに大変だったのでぐったりとソファーに寄りかかり肩で息をつくばかりだったが、肝心  
の佑助は相変わらず目覚める気配がなかった。  
ご馳走様、と呟いて一人で声も立てずに笑った。  
 
一時間もした頃だろうか。  
呑気な顔で佑助が大あくびをしながら起き上がった。  
「あー、うっかり寝ちまった」  
「いいご身分で。アタシがいたからいいようなものの、こんなトコで寝てて風邪ひいたらどう  
すんの」  
何食わぬ顔でいつも通りの言葉を投げながら、テレビを見ている瑠海の横顔が妖しくにやり  
と歪んだ。  
「あ、お兄ちゃん。起き抜けの運動代わりにコンビニ行ってきて」  
「あぁ?自分で行けっての」  
「だあって、お兄ちゃんが買って来てくれた方が美味しいんだもん。トリプルベリーパフェね」  
「ちぇっ、全くもう…」  
ぶつぶつ言いながらも結局は言いなりになる佑助の背中を見送りながら、瑠海は暗い欲望  
を燃え上がらせていた。  
アタシを好きって言わないお兄ちゃんには、まだご褒美なんてあげない。アタシの初めてが  
欲しくて堪らなくなるように、そのうちしてあげるんだから。  
ベリーが好きな少女の瑠海に、ひとつの真っ黒い秘密が出来た。  
 
 
 
終わり  
 

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