「何を手に持ってるの?」
不意に声をかけられ、ぼんやりと手元を眺めていたキョーコははっと我に返った。
「あ・・・敦賀さん。コーン…ほら、前に私が落としたことのある宝物です。」
体にシーツを纏わせベットに横になったまま、碧い宝石をいとおしげに見やり、枕もとの明かりに照らす。
わずかな明かりの中、コーンは光を吸ってきらきらと輝く。
「ほんとはもっと明るいところで見るのがきれいなんですけどね…」
自分のすぐ後ろに、蓮が座ったのを感じたが、キョーコはそちらを見ようとはしなかった。
いや、見ようとしなかったのではなく、気恥ずかしくて見られなかったのだ。
なにしろ、先ほどまで今彼女が横になっているベットで蓮と激しく抱き合っていたのだから。
「それで…」あわててしゃべりまくるキョーコの前に、ふっと影が落ちる。
蓮が彼女の前に覆いかぶさるようにして、キョーコをじっと見ていた。深い色の瞳に息が詰まり、あわてて目をそらす。
「つ…敦賀、さん…?」
「どうして…こっちを見ないの?」
ただ単に気恥ずかしいからだったが、蓮はそれをどう解釈したのか、「やっぱりつらかった?無茶をさせてごめん」と謝ってきた。
その言葉にはっと蓮を見る。蓮は深い悔恨の表情を浮かべていた。
確かに、先程の行為は慣れていない彼女にはつらいと思うこともあったが、それも自分が望んだ事だ。
何かいおうと口を開くが蓮の顔を見れず下に眼をやると、蓮の手に眼がいってしまい、さらにうろたえてしまった。
蓮の手の付け根には、キョーコが彼を受け入れるときにつけた爪あとがいくつかあった。 俳優の体に傷をつけるなんて…。
「…っいいえっ大丈夫です。それよりごめんなさい。手に傷が…」
その言葉にはじめて気づいたのか、手を見やり、「ああ。気にすることはないよ。これくらいすぐに治る」
「でも…っ」あせるキョーコに蓮は大げさにため息をつく。
「悲しいな…」
「え?」
キョーコは先程から、蓮をまっすぐに見ようとはしなかった。それが恥ずかしがっているのは分かっていたが、こちらを見てくれないのは悲しい。 要するに蓮は少々拗ねていたのだった。
「悲しい?どうして…あ、そうだ敦賀さん、これ…」
キョーコは手に持ったコーンを蓮に差し出し、「この石は悲しみを吸ってくれる石なんです。敦賀さんも手にとってみてください」
蓮は苦笑したようだった。「いや…俺にはそれは必要ないよ」
「そうですか?」
「ああ。俺には君がいるからね」耳元にささやくようにいって蓮は微笑む。
その言葉に、キョーコはやっと心がほぐれたようで、ふわりと笑んで、今日はじめて自分から蓮に抱きついた。