キョーコが泣くのはいやだ。 キョーコが泣くとおれのからだのまんなかはぎゅうといたくなって、
キョーコになんにもしてやれなくなる。
キョーコはおれがいたくなるのをわかってて、おれに見つからないようにこっそり泣く。
おれはそれがとてもいやだ。
おれのそばにいるキョーコは笑ってなきゃだめだ。
おれのそばにいるときはおれと同じようにキョーコもうれしい気持ちにならなくちゃだめだ。
だってあいつはおれの「けらい」なんだから。
「そんな事言ってショーちゃんキョーコの事好きなんだろー?」
一年から同じクラスのタケシがにやにや笑いながら俺の超絶美麗な顔を覗き込む。
「お前がキョーコって言うな」
タケシに釘を刺してから俺は奴の勘違いを訂正する。
「この俺様がキョーコ如きに惚れるかってんだ。あいつはうちの使用人。俺の家来。むしろ下僕」
前髪をかきあげながら優雅に組んだ長い足を組み替えると半径10メートル以内の女子全員の唇からほぅ、と
恍惚の溜息が漏れ出るのが聞こえてきた。
嫌だなぁ俺。もてすぎ。ちょっとした仕草で女引き付けすぎ。
「ショーちゃん、ショーちゃん、ちょっと浸ってないで帰ってきて」
タケシの不粋な声で俺は我に返る。「要はさ」タケシはなぜか声の調子を下げると顔を寄せてきた。
サッカーのやりすぎで真っ黒に焼けたうえに皮の剥けてしまった顔はまあなかなかバランスのとれた作りになっている。
少々頭悪そうに見えるが、温室で手塩に掛けて育てられた白い薔薇の友人兼引き立て役には申し分無い。
が男に顔を近付けられても嬉しくも何とも無いのでさり気なく身を引く。
「ショーちゃん。違うから。俺が話したいのはキョーコの………いてぇっ」
再度キョーコを呼び捨てにした馬鹿の足を思いっきり踏みつけてから俺は話題を戻した。
…畜生。キョーコを呼び捨てにしていいのは俺様だけなんだよ。
「…で?キョーコがどうした?」
「いや、別にキョ…最上がどうってわけじゃないんだけど、要はショーちゃんは最上を慰めてやりたいんだろ?」
「そうじゃねぇ!ただ俺はあいつが泣くとウゼェから…………」
何を勘違いしてるんだこの馬鹿は。俺があいつを慰めたい?キョーコを?ちゃんちゃら可笑しいね!ハッ!
俺はアイツが辛気臭い面してるとムカムカしてなんか苦しくなるだけだ。あいつが笑ってれば気分がいいんだ。
それだけ。
だってキョーコは俺の家来なんだから。この先もずっとずっと俺のものなんだから。
俺の憤りが伝わっているのかいないのかタケシはへらへら緊張感のない笑みを浮かべながら話を続ける。
「まーまーショーちゃん。その辺の微妙な線引きはいいからさ、
今日学校終わったら俺の家来いよ!女喜ばすいい方法があるんだ!
へへへっ昨日アニキに教えてもらったんだ♪」
「なんだよ?勿体ぶってないで教えろよ」
いや別にキョーコを喜ばそうとか慰めようとかは思ってないぜ?でもタケシの妙に嬉しそうな顔が気になる。
「ここじゃ言えないんだよ」
俺の質問にタケシは重大な秘密を告げるように声を潜めた。
「とにかく今日家来い!丁度アニキも部活休みなんだ。あ、あとキョーコには内緒だぜっ」
言うだけ言ってタケシは肌身離さず持っているサッカーボールを小脇に抱えて校庭に飛び出していった。…よくやるよ。
俺はこの透き通るような白い肌をキープするために日差しの強い日は外に極力出ないようにしているんだけどな。
………つーかアイツまたキョーコって呼んでたな。殺す。
俺と一緒に帰りたがるキョーコをだまくらかしてタケシの家に行くとタケシの四つ年上の兄さんのショーゴが俺を迎えた。
ショーゴも中学の部活でサッカーをやっていて真っ黒に日焼けしている。
俺の頭を叩きながら相変わらずなまっちょろいなとか言うからボディブロ-をかましてやった。ザマァ。
脇腹をさすりながらケンジは俺を自分の部屋に入れる。
中には既にポテトチップスで手をべたべたにしたタケシが陣取っていた。
「兄ちゃんー用意しといたよーてか本棚の裏なんていうありきたりな場所に隠したら見つけて下さいと言ってるよーなもんだよ?」
この兄弟は少しだけ弟のほうが頭がいい。
油塗れの指に掲げられた四角い箱を見てケンジは悲鳴を上げた。
「ギャー!先輩から借りた秘蔵の無修正を油塗れの手で!!」
ショーゴが慌ててタケシから奪ったのはなんの変哲もない録画用のビデオテープだった。
「なんだよそのビデオ」
眉を寄せた俺をちょっとした乱闘を終えた二人が振り返り意味深な笑みを浮かべた。
「ショーちゃん喜べ。女を悦ばす究極の方法が今から観れるぜ?」
二人の声が綺麗にハモった。
…………………ぎゃああああああああああああ!!!!
生々しい夢を見て跳ね起きた。布団に包まりながら覗き込んだデジタル時計は既に午前一時を差している。
夜更かしは美容に悪いから寝直そうと思ってるのに目がぎんぎんに覚めてしまった
みたいだ。こんな変な夢見るのは昼間あの馬鹿兄弟が俺に見せたアレのせいだ。
なんか…その…男と女が裸で絡み合って……ぬるぬるした赤黒い色のちんちんを…変な方向にくっついてて変な形と色だったけど、
男の股間に生えてたしショーゴがこいつのチンポでけぇよとか言ってたのでそうだと思われる…
とにかくその気持ち悪いものを女の股の穴にずぼずぼ出し入れしてたあのムシュウセイノアダルトビデオとかいうやつのせいだ。
(うーっ)
目を閉じると体中を白い液塗れにしながらもっと突いてぇとか気持ち良さそうにあんあん悶えてた女の顔がちらつく。
でかいおっぱいをゆさゆさ揺らしながら男にそれを揉まれたりさきっぽを吸われたりしてイクイクイク〜とか言って(どこに?)
…まあ他にも色々あったんだがとにかく凄かった。なにが凄かったかはわからないが凄かった。
しかし本当にあれで女は喜ぶのか?ビデオの女は涙を流して喜んでいたが。
キョーコも…キョーコも俺にああされたら嬉しいのかな。あの女みたいに嬉し泣きとか…したりして…
冴菜おばさんに冷たくされても、大丈夫になるかな…。
時計とは反対側に寝ているキョーコは熟睡してるのか規則正しい寝息が聞こえる。
目が慣れてきたせいかキョーコの間抜けな寝顔もぼんやりと見える。
俺様が眠れない夜を過ごしてるつーのに呑気に寝てるキョーコにむかついて、体をまるめて寝ているキョーコの脇腹を蹴る。
小さく呻いてキョーコが身じろぎをした。
起こしたかなと思ったがキョーコはまるめていた体をさらにまるめて、小さく嗚咽を洩らし始めた。
「おかあさん…ごめんなさい…ごめんなさい…」
カーテンの隙間から覗く月の光がキョーコの瞳から流れた涙を照らした。
「………っ!!!キョーコ」
まただ。
ずきん、ずきんと胸の奥が痛む。畜生。俺がこーやって隣で寝てやってるのになんで泣くんだよ。
『…な、なあショーゴ?こんなんで本当に女ってやつは喜ぶのかよ??』
『悦ぶに決まってるだろー?見ろよあの女優の顔』
『………そうなのか?』
昼間、「ビデオ」を見ながら交わした会話が脳裏を過ぎった。
「キョーコ」
あのビデオは、最初どーしてたっけ。水着みたいな格好した女がえっちが大好きだからとかインタビューに答えてて…
そこは関係なさそうだ。で差し出された男のちんこもどきを舐めて美味しいとか言って、
ああでもキョーコはうちのオヤジの料理食ってるから舌は肥えてるはずだからあんなものを舐めても美味しいとは思わないだろう。
きっとあの女はびんぼーなんだろうと思う。だからあんなものしゃぶって美味しいとか言えるんだ。
キョーコは俺の親に良く飴とかキャラメルとかも貰ってるしな…だとするとキョーコが「喜ぶ」ってのはその後のやつだよな…。
「キョーコ、起きろよ」
俺はキョーコの布団を捲って馬乗りになるとキョーコの丸いほっぺをべちべち叩いた。
「…ん、しょ…ちゃん?」
何度かぺちぺちするとキョーコがとろんとした目で俺を見上げてきた。
「ど…したの?おもい…よ…あっ」
目を擦ったキョーコが気まずそうに俺から顔を背けた。
どうやら俺に泣いていたのを悟られたく無いらしい。
むかつく。下僕の分際で俺に隠し事なんて十年早ぇえよ。
「ショーちゃん?何するの?」
パジャマのボタンを外し始めた俺の手を嫌がってキョーコが身を捩る。
「うるさい。黙ってろ」
俺の命令をちゃんと聞いてキョーコは黙ったが、
そのうちに俺がパジャマの前を全部開けてキョーコの肌を舐めるとびくっと身体を震わせた。
キョーコのなまっちろくて真っ平らな身体はすべすべで俺より柔らかくて牛乳石鹸の匂いがした。
ちゅ、と肌に吸い付くとキョーコが小さく身を震わせた。
それが面白くて何度もしてるとキョーコのピンク色の乳首がぷつんと尖ってるのに気付く。
この前二人で森に探険しに行った時に食べた茱の実みたいだ。あの時はすっぱかったけどキョーコのはどんななんだろう。
きゅうっと摘んだらそれまで為すがままだったキョーコが声を上げた。
「ショーちゃん…だめ…そこおっぱいだよ…?」
俺から逃げようとするキョーコを押さえて俺はそれの味を確かめた。
少し硬くてこりこりしてるそれを舌で転がす。
なんの味もしなかったが微かに甘いような気がして俺はもう片方も吸ってみた。
キョーコがうわごとのようにだめぇ、と繰り返すのを無視して俺はキョーコのパジャマのズボンをパンツごと脱がせた。
「やだよぅ恥ずかしいよぅ」
蚊の啼くような声でキョーコが身を捩りながら俺のパジャマの袖を掴んだ。
「何がだよ」
三年前位まで俺とキョーコは一緒に風呂に入っていた。だから別に大して恥ずかしがることじゃないのに。
「だって」
顔を真っ赤にして更に力をこめてきたキョーコの手をぎゅっと握って、
「大丈夫だ。気持ちいくしてやる」
ごねるキョーコに俺が自信たっぷりの笑みを浮かべるてやるとキョーコはぽーっとなって俺を見上げてきた。
「俺の言う事聞けるだろ?」
「…うん」
おれの命令に、キョーコは顔を赤くしたまま頷いた。
よしよし。それでこそ俺の家来。名誉あるファン1号。