月籠りの出演も決め、原作を貰って意気揚揚と歩いていたら――…  
 
 
 敦賀さんに誘(いざな)われてその手をとった私だけど、演技に関してはまだまだ未熟で自信がない。  
確かに養成所でお稽古してるけど、小さい頃から"ショーちゃん"ひと筋だったのだ。そこで、  
「あのぉ…お願いがあるんですが…」  
と、敦賀さん達を見上げてたずねた。(背が高いから仕方ない)  
「ん?何だい?俺でできる事なら協力するよ。共演するんだからなんでも言ってごらん」  
「勉強の為に前作を見てみたいんです。原作も椹さんにお借りしてきたんですが、映像と  
文章とでは受けるイメージも違うと思うんです。」  
その時、隣で監督の顔色が変わった事に気がついた。びっくりして慌てて  
「あの、あの、私も監督と同じように前作を超える作品にしたいんです。ただ…  
未熟なので少しでもどんな事でも吸収したいんです。」  
「わかった、だったら俺の家においで。  という事なので、社さん…」  
「あぁ、わかったよ。キョーコちゃん、ちょっと待っててね。」  
え?え?どういう事?あ…社さん、行っちゃった。  
「敦賀さん?」  
「そうそう、遅くなるだろうから家の人に連絡しておいで。監督、僕も最上さんも大丈夫ですから。  
一緒にいい作品を創りましょう。」  
「――…え!? あ、はい!頑張りましょう。キョーコさんも、頑張りましょうね。」  
「はい!こちらこそよろしくお願いします!それでは失礼します。」  
たくさんのビデオテープを抱えた社さんが戻ってきた。敦賀さんが言ってたのはこれだったのね。  
 
「じゃ、キョーコちゃん 頑張ってね。蓮、キョーコちゃんの事 頼んだよ。」  
嘘…社さん、自宅に帰ってっちゃった。恐る恐る運転中の敦賀さんを見てみた。  
「あくまでも前作は前作として、作品を見ようね。君は、君にしか出来ない未緒を創りあげればいい。」  
「はい!わからない所があったら教えて頂けますか?」(よかった、いつもの敦賀さんだ。)  
「もちろん、喜んで」  
 
・・・――  
「さぁ、着いたよ。」  
う〜ん、さすが敦賀さんだなぁ。どんな時も紳士だわ。  
車を降りるときも部屋に入るときもレディーファーストだ。  
 
TVの前に座り、始まったドラマに入り込んで行った。  
ここがどこなのか忘れるくらいに・・・  
 
 夢中でビデオに見入る彼女を見ているだけでも楽しかった。表情がくるくる変わるのだ。  
もはや自分がどこにいるのかも忘れているんだろう。泣きそうになったり幸せそうに微笑んだり、  
かと思えば怒り出したり(画面に向かって文句を言っている)切なげな表情をしたり。  
 ふと、社さんの言葉を思い出した。そうかもしれない。コーンと呼ばれていた頃の自分と彼女。  
復讐する為よ!と叫びそれに突き進んでいく彼女、演技する喜びを知り過去から生まれ変わるように  
輝いているすぐ側にいる彼女。  
 社さんにはあんな事言ったが、本当は彼女とは年齢の差を感じた事はない。今まで辛い事が多かった  
からかもしれない。その時、突然自分の中に黒い気持ちが湧いてきた事に気づいた。  
 この気持ちはなんだろう――…  
 
「はぁぁぁぁん、素敵〜〜!!私がこのドラマに出るんですよね〜 未緒役だけど。」  
「どう?なにか役のヒントはつかめそうかい。」  
「そうですね。難しそうだけどすっごくやる気が出てきました!」  
「それはよかった、君なら出来ると信じているよ。俺に出来る事があれば何でも言ってくれれば  
いい。いいものを創る為の協力は惜しまないからね。」  
「よろしくお願いします!」  
「じゃ、今日はもう遅いからここに泊まっていくといい。ゲストルームもあるから安心してシャワーでも浴びておいで。」  
「え!?そんな…いいです。申し訳ないので今日はこれで失礼します。」  
「何かな?君は俺が君に何かするとでも思ってるのかい?」  
大人ぶった余裕ある素振りでくすくすと笑ってる。前に看病した時の事を思い出して、つい  
「わかりました!では本当にお風呂、いただいちゃいますからね!長いからって見に来ないでくださいよ!」  
「はいはい。どうぞごゆっくり。だけど風呂の中で寝ないようにね」  
「そんな事しません!!!いってきます!」  
バタバタバタバタ――…  
「やれやれ、本当に面白い子だ」  
 
彼女の足音が消えた事を確認するとビデオを再生した。社長にも指摘された俺にとっての重要課題。  
俺は前作と同じ演技をしない。現代の、俺にしか出来ない役を創るんだ。  
しかし、目は画面を追っているが内容が入ってこない。心が先ほどの想いに捕らわれているようだ。  
幼い頃の泣いている彼女を思い出したのだろうか。それとも不破との関係…?  
「――――さん、つるがさん、敦賀さんてば!」  
「え…?あ・あぁ、お風呂 あがったんだね。うん、綺麗だよ。」  
「…っ、お風呂有難うございました。それにこんなに素敵なバスローブまで。  
敦賀さんも行って下さい。私、もう少し見たいので。」  
「あぁ、そうするよ。湯冷めしないように気をつけるんだよ。」  
湯上りのせいか真っ赤な顔をしている彼女にそう告げて部屋を出た。  
少し頭を冷やした方がいいかもしれない。  
 
ふふっ、敦賀さんもあんなに真剣な顔して月籠り見てた。やっぱり敦賀さんもプレッシャー感じてるのかな?  
それにしても… "綺麗だよ"なんて言葉が普通に出てくるところが敦賀さんなのよねぇ…  
綺麗…私が誰かに綺麗なんて事言われる日がくるなんて、嘘みたい〜〜  
… … ……  
「お嬢さん、そんな所で寝てると風邪ひきますよ。」  
髪の毛をいじる感覚に気がついてハッと目が覚めた。  
「あ…っ あのっ、えっと、ゴメンなさい。私、眠っちゃったみたいで…」  
「いや、構わないよ。俺のほうこそ悪かったね、一人にしてしまって。もう一度見るかい?」  
「お願いします。先刻は敦賀さんはどこを見てたんですか?」  
「あぁ…ちょっとね――…」  
その声を聞くとはなしに夢中になって画面を見ていたけれど、先程のうたた寝が残っていたのかだんだんと  
意識が遠くなってきた。寝てはダメ、私には時間がないの。敦賀さんの期待に応えなくちゃ…  
 
――なんだろう、体がふわふわと浮かんでいるみたい。私ったら空を飛んでるのかしら うふふふふふ〜  
ほ〜ら、あんな所にエンジェルがいるわ〜 それにとってもあったかぁい  
ここは天国かしら?それとも雲の上?ふかふかな場所に降りたみたい。  
あ、待って 行かないでエンジェルさ〜ん  
 
伸ばした指先に何かが触れた。私は慌ててその"何か"を掴んだの。  
そしたら、優しく笑っている敦賀さんと目があった。それに私の髪を優しく撫で梳かしている。  
「なんだか楽しそうな夢を見ていたようだね。」(くすくす笑ってる…)  
今まで目が覚めた時、誰かが傍にいてくれた事なんてなかった…  
こうして頭を撫でてもらったこともない。自分でも分からないけど涙が溢れてくる。  
「どうしたんだい?気持ちよさそうに寝てたからベッドまでつれてきたけれど、夢見が悪かった?」  
「そうじゃないんです。私…いつも一人だった。ショーちゃんと一緒の時もショーちゃんは私を見てはいなかった。  
寂しかった、でも、それを口にしてはいけないと思ってた。認めたくなかったの。本当は誰かに傍にいて欲しかった!」  
そう叫び敦賀さんの胸にしがみついてしまった。子どものように声をあげて泣いた。  
敦賀さんは、私が落ち着くまでそっと抱きしめてくれていた。時折背中をポンポンとたたき、なだめてくれた。  
 
思い切り泣いて、敦賀さんの温もりに包まれているうちに新しい自分になれたような気がした。  
「俺が傍にいるよ。泣きたくなったら、いつでもおいで。そして笑顔の君を見せてくれるかな?」  
突然の言葉にそっと顔をあげると天使のような笑顔をした敦賀さんがいた。  
さっきの夢はこの事だったのかなぁと思いながら、もう一度胸に顔をうずめた。  
今度はぎゅっと抱きしめられた。気遣うような優しいキス。  
熱にうかされたように見つめると、激しい口づけ。私の心を溶かしていく…  
「あ の… 敦賀さん 私・・」  
「俺にすべてをあずけて。大丈夫、怖くない」  
少しだけ震えている、怯えている私を安心させるように包み込んでくれた。  
涙の残る瞼にキス、涙の跡をたどるようにキスを重ねていく。そして深い深い口づけ。  
バスローブ越しの胸に添える手が暖かい。ゆっくりと優しく揉みほぐされる。  
「…っ  …っん〜〜 ぁ・・やぁ   恥ず か しい・…です・・」  
乱れたバスローブをそっと肩からはずされ、肌が露になる。  
恥ずかしさで真っ赤になる私にちょっと笑いかけ、綺麗だよ とつぶやいた。  
 
すべてを脱ぎ一糸纏わぬ姿になった私をまた抱きしめてくれる。  
シーツに横たえ、胸の頂きを口に含む。身をよじる私を追いかけるように反対の膨らみを揉みしだく。  
自分の声ではないような悦びの声に驚く。頭の奥のほうで"はしたない"と思うんだけど止められない。  
腰から腿へ、そして内側を撫で上げると脚のつけ根まできた所で身体が跳ねた。  
「やっ…ぁっ  ぁ  ぁ   あぁ・・っ」  
敦賀さんの繊細な指が翳りを探る。  
花弁をなぞり、隠れていた芽を見つけ摘む。  
痺れるような感覚に身体が逃げていく。怖い、自分が自分でなくなるみたい。  
「…っ! やぁっ……はぁ…ン」  
細く長い指が花弁を開き、蜜壷を触れるか触れないかの微妙なタッチで動く。  
わずかながら潤いはじめた事を確認すると、そっと奥へ進めていく。  
自分の中で恐怖が消え、甘い想いに捕らわれる。大丈夫、敦賀さんとなら怖くない。  
 
私の様子を気遣いながら、ゆっくりとほぐしていく。  
十分に充血した芽に違う感触を覚えた。敦賀さんが私のそこに口づけしてるんだ!  
「や・・めて・…きたな…い・・です・…っっ…・・ぁああ!」  
「そんなことないよ。すごく、おいしい――…」  
もう、だめ… 何も考えられない…  身体が溶けそう…・・  
あふれ出てくる蜜を舐めあげ、蜜壷の中の壁の蠢きを愉しんでるような指の動き。  
身体が火照り、すべてを敦賀さんにあずけた時、入り口に更に違うものを感じた。  
「力を抜いて… いくよ――…」  
私の中に敦賀さんが… 熱い・・ 男の人ってこんなに熱いのね…  
壁を押しひろげて奥へと進んでいく。  
「い…た・・ぁ・…っ…んっ  っく・・ン」  
無理な動きはしないで、私を気遣い… ついに奥の奥へとたどり着いた。  
その頃には痛みはなくなり、敦賀さんに溺れていた。  
「少し動くよ・・」  
「は…い  っ・・だい…じょ・・ぶ…・・はぁっ…です…」  
徐々に早まる動きにあわせ、私の声も高くなっていく。  
遠くなる意識を手放すまいと、強く強く背中にしがみついた。  
私の身体が跳ね、敦賀さんの身体がはずむ。  
私達が一つになり溶け合った時、その一瞬が訪れた。  
 
 
…――シーツにくるまって放心したようになっていると、敦賀さんが私の隣に滑り込んできた。  
「こっち、向いて」  
顔を合わせるのが恥ずかしいのでもぞもぞしていたら、身体をくるんと返され敦賀さんと向き合う状態に。  
「君のことが好きだよ。傍にいてくれるかい?」  
と、たずねる敦賀さんに答える代わりにそっと胸に額をつけた。  
くすくすと笑い、腕枕をしてくれた敦賀さんと一緒に安らかな気持ちで眠りについた――…  
 

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