出会いは、いつだったか。呉服屋の宝田屋の旦那に、誘われたのがきっかけだった。  
 
京都島原、不破楼の天神『京』。関西では、有名な存在らしい。  
「天神ってぇのはな、太夫の次の位だな。なんだ、蓮。惚れたか?」  
一緒に酒を酌み交わしていた、宝田屋の旦那が問う。  
「いえ、そういうわけでは…」  
蓮は言葉を濁す。  
「ありゃあ、曲者だな。腹に何か抱え込んでやがる。一筋縄ではいかねぇだろうな」  
蓮の言葉を無視して、旦那が続けた。  
「男嫌いか、なんなのか、女郎なんてやってるわりには、なびかねぇ。  
水上げの話も、軒並み断ってるらしいしな。  
京天神は男なんざ信用してない、なんて噂もあるな」  
宝田屋の旦那は、最近、蓮が馴染みになった遊女の噂話を語った。  
 
京天神は、不破楼の若旦那に惚れていたらしい。  
二人は将来を誓い合い、京天神は操をたて、尽くし、尽くした。  
しかし、不破楼の若旦那は京天神を裏切って、一人江戸に下った。  
裏切られた京天神は、男を信用しなくなり、客に抱かれた事もないらしい。  
 
チリチリと、胸が騒ぐ。  
京天神のか細い姿を思い出し、  
「俺、帰ります」  
今すぐに会いたいと思う程、惚れていたのだと気付いた。  
 
 
「敦賀屋の若旦那、いらっしゃいまし〜」  
島原に着いた蓮を、出迎えてくれたのは京天神付きの禿だった。  
「京姐はんなら、今お座敷なんどす。こちらにどうぞ」  
遊女を待つ部屋に通され、酌をうけながら、すぐに会えない寂しさを感じる。  
「若旦那?どうされはったん?」  
「みやこねぇはん、すぐにくるし。そない怖い顔せんといて?」  
いつものにこやかな顔と違い、思い詰めた顔をした蓮に心配そうに禿が言う。  
 
ゆっくりと、杯の中の酒を飲み干し、  
「大丈夫。怒ってるわけじゃないから」  
にっこり笑って禿に言った。  
そのとき  
「敦賀屋の若旦那!お待ちどうはんどした」  
京天神が、姿を現した。  
艶やかな着物をまとい、鼈甲のかんざしをつけ、紅をさして、まるで小さな名もない花の様に可愛らしい。  
「やぁ。今日は君に、話があるんだ」  
「どないしはったんどす?改まって」  
京天神は、不思議そうに首を傾げたが、蓮を部屋に案内した。  
 
「で、どうしたんですか?敦賀さん」  
人払いを済ませ、いつものようににこやかに、蓮の名を呼ぶ。  
江戸出身の京天神は、蓮と二人の時にだけ、江戸語を話した。  
二人だけの秘め事。  
しかし、二人だけの秘密を持つ京天神は、蓮に隠し事をしていた。  
 
「君の昔の男の話をきいたよ」  
 
ぴしり、と、京天神の顔がひきつる。  
「君が、誰にも抱かれない理由も」  
うつむく京天神の肩を抱き、頬に手をそえた。  
「真相を、君の口からききたい」  
まっすぐに京天神を見据え、言葉を吐き出した。  
蓮の瞳に射抜かれた京天神は、おずおずと話し始めた。  
「私は、十の年にこの不破楼に売られてきました」  
 
京天神の話は、ほとんど噂と変わりはなかった。  
「私を裏切って江戸に行った彼を許せませんでした」  
『彼』の話を、京天神の口から聞くことが、こんなに胸を締め付けるとは思ってもいなかった。  
「君は、今でもその男の事が好きか?」  
 
蓮の問いに、  
「いいえ。最初は怨みもしましたが、今は過去の人でしかありません」  
しっかりと目を合わせて、京天神が答える。  
「じゃあ、誰にも抱かれないのは、どうして?」  
「ここまで操を守ったのだから、せめて…。  
初めて位は好きな人に抱かれたくて」  
好きな人、という言葉にズキリ、と胸が痛む。  
「その好きな人は、君を抱こうとはしなかったのか?」  
「ええ。いつも、お喋りに夢中で、気付けば時間が過ぎてて。  
その人は、私に優しくするだけ優しくして帰って行くんです」  
ふいに、京天神の目に涙が滲む。  
「敦賀さん」  
潤んだ目で、上目使いに見つめられ、ドキリと心臓が跳ねる。  
「私を抱いてください」  
 
京天神の口から出た言葉に、思考が止まる。  
「でも、君。最初は、好きな人にって…」  
「はい。ですから、敦賀さんにお願いしてるんです」  
頬を赤らめ、潤んだ瞳からは涙が一筋、パタリとこぼれた。  
「私、敦賀さんのことが好きです」  
熱っぽい視線で、見つめられ、心がゾクゾクとふるえる。  
「だめですか?」  
宵の静寂に、しゅるり、帯を解く音が響いた。  
くらりと揺れる、灯りに浮かぶその姿の艶っぽいこと。  
次々と紐解かれ、はらりはらりと落ちていく着物から現れる、京天神の細い肢体。  
蓮はその美しさに、見入った。  
 
気付いた時には、長襦袢と、湯文字だけを残した京天神が、目の前に立っている。  
潤んだ目で自分を見つめ、抱いてくれ、とせがまれる。  
 
だめだ。  
惚れた女にそこまでされたら。  
 
「敦賀さんは、郭女なんて好きじゃないかも知れないけ……んぅっ」  
たかがはずれ、話を続ける京天神の唇を奪い、舌を絡めとり口内をかき回す。  
「んっ、んふぅ」  
くちゅり、濡れた音と、二人の吐息が、狭い部屋の中に響いた。  
 
ちゅっ。  
 
唇を放すと、京天神が驚い顔で見つめてくる。  
まるで、抱いてくれるんですか?と言わんばかりに、蓮を見つめる。  
 
「だめなんかじゃないよ」  
京天神の細い肢体を一度、きゅう、抱き締め、じっと目を見据える。  
「俺も君が好きだ」  
真摯な眼差しで見つめられ、端正な唇からこぼれた言葉に、京天神の瞳が揺れる。  
「うそ…」  
信じられない、と、目を見開く京天神に、ちゅっと軽い口づけをして  
「嘘じゃないよ。君が好きだ」  
もう一度、はっきりと伝えた。  
京天神の瞳から、大粒の涙が、ぱたり、ぱたりとこぼれ落ちる。  
「いつもはお喋りばかりだけど、今日は君を抱くよ」  
細い肩を抱き締め、囁く蓮の耳元で、  
「うれしい…」  
つぶやく京天神の声が聞こえた。  
 
布団の上に、京天神を組敷き、口づけを雨のように降らせ口内をかき回す蓮に、おずおずとためらいがちに舌を絡めて応える。  
「んっ、ぅんっ」  
甘い唇の感覚と、耳から聞こえる吐息や、くちゅくちゅと唾液を交わす卑猥な音が、徐々に二人を高めていく。  
 
しゅる。  
 
唇をむさぼりながら、蓮は長襦袢の紐を解いた。  
 
ちゅっ。  
 
唇を離して、白い首筋に舌を這わせる。  
「ふっ、うぅん」  
くすぐったいような、生暖かい舌の感覚に、京天神はたまらず声を漏らした。  
 
「あ…、つ、つるがさん…」  
うわずった声で蓮の名を呼ぶ。かまわずに、蓮は、首筋から鎖骨、鎖骨から胸へと舌を這わせていく。  
かりっ。  
「んぅっ、つるがさん…」  
胸の先の突起に軽く歯をあてる。  
「…るがさん。あっ、私、あんっ、はじめてで、」  
息も絶え絶えに、京天神が言う。  
「黙って。」  
片手で、京天神の小ぶりで形のよい胸を、揉みしだきながら、唇に軽く口づけを落とす。  
「俺にまかせて」  
耳元でささやく艶っぽい声の後に、ぬるり、生暖かい舌の感触が耳から首筋にかけてはった。  
「ひゃぅっ」  
ぬらぬらと、再び舌を胸まで這わせ、手と逆の胸の先をなぶる。  
 
「は、ぁん」  
京天神の声が、徐々に艶を増していく。  
蓮は、開いたもう片方の手で、湯文字の紐を解いた。  
京天神に、腰を上げさせ湯文字を引き抜き、肩には長襦袢がかかったままの裸体を見つめる。  
「やぁ。みないで」  
ゆらゆら揺れる灯りの中で視線を感じた京天神の肌が、ほんのりと朱に染まる。  
「どぅして?綺麗だよ」  
「はず、か、しいから…あぁんっ!」  
羞恥に身をよじる京天神の足を割り開き、てらてらと濡れた花びらの少し上の、赤い真珠を口に含む。  
「あっ、あっ、んっ、ぁん」  
今までに、感じたことも内容な感覚に、羞恥も忘れて声を上げた。  
 
ぴちゃり、くちゅりと音を立て、赤い真珠を舌で弄びながら、濡れそぼった花びらに中指をゆっくりと差し入れる。  
「んやっ、だめ…」  
「痛い?」  
初めてだと言った京天神には、きつかったかと思い直し問う。  
「違っ、んっ、あ、つるがさん…、私、へん、です」  
濡れた瞳を蓮に向ける。  
紅潮した頬に、うるんだ瞳、きゅっとしわを寄せる眉毛が、何とも言えない淫らな表情を作る。  
京天神の表情を確認した蓮の、舌と指の動きが激しさを増す。  
 
ぴちゃり、くちゅり、くちゅくちゅ、ぴちゃり。  
 
淫らな水音がさらに増し、  
「あ、あ、んっ、んぅっ、んっ、ふ、んふぅ」  
京天神も、一層高い声で鳴いた。  
「んっ、だめ…、だめです。つるがさんっ。私、なんだかっ、おかしくなっちゃう」  
そう、つぶやいた後、京天神はひときわ高い声で鳴いた。  
 
京天神が軽く達したのを確認し、腰紐を解いて、蓮は己のいきり立ったモノを花びらにあてがった。  
「怖い?」  
尋ねる蓮に、  
「だ、い、じょうぶ、です」  
はあはあと荒れた息を整えながら、京天神は応えた。  
壊れ物を扱うように、大切な京天神をできるだけ傷つけてしまわないように、蓮はゆっくりと腰を進めた。  
「あ、いた…ぃ」  
半ばまで進めたところで、京天神が顔をしかめる。  
「ん、…も、むりぃ」  
「ごめん、もう少しだから…」  
初めて男を受け入れるソコは、流石にぎゅうぎゅうと蓮のモノを締めつける。  
「……ん、ぃた」  
「入った」  
京天神の躰の奥まで自分自身を埋め込み、表情を見ながらゆるゆると動かし始める。  
「んっ、んぅ」  
少しずつ、密壷を押し開くように、かき回す。  
「まだ痛む?」  
きつすぎやしないか、苦しめていないか、京天神を傷つけていないか、気を使いながら尋ねる。  
 
「もぉ、へぃき」  
そう応えた京天神の中は、たくさんの密でしっとりと濡れ、やわやわと蓮のモノを締めつけ始めていた。  
「じゃあ、動くよ」  
蓮は、密壷の壁をぐりゅりとかき回した。  
「んあっ、そこ、」  
京天神がぴくん、と反応したところの壁を、ずりゅずりゅと攻めたてる。  
「あ、あんっ、んっ」  
「ここ?」  
「はっ、そこ、だめっ」  
京天神の中で、痛みとは別の甘い感覚が生まれ始めていた。  
眉をよせ、とろりと溶けた表情の京天神の中は、ぬるぬるとして温かく、きゅうきゅうと蓮を締め付ける。  
ずちゅ、くちゅ、と突き上げるたびに密がこぼれ、淫らな水音を奏でる。  
「あっ、あんっ、あっ、んぅっ」  
何度も何度も突き上げられ、京天神の中の甘い感覚は大きな快楽になり、さらに高みに上っていく。  
一方、蓮も、そろそろ限界を迎えそうだった。  
 
「つ、つるがさんっ、なまえ、呼んで?」  
はあはあと荒い吐息の間を縫って、京天神が言う。  
「みやこ」  
応えた蓮に、横に首をふり、  
「ん、ちが、きょうって、ホント、の、なまえ」  
天神の『みやこ』ではなく、ただの娘としての『きょう』と呼んで欲しいと言う。  
「お京っ」  
名を呼ばれたのを合図に、京天神は蓮の背に手を回した。  
蓮は、さらに速度と激しさを増して腰を打ちつける。  
「くっ、お京っ、そろそろ」  
「あっ、あっ、つるがさんっ、私もっ、」  
きゅうきゅうと締め付ける襞に自分の快楽をまかせて、花びらの奥の奥まで割入り、二人同時に高みに上り詰め、達した。  
 
瞬間。  
 
「好き」  
 
京天神のささやく声が、蓮の耳に聞こえた。  
 
「殿方の手で湯文字の紐を解いてもらうとき、『あなたの好きにしてください』っていう意味があるそうですよ」  
寝間の中で、京天神が、遊女の湯文字を脱がすことに、特別な意味があることを教えてくれた。  
遊女は特別な相手にしか、湯文字の紐を解くのを許してくれないらしい。  
「じゃあ、俺は、君を好きにしていいの?」  
「お線香が尽きるまでの間でしたら」  
花代を払っている時間の間だけなら、と、京天神が言う。  
「そんなんじゃ、全然足りないな」  
つぶやいて、蓮は京天神に向き直り、  
「君を身請けして、俺の好きにするっていうのは?」  
京天神に問う。  
むしろ、京天神を身請けすること自体が蓮にとっては、好きにすることなのだが。  
「私のこと、躰の中まで知っておいて、今更そんなこと、きかないでください」京天神は顔を耳まで真っ赤にして、そうなれば嬉しいに決まってるじゃないですか、と、つぶやいた。  
 
そんなことができるわけがないと、諦めきっている京天神を後目に、  
「じゃあ、早速、金を用意させるよ」  
あふれんばかりの神々しい笑みを浮かべて、蓮は意気揚々としている。  
「あの、いくらすると思ってるんですか…?」  
「ん?君は天神だから、二十五文と、その他いろいろ込みで百両もあれば、身請けできるだろ?」  
「いや、天神如きに、百両もかかりませんが…、そんなお金、どうやって、」  
突然降って湧いた身請け話を、今一、信じられない京天神が言う。  
「ん?小間物屋の敦賀屋の若旦那を甘く見ちゃいけない」  
にやり、してやったりな顔をする蓮に、本気なのだと悟った京天神は、嬉しさのあまり大粒の涙をこぼした。  
「じゃぁ、ここから、でられるの?  
好きじゃない人に抱かれなくても良い?」  
「そんな癪なこと、俺がさせない」  
ぎゅう、と、京天神を抱きしめ真摯な声で蓮が言う。  
 
嬉しさで胸が震える京天神に、さらに追い討ちをかけるように、  
「それに、ここを出る日には、君をお姫様の様に着飾ってあげたいからね。百両なんて安いものだよ」  
耳元で囁く。  
お姫様、の言葉に胸をときめかせながら蓮を見つめる京天神。  
大粒の涙をはらはらとこぼしながら、  
「幸せすぎて怖い」  
と笑った。  
 

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