豪華な着物の裾は真っ白の太ももの付け根まではだけ、目が逸らせない。  
「お次はなにをお望みでありんすか?」  
くすくすと哂いをこぼす妖艶なる太夫。  
こちらも和服姿の初心な青年…を演じている蓮は、さすがにこの時になってようやく後悔した。  
 
やりすぎた、かな。  
 
昨夜。  
こんな太夫をどう演じていいのかわからないと言うキョーコに、  
蓮は一晩中前戯のみで焦らし続けた。  
多少は、否、多くは虐めてやりたいという自分の中のサディストの欲望に従ったのだが、  
一応演技に艶が出るのではないかという想いで始めた遊び。  
とめどなくあふれ出る泉の源を指でかき回し、その上の蕾を苛め、また長い舌で同じことをした。  
キョーコは淫らに声をあげ、かつてないほどに愛液を垂らして啼き続けた。  
しなくてもいいと言うのに蓮のモノを咥え込み、夢中で啜って拒絶しようとする蓮をイカせた。  
ただ、蓮は自分を入れることはしなかった。  
キョーコは頼むから入れて欲しい、お願いだと懇願し、はじめ蓮は意地悪く拒否していた。  
「ダメだよ、今日は入れてあげない」  
そのかわり、と、指や舌で何度も逝かせた。つもりだったのだが、何度逝かせてもキョーコは諦めない。  
しまいには涙を流しながら、蓮のモノが欲しい、熱くて固いのが欲しい、と恥ずかしい言葉を吐きながら  
蓮の身体を自ら入れ込もうとまたがってきたのを、蓮は欲望に屈してしまいそうになりながらもなんとか逃げた。  
 
そして、その結果が----  
 
演技としては大成功、なのだが、  
スタッフが皆、くちをあんぐり開けたり生唾を飲んだりしているのがこちらからも伺えて、  
ようやく蓮は自分の行動を少々反省するに至ったのである。  
 
この顔は、キョーコが自分だけに見せる夜の顔。  
それを大勢の、いかもカメラの前にさらけ出させてしまったことに、  
自らが招いたことながら蓮はやり場のない嫉妬すら覚えていた。  
 
「カーット!!---いやー京子ちゃん、素晴らしかった!もう京子ちゃんは今日はこれで終わりだから、着替えていいよ」  
「…はい…」  
 
消え入りそうな声、うつろな眼でふらふらしながら楽屋に消えていくキョーコ。  
 
「す、すごかったな…京子ちゃんってあんなエロ…いや色っぽい顔できるんだな…  
「ああ、あんな太夫なら俺もお願いしたい…」  
「というか大丈夫か?なんか目がイっちゃってたし足元はおぼつかないし…  
 なんだかとり付かれてたみたいだったな。あれは案外大女優になるんじゃないか?」  
 
キョーコの去った現場は静寂からざわつきに変わり、  
蓮は隠れて疲労とも安堵ともつかない小さなため息をついた。  
 
「蓮…おまえ何かしただろ?」  
 
社さんが背後からつぶやく。  
 
「いえ、何も」  
 
むしろしてあげなかったらああなったんですが、と言いたいのを飲み込む。  
 
「どうだかね…次のシーンは30分後だってさ」  
「そうですか、わかりました。ちょっと…様子を見てきます」  
「はいはい。…30分、だぞ」  
「わかりましたって」  
 
ふぅー、と大きくため息をついて、蓮はキョーコの楽屋のドアを二度軽くノックしてから開けた。  
 
「キョーコ、入るよ」  
 
キョーコは部屋の冷房が効いているにも関わらず、衣装を着たまま窓を大きく開けて外を見ていた。  
 
「大丈夫か?気分悪い?」  
 
近づこうとした蓮にキョーコは振り向く。  
その顔はまださきほどの雄を誘うような太夫のままだった。  
窓の格子に背をもたせ、相変わらずうつろな眼のまま蓮を見る。  
 
「敦賀さん…」  
「悪かったね、少し---」  
「本当に悪かったと思ってますか?」  
 
キョーコは言葉を遮り質問し、蓮はたじろいだ。  
 
「怒ってるのか?…ああ、悪かった。ちょっとやりすぎたと思ってるよ」  
「どうでした、私の太夫は…」  
「素晴らしかったよ。俺も魅せられて、思わず襲ってしまいそうだった」  
 
それは事実だった。優しい笑顔で蓮は答える。  
 
「じゃ、ご褒美、ください」  
 
キョーコは色鮮やかな着物の裾をすっと上げて片膝を立てて足を広げた。  
 
「…ほんとうに…下着をつけていなかったのか…?!」  
 
茂みの下は泉が溢れているのか湿って輝いており、太ももにはそこから溢れた液が流れ落ちる。  
蓮は目の前の光景に息を飲んだ。  
こうしたのは確かに自分だが、まさかここまで乱れてくれるとは思ってはいなかった。  
歓喜に震えるのを隠してなんとか冷静さを取り戻し、キョーコを落ち着かせようと歩を進める。  
 
「もう意地悪をする気はないんだが…俺は次のシーンがあるんだよ。  
 今日帰ったらたくさんあげるからそれまで---」  
「イヤですもう…もうほんとに、無理。我慢、できません…」  
「キョーコ、いい子だから」  
「きて…ほら、ここ…」  
 
キョーコは自らその入り口を二本の指で押し広げ蓮を誘う。  
「早く…!」  
 
蓮も頭が真っ白になりそうだったが、ギリギリの状態で自らを抑える。  
 
「とりあえず…窓をしめようか。誰かに聞かれでもしたら」  
 
窓を閉めようとする腕を強引にひっぱり、キョーコは蓮を畳に押し倒した。  
 
「キョーコ!ちょっと待ちなさ…!!」  
 
キョーコは制止の声など届いていないかのように蓮の着物の裾を広げ、下着を下ろした。  
まだ勢いを増していないそれを見るといきなり咥え、むさぼるように吸い付く。  
 
「ちょ、ちょっと…待つんだキョー…コ…!」  
 
キョーコは構わずじゅるじゅると吸い付いては舌を転がし、奥まで咥えこんでは引き抜き…  
ドクドクと脈が聞こえそうに大きくそそり立ってきたのを見ると今度は自分の着物の裾を大きく広げた。  
 
「…やめなさいキョーコ…!」  
 
どこかに意識が飛んでいるかのようなキョーコを手繰り寄せようと戒める。  
キョーコはどうしていけないの?とでもいうように一瞬小首をかしげ、ふふ、と猥らに笑う。  
そしてその杭にずぶぶぶ、とゆっくり腰を落とし、その感覚に悦びの表情をこぼしながら突き刺していく。  
 
「あぁ…ん……やっと…欲しかった、のぉ…おっきぃ…熱い…」  
「くっ…」  
 
締め付ける肉壁を感じ、蓮も思わず声を漏らす。  
 
「だ…だめだよキョーコ…そんな、外に聞こえる」  
「いいもの…聞こえても…」  
「ダメだ、聞いていいのは俺だけだよ。それに」  
 
欲望に従うことを決心したら、それまで抑えられていた征服心がむくむくと湧き上がる。  
 
「悪い子にはおしおきだ」  
 
蓮は自分の腰帯をしゅる、と引っ張り、声をあげさせないようにキョーコの口に巻く。  
ギュ、と後頭部で縛ったが、まだ長さが充分に余っているのを見てキョーコの腕を上げさせ手首を拘束した。  
 
「んんーーっ!!」  
 
いきなり形勢を変えられたことに声にならない声があがる。  
激しく腰を突き上げると、驚きの声はすぐに悦びの喘ぎに変わった。  
 
「ん…!っんっんっ…!」  
 
キョーコも自ら腰を揺すり、身体を打ち付けるように応えてくる。  
待ちわびていたものを与えられたせいか、あっというまに頂上が訪れる。  
 
「ん…んんーーーっ!!」  
 
キョーコの内側でビクビク痙攣したのを感じ、蓮は繋がったまま上の着物を脱がせて襦袢だけにする。  
そしてキョーコの腰を抱え、さらに立ち上がり、窓際の壁に押し付けた。  
 
「…ほんとに…いけない子だ、キョーコ…っ」  
 
キョーコの全体重が蓮の真ん中にかかって深く突き刺さる。  
さらに強く突き上げて何度も壁に押し付ける。  
もはやキョーコはまともに抑えた声もあげられず、ただふるふると頭を振って蓮のされるがままになっている。  
そして再びガクガクと震えて脱力し、蓮もはちきれそうだった欲望を放出した。  
 
「んん…ん…」  
 
朦朧とする意識でキョーコが何か言っている。  
おそらく「イヤ」か「ダメ」かと言っているのだろう。  
そう思った蓮は、再び自分の中で醜いなにかが湧き上がるのを感じた。  
そしてキョーコも、自分の中で蓮がまた勢いを取り戻してくるのを感じ取り頬を赤く染めた。  
蓮は口の紐を緩めて顎へとずらす。  
 
「まだ…おしおきは終わってないよ…君が望んだんだろう?」  
「も…もうだめぇ…」  
 
首に回している手でなんとか体重を支えているが、それで精一杯、といった様子で、キョーコはなんとか言葉を発した。  
 
「だめだよ…まだ…許してあげない」  
 
と、突然ドアがコンコン、とノックされた。  
 
「れーーん、まだかー?開けるぞー?」  
 
鍵をかけていなかったことを思い出しキョーコは慄然とする。  
 
「まだだめです、社さん」  
 
蓮は冷静に答えている。  
 
「もう少し…悪いんですが、もう少しだけ、そこで見張っててくれませんか?」  
「…わかった」  
 
蓮は自分のモノをキョーコの中から引き抜き、どろりとふたりの液がこぼれるのも構わず  
今度は後ろ向きにして開いたままの窓に押し付ける。  
キョーコはよろめいて窓に手をつきなんとか自分を支えた。  
 
「つ、敦賀さんっ…社さんが…!」  
「そうだね。それにここは5階だから姿は見えないけど…声は聞こえるみたいだし」  
 
階下から歩いている人の話し声が聞こえる。  
蓮はまだ熱く震えているキョーコのそこに再び自分を押し入れる。  
 
「…ぁあっ…っ!」  
「しっ。聞こえるよ」  
 
耳元で囁きながら背後から左手を回し胸をもみしだく。  
右手は繋がった少し上の大きくなった突起へ。  
口を塞ぐ布を奪われたキョーコは必死に唇を噛んでこらえている。  
 
「んんっ・・・ん…!」  
 
引き抜かれそうになっては奥まで突かれる。  
タンッタンッと互いがぶつかる音と共にぐじゅぐじゅと自分から溢れるいやらしい水の音。  
聞かれているかもしれない、激しい羞恥がキョーコを襲い、同時に快感が突き抜ける。  
 
「…んっんっ…あぁっ…ぁあ…や…だ…だめ…っ!」  
 
小さな声ながら思わず声がこぼれてしまう。  
 
「やめるの?」  
「ぃやっ…やめちゃいやぁ…もう…あぁ…あっ…あっ!!ーーーーっ!!」  
 
身を反らせて倒れそうになったキョーコを横たわらせ、後始末を済ませた蓮は耳元で囁いた。  
 
「今夜は好きなだけ喘いでいいから…帰っていい子で待ってるんだよ」  
 
意識の遠くのほうで蓮の言葉を聞いたキョーコは、夢とも現実とも区別がつかぬまま答える。  
 
「約束…」  
「そう、約束するよ」  
「…はい…待って…ます…」  
 
 
「お待たせしました、社さん」  
 
着物を整え、さきほどとは特に変わった様子も見せず蓮は楽屋から出てきた。  
 
「いえいえ。しかし蓮…あんまりさあ」  
「なんですか?」  
「あんまり純粋な子を苛めるもんじゃないよ…」  
 
聞こえていたのかそうじゃないのか、いまいちわからないが社はため息混じりに呟く。  
 
「苛めてなんかいませんよ、大事にしてます。壊れ物を扱うみたいに」  
「どうだかねえ」  
 
はあ、と再び社はため息をつき、蓮は内心ご機嫌で撮影現場に戻るのだった。  
 

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