「映画、ですか?」  
だるまやへ送り届けられる途中、蓮が二枚のチケットを取り出した。  
赤信号のもと、チケットが手渡される。  
「うん。社長の大学時代の友人がイベント会社や映画会社と手広くやっているそうでね、貰えたんだ。  
確か最上さん、明日オフだったよね。一緒に行こう? いやどうしても一緒に行って欲しいんだ。だめ?」  
優しく暖かな蓮の眼差しに、胸がきゅんと高鳴る。  
蓮と付き合い始めてから6ヶ月。  
お互いに想いを伝え合って恋人同士になれたものの、外出デートもままならない日々が続く。  
休日のほとんどを、蓮のマンションで静かに過ごしている。  
世間での敦賀蓮の存在が大きく、契約しているCM会社から1年間は女の影を出すなと厳命されのだ。  
もちろん、だるまやへの送り迎えもご法度である。しかし、蓮はそこまで彼女に邪険な扱いをするくらいなら  
違約金だろうが何だろうが、何億でも何十億でも支払うとローリィに訴え出た。  
ローリィも蓮の気持ちを汲み取り、事務所でもマスコミを押さえるが、目立った行動を制限するようにと宥めた。  
あくまでもフェミニストな先輩と、彼を俳優の鏡と尊敬する後輩、万が一すっぱ抜かれたとしても  
清い男女交際と留めるようにと。  
そのため未だプライベートの上でも「最上さん」「敦賀さん」とお互いに呼び合っている。  
 
「マスコミ、大丈夫ですか?」  
車の外を窺い、蓮を覗き込む。  
この数ヶ月、敦賀蓮の経歴を傷つけまいと一生懸命だった彼女が愛おしくて、ついその髪に触れ、  
頬を撫で、顎を持ち上げる。  
「敦賀さんっ、だめっ、誰かに見られてしまいますっ! それに青信号になってます!」  
「君は本当に頑固だね」  
「頑固で結構です」  
蓮は残念そうに運転に戻ったが、  
「映画、行かない?」  
チケットを睨みつけるキョーコを再度誘う。  
「行きません。いつスクープされるかわからなんですよ? もう、私を見ないでください。  
今事故を起こしたら、大変なことになります」  
仕事を前にすると、彼女は社も驚くほど手厳しい。それが誇らしくもあり歯がゆくもある。  
蓮が他の女優とドラマ上でラブシーンを繰り広げても、何の文句も言わない。  
「あのね、心配することはないんだよ。一般の映画館ではないんだ。だからファンの子に  
指差されることもないし、マスコミに狙われることもない。カムフラージュで、一般のオフィスビルの  
ような建物になっているから、人も少ない」  
「だから一枚5万円もするんですかっ!」  
チケットを透かし見て目を回す彼女に、思わず吹き出してしまう。  
「そんなところを見てたの?」  
「だって」  
膨れる彼女も可愛らしくて、笑いながら続ける。  
「それ、君が観たがっていた映画なんだけどな」  
全米で大ヒットした純愛映画のタイトルを告げられ、キョーコは迷ってしまった。  
蓮と付き合うまでは恋愛映画は苦手なジャンルであったが、今ではDVDを連日レンタルするように  
なっている。それにキョーコとて、蓮と外でデートしたいことに変わりはない。  
「マスコミ、本当に大丈夫なんですか?」  
「ああ、大丈夫だよ」  
だるまやの手前で、手を振るだけの挨拶をして、明日の約束をし、二人は別れた。  
 
蓮がスカート姿を見たいと言ったので、キョーコは思い切ってミニスカートに挑戦してみた。  
フレアスカートで風が吹けばふわりと浮き上がる。屋外デートなので気にすることはないはずと  
自分に言い聞かせるほど短い。  
「こんな格好で、敦賀さんと歩いていたらデートだってばれないですか?」  
おへそが覗くキャミソールに、ふわふわミニスカート。蓮は心配性な彼女に苦笑する。  
「地下に駐車場があるから平気だよ」  
フェラーリを隅に止めて降りる。腕を差し出すと、少女は不安げに身を引く。  
「大丈夫。ここでは『敦賀蓮』は単なる男としてしかみなされない。今日は俺にエスコートさせてくれるね?」  
キョーコは、そっと蓮の腕を取った。  
エレベータで指定の階のボタンを押しているところへ、蓮たちより若干年上と見られる  
派手なカップルが乗り込んできた。女の方が一瞬蓮を見て片眉を上げたが、すぐに壁の方へ目を逸らした。  
(本当だ。無視してくれている!)  
キョーコは嬉しくなり、逞しい腕に力いっぱいしがみついた。  
人前でも堂々として並んでいられる。そんな些細なことに心が弾む。  
「今日はありがとうございます」  
洗いざらしのシャツの上に頬を摺り寄せる恋人の頭を、蓮は優しい顔をして撫でた。  
エレベータが辿り着いた階は、全フロアが映画館であった。しかし、映画上映時刻表もなければ、  
宣伝のポスターもない。全体をグレーに統一したオフィスルームのようだった。  
チケットを差し出すと、一礼され、席まで案内をされた。  
全席百席あるかないかで、他の観客とは間隔を空けて座らされる。二十数人ほどの客は全て恋人か夫婦か、  
皆カップル同士で占められている。  
(もしかしてお忍びの芸能人がいるのかな〜)  
キョーコの額を、蓮が指先で軽く叩く。  
「じろじろ人の顔を見ない。映画が始まるまでは俺の顔を見ていなさい。いい?」  
「は、はい」  
キョーコは蓮に抱き寄せられ、こくりと頷いた。  
 
純愛映画が始まると、キョーコは目をキラキラさせながらスクリーンに釘付けになっていた。  
恋人に先立たれた主人公が、自分が年老いてもただ彼女一人だけを愛し続け、やがて彼女との思い出を  
語りながら近所の子供に最期を見取られるシーンで終演した。エンドロールが流れる中、滂沱と  
流れる涙をハンカチで押さえ続けた。切ないエンディングテーマ曲が終わり、席を立とうとした  
ところを蓮が引き止める。  
「だめだ。まだ、あるから」  
「え」  
周囲を見回すと、他のカップルたちは座ったままだ。  
(あれ?もしかして2本立てだった?)  
わくわくしながら、待っているとスクリーンにフランス語のようなタイトルが現れた。  
(また恋愛映画かな〜)  
いきなりスレンダーな裸の女が現れる。観客を誘うように左右を何度も行き来する。  
(あ、頭からラブシーン?)  
やがて女は自分の胸を揉んで喘ぎ、モザイクが掛かっているとはいえ、恥部を画面いっぱいにさらけ出す。  
キョーコはあまりの衝撃に声も出なかった。  
(ちょ、ちょっとやりすぎよっ! は、早く次のシーンに行って!)  
しかし、キョーコが願うようには展開せず、筋肉質の裸の男が登場することでストーリーは悪化した。  
ベッドの上で女に誘われ、男は一物を取り出し、ヴァギナへと差し入れた。激しいセックスの場面が続く。  
吹き替えされている台詞も少なく  
『ああ!いい!アラン来て!もっと』だの『ジョセフィーヌ、君の旦那が見たらどう言うのかな』だの  
厭らしい言葉しか出てこない。  
さすがに映画館でフィルムを間違えたのではないかと、蓮を仰ぎ見ると、彼はキョーコの首筋をさわさわと  
撫でて笑っていた。  
「顔赤いね。可愛い。君のあそこももうとろとろになっているのかな?」  
「え」  
「君はその唇できてって誘ってくれないの? 最上さん」  
蓮の薄い唇が近づいてきて、キョーコは椅子の背凭れに押さえつけられたまま口づけをされていた。  
 
『アラン!もう待てないわ!』  
映画女優の声が遠くに聞こえる。   
「……ちょっ、…待って、ください……だ、め……つ、るがさん、…沢山、人も……いる、のにぃ……んぅ」  
蓮に唾液を注ぎ込まれるような深いキスをされ、眩暈がした。  
今までキスは数え切れないほど交わしてはいたが、人のいる前で激しくされたことは一度としてなかった。  
「おいで?」  
蓮の舌が、キョーコの唇をなぞり上げる。再び唇を割り込まれ、口内を行ったり来たりと、まるで追いかけっこに  
誘われているようだ。キョーコは蓮の肩に手をついて突き放そうとするが、背凭れが邪魔をする。  
蓮は、意地っ張りな彼女の舌を絡めとり、自らに引き寄せる。しかしすぐに離し、またキョーコの  
中へと侵入しつついてくる。仕返しとばかりに反射的に蓮の舌を捕らえようとすると、  
逆に自分の舌を撫で上げられる。  
「んぅ」  
いたずらっ子のような蓮の舌を捕まえたくなり、キョーコはいつの間にか彼の甘い罠に嵌ってしまった。  
「んぁっ、はぁぁっ」  
「まだまだだよ」  
蓮は、キャミソールの下からブラを押し上げ、右の胸をゆっくり回すように揉み出した。  
すでに尖った乳首を、こんなになっていやらしい子だねと引っ張り執拗につねる。  
「ぁあっ、ぁあん」  
今度こそとキョーコは広い背中に腕を回し、彼の巧みな舌を小さな舌でちろちろと追いやろうとする。  
蓮が、微かに目を瞑ったかと思うと、逆に口内全体をじっくりと嬲られた。  
追いかけては逃げ、逃げては追いかけを繰り返し、やがてお互いの舌を貪りあうようにちゅくちゅくと吸い合っていた。  
「君の胸、大きくなったよね」  
薄暗がりで光る唾液で汚れた顎や鎖骨は、扇情的だった。肩紐がずれ落ち、上下する胸の谷間には、  
一昨日つけられたばかりの甘い咬み跡がうっすらと残っている。  
「……そんなの、敦賀さんのせいです」  
「ああ。付き合った頃には俺の手に収まっていたのにね。しかもココは食いしん坊になって」  
右指の爪先でキョーコの乳首をコリコリと弾きながら、左手をスカートの中へと忍ばせる。  
長い指が濡れたショーツの上を何度か往復したかと、下着の端から指を差し入れられた。  
 
「やっ、んぅ」  
「すんなり入るよ。もう挿れたい?」  
低音の声で囁かれる。下着を半分下ろされ、三本の指で陰毛ごとゆるゆると撫でられる。  
蓮の巧みな動きにはいつも逆らえない。声を押し殺しながらも、甘く危険な誘いに乗ってしまいそうになる。  
しかし頭の隅に残された理性で押しとどまる。  
「……だ、め、…ここじゃ、だめぇ…」  
上映作品に問題はあるとはいえ、ここはあくまでも公共の場、映画館の中なのだ。  
(見られ、ちゃう)  
頭を小さく振る少女に、蓮はくすりと笑った。  
「誰も見てないよ?」  
促されるように隣のカップルを見ると、映画の中の俳優たちと同じように、獣のように激しく交わっていた。  
後ろからも喘ぎ声が上がっている。  
キョーコが眉を顰めていると、一番前の座席で、エレベーターで乗り合わせたカップルの女が、男と  
繋がった股を、蓮に見せつけるようにして広げてみせた。あたしの方へ来てとでもいうように。  
「やっ、だめっ」  
キョーコは咄嗟に、自分の胸で蓮の目を覆っていた。  
「あの人のこと見ないで! 誰のことも見ないでください!」  
初めて、キョーコが嫉妬する顔だった。濡れた瞳は悲しみと怒りで染まっている。  
蓮の心は躍った。眼の前にあるキョーコの乳首を吸い上げながら、艶やかに笑ってみせる。  
「じゃあ、俺を夢中にさせてくれる? 上手に誘ってごらん。いつもよくやってくれているだろう?」  
「…いつもって、……アレ、ですかっ? アレを、ここで、するんですか?……」  
ためらいながらも、一度火のついた嫉妬心から羞恥心をかなぐり捨てて、キョーコは座席に座りなおし、  
M字型に両脚を広げていった。  
「んっ、ちゃんと、見ててくださいねっ?」  
両手を自らの花芯に添える。半分ずり下ろされたショーツが覆っているとはいえ、  
座席のクッションには愛液がたらたらと垂れ落ちている。  
蓮のためにと身体を傾けるが、固定された席でほとんど正面を向いた形になる。  
初めはおずおずと触っていたキョーコだったが、やがてその動きを変える。  
 
「…んっ、っ、…はぁっ、ぁあっ、んぅぅ、い、…やぁ…つ、るがさん……ココ、…はぁん…  
ココ、イイっ……見てぇ……あぁん、あぁっ、やぁっ」  
片手を蜜で溢れた自らの花芯をちゅくっちゅくっと弄り続けたまま、もう片方の手を自らの乳首へのばす。  
「ぁあっ、こん、な……だ、めぇ、……はぁっ……イイっ……あっ、ぁぁんっ」  
「ああ、そんなにイイの? よだれまで垂らして。すっかりぐしょぐしょだね。   
君のこんな厭らしい姿を見たら、京子ファンは失望するかな? それともますます君を好きになるかな?」  
「……はぁ、ぁ、い、じわる、言わない、でぇ……」  
付き合い始めた頃の休日は、蓮のマンションでDVD観賞をしたりゲームをしたりと小中学生のような交際を  
続けていた。やがて身体を重ねるようになり、今では白昼より淫猥な行為に耽っている。  
蓮はキョーコの身体に沢山の快楽を教え込んだ。  
「気がついている? 斜め前の男、君のことを見ている。自分のパートナーとやりながら  
頭の中では君のことを犯しているのかな」  
「……うそ、です」  
「でも、さっきから君の動きに合わせているよ?」  
キョーコは全開にした脚の間から、前席の男を見た。女の上へ覆い被さりながら、こちらへ視線を上げている。  
興奮した男。赤い目と目線が合い、顔を背ける。  
「……や、い、や、見られたく、ない……いや…」  
キョーコは、座席下に沈みこむ。  
「どうせなら見せつけてやろうか。俺のを咥えて悦んでいる君を」  
「いやっ。絶対いやっ」  
拒絶するキョーコを蓮は抱き上げると、柔らかくなった秘芯に、充血してそそり立った自らをあてがい、  
ゆっくりとそこへ座らせた。  
「いや、いやっ、だめぇ」  
頭を振るが、キョーコの身体は蓮の全てを飲み込んでいった。待っていたかのように蓮自身にすぐに絡みつく。  
「どう? 俺のはおいしい? あの男も答えを聞きたがっているはずだよ、最上さん」  
「や、言わ、ない……言いたく、ない、です」  
軽く身体を揺さぶられた。  
「ぁあっ、そん、な、動かない、でぇ……ぁ」  
今度は動きを止められ、キョーコは後ろを振り返った。我慢が出来なくてもぞもぞと自ら動いてしまいそうになる。  
「動いちゃだめなんだろう?」  
キョーコは、半ばまで挿れておいて焦らす天然いじめっ子の男をねめつけた。  
「う、動いて、ください……動い、て…敦賀さん、お願、い……」  
天然いじめっ子は「かしこまいりました、お姫様」とくすりと笑って、キョーコを一気に下から突き上げた。  
 
「ぁあっ、やぁっ、……はぁっ、ぁぁん、いやぁ、……だめぇ……あっんぅ、んっ、んっ、やぁっ、  
離さない、でっ、つる、が、さんっ、ぁぁっ」  
広めに作られているとはいえ、どうしても狭く不安定な椅子の上でキョーコの身体は浮いたようになった。  
おかげで蓮の腕から落ちそうになり、その度に蓮自身をきゅうきゅうと締めつけてしまう。  
「……ん、俺をこんなに誑かして、君は淫乱だね。君の信じる妖精さんは、悲しんでるよ?」  
「こんな、ところに、……あっ、い、いないわっ……あぁっ、妖精の王子様が、私を、こんなに、んぁっ、  
したんですぅ……ぁあっ、あっ、はぁっんっ」  
蓮は、キョーコを視姦する男の涎を垂らす姿を認め、目をすがめた。  
「責任とって、もっと教えてあげようか」  
ポケットを探り、ピンクのローターを取り出す。初めて見るものに、キョーコは不安そうに蓮の腕を掴む。  
小さな二つの楕円型の球体を、テーピングテープでキョーコの胸の真ん中へ貼り付ける。  
両乳首の上を揺れるプラスチック製の硬く滑らかな人工的な感触に、身を引いた。  
「な、何です、か? ……コレ」  
「そんなに怯えなくてもいいから。今にわかるよ」  
「え……はぁっ、んっぅ……」  
ずちゅっと腰をグラインドさせ、キョーコの気を逸らさせる。  
続けて腰を突き上げると、キョーコも合わせて細い腰を上下させてきた。  
彼女のぬめぬめとした内壁が、蓮の意識を飛ばそうとする。  
ぢゅっく、ぢゅっくっとどちらのものかさえ分からない粘液の音が耳の内に響き渡る。  
「俺のは、おいしい? ……ああ、聞かなくても、君の下のお口がひくひくして応えているね」  
「やぁあっ、こんなのって、ない、ですっ、はぁん……どうして、……あなたはそんなに、あっ、あっ、あぁっ、  
……意地悪、んぅ、……あぁっ、なんですか……んぁっ、あぁっ、はぁっ、あぁんっ、だ、め、  
もう、……んぁっん、だめぇ……い、くぅっ……い、やぁ…いっちゃうぅっ……!……早く、き、てぇ…」  
初デートがこんなに背徳的なものになるとは思ってもいなかった。  
キョーコは涙を浮かべながらも、頭から身体の奥からやってくる痺れるような快楽の波に身を任せ続けた。     
映画はいつの間にか終わっていて、あたりは淫猥な声や音で溢れていた。  
 
 
カノンのオルゴール曲が流れ出し、左右にある6箇所の出入口より観客たちはそれぞれ出て行った。  
遠目には、ごく一般の上映会と変わらない様子だ。だが、紅潮とした男女の顔を見ながら、  
自分たちもあんなに恍惚な表情をしているのかと、恥ずかしくて顔を伏せた。  
「敦賀さん。もうコレ、外してもいい、ですか? ね?」  
キョーコは涙を残した瞳で、蓮を見つめる。女優『京子』ではなく『女』を前面に出した恋人の顔。  
蓮はまた彼女へ襲い掛かりたくなる想いを留めて、ローターを人差し指で小突いた。  
「だめ。これは君へのプレゼントだから。帰るまでつけていて? 初デートの記念」  
(き、記念って。絶対、アクセサリーなんかじゃないのに。なんでつけるの?)  
館内で蓮と交わっていた時にはローターを動かされることはなかった。ただ、蓮とキョーコの動きに激しく  
飛び上がっていただけだ。しかし、コレが単なる飾り物でないものだとは薄々気づいている。  
「あの男、まだ見てる。ちょっとしつこいね」  
蓮は、身支度するキョーコを座らせたまま、座席を離れた。  
キョーコは前席に、蓮を誘惑しようとした女もまたそこに残っているのを見て、しがみ付く。  
「行かないで。お願いです」  
胸を自らの両腕で寄せ上げる女をすかし見て、蓮はうっすらと笑う。  
「いいよ。じゃあ、俺のお願いも聞いてくれる?」  
 
秘密の映画館から出る時、キョーコは来場した時よりも力強く蓮の腕にすがり付いていた。  
一つは蓮の後を執拗に追いかけてくる女を牽制するためでもあり、またそうしていないと立っていられない  
状況にあったからだ。  
ブラとショーツは、バッグの中へしまってある。エレベーターが運ぶ風、人が行き違う際の空気の流れ、  
全ての動きが、短いスカートの中へ流れ込んでくる。どんどん溢れてくる愛液が腿から下へ伝いやしないかと、  
蓮の腕に頬を寄せる。下着をつけない不安感以上に、ローターの微細な動きがキョーコを振るわせてもいた。  
キャミソール越しに、ローターが彼女の心情を表すかのようにぶるぶると振動しているのが見えた。  
そして、内股になって身を竦める彼女の秘芯の奥にも、それはあった。  
「ぁぁっ、……んぅ……」  
声を押し殺し、蓮に抱きつく。  
「落としたら、大変なことになるね」  
キョーコを抱き寄せた手で、臀部から背中を撫で上げる。  
「ゃぁっ……」  
反抗することも叶わず、懸命に頭を振り続ける。  
駐車場ですれ違った、監視員らしい中年男が火照ったキョーコの顔をぎょっとしたように振り返った。  
「早く、……車の、中へっ……ぁっ、んっ」  
「そうだね。このままじゃそこら中の男に襲ってくださいって言っているようなものだ」  
自分で仕掛けたことだというのに、蓮の声には苛立ちが篭っていた。  
 
「まだ、取ってはだめだよ。帰るまでって言っただろう?」  
助手席に乗ったとたん、振動の強さを上げられ、キョーコは飛び上がる。  
「やぁっ……! あぁっ、あぁん、シートが汚れ、ます……っ」  
「いいんだよ。この助手席は君しか乗せないから」  
「そんなっ、乗る度に、今日のこと思い、……だしちゃうじゃ、ない、ぁんっ、……ですかっ、はぁっ」  
「ああ、後でじっくりと思い出して」  
蓮はハンドルを取り、一人悦楽にもがくキョーコを横目で楽しんでいた。  
映画館を出た時には空はすっかりと暮れていたが、運転する道が来た時と違っていることに  
キョーコは気がづいた。反対方向のようだと告げると、蓮はどこかで夕食をとろうと話す。  
「こんな格好でっ、外食、なんて、ひぃぁっ、行け、んぅ、…ませんっ……ぁっ」  
蓮のマンションにある冷蔵庫に食材がまだあるから、それで美味しい夕食を作るからと哀願する。  
「そう? せっかく社さんから教えてもらったお店なんだけど」  
赤く顔を顰めるキョーコを見て満足したのか、蓮はハンドルを切り替えた。  
「じゃあ、帰ろうか」  
キョーコは胸を撫で下ろし、甘く続けられる拷問に耐えた。  
 
蓮が急に車を止めたので、キョーコは朦朧とした意識で彼を見上げた。  
「……え、……着いた、んぅ、ですか……ぁんっ」  
見回すと蓮のマンションの駐車場ではなかった。都内なのだろうが、住宅街に面した静かな月極駐車場のようだ。  
「……あ、れ? どう、して」  
「最上さん、大丈夫? ひどく苦しそうだったから」  
「……あ、じゃあ、ぃあっ、コレ、外して、……くだ、さい?」  
「それは、だめ」  
蓮はエンジンを切り、キョーコに覆いかぶさってきた。  
「きっとただ取っても、君の症状は良くならないよ。俺が治してあげようか?」  
キョーコは、彼が提案する言葉に、ゆるゆると首を振った。  
いくら人通りが少ないとはいえ、先程の映画館と違い、ここは完全に外部の目に晒されている。  
誰かに写真でも撮られたら、芸能人生命は終わる。  
キョーコが必死に考えているというのに、蓮はキャミソールを剥ぎ取るように捲り上げ、ローターごと  
少女の赤くなった乳首を摘んだ。痺れるような感覚で、微熱のように続いていた快感が一気に、跳ね上がる。  
「ぁぁああんっ! やぁっ、ぁあっ!」  
「声、抑えて」  
蓮は座席を倒し、キョーコの唇を塞ぎ、その身体にキスの雨を降らせる。  
キョーコは、ローターを締め付け身震いした。  
「いや、いや、こ、わい、怖い……んぅ、んんっ、だめっ、です、こ、こわ、い……怖い、よ……ーン」  
小さな頃のキョーコをあやすように、蓮は彼女の額を撫でた。  
「怖がらないで、キョーコちゃん」  
「コーン?」  
潤んだ愛らしい瞳。信頼を寄せた色。  
蓮は、キョーコの瞳に幼い頃の彼女自身を見つけ、天井を仰いでため息をついた。  
「ごめん。やりすぎた」  
 
キョーコの胸を隠し、運転席を倒して寝転がった。  
「今日、君を誘ったのは間違いだった」  
「敦賀、さん?」  
怒らせたかと心細く呼びかけるキョーコの髪をすき上げ、涙が伝うそのこめかみを拭う。  
「初めから俺の独善で酷いことして、泣かせたね」  
蓮の舌が、キョーコの目元の涙を舐め取った。  
「俺はね、本当は余裕のない人間なんだよ。あの不破よりひどい。君のことを縛り付けて、  
側にいても、不安なんだ。最上さんは、俺が他の女優と噂になってもちっとも怒らないから」  
「そんなの……私だって、不安になるに決まっているじゃないですかっ、でも」  
キョーコは、寝そべったまま蓮に向き、さらに涙した。  
「でも、私の我儘だし、敦賀さん、鬱陶しく思うかもしれないって……、私、怖くて、怖くて」  
蓮はキョーコの背中を抱き寄せた。  
「俺もね、いつ君があの男のところへ戻ってしまうかと、ずっと心配だった」  
「も、戻るわけないじゃないですかっ、敦賀さん、ひどいです、あいつなんかっ、あいつなんかっ」  
「そうやって熱くなるから、悪だくみしたんじゃないか。俺に対しては冷静、じゃないと今日分かったけど」  
さらっと言いのけ、ついでのようにキョーコの両胸をローターと一緒に揉みだす。  
「あ、ぁっ、つ、るが、さん、……や、やめるって……あ、あ、」  
「言ってない。やりすぎたとは言ったけどね」  
したり顔で、愛撫を続ける彼に、キョーコは再び涙を溢れさせた。  
「天然いじめっ子っ」  
 
キョーコは、座席を後ろに下げた運転席へと跨った。  
「いいの? 週刊誌がやってくるよ」  
左右には他の住民の車が囲いのように止まっているが、完全に役に立つとは言い切れない。  
いつ人がやってくるか、ここへ車を戻しにくるか。  
「もうっ、知りません。敦賀さんなんて、明日から芸能界一破廉恥な男になるんだからっ」  
ローターを付けたまま、全裸となり、蓮にしがみ付く。  
「君の覚悟に、精一杯応えないとね」  
嬉しそうに、キョーコの入り口を先端で弄り始める。  
「はぁぁんっ、あっ、このままじゃ、だ、め」  
ローターを外そうとすると、蓮はその手を掴み上げた。  
「帰るまでは取らない約束だったよ?」  
「で、でも」  
「いいから」  
ローターを奥に埋め込んだまま、蓮はキョーコを突き上げた。  
蓮自身とローターの動きが重なって、キョーコは目の焦点を失いそうになった。  
蓮も眉根を寄せて、呻いた。  
「あ、あぁっ、ん、あっ、いや、奥、お、く……あっ、いや、当た、…ってるぅ、や、や」  
自分の上でキョーコが飛び跳ねるたび、蓮は今までにない快楽の波に引き込まれそうになった。  
「も、がみさん…俺、を……食いちぎる、つもり?」  
「ぃあっ、つる、がさんっが、大きい、から……ぁぁっ、おかし、く、んはぁっ、なっ、ちゃうぅっ……」  
注挿を繰り返す度、ハンドルにキョーコのお尻が当たり、小さなクラクションが鳴る。  
「どう、しようっ、どう、し、ようっ……あ、ぁぁんっ……」  
「いい、から、おいで?」  
蓮はキョーコを突き上げ続け、ローターで固くしこった乳首を引っ張った。  
「いぁぁっ!」  
キョーコは唇を噛み締め、蓮をさらに締め上げた。  
蓮も外す余裕もなく、彼女の中に精を存分に吐き出していた。  
 
「ちょっと突っ走り過ぎた」  
蓮がシャツを着直し、キョーコは約束どおり律儀にローターを付けたまま、スカートを穿き、キャミソールを  
身に着けた。  
キョーコの目は未だに潤んで、頬は上気している。  
「でも今日君を、このデートに連れてきて本当に良かったよ。君の嫉妬する顔が見れた」  
「今度のデートは普通の映画館がいいです。遊園地でもいいですけど、普通の、です、よ? んっぅ」  
ローターが邪魔をして、頬が上手く膨らまないキョーコの唇に、そっと唇を重ねる。  
「今度は、貸切にするよ。そうすれば、いくらでもキョーコのよがる顔が見られるしね」  
「つ、敦賀さんっ!」  
「ほんとどんな顔でも君は可愛いね」  
フェラーリを軽快に飛ばしながら、二人は遅い夕食と熱いシャワーのためにマンションへ向かった。  
 
 

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