「で?今日はどういうノロケ話なわけ?」  
 
深いため息をつき、腕を組んで面倒臭そうに奏江は切り出す。  
 
「ノ、ノ、ノロケなんて!私がいつノロケ話なんかしたのよモー子さん!  
 私いつだって真剣に悩んでてでも相談できる人がモー子さんしかいなくてなのにモー子さんもなかなか捕まらなくて」  
「わかった、わかったわよ!聞いてあげるからさっさと言いなさいよ!ったく…」  
 
場所はいつものカラオケボックス。  
奏江は電話で泣きつかれてキョーコに呼び出されたわけだが、この状況も数回目。  
あの敦賀蓮とこのキョーコがつきあうことになった時は、まあ途中から予想していたこととはいえかなり驚いた。  
しかし付き合い始めてからのキョーコの悩みを聞いていると、ひとつの考えが奏江に浮かんでは消える。  
それは、ハマっているのは敦賀さん側じゃないか?ということ。  
(まさか…ねえ…。いやでも、付き合う前も敦賀さんの言動は変だったし…)  
 
「ちょっと聞いてるのモー子さん!!」  
 
キョーコの叫び声で我に返る。  
 
「き、聞いてたわよ。つまり敦賀さんが冷たいって言ってんでしょ」  
「違う…違うの、冷たくなんかない…と思う…」  
 
目の前でどんどん暗く沈んでいく姿に、奏江は再びため息をついた。  
 
「ったくもー。じゃあ具体的に例をあげて説明しなさいよ」  
「う…」  
「…話すことないなら帰るわよ」  
「話します!話すから帰らないでモー子さあああん!」  
 
キョーコの話はこうだ。  
敦賀さんは優しい、いつもごはんを作りにいくと喜んで食べてくれるし片付けも一緒にしてくれる。  
仕事の悩みもちゃんと聞いてアドバイスもしてくれる。  
忙しい時も毎日仕事の合間に少しでもと電話をくれる。  
(ここらへんでまたノロケか、と帰ろうとしたわけだけど。)  
ところが最近、どうも様子が変だ、決して冷たくなったわけでもなく、  
むしろ優しいのはエスカレートしているのだが、どこか変だ、とキョーコは言う。  
 
「だからどう変なのよ。そこがわからないと話が見えないじゃない」  
「だ、だから…その…」  
 
キョーコはなぜか真っ赤になっている。  
 
「そういう雰囲気になると…明らかにこの流れだと、って空気になると、  
 敦賀さん、なんか固まったような顔をして逃げちゃうの…」  
「逃げる?」  
「そうなの…モー子さん、私ってそんなに色気がないのかな…」  
「はあ…そういうことね。色気、ねえ」  
 
この子の場合、そういう問題とは多少違うような気がしなくもないんだが、と内心思いつつ、  
敦賀蓮への好奇心が湧いてきて奏江は話を続ける。  
 
「この数ヶ月、全くなかったわけじゃないんでしょ?どうだったのよ」  
「どどどどうって……っ…その…それなりにというかむしろ……というか…」  
「よく聞こえないんだけど。激しかったって言ったの?」  
「何度も言わせないでよモー子さん!!!」  
 
真っ赤になって怒り出したキョーコに思わず吹き出す。  
 
「だったら今さら色気ってわけでもないんじゃないの?…と思うけど、  
 敦賀さんの思考回路ってよくわからないわ。それに私が思うに…」  
「なに?なにか思い当たるの?教えてモー子さんっ!!」  
 
目をキラキラ輝かせて身を乗り出してくるキョーコに一瞬身構える。  
 
(いや…そのいつまで経っても変わらない無邪気さに罪悪感を覚えるんじゃ…)  
 
意地悪に質問していた今もそうだが、  
自分がキョーコに対してたまに感じることなのでそれに思い立ったわけだが、  
まあいいや、と悪戯心もあって奏江は説明を放棄した。  
 
「じゃあ付き合ってあげるわよ」  
「へ?何に?」  
「買い物よ、買い物。短いスカートと悩殺下着を買いに行くのよ」  
「の、悩殺?!!」  
「そう、ガーターベルトとかスケスケのショーツとか」  
「むむむ無理よそんなのっ!」  
「じゃあ帰る」  
「行く!行きます!行くってばモー子さんっ!待ってーーっ!」  
 
 
 
「敦賀さん…おかえりなさい」  
「…ただいま。来てたんだね。言ってくれてたら遅くなるって連絡できたのに。すまなかったね」  
 
仕事が遅くなり、少しの疲れのせいでため息と共に自宅に足を入れた蓮だったが、  
薄暗いリビングでキョーコが立ち尽くしていたのを見て一瞬驚き、なんとか言葉を発した。  
 
キョーコと付き合い始めて数ヶ月。  
溢れてしまう感情を押し殺そうと努力してきたがそれも叶わず、  
結局自分の思いに素直になってようやく手に入れた恋人。  
しかし手中に収めた、とは言えそのキョーコの純粋さは以前と一向に変わることがなく、  
その手に触れれば幼い頃のキョーコの姿とすら重なってしまう。  
そのうえ、想いを通じ合わせ、自分の物にできた、はずなのに、なぜか愛しい想いは募るばかり、  
今まで味わったことのない感情の波に、ここ最近の蓮はゆらゆらと漂っていた。  
 
「いいえ、いいんです、私が勝手に…」  
 
なぜか言葉が沈んでいくキョーコに再び目を向け、そこでいつもと違うことに気付いた。  
 
「今日はなんだか、感じが違うね。全部黒だからかな」  
「あ、はい、あの…モー子さんとお買い物に行って…それでその場で着せられてそのままここに来たんです」  
「そう。似合ってるよ、そのスカートも」  
「はい…でもあの…いえ、ありがとうございます」  
 
にっこり微笑まれてキョーコは赤くなって俯いた。  
結局奏江と買い物に行ったはいいが、  
セレクトされたのはガータベルト付きのストッキング、薄くて小さなショーツにブラ。しかも黒。  
その上に黒の薄いキャミソール、露出を隠そうと羽織っているのも薄い黒のカーディガン。  
スカートはふわふわした膝丈のフレア。このスカートは唯一気に入っている。  
太ももまでのストッキングのレース部分が見えるのは絶対にイヤだと必死に抵抗し、なんとか膝丈に落ち着いたのである。  
が、スカート以外は奏江に無理に着せられたようなもの。  
色気がないという悩みを解消してくれるかもしれないが、しかしこれではそれ以前に恥ずかしくて脱げやしない。  
今日は帰ってしまおうか、いやそれだと後でモー子さんに叱られる、  
と部屋をぐるぐる回り続けていたところに蓮が帰ってきてしまった、というわけだ。  
 
(どうしよう…やっぱり今日は帰ろうかな。でもせっかく会えたし…でもでも)  
 
混乱しているキョーコを心配して蓮が顔を覗き込む。  
 
「どうした?待ちくたびれたかな。座って。水入れてくるよ」  
 
キョーコをソファに座らせて、コップに水を注ぎながら蓮は気付かれないようにため息をついた。  
薄暗い部屋で目を潤ませて俯くキョーコ。  
 
(煽ってるのか?…まあそんなわけはないけど)  
 
悩ましいキョーコの姿は蓮の悩みをさらに膨らませる。  
愛しいはずのキョーコを抱くと、蓮は必ず暴走してしまう。  
抑えなければ、と思うのだが歯止めが利かない。  
心から、身体から、何かが溢れ出して止められない、といった状態に陥ってしまい、  
優しく抱きたいと頭では思いながらも激しくキョーコを啼かせて終わる。  
終わる度に激しい罪悪感に襲われて胸がキリキリ痛む。  
翌日には、今日こそは優しく、と言い聞かせるのだが、キスを交わしているとドス黒い欲望が湧き上がる。  
そんな葛藤を何度も続けているうち、徐々にどうしていいのかわからなくなってしまい、蓮はついに手が出せなくなってしまった。  
傷つけたくない、優しくしたい。それに…いつまでも純粋なままのこの子を穢してしまう権利が自分にはない。  
考えれば考えるほどに悩みは増していた。  
 
隣りに座ってコップを差し出す。  
 
「大丈夫かい?落ち着いたら送っていくよ、もう遅いし」  
「……そう…ですね」  
 
スカートの上で握り締めた拳のうえに、涙がポタポタ落ちているのに気付いて蓮は動揺した。  
 
「どうした?何かあった?」  
「私のこと…嫌いになったんですか?」  
 
思わぬ言葉に唖然とする。  
 
「そんな…そんなわけ、ないじゃないか!一体どうし…」  
「だって敦賀さん、最近私から逃げてますっ!  
 軽いキスしかしてくれないし…それに…っ…触れても、くれません…」  
「それは・・・」  
「嫌いになったんですか?だったら…そう、言ってください…大丈夫です私…慣れてますから」  
 
震えながら見上げる瞳に蓮は胸が痛み、喉がカラカラに渇いてくる。  
 
「大丈夫…なのか?君は…俺に嫌われて、平気だと?」  
「そんなはずありません!平気なんて…っ!」  
「嘘つき、だねキョーコ」  
 
蓮はか細い身体を抱き寄せ、髪に指を絡める。  
 
「違うんだ…君を抱くたび…君を傷つけているのが怖くて」  
「私、傷ついてなんかいません」  
「もっと優しくしたいんだよ。なのに…」  
「敦賀さんは優しいですよ。それに…嫌いじゃない、ですから、大丈夫です」  
「何を?」  
「…その…激しい、の…です」  
 
赤くなって請うキョーコに、感動をとどめていた堰が崩れ落ち、抑えていた欲望が膨れ上がる。  
 
「激しいのが好きなの?」  
「……っ…好きなんて…あ…」  
「今、言っただろう?」  
 
耳の中、首筋、と舌を這わせる。  
 
「言ってなんか…」  
「じゃあ嫌い?」  
 
耳元で囁く声にキョーコは小さく震える。  
 
「…好き…」  
「そう」  
 
唇へとキスを移し、舌を歯茎に這わせる。求めて差し出される舌から逃げ、まんべんなく味わう。  
 
「んん…」  
 
キスに夢中になっている顔を楽しみながら、カーディガンをそっと下ろす。  
頭の隅では優しく労われと理性が語りかける。  
しかし一方では激しいが好きと言ったキョーコの煽りがこだまする。  
もっと味わい尽くしてしまいたい、隅から隅まで食べ尽くし、自分の思い通りに反応する身体に育てたい、  
そしてもう誰にも渡したくない。抱けば抱くほどにこの子に飢える。  
蓮の思考は再び混乱し、それから逃れようと今度は行為に没頭し始める。  
キャミソールをずりあげ、張りのいい胸元に口付ける。  
 
「これも黒だね。俺を誘惑するつもりだった?」  
「…はい…だって…ん…ずっと…」  
 
そのままブラを噛んでズリさげ突起を晒す。  
 
「ずっと、欲しかったみたいだね。こんなに固くなって」  
 
ジュルジュル、と音を立てて吸い込み、舌でちろちろと翻弄する。  
 
「んぁ…やぁ…」  
「キョーコ…愛してる」  
 
私も、と答えようとしたところを右手がスカートに伸びてキョーコは慌てた。  
 
「あ!だめっ!」  
 
思わず蓮の手首を掴んでそれを止める。  
 
「だ、だめです、やっぱり今日は…」  
 
「どうして?」  
「…とにかく、だめです、ほんとに」  
「悪いけど、もう止められない」  
 
蓮は構わずスカートをあげてしまい、ガーターベルト、薄いショーツが露わになる。  
 
「ゃあ…っ…恥ずかしいから…もうやめ…」  
 
必死に隠そうと頬を赤く染めスカートを引っ張るキョーコ。  
 
「キョーコ…それは煽ってるって言うんだよ」  
「…え…ちが…ああっ…」  
 
膝を抱えあげてM字に開かせ、ショーツの上から蕾のある場所に軽く噛み付く。  
薄い生地のため歯の感覚が直に伝わり、キョーコに快感の衝撃が走った。  
 
「あっ…だめぇ…つる、がさぁ…」  
「ダメなの?残念だな」  
 
くちを離し、指でショーツの上を往復する。  
 
「…ぁあ…ん…や…あ・・・」  
 
口元に手をやり、乱れた格好で喘ぐ姿。蓮の欲望に拍車がかかる。  
 
「ごめんね。キョーコがこんなにいやらしいなんて知らなかったから、長いこと我慢させてたね」  
「おねがい…触っ、てぇ…」  
「触ってるよ」  
「ちが…違うの…」  
 
求めに応じてストッキングはそのままにショーツを脱がせた。  
突起を口に含み、中指を泉の元にゆっくりと入れ、そしてゆっくりと抜く。  
何度も繰り返していると、くちゃくちゃと部屋に響く音がどんどん大きくなっていく。  
1本では足りなくなり指を増やすと、キョーコの声も切羽詰る。  
 
「…っやぁっ!あっ…んんっ!」  
「イヤ?」  
 
意地悪に顔を見ると、ふるふると首を振る。  
 
「うそ…スキ…だい、すきぃ…」  
「コレが?それとも俺のこと?」  
「両方…です…」  
 
蓮は満足して指の動きを早め、今度は激しくかき回す。  
 
「あっあっ…だ…め、…っちゃうから…っ!だめっ…!」  
 
無視して内側を刷り上げると、キョーコは叫びとも言える声をあげ、  
透明の液を飛ばしながらビクビクと痙攣し脱力した。  
 
「は…ぁん…」  
「すごいね。もう満足した?」  
「まだ…だめ、です…敦賀さんが…」  
「俺は…いいんだ。キョーコを苛めてしまうから」  
 
キョーコは小さく驚いた表情をする。  
 
「あの…でも」  
「いいんだよ」  
 
蓮は優しくキスをした。軽く触れては離し、目を見てまたキスを落とす。  
ついばむような軽いキスに、キョーコはたまらなく切なくなってきた。  
 
「敦賀さん…」  
「どうかした?」  
「お願いです…もっと…」  
「もっと?」  
「…もっと…苛めて、ください…」  
「…でも俺は」  
「おねがい…私まだ、満足できません…!欲しいんですっ…敦賀さんが」  
「…わかったよ。じゃあ君がおいで」  
 
キョーコは促されてソファに座りなおした蓮の前に向き直る。  
しばらく逡巡していたが、たどたどしい手つきで蓮のズボンを脱がせ始めた。  
そして脱がせ終わるとゆっくりと蓮の上に跨り、少しずつ腰を下ろしていく。  
 
「ん…っ」  
 
入り口で一旦止まり、また迷っているような表情をする。  
 
「どうした?もういいのかな」  
「…まだ…だって敦賀、さん…いつもより…おっきぃ…」  
 
恥ずかしそうに小さな声で呟く。  
 
「だって長いこと焦らされてたから」  
「焦らしてなんかっ!…敦賀さんです」  
「なにが?」  
「焦らしてたのは、敦賀さんです」  
「そんなに欲しかった?」  
「…はい…」  
 
くすりと笑ってキョーコの唇を捕らえる。  
 
「ん…んん…んーーーっ」  
 
再びキョーコは腰を下ろしていく。  
そして最後まで咥えると、ゆっくりと腰を揺らし始めた。  
 
「どうしたの、今日は?こんな格好をして、勝手に腰を振って…まだダメだよ」  
 
蓮はキョーコの腰を掴んで動きを止める。  
 
「苛めてほしいんだろう?」  
「やぁ…動いてぇ…欲し…の…」  
「ひどい子だな。せっかく我慢してきたのに、誘惑するなんて」  
 
腰をつかんだまま、突然蓮は突き上げを始めた。  
キョーコの身体は浮いては突き落とされ、奥まで突かれる。  
拒否する間も与えられずまた突き上げられる。  
部屋には繋がったところからグジュグジュと淫らな音が響き、水が溢れる。  
 
「っあっ!あっ…ぁあっ…!やっ…っあん!ん!んーっ!」  
 
キョーコも無意識に蓮の動きに合わせて腰を揺らし、形のいい胸がズラされたブラの上で小刻みに揺れる。  
 
蓮は繋がった少し上にある大きく膨らんだ蕾を指で擦る。  
 
「やっ…!!だ、めぇっ…そこ、や…です…っあっ…あっ!…っちゃう…ッ敦賀、さんっ!」  
「キョーコすごく…締め付けて、そんなに喘いで…いやらしい子だね…」  
「…っきちゃ…きちゃう…っ!…怖い…つる、がさ…あっ…んーーーっ…」  
「…っ…大丈夫、だよ。いいよ…おいで」  
 
切羽詰るキョーコに合わせてさらに激しく突き上げる。  
 
「やーっ……あぁっ…!あっ!……やっ…やあああっ…!!!」  
 
キョーコは蓮の首に全力でしがみつき、ガクガクと内腿を震わせた。  
蓮も熱い中でビクビクと震えるのを感じ、そのキツイ締め付けに耐えられず欲望を放出した。  
 
キョーコは気を失っているようにも見えたが、とりあえずハァハァと息を荒げているのを確認し、蓮はキョーコをソファに横たえさせた。  
そしてもう一度、繋がっていた熱い部分へ指を入れる。  
 
「ああっっ!!つ、敦賀さん…っ!だ、だめっ!」  
「お掃除、だよ」  
 
キョーコの中はまだピクピクと痙攣を続けている。  
蓮はそれを楽しんでいるかのように指でくちゅくちゅと弄ぶ。  
 
「…めぇ…ほんとに…っ…ゃあぁ…あ…んぁ」  
 
本気で嫌がっていたはずの声に甘い吐息が混じり始める。  
 
「また…激しすぎたね、ごめん」  
「…いえ…んん……気持ちよか…っ…あん…ゃあ…」  
 
今度は蓮が跨り自分のものを突き入れた。  
奥までゆっくり突き刺し、ゆっくりと、完全に抜いてしまう。  
 
「あ…っ」  
 
ふたたびゆっくりと挿入し…また抜き去る。  
 
「つ、敦賀、さん…や…やめ…」  
「やめてほしい?」  
「そうじゃ…な…」  
 
次は奥まで入れず、入り口で遊んでいる。自分のもので溝を往復し、蕾をこする。  
往復する動きを早め、声があがると焦らすように動きを緩める。  
 
「もう、いらないかな」  
「いやっ…いかない…でぇ…抜かないで…いっぱい、欲しい…のぉ」  
「加減できないよ?」  
「いい…いいの…激しく、してぇ…」  
「いいよ。じゃあ、今夜はもういらないって言うまで止めないから」  
「ああっ…!!」  
 
再び奥まで一気に突き上げ激しく腰を打ち付ける。  
キョーコの歓喜に満ちた喘ぎ声を聞きながら、  
もういらない、なんて言わせないけど、と蓮は思った。  
 
 
 
「琴南さん」  
 
数日後のLME。  
奏江が歩いていると、後ろから呼び止められた。  
振り向くと、敦賀蓮。そしてそのマネージャー。  
 
「敦賀さん…こんにちわ。社さんも」  
「やあ!琴南さんも最近活躍してるねー」  
 
朗らかなマネージャーの横で、万人向けの笑顔で微笑む敦賀蓮。  
相変わらず何を考えているかはわからない…が、  
まあ何か言いたい笑顔なんだとしたら、言いたい内容は予想が付く。  
 
「いえ。敦賀さんも相変わらずお忙しそうですね…いろいろと」  
 
奏江も負けじと笑顔を返す。  
 
「ああ…そうだね、おかげさまで」  
 
おかげさま、で若干語気を強め、蓮は続ける。  
 
「ところで琴南さん、最上さんへのアドバイスはほどほどにしてあげてくれないかな?  
 彼女ほら、純粋というか素直というか、どこまでも従順なところがあるから。  
 それにできれば自分でいろいろ覚えて欲しいしね」  
 
キュラキュラ、と先ほど以上に輝く笑顔に奏江は一瞬ひるむ。  
 
「な…それは敦賀さんが教え込みたいって意味…」  
「まさか。俺が教えるなんておこがましいよ。  
 彼女は立派な女優だし、こっちが演技を教えて欲しいくらいだよ。  
 あ、そんなに気にしないで。ちょっと思いついて言ってみただけだから。じゃあ仕事がんばって」  
「はい…失礼します」  
 
笑顔で去っていく蓮と妙な会話に首を傾げながら慌ててついていく社を見送りながら、奏江はため息をついた。  
 
「あれって…自分が調教するから口を出すな、って意味…よねえ?」  
 
ったくあの子も恐ろしい人を捕まえたもんだわ。  
ブツブツ言いながらエレベーターに向かう奏江だった。  
 

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