「---もしもし?もしもーし!…あれ?敦賀さぁーん?ですよね。もしもし?…どうかしたんですか?敦賀さん?」
「……ああ、俺だよ、キョーコ…」
絞るようにしてようやく声を出す。
「なんだぁ、黙ってるからびっくりしちゃいましたよ」
携帯電話の向こうでくすくすと笑う声、嬉しいはずのこの瞬間に胸がつまる。
ここ最近の蓮は、初めて味わう感情の連続に戸惑い続けている。
キョーコをようやく恋人として手に入れてからというもの、ほぼ毎日、忙しい日も時間を捻出して顔を合わせた。
無理しないでくださいね、とキョーコは照れ笑いを浮かべていたが、たとえ無理をしてでも会いたかったのは蓮のほう。
無理、どころか、一日でも会わないとこの手から離れてしまうのではと不安に駆られる。
もちろんキョーコが他の男に安易に心を揺らしたりするはずがないというのは承知している。
自分の焦燥と不安が何を理由にあふれ出しているのか全くつかめない。
そしてつきあい出して約二週間後の今、蓮はロケで北海道に来ている。
キョーコは東京。
会おうにも簡単に会えない初めての距離、ますますキョーコに飢えていく自分を感じている。
まったく、カッコ悪いぞ敦賀蓮。
自嘲気味に呟き空を仰いだ。そういえば社長がそんなことを言ってたな。
恋をすればカッコ悪くあがくもんだ、とかなんとか。
これは恋、か…しかも片思いみたいじゃないか。
「蓮?何か言ったか?」
「いいえ、なにも?」
マネージャーの問いに『敦賀蓮』の紳士なスマイルで答える。
「蓮!なんだ辛気臭いな!北海道の夜にそんな顔が許されると思うなよ?
今日こそはお前の化けの皮を剥いでやるから覚悟しろっ!!」
居酒屋から最後に出てきた監督の新開はかなり酔っている様子で叫んでいる。
「…あの、俺はもうホテルに」
「何を言ってんだ冗談もほどほどにしろ!よし、次はウォッカだ、お前の皮はウィスキーくらいじゃ剥がれないみたいだからな!」
はあぁぁぁ、とため息が出てくるが仕方がない。
「蓮、ありゃ無理だよ、今日も諦めろってことだね」
「…なにがですか?」
とぼける蓮に構わず社は声を低くして話を続ける。
「キョーコちゃんに電話するつもりだったんだろ?昨日も夜のロケで遅くなったし。
もう12時かぁ。これじゃ帰る頃に電話ってわけには」
「大丈夫ですよ、2、3日くらい」
にっこり笑って歩きだした。
そう、2、3日くらい、なんてことないはず。
なのにもう声が聞きたくてたまらなくなっているのは酒のせいなのか…
結局監督に解放されてホテルのベッドにありついたのは午前4時前。
宣言どおりにウォッカを何杯か飲まされたせいだろう、ベッドに身体を沈めると天井が揺れている。
「キョーコ…」
そっとその名を口にしてみる。声に出してみると愛しさが込み上げてきて、思わず携帯電話に手を伸ばし、一番最初に出てくるそのメモリーを表示した。
そこで止めるつもりだったのだが、無意識に発信ボタンを押してしまった。
呼び出し音に驚いて慌てて携帯を折りたたむ。
「クソ、なにやってんだ…」
そう呟いたところで蓮は眠りに落ちていった。
結局翌日も夜のロケが長引き、0時を回って全ての収録が終了した。
「お疲れ様でしたー!」
スタッフたちの声が響き渡る。
「れんーーーー!ちょっと先にホテル帰っててくれるかな?
えっと、明日は11時に部屋に迎えに行くから」
「はい、わかりました」
適度な疲れを抱えてホテルのエレベーターに乗る。
電話…いやこの時間ならメールにするべきか?しかし声が聞きたい。
会えるはずの明日の夜が待ち遠しい。
キョーコからは今朝の時刻でメールが入っていた。
『電話、眠っていたので…ごめんなさい。ちゃんと食べてますか?お仕事がんばってくださいね』
これほど焦がれているのは自分だけなのか…再び訳の分からない焦燥が襲う。
部屋にたどり着き、深いため息と共に部屋のカードキーを取り出したとき、後ろから声をかけられた。
「お疲れ、ですね」
振り向いた蓮は、幻を見ているのかと思って固まった。
待ちわびていた笑顔がそこにあった。
「…あの…驚かせようかと思っ…たんです、けど…まずかったでしょうか…」
「キョーコ…?」
「はいあの…私、明日お仕事が変更でオフになって…それであの、社さんに場所を---」
キョーコが言い終わらないうちに腕を掴んで部屋に引き入れる。
ドアを閉めるなりキョーコをめちゃくちゃにかき寄せた。
「つ、敦賀さん?どうしたんですか?」
「キョーコ……」
「…敦賀さん…?…大丈夫ですよ、私、ここにいますから」
彼女の一言でざわめいていた心が落ち着いていく。
自分がこんなに弱い男だったとは…
「私、夜に着いたんです。で、時計台を見てきたんですよ」
「会いたかったんだ、すごく」
「…私もです。だから来たんです。あ、この部屋夜景が綺麗ですね」
くすくす笑いながら耳元で囁かれ、蓮は徐々に自分が生き返っていくのを感じる。
落ち着きを取り戻し、キョーコをベランダの入り口へと連れて行った。
「わああ綺麗!!敦賀さん、これって星みたい!満点の星ですよ!
あ、でもそうなると、星を見下ろしてることになりますね、うーんそれはちょっとおこがましいかも」
飛び上がって喜んだり真剣に考え込んだり、コロコロと表情を変える彼女に思わず笑みがこぼれる。
「綺麗だよ、キョーコ」
「…っ!わ、私じゃなくて、星の話です!あ、じゃなくて、夜景の---んーっ!」
話を無視して強引にキスをすると、キョーコは抗議の呻き声をあげた。
が、それも構わず口内を貪っていると、少しずつ甘さが混じり始める。
そう、この唇…この甘い声。ずっと欲していたものを再び手にして、蓮の中に火が灯る。
「んんっ…ぅん…」
キョーコも必死に背伸びをし、手を伸ばしてすがりつく。
蓮はゆっくりと膝を付きながら、キスの場所を徐々に下げていく。
耳たぶ、首筋、そして薄いカットソーの上から胸へ下がり…突起のあるはずの場所で軽く噛み付く。
「あっ…!」
「そんな…煽らないでくれないか。優しくしようと必死なのに」
「あ、煽ってなん…か…」
顔を赤らめてプイとそむけ、思わず漏れた声を悔やむように手で口を押さえる。
まったく…それが煽りじゃなくてなんだって言うんだこの子は。
まさか他の男の前でも無意識にこんな顔してるんじゃないだろうな…。
小さくため息をつきながら、キョーコをくるりと回してガラスに押し付ける。
背骨を服の上からキスでなぞりながら、手を前からスカートの中へと滑り込ませ、下着の上からゆっくりと指で往復させる。
「んああぁっ…あ、だ、だめ…ん…敦賀さん…カーテン…んんっ!」
ゆっくり、軽く…。蓮は激しくしないことで、自分の理性を少しでも保つことで、キョーコを大事にしていると確認したかった。
そう、この子を壊す権利は俺にはない。だがもう手放すこともできない。
「ん…ぁあっ…はぁ…ん、やぁ…るがさ…ん、だめぇ…足に…力がはいらな…」
崩れ落ちそうになるキョーコを支えながら、構わず指でこすり続けた。
ガラスと蓮に挟まれたキョーコの息が荒くなり、ガラスが小さく曇り始める。
「ごめん、下着がびちょびちょになっちゃったね」
「や…脱がせ…てぇ…」
「どうしようかな」
「ああぁっ…!!!」
大きく膨らんだ部分を強くつまむとキョーコは震えながら身体を反らせた。
ガラスに映る顔を確認すると、うつろな眼を涙ぐませ、ハァハァと息を荒げている。
これは…理性なんか飛んでいってしまいそうだ。
「イッたね…綺麗だよキョーコ…」
蓮はズボンと下着を脱ぎ捨て、大きくなった自分のモノを取り出す。
スカートをめくり、下着はまだ脱がさずにぎゅうぎゅうとソレを押し付けた。
「ぁあ…敦賀さん…どうし、てぇ…んん…あんっ…だめぇ、そんなんじゃぁ…」
キョーコの声に再び熱がこもり始め、ぶるぶると身震いし、自ら腰を押し付けてくる。
「だめ?」
「だめぇ…脱がせてくださ…ぃ…そんなの、いやぁっ…足りない、ですぅ…んっ!」
「でも、長くキョーコを味わいたいしな」
「ぃやぁっ…ほし…欲しい…です…!早く…くださいっ!中に…!いれ…入れてぇ…ん…!」
ガラス越しのキョーコの、もう限界、といった顔に蓮も観念し、キョーコの下着を膝まで下ろす。
「そんなに欲しいの?」
「欲しい…です…すごく…」
「カーテンは?」
「もう、いい、ですそんなの…っ…はや、早く…っもぉ、がま…できない…っ!」
突き出された臀部を掴み、ゆっくりと自身を挿入する。
くちゅ、じゅく、と鈍い水音が聞こえるのを楽しみながら、途中で一旦止めてみる。
「はぁ…んっ!…もっとぉ…もっとください…」
「ずっと、欲しかった?」
「…はい…」
「会えなくて淋しかった?」
「はい…ずっ…と…敦賀さんの、こと…考えてまし…ぁあっ」
また少し、奥まで入れる。
「ほんとに?」
「ほんと、です…毎晩…ずっと…んっ…いつも、一緒に…繋がって、たい…あぁ…」
「そう、俺もだよ」
もう俺も、限界だ。
蓮は奥まで突き入れ、ぐりぐりと回してキョーコの内側を楽しむ。
「あああっ…!あっ…!や…ぁあ、んーーっ!!」
「っ…キョーコ…今日は、激しいんだね…」
「だ…だってぇ…あぁん!んっ、ぁあ、ぃやぁ…気持ち、いい…のぉ…っ!…もっと…っ」
「そんなに声…廊下まで聞こえるよ」
「いい…いいもん…ぁあっ!ん!敦賀さん、の…ぁ…熱、いぃ…んんっ」
激しく求めて揺れるキョーコの腰の動きに合わせ、蓮も身を打ちつけ始める。
「キョーコ…まったく君は…っ…いつからこんな…」
「はぁ…ああっ!んっ!…つ、つるが、さんの…あ…んっ、せい、ですよ…っあ、いま、の、とこ…っ!!
…もっとぉ…!っつるがさんが…あ、んーっ…ん、…こんなに、したん、です…っあ、いぃ…っ!」
確かに快感を教えたのは俺だけど、いつも予想以上の反応で返してくるのは君のほうだよ。
「あ、だ、だめ…っ…も、もぉ、きちゃう…っ!や、やだ…っまだいやぁ…っ、イっちゃう…ゃ、あ、あぁっ」
「いいよ、おいでキョーコ…っ…そんなに締めたら俺も…っ!」
「や、ゃあ、あ、んんっ、い、イっちゃ…うよぉ…っ、あぁ、あ、あっ!んっ!ぁあ!ーーっ!っああ、やああああーーーーっ!!!」
「敦賀さん、起きてください。そろそろ準備しないと」
「ん・・・」
「ぐっすり眠られてたみたいですね」
覗き込む優しい笑顔に幸福感が満ちる。
ちょっと会えないだけで落ち込んだかと思えば、会えただけでこんなに幸せになる。
なるほど、恋ってのはやっかいなモノ、か…。
「どうかしました?」
キョーコは不思議そうに首をひねる。
「…いや、なんでもないよ」
引き寄せて唇を奪う。
「ん…時間ないんですから、もうダメですよ。あ、敦賀さんはロケ班の方たちと戻るんですよね?
じゃあ私はその次の便で帰りますから。お土産買っておきましょうか?」
「どうして?いいよ、一緒の便で帰ろう」
「ダメです!そういうことは、慎重に行動しないといけないんです!」
「俺は構わないのに。どうしてもダメかな?」
「ダメったら絶対ダメです。まったくもう、敦賀さんって意外と子供っぽいんですから…」
ぶつぶつ言いながら散らばった服を片付け始めるキョーコの背中を見ながら、
なんだか主導権を握られつつあるよな、と苦笑する蓮だった。