敦賀さんと付き合い始めて約二週間。
ふたりの関係を知っているのは、社長、社さん、モー子さん、それから私の仕事を管理してくれている椹さんだけ。
なのだが、問題はその4人の前だと、敦賀さんは遠慮なく甘えてくるということ。
実はもともとそういうスキンシップに抵抗がない人なのか…
恥ずかしいからやめてください、と頼んでも、どうして恥ずかしいのかと不思議そうに質問してくる始末。
一度なんて、理由なんかない、とにかくダメだと必死に言ってみたら、
好きだったら触れ合いたいのは当然だ、キョーコは俺を好きじゃないのかと子供みたいな屁理屈で返された。
で、今日は社長突然提案によるパーティ。
パーティ、と言っても、LME所属の芸能人を集めて労をねぎらう、という簡単なもの。
私はモー子さんと準備中。ラブミー部員の出番、ってやつ。
なぜか敦賀さん、早く仕事が終わったらしく社さんと手伝いに来てくれた。
ふたりじゃ無理よ、と話していたところだったから正直助かる。
準備も落ち着いてきて、座ってテーブルの中央に添える花を生けていたら、敦賀さんが横に座る。
「かわいいね」
「そうでしょう?とってもかわいいですよね、このお花。
お花って大好き。切っちゃうのはちょっと可哀相ですけど…でも」
続けようとする私の言葉を、違うよ、と遮って、
「キョーコがかわいい、って言ってるんだよ」
恥ずかしげもなく言われ、不意打ちを食らって耳まで熱くなる。
「も、もうっ!…やめてください!モー子さんや社さんだっているのに…っ!」
声を抑えて抗議するのに、敦賀さんはしれっと続ける。
「どうして?2人とも知ってるんだし平気だよ」
「私が平気じゃありません!」
「あのー。丸聞こえなんですけど」
少し離れたところで準備の手も休めずモー子さんが呆れた声で言う。
「迷惑だったかな、琴南さん?」
「いいえ、お好きにどうぞ。…ったく勝手にやってろってのよ、もう」
「れーん…そうやってイチャイチャすんのも他の人たちが来るまでだぞ」
「わかってますよ」
「ちょっと!なんで私の意見を無視してまとまってるんですか!…ってもう…
…ダメですってば…っ!もう、ほんとに…ちょっと…っ」
敦賀さんは許しを得たとでも言わんばかりに遠慮なく顔や手を触り始めた。
そして私が無視してお花を生けているのも構わず
耳たぶ、首筋、と、チュ、チュ、と音を立ててキスをする。
私は小声で必死に抗議する。
「っ敦賀…さん、ってば!もぉ、いけませんっ、そういうことは、人前で…や…です、
おうち…で、するもの…なんですってば…っ!」
「家に帰ったらするって意味?」
耳元で囁く声に思わず感じてしまう。
「…そういう…意味じゃなく、てぇ…」
「イヤ?」
「ん…いやじゃ…ない、です…けどぉ…今は、んん…だめ、ですよ」
「そう、早くしたいな」
「帰ってから、です」
「もっと触りたいよ、いろんなところ」
敦賀さんの手が、テーブルの下でスカートの中に伸びてくる。
太ももをゆっくり上がっていくのを感じて鳥肌が立つ。
「だめぇ…がまん、してください…おねがい、ですから…」
「できないな」
どうしよう…あと少し…あと少しで…
と思った、その時。
「ブリッジロックーーー登場ぉぉぉーーーーっ!!!」
バーーンっ!と大きな音を立てて、正面の両開きのドアが開いて光さんたちが勢い良く入ってきた。
ホッとしたやら…ほんの少し残念やら。
「キョーコちゃーーんっ!手伝いに来たよ!わあお花生けてるの?
キョーコちゃんって活け花できるんだね。すっごくかわいいよ…お、お花。
…あ、敦賀さん、お疲れ様です!」
勢いよく邪魔したことに全く気付いていない光さん。
恐る恐る敦賀さんを見ると、極上のキュラキュラ紳士スマイル。…お、怒ってる…。
「お疲れさま、光くん、だったよね。
こっちはもう落ち着いたから、社さんたちのほう、手伝ってあげてくれないかな?」
「は、はいっ!お手伝いさせていだきまーすっ!」
のん気に手伝いを始める光さんたちをよそに、
私とモー子さん、社さんは、怒っているであろう敦賀さんの笑顔に顔を引きつらせる。
この調子じゃ、家に帰るまで機嫌直らないかも…。
はぁぁぁ、とため息をつくと、耳元で囁かれた。
「続きは、あとで」