「…それでは、帰ります」
そろそろ、皆、起き出す時間だから、と京子は言った。
先程まで、あんなに愛し合った躰が、通い合った心が、ひどく痛んで仕方がない。
「お師匠様…。京子は、貴方に出会えて、貴方を想えて幸せでした。
最後の最後に、肌まで重ねてもらえて…。」
はらり、はらり、涙を流しながら笑む京子は、やはり美しい。
「私の中には、一生、お師匠様が居るでしょう。
でも、今日のことを思えば、きっと生きていけます」
そう言って、部屋の中に残り香だけを残して、京子は去って行った。
婚礼の日。
京子の姿を遠目にだけ見た。
言葉を交わせば、きっと、連れ去りたくなるから…。
そんなことは、許されない。
『京子は、貴方に出会えて、貴方を想えて幸せでした。』
いいえ、お嬢様。
私こそ…。
私こそが。
貴女のその明るさに、可愛らしさに、貴女を想えて涙が出る程、幸せでした。
その日、蓮は人知れず旅立った。
互いを想う気持ちは、例え離れていても、他人のものでも、いつまでも胸に秘められたまま…。
ずっと、ずっと、生き続けて…。
おしまい