町の中心から少し外れた寂れた地域。  
小さな連れ込み宿に蓮はいた。  
あの翌日、京子が嫁いでから3週間。  
せめて最初だけは少しのあいだ、疑われぬようにと一度も会わなかった。  
3週間の後、この宿屋で落ち合おうとふたりはあらかじめ決めていた。  
 
1組の布団。枕元に小さく灯された明かり。  
蓮は予定の時間よりもひどく早く着いてしまい落ち着かない。  
 
もしや京子はこないのではないか。  
 
あの夜、生涯離れられぬと深い繋がりを確かに感じたが  
一日、また一日と経つごとに温もりは遠くなっていく。  
自分は日が経つほどに狂おしく京子を欲しているが、果たして京子もそう思っているのか…。  
このまま京子に触れられずに朝を迎えることを思うと  
嫉妬と悲しみ、そして怒りにも似た激情に襲われこめかみが熱くなった。  
 
「京子…京子…」  
 
思わず言葉にしてその名を呼んでみる。  
あの夜から何度も繰り返してきたことだった。  
 
「京子…っ」  
 
乱れる心に堪えられず頭を抱えてしゃがみ込んだそのとき、  
静かに襖が開く音がして振り返る。  
そこには夢に何度も現れた京子が静かに微笑んでいた。  
蓮はぽかんとくちを開けたまま情けなく無言で眺めた。  
 
「お呼びになりましたか?」  
 
はにかんで笑う京子を見て、蓮は知らず涙をこぼしていた。  
 
「どうされました?大丈夫にございますか…?蓮さま?」  
「…っ…来ないかと…二度と会えぬかと…」  
「なぜそんな。お約束したではございませんか」  
 
すがりついて着物を引き寄せる蓮を、京子はふふ、と笑いながら幼子をあやすようにその頭を撫でる。  
京子の確かなぬくもりを感じ、蓮の心も次第に鎮まっていった。  
 
「京子さま」  
「なんですか?」  
「……抱かれたのですか?」  
 
聞かずにはおられなかった。夫婦となったのだから当たり前だろう。  
そんなことを聞いても互いに辛いだけなのだが、それでも蓮は問うてしまう。  
すがりついたままそっと顔を見上げて覗くと、  
案の定、京子はみるみるうちに顔を曇らせてしまった。  
 
「…すみません…また余計なことを---京子さま?」  
 
京子は顔を青白くさせ身体を硬直させている。  
 
「…責めているのではないのです、本当にすまない…すまない。ただ知っておきたかったまでで」  
「いえ…いえ、違います、いいのです…」  
「…何がありました?」  
「……2週間…2週間は守ったのでございます…  
 お師匠さまの温もりを、ずっと我が肌に残しておき…たくて…  
 でも…でもある夜……っ…それから毎夜…嫌がる私を…っ」  
 
膝から崩れ落ち、身を震わせる京子をかき寄せ、蓮は必死に慰めた。  
 
「もういい…!もう…もうおっしゃらなくて結構です…!」  
「…蓮さま…京子はもう、もう嫌ぁ…蓮、さま以外…っ…嫌ぁ…」  
 
京子は抑えていたものを吐き出すかのように嗚咽を漏らし始めた。  
が、しばらくのあいだ強く抱きしめ、何度も背をさすってやると、徐々に落ち着きを取り戻していった。  
顔を上げさせ唇を奪う。この唇も…  
 
「…唇は…守りました」  
「え?」  
「あなただけの物、です。身体は…奪われてしまいましたけれど…」  
「そう…そうですか…いえ、身体も私だけの物です。忘れさせてさしあげます」  
 
蓮は京子を取り戻すつもりで激しく抱いた。  
会えない間に募った京子への熱情、そして京子の夫への激しい嫉妬。  
相容れぬはずのふたつの感情が、京子が喘ぎ声をあげる度に蓮の胸を焼きつくす。  
蓮は悟った。自分はこのまま京子を帰せない。  
夫の元へと帰し、またこの身体が奪われることなど!  
そしてなにより、自分が京子の心と…身体なしでは、もう生きていけない。  
 
「ぁあっ…ん…蓮さま…蓮…っ…ん…」  
 
守ったという唇を何度も塞ぎ、首、胸、腹、そして内腿へ。  
蓮はすべてに強く吸い付きはっきりと痕をつけていく。  
蓮は京子の足を広げさせ、茂みの下にある膨れた蕾を探り当てて舌の先で転がした。  
 
「あぁっ…あ、あぁ…蓮…ぃい…気持ち、いい…」  
「どんどん溢れています…京子さまは淫らだ」  
「やぁ…っ…あ、あ、ん…」  
 
我を忘れていく京子が愛しい。  
蓮は蕾の先を舌でつつき、また根元からゆっくりと舐め回し、  
あるいはじゅるじゅると音を立てて吸い上げ…執拗な愛撫を夢中で繰り返す。  
 
「ああっ!や、嫌ぁ…!れ、蓮、さま、あ、あぁっ、あ!ああ、あっ!…っぁあああっ…!!!」  
 
舌で極みの瞬間を迎えて京子はビクビクを身を震わせる。  
 
「まだまだ…これから、ですよ」  
 
そう、まだ背中、臀部、と痕をつけていない。  
この痕は決意の刻み。  
 
---このまま京子を屋敷に連れて帰る---  
 
灯りはとうに消え、月の光だけが障子の隙間から差し込んで照らす。  
白く浮かび上がる二人の肌は、月が朝の光と変わるまで熱く蠢き続けていた。  
 

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