尽き果てた後の離れ難さに、二人は繋がったまま言葉を交わし続けていた。
もうじき京子は帰らねばならない。
蓮のぬくもりを、熱さをいつまでも感じていたいのに、京子の心を空虚が蝕みそうだった。
一体何処へ帰るというのだろう。
私の心はもう、家も親も何もかも失っているのに…
京子の耳に、蓮の声が聞こえてきた。
「これが罪でも…私は後悔しませぬ。」
はっとして京子は叫ぶように言った。
「いいえ…いいえ、罪ではありませぬ!蓮様、貴方は私を救ってくださったのです。罪などは…私一人のもの!」
「京子に罪などはない。」
激しく言い切り、蓮は京子をきつく抱き締めた。
「うかつなことを申しました。私達の心は真実、それが許されぬのは…」
静かに涙を流す京子の姿に、蓮は口をつぐんだ。
同じ想いだと知った。
全て今の、人の世のしがらみの苦しさが…
「人は死ねばまた生まれ変わると言うそうですね…」
あやすように頬に唇を落とし、蓮は京子の髪を撫でる。
「そうなのですね。でも、京子は…もう傷つきたくありませぬ。もし蓮様に出会えなければ、もしまた引き離されてしまったら…」
京子の瞳からはなおも涙が流れ続ける。
「もし生まれ変わったなら、私は必ず貴女を探し出します。」
強い決意と共に蓮は京子の瞳を覗き込んだ。
京子のその大きな、涙に彩られた澄んだ瞳が揺れた。
「幾線幾億の人々の中…惑わされ間違いつまづくことがあろうと、どんなに困難なことであろうと、決して諦めませぬ。」
二人の唇は重なり、深く繋がりあった。
しばしの後、今度は先ほどとは違う涙に濡れた京子の瞳に、強固な決意を秘めた蓮の表情が映った。
「今度こそ、必ず貴女を私のものに」
「蓮様…!」
泣きじゃくりながら京子は蓮に強くしがみついた。
ただ一人、愛するただ一人。
そのただ一人が他ならぬ自分を、来世までも愛すると誓ってくれた。
この世では報われぬ二人でも、来世まで、新しい自分となってまでも必ずや見つけ出し愛すると。
帰るところは、あった。
その愛するただ一人…
蓮。
京子の心の中にも新たな決意が浮かんでいた。
「私も誓います。蓮様。私達は必ず出会いましょう。たとえ親に世界に傷つけられようと、
私は決して貴方にだけは、傷つけられることはありませぬ」
瞳に映った蓮の顔は、夢見るような表情だ…と京子は思った。
その蓮の見た夢は京子自身。
今までに見たどんな表情よりも美しい微笑みに蓮は魅入られていた。
そして蓮も京子に夢を見せた。
だが…二人の心のそれは夢ではなかった。
この世の何よりも強い誓い。