雨は次第に強さを増していく。
蓮は大きくため息をついた。
「天気が落ち着くまでここで過ごそう」
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事の発端は社長の一言。
仕事の報告をしに行った蓮に、いつものように説教を始めたローリィ。
「お前…つきあって2ヶ月にもなるのにまだ手を出していないだとぉ?!!」
くらっと倒れるようにフラつきながら頭を抱え、
若いくせに不健康だ、お前は不能かと罵ったあげく、
お前にはきっかけってもんが必要なんだ、と叫び、嫌がる蓮を無視して計画を練り始めた。
が、そこは社長の計画。
気付けばマリアや社など、周辺の人も巻き込んで別荘でお祭り騒ぎ、に変わっていたのだった。
「最初の目的はどこに行ったんだ…」
ぶつぶつと愚痴りつつも蓮は密かに安堵もしていた。
キョーコと毎晩のようにマンションで会い、唇も重ねる。
が、まだその先に進む勇気が蓮にはなかった。
欲望はある。むしろそれは日に日に大きく膨らんでいる。
しかし抱きたいと思えば思うほど、無垢なキョーコを傷つけるようでひるんでしまい、
結局いつも紳士的に車で送って笑顔で別れる。
正直蓮はどうしていいのかわからなくなっていた。
(まるでガキだな、俺。…きっかけ、か…)
確かにきっかけ、が必要なのかもしれない。しかし…
「敦賀さん?」
突然顔を覗き込まれて呼びかけられ、蓮はハッとする。
「お疲れですか?昨日も遅くまでお仕事だったんでしょう?」
「…いや、疲れてないよ。ちょっと考え事をしてただけだよ。君と初めて会った場所を思い出してた」
それは嘘ではなかった。
別荘のあるこの場所は、あの日のあの場所にどこか似ている。
そしてこの場所に立つキョーコもまた…あの日のままに蓮には映った。
「私もです!コーンの森を思い出します!あ、コーンの森って…私が勝手にそう名づけてたんです」
頬を桜色に染めて微笑むキョーコ。
…しまった、こんな静かな森で散歩になんか誘うんじゃなかった…
蓮はキョーコの笑顔に慌てて目を逸らしきびすを返す。
「…そろそろ帰ろうか」
「え…??」
キョーコは不安そうに慌ててついてくる。
「あの…私なにか、不快にさせましたか?」
「違うよ、とんでもない」
ただ、勢いで押し倒したりしたくない、だけ。
「でも…」
「ほんとだよ、ごめん、気にしないで」
にっこり笑ってキョーコの手を取って引く。
キョーコはほっと安堵のため息をついてまた満面の笑みで返してきた。
「あの、じゃあ、お願いがあるんですけど」
「なに?」
「社長さんに伺ったんです。この先に、すごく綺麗な滝があるって。
ちょっと奥にあって歩かなきゃいけないらしいんですけど…ダメ…ですか?」
「………いいよ、君が行きたいなら…行こうか」
(あの上目遣いでおねだりされたら拒否できるわけないだろう!
この子本当に完全に天然でやってるのか?まあ間違いなく計算はありえないが…)
「まったく君は…」
「え?」
「…いや、なんでもない」
「敦賀さん、さっきから変ですよ」
くすくす笑いながら腕に寄り添ってくるキョーコに蓮の頬も緩む。
「うん、まあ、変かもしれないな」
「なんですか、それ?おかしな人です」
「キョーコ、楽しそうだね」
「楽しいですよ、敦賀さんとこんな風にふたりで外を歩けて、しかもそれがこんな素敵なところで。
社長さんに感謝しなくちゃいけませんね。後でもう一度、お礼言います」
なるほど、きっかけ、にはなりそうにないが、確かに社長には感謝しなきゃな。
いつしかキョーコの上機嫌が伝染し、蓮は暖かい気持ちで歩を進めた。
1時間後、ふたりは小屋にいた。
突然の激しい雨に打たれ、とりあえず近くにあった小さな小屋に飛び込んだのだ。
「ひどい雨だな…寒くない?わけないよね、困ったな…風邪でもひいたら大変だ」
「いえ、大丈夫です。こう見えて丈夫ですから」
「なんだか楽しそうだね」
「そうですか?」
無防備に笑顔を向けてくるキョーコに蓮の胸が弾む。
頭から足先までびしょびしょに濡れ、服からは水を滴り落ち、ぴったりくっついて身体の線が露出している。
蓮は慌てて目を逸らし、窓から外を伺った。
「止みそうにないね…仕方ないな、しばらく…天気が落ち着くまでここで過ごそう」
蓮は自分を戒めるように窓の外を凝視していたが、キョーコは蓮の背中に抱きついてきた。
「敦賀さん…」
両腕を前まで絡め、しっかりと抱きついてくる。
さっきの扇情的なキョーコの姿が目に焼きついて離れない蓮にはあまりに刺激的な温もり。
心臓が跳ね上がり、自分の背中が熱くなるのを感じる。
「……寒い?…まだ止みそうにないし、俺が走って帰って…
…着替えや毛布なんかを持ってきたほうが早いかもしれないな。そのほうが---」
「違います」
遮ったキョーコの口調が先ほどまでとは別人のように強いのに蓮は驚いた。
キョーコの腕を解いて振り返ろうとするが、キョーコは強くしがみついて離さない。
「どうした?」
「…敦賀さん…私…心の準備はできてます。ですから…」
「なにを…いったい何の話を…」
「ごまかさないでください」
キョーコは蓮の前に回りまっすぐな目で見上げる。
雨はますます勢いを増して屋根を打つ。
キョーコは激しい雨の音にかぶせるように必死に叫んだ。
「敦賀さん、いつも…いつもこういう時になると目をそらしてます!
キスだって…長くなると慌てたように止めたり…私がくっつくと離れたり…!
敦賀さんが大事に思ってくださってるのはわかってます。
でも…でも、もう私、待てません!」
蓮はすべて気付かれていたことに愕然とし、同時に待てないと迫るキョーコの目に迷いがないことを見て動揺する。
そして血が逆流しているかのように身体が熱くなっていく。
どこかに逃げてしまいそうな理性をなんとか引き寄せようと心はもがく。
「…キョーコ……」
「お願いです…抱いてください」
キョーコの懇願に蓮の理性はもろくも飛び散った。
濡れて肌にまとわりついた服を夢中で脱がせる。
自分で請うたことながら、蓮のあまりの激しさにキョーコはわずかに戸惑う。
「つ、敦賀さん…そんなに急がなくても…私逃げません…」
「俺ももう待てない」
自らの服も脱ぎ捨て戸惑うキョーコを強く押し倒し、そのままの勢いで濡れた胸にしゃぶりつく。
「あっ…や…やだ敦賀…さ、ん…やさしく…してくださいっ」
「ごめん…そんなの無理だ。ずっと欲しかった」
乳首に軽く歯を立てて苛める。
驚きの混じった声をあげるキョーコを見上げ、反応を伺いながら、舌、歯、と快楽と痛みを交互に与えていく。
「すべて…痛みも、快感も、教えてあげるから、覚悟して…拒否はできないよ」
「ぁあっ!ん…っや、やぁ…つ、るがさぁ…!」
雨の音に混じってキョーコは大きく喘ぎ始める。
その感度の良さに蓮の興奮は高まり、もう抑えは効かなくなっていた。
茂みの下にある突起に手を伸ばし、くるくると指で回しながら耳元で囁く。
「ここ、なんていうか知ってる?」
「ゃあん…しら…知らないっ…!」
「ふーん、ほんとかな。美味しいんだよ、すごく」
蓮は身を下げて指から舌へと愛撫を変える。
舌の先で軽く転がし、そしていきなり強く吸い上げるとキョーコはあっさりイってしまった。
「ああっ!!」
「そう、いい反応だ…でもまだ…」
その後も蕾を舌と指で執拗に愛撫し、蓮は何度もキョーコをイかせた。
次第にキョーコも我を忘れ、初めてとは思えないほどに乱れ始める。
その様子を頃合とみた蓮は、身を返して自分の上に跨らせた。
「入れてごらん」
はぁはぁと息を荒げながら、キョーコは戸惑いの表情を浮かべる。
「で…でもぉ…」
「欲しくないならいいんだよ」
蓮は観察するようにキョーコを眺めて楽しんでいる。
その眼に促されるように、キョーコはそそり立った杭に自らをゆっくり沈めていった。
「んっ…ぅんっ…ぁん…っ…そんなに…見ないでください…っ」
「いい眺めだよ。…全部入ったね。次はどうしたい?」
キョーコは頬を赤らめしばらく黙ってじっとしていたが、
恥ずかしさに顔を逸らせたまま、ゆっくりと腰を動かし始めた。
「ん、んんっ、あ、あんっ…!わ、わかん、ない…っ」
「上手だよ、キョーコ。…すごく締まってて気持ちいい。でも---」
蓮は床につけていたキョーコの両膝をぐいと立て、M字に大きく開かせた。
いきなりの体勢にバランスを取れず、キョーコは両手を後ろに付く。
「このほうが、繋がっているところがよく見える」
「やっ!い、いやぁっ…見ないでぇ…っ」
「いやらしいね、キョーコ。俺のを奥まで咥え込んで…汁が溢れて垂れてるよ。ここも膨らんでる」
蓮は繋がった少し上で大きくなった蕾を指でこすりあげる。
反応良く声をあげる様子を見ながら腰を突き上げると、
キョーコはますます高く啼きながら、蓮の動きに合わせて跳ねるように腰を動かし始めた。
「あ、あん、ん!んー!や、やだっ、つるが…さんっ!」
必死に伸ばしてくる腕を引き寄せ強く抱きしめた。
キョーコは首にすがりつき耳元で喘ぐ。
「ん、ん、あ、ああっ、や、イヤっ、ん!あんっ」
突き上げるリズムに合わせて可愛く上がるキョーコの声に、愛しさともどかしさが募る。
蓮は貫いたまま立ち上がり、壁に押し付けながら激しく突き上げを始める。
「ぁあっ!や、だ、だめっ!こ、こんな…のっ!んっ、や、つる…が、さんっ!
やだ、こわ、怖いっ…、んっ!あ、ゃあっ、また、き、きちゃうっ…っ!」
「…っ…キョーコそんなに…っ…締めちゃ、だめだよ…っ…俺まで…」
「んんっ、だ、だって…あ、ああっ!だ、めぇ…ん、あ、ゃっ、あ、ああっ、ぁあ!ぁああああっ…!!!」
ビクビクと締め付けながら、蓮の首にしがみついたままキョーコは脱力し、そこで意識は白く飛んだ。
雨が上がりふたりで別荘に戻ると、
心配していたののか、社長、社、マリアが外で待っていた。
姿を見たマリアは慌てて走ってくる。
「おねえさまっ!!蓮さまも!心配したの、すごい雨だったし、なかなか戻ってこないから…!」
「ごめんよマリアちゃん、滝の近くに小屋があったから、そこで雨宿りしてたんだ」
「まあそうだったの…お姉さま、まだ服が少し濡れてらっしゃるわ、着替えないと」
「あ、うん、ありがとうマリアちゃん」
マリアはキョーコの手を引いて別荘の中へと連れて行く。
「でも長い雨だったでしょう?何をなさっていたの?」
「え?……あ、いや、何って…だ、だから雨宿り…」
キョーコはみるみるうちに顔を赤く染めていく。
その様子を見た社は蓮を見やりながらニヤニヤして言う。
「マリアちゃん、あとで俺がゆっくり教えてあげるよ」
「や、やだ社さんっ!何を言うんですかっ!」
「あれ、キョーコちゃん、何か言っちゃいけないようなことでもしてたの?」
とぼける社にキョーコはますます真っ赤になる。
「っ…!!な、なにも…!…わ、私…着替えてきますっ」
しれっと反対を向いている蓮に、黙ってキョーコのやりとりを見ていたローリィが囁く。
「ほらな、きっかけ、だよきっかけ」
「…社長…あなたどこまで計算してたんですか?」
「なんの話だ?俺は向こうに綺麗な滝がある、って教えただけだぞ」
「どうだか…」
まったくこの人は…まさか天気まで予測して言ったんじゃないのか?
疑いは晴れぬまま、結局社長の計画通りになっているような気がしてならない蓮であった。