先発隊と合流した軽井沢で、無事に撮影を終えた一日目。  
蓮はキョーコにまとわりつくストーカーが、その姿を片鱗でも見せやしないかと気を張りながら、撮影に  
のぞんでいた。帰りの車の中では普段以上に疲れが出ていた。腕を回し、こきこきと拳を鳴らす姿に、  
通りすがりの老夫婦がぎょっとしてみせた。明日まで軽井沢ロケは続く。慣れない土地で少女を  
守るため、まだ見ぬ敵と闘わなければならない。  
だからホテルのフロントで、「当ホテルには温泉施設が整っておりますので、きっと疲れもとれますよ。  
ごゆっくりおくつろぎください」と営業スマイルで勧められた話に聞き入ってしまっていた。  
いつもなら個室のシャワーで済ませ、他の宿泊客の迷惑にならないようにしているのだが、不破尚などの  
諸々の問題もあり、どうにか肉体だけでもすっきりとさせておきたかった。  
「本日はダークムーンご一行様以外にはお客様もあまりいらっしゃいませんので、真夜中でしたら誰もいないかと」  
ホテルマンの最後の言葉で行ってみようかと決めた。  
 
 
他の男性共演者やスタッフが外へ豪遊しにいくと連れ立っていく姿を横目に、夜道は怖いからとホテルに  
戻りますねというキョーコの後ろをさりげなく陣取り、蓮も女性共演者と同じ帰路についた。  
女性陣にどうせなら一緒に夕食をと誘われたが、笑顔で断る。  
「減量をしているので。申し訳ないんですが」  
「ああ。それで他の皆さんとご一緒じゃなかったのね」  
ストーカー対策のためとは表立っては言えないため、さらににっこりと頷く。  
キョーコは心配そうに、部屋に戻ろうとする蓮を見つめてくる。  
「敦賀さん。大丈夫、ですか? 食べないだなんてだめですよ、倒れちゃいます。一緒に行きましょう?」  
百瀬逸美も、キョーコにつられて蓮の表情を窺っているというのに、  
蓮は気を抜いていて、つい少女へ向けて愛おしげに微笑みかけてしまう。  
「ああ、大丈夫だよ。少しはお腹に入れるから。じゃあ、皆さん。また明日の撮影で」  
手を振り合い、自室にこもると、笑顔も消えた。  
社が頼んでくれたルームサービスも口をつけただけで終えてしまった。  
「ダメだな、こんなんじゃ。今なら不破どころか変質者にも簡単にやられるな」  
ウイスキーを片手に、一人ごちる。  
「あいつは何も考えずに躊躇いもせずに彼女を守ったっていうのに……俺は」  
ぼんやりと天井を見ているうちに時間は経過していた。  
そして、ふと夜中の一時だと気がつき、温泉のことを思い出した。  
 
 
男湯の暖簾をくぐると、一組のスリッパを見つけた。  
(まあ。一人ぐらいなら、騒がれもしないだろう)  
蓮は服を脱ぎ捨て、タオルを腰に巻きつけた。一度地方ロケの鄙びた温泉宿で、浴室で子供に鉢合わせ、  
「すっげー」などと下半身をあまりにじろじろと見られて居たたまれなくなった経緯がある。  
「まさか子供一人で、温泉には入らないだろうけど」  
脱衣室から浴室へ通じるドアを開けると、思った以上に湯気がこもっていた。換気が悪いのだろうか。  
湯船に先客がつかっている。黒いショートカットの、線の細い少年がいた。  
一度目を眇めるが、共演者ではないなと判断してシャワーを浴びようと踵を返したところ、声を掛けられた。  
「も、も、もしかしてもしかしなくても、つ、敦賀さんですか!?」  
甲高い声が浴室にこだまする。  
蓮は聞き間違えるはずのない声に、再び浴槽に目を向け、その場で固まった。  
「最上、さん? なん、で」  
頭に白いタオルをのせた少女が、半透明な湯の中に身を沈めていた。  
揺らめくお湯の中で、彼女の細長い四肢ばかりか、胸の膨らみや細いくびれ、  
それに続く柔らかそうな茂みまでがのぞいて見えた。  
蓮は咄嗟に水滴が落ちてくる天井に目を逸らしたが、見てしまったものを脳裏から消すことは難しかった。  
甘い誘惑に、くらくらする。  
「ど、どどどうしてここに?! こここ、ここってもしかしたら混浴でしたかっ?!」  
動揺する彼女を前に、蓮は顔を背けて首を振る。  
「いや。男湯だったよ。フロントで聞いた話だと、ここのホテルは時間ごとに男湯と女湯を入れ替えている  
っていうことだから、最上さんは入れ違いで入ってしまったんだね。確認もせずに入れ替えるなんて  
ホテルの人に後でたっぷりと文句を言わないと」  
(本当に。俺ではなくて他の男が彼女の入浴シーンを目撃していたのなら、文句だけではすませるつもりは  
なかったけどね)  
淡々と話す蓮に、キョーコの顔は青ざめていった。  
 
(つ、敦賀さん、お、怒っている? そ、そうよね。私ってば先輩に疲れさせるようなことばかりしている  
んだもの。しかも私、敦賀さんに対して今セクハラしていることになるんじゃあ……だから呆れて……、  
た、大変だわ! とにかくここを出なきゃ。先輩を温泉に入れず、立たせているなんて噴飯ものよ!)  
「す、すみません! い、今出ます!」  
慌ててキョーコが立ち上がると、蓮は目を丸くした。  
「ちょっ、最上さん!」  
蓮の制止も聞かず、キョーコはタオルで隠すこともせず、湯船から飛び出た。  
お湯の中で見えていたものよりも、生々しい彼女の裸体が現れて、蓮の立ちくらみがひどくなった。  
小さな胸が反動で揺れ動き、熱で桜色に染まった身体を細い腕で自ら抱きすくめている姿が  
蓮の劣情を呼び起こす。  
ため息をつき、少女に近付く。キョーコの身体から水滴がぽたぽたと滴り落ちていた。  
「君、今自分がどんな格好をしているのか分かっているの?」  
抱き寄せたいと伸ばした手に力を込め、むしゃぶりつきたいと思うその身体を強張る両手で湯船の中へ戻した。  
「頼むから、俺を先輩だからとかといって、そんなに畏まってくれないで欲しいんだけど」  
(……ついでに無防備な表情や格好も控えて欲しいところだね。自覚はないんだろうから性質が悪い)  
蓮は、辛うじて残った理性でキョーコに話しかけていた。  
「まず俺が一旦ここを出て着替えて外に出て見張っているから、その間に君が着替えて出て行くんだよ?」  
「そんな、私一人で出て行きますから、敦賀さんはそのままここに」  
「君が着替えている間に他の男が来たらどうするんだ。俺だったら間違いなく襲っているね」  
苛立ちを含んだ声に、キョーコは首を竦めた。  
「……それとも俺に襲って欲しいの?」  
ようやく我に返った少女は、真っ赤になり自分の頭にのせたタオルを下ろして、身体の前面にまとった。  
「ごめんなさい……敦賀さん、その、お願いできますか?」  
(君を襲えと?)  
ぼんやりとした頭で馬鹿なことを思い浮かべてしまったと、蓮は自嘲する。  
 
「じゃあ、最上さんは俺がいいというまでお風呂の中にいるんだよ」  
蓮の指示通りに動こうとした矢先、脱衣室から賑やかな声が聞こえたかと思うやいなや、  
浴室へぞろぞろと数人の足音がやってきた。  
「お。やっぱり誰かいるぜ?」  
酔客か、声が高く、若者らしい。  
蓮はキョーコを抱き上げ、隣の狭いジャグジー風呂へ飛び込んでいた。  
「つ、敦賀さん?」  
「しっ」  
この場からキョーコを逃がそうと思えば、出来た。浴場を間違えたと言い訳でもしながら、  
酔客とすれ違いに彼女を抱えて脱衣室へ駆け込めばいいのだろうが、  
一瞬でも少女の可愛らしい裸を、他の男の目に触れさせたくはなかった。だから躊躇した。  
「いいから俺の後ろに隠れておいで」  
キョーコは蓮の言う通りに、彼の広い背中に身を寄せた。  
「でっけー風呂だなぁ」  
「露天もあるぜ?」  
「けっ、混浴はないのかよー色気もねーなー」  
蓮は、真夜中には他の客もいないだろうというホテルマンの言葉を恨んだ。  
(一人ならまだしも三人か)  
しかも相手は、蓮が微笑んでキョーコの存在が見えなくなってくれるような女性ではない。  
物わかりのいいタイプでもなさそうで、したたか酔っている。  
(黙って、立ち去るまでここにいるか)  
無難な考えが浮かんだが、相手によって計画は崩された。  
「お、こんちはー。なんだ、そこにいたのー? オレら煩くてごめんねー」  
「あははは、あれー、えー、見たことある顔だなー、会ったことありますかー? おにーさーん」  
「って、うおっ、すげ。敦賀蓮じゃん」  
蓮はプライベートの時間まで、ファンサービス(ファンとも呼べないが)をするつもりはなかったが、  
紳士スマイルで対応した。  
「こんばんは」  
「なになに、ドラマの撮影ですかー」  
「あ、ダークムーンの? じゃあこのホテルに百瀬逸美ちゃんもいるんじゃ?」  
「うわ、会いてー、貰えるんじゃねぇ? サインとかさー、握手とかさー」  
「ね? 後ろにいる人ももしかして芸能人? 誰誰、握手握手」  
 
キョーコはぎくりと肩を竦めた。  
(ばばば、バレたら私ばかりじゃなくて、敦賀さんはじめドラマに影響がっ! 怖い!)  
顔を見られないよう、蓮の背中に額をくっつける。  
濡れた前髪が蓮の肌を撫でた。  
「なにー? 恥ずかしがりやさん?」  
「あの、この子は芸能人ではなくて、マネージャーの甥っ子なので、そっとしておいてくれませんか?」  
「えー、そーなのー? ほっせー腕だなー? 小学生?」  
(ちちちち、近付かないで〜! 泡があるとはいえ、胸見られる〜! だだだだめだめ、これ以上はー!  
ごごごごめんなさい、敦賀さんー! あとでいくらでも土下座しますから〜! 大魔王になっても耐えますから〜!  
こんな最低なことしてごめんなさいっ)  
心の中で謝りながら、キョーコは蓮の背中にピッタリと吸い付いた。  
蓮の胸板に腕を回し、肩甲骨の下に小さな胸を潰すように押し付けた。  
(な、に?)  
蓮は、目を見開き、背中に当たる柔らかな乳房とその真ん中の二つの尖りに、一瞬息が止まりそうになる。  
二つの先端が背中を微かに上下する。  
(も、最上さん、俺に悶え死ねというのか?)  
欲情をこらえようと、息が上がる。目がうつろになる。  
「くそ、なんかさっきから密着してて、怪しいなぁー。そのガキとえっちぃことしてんじゃねぇの?」  
「ひっぺ返しちまおうか?」  
「本当に人見知りが激しい子なので勘弁してくれませんか?」  
キョーコの抱擁に眩暈に陥りながらも、彼女を死守することは忘れない。  
「えー、甥っ子って言ってて女なんじゃねぇの? こんなのガキの手じゃねぇよ」  
蓮に回わした手をつねられる。キョーコはぞわりとした。  
「もしかしてスキャンダルか〜? 風呂ん中で激しくエッチしてたって証言したら、週刊誌に売れるかもよ?」  
「敦賀蓮だから、金になるかもなー。『絶倫!敦賀蓮』ってよ。面白れぇ、お前左回りこめ、オレ右な」  
蓮から自分を離しにかかる若者三人に、キョーコは涙目で怯えていた。  
「いやっ」  
(触られたくない!)  
キョーコの身体が背中にぐいぐいと押し付けられ、蓮はいっそ理性を手放そうかと考えて悩んでいたが、  
彼女の涙が肩口に落ち、しゃくり上げる声を聞いた時点で、すでに冷静であることを投げ捨てていた。  
 
「で、君たちはどんなスキャンダルがご希望なのかな?」  
にっこりと笑いながら、左右からキョーコに手を伸ばしてくる二人の男たちの手を同時に捻り上げた。  
「いででででで! ぐわ」  
「て、てめ、やんのか?」   
「やるって、何を」  
蓮の瞳が氷のように冷たく光る。  
「たとえばキスとか?」  
キョーコの顔を両手で囲い、三人には見せないようにその身体を腕の中に抱き込み、突然彼女にキスをした。  
「マスコミに売る気なら、微細に入り正確に伝えるんだよ? 事実と違ったら君たちが困ることになる」   
暴行者に背を向け、あくまでキョーコを隠しながら、口づけを続けた。  
「ぁっ、んぅっ」  
舌を絡めとられる動きに、キョーコはお湯でのぼせ上がっていたことも手伝って、すぐにぐったりとなる。  
「はぁ、ぁっ……や、つ、敦賀、さん?」  
キョーコは混乱していた。  
(ど、どうしたっていうの、これじゃあ、マスコミに何て書かれるか! で、でも敦賀さんだから  
きっと何か考えがあって、でも今、私、キ、キスして?)  
「ふぇ?」  
大きな手で顔を覆われた先に、艶やかな瞳があった。  
「もう、なんて顔をしてるんだ」  
囁く声。  
蓮は自分の平静さを取り戻そうと頭の片隅で足掻いたが、キョーコの色づいた顔にその心は崩壊していた。  
「そうやって俺を誘っていることにどうして気がつかないんだ」  
(これから君が有名になるにつれて、他の男たちが君をどんな目で見るか。俺は芸能人として  
成長していくこの子を、邪魔してしまうのではないか?)         
今目の前にいる三人の男たちにだって、決して彼女の髪の毛一本さえ見せたくはなかった。  
しかし、キョーコが快感に恥らう顔をもっともっと見たいという欲求だけは強まっていく。  
先程自分にしつこく擦りつけられた胸を、湯の中でこっそりと揉んだ。  
ぴんと勃起した桃色の乳首を捏ね回す。ぷにぷにと摘み、指の腹で丁寧になすりつけた。  
 
「なっ?……ぁっ………はぁっ……あぁ、……な、なに? はっ……ぁぁんっ」  
初めての行為に、キョーコはふるふると首を振る。  
「俺の背中でするより、イイと思うけど、どう?」  
「…何を、言っているのか、わか、りません……? やぁんっ、こんなの……破廉恥……です……ぁっ」  
湯の中に沈み込みそうになる身体を支えようと、蓮の首にしがみ付いた。  
「や…ん、ん……あっ、だめ……」  
蓮の片手が下へのび、太腿の間でさわさわと触れてくる。  
何をするの? と一瞬訝しがるキョーコに向けて目を細める蓮。  
長い指が茂みを掻き分け、花芯へと滑り込んだ。  
「……なっ?……ぁっ、……ふぁっ……ぁあっ……」  
人差し指はキョーコの入り口付近をねちねちと抜き差しする。時折肉芽をくすぐられ、身を竦めた。  
(な、に? 何なの?! これ、は?……敦賀、さ……?)  
「や、や、……ぁぁんっ」  
レイノに襲われた時の嫌悪感とは間逆の衝撃が、キョーコの中を駆け抜ける。  
「んぅ……ふぅっ……んっ、ぁっ、ぁっ」  
小声で蓮は笑った。  
「最上さん。お湯はさらさらなのに、何だか君のココはぬるぬるするね?」  
「……知り、ませんっ……そんなのぉ……」  
蓮の指が更に奥へと差し込まれる。  
「知らないなら教えてあげるよ? 君のもう一つの口が俺の指を食べたいって言ってる」  
「た、食べ…? う、うそ……ですぅ……ぃやぁっ……ぁぁんっ、あぁんっ、あっ、あっ、あっ……  
いやぁっ……、指、抜い、てぇ……変、へ、んに……なっちゃぅ……ぁはぁっ……敦賀、さんの  
食べ、食べちゃう、よぉ……ぃやぁっ」  
「ああ、我慢できないんだね。真っ赤になって最高に可愛いよ。イっていいんだよ? 最上さん。ほら」  
(い、いくって……何で、すか……ぁ、んぁ……どこ、に、いくのぉ?)  
風呂の気泡さえ身体を愛撫しているように感じられる。キョーコは蓮の指の注挿の激しさに脚を引き攣らせ、  
固く尖った乳首をきゅっと捻られると、水中でびくびくと痙攣した。  
背中を駆け上る快感にのけぞりながら、蓮の深い口づけを美味しそうに半開きとなった唇で受け入れていた。  
 
 
蓮の身体に塞がれて、甘い喘ぎ声しか聞こえず、震えるか細い腕しか見えず、相手は分からず仕舞いだったが、  
三人の若者はあきらかに敦賀蓮が『ヤッている』と確信していた。  
だが眼前で繰り広げられる二人の情事に圧倒され、お互いに目も合わせられなかった。  
「……もっとぉ…」  
キョーコがついにおねだりを始めたのを聞いて、三人は現実に引き戻された。  
「や、やっぱり女じゃねぇか」  
「ど、どこが芸能界一いい男なんだ。へ、変態か?」  
「け、ケータイ持ってこい。と、撮るぞっ」  
一斉に非難をするが、確実に動揺していた。一人が転がるように湯船から出ようとしたその時。  
「おーい。敦賀君、ああ、ここにいたんだねー」  
優しい声が蓮を呼んだ。  
「緒方監督?」  
儚げな容姿を持つ彼に、今夜ばかりはローリィに劣らぬ力強さが見えた。  
「げ、なんで女がここに」  
「いや、立派に男性なつもりですけどね」  
緒方はにこにこと笑って言ってのける。  
「はい、もう『演技テスト』は終わり。やっぱり敦賀君のラブシーンは濃厚すぎるよ。今夜のは却下だね」  
衣服を身に着けたまま、浴室へ入ってくる。  
「あ、そこの君たち。明日のエキストラさんじゃないんですか?」  
にっこりと笑い手招きする可愛らしい青年に、若者たちは呆然と魅入った。白いシャツにネクタイ  
姿だというのが惜しい。真っ平らな胸がはっきりとわかった。  
「え? 違うの? エキストラさんじゃない? じゃあ、今の内緒でお願いできませんか?  
さっきのはダークムーンの方向性とは違う『演技』だったから。ドラマには使わない。  
敦賀君の演技は本格的だから勘違いされただろうけど、少しでも誤解を持たれるのは嫌なんだ」   
「て、テスト? ダークムーンの?」  
「え、じゃ、そこにいるのは、百瀬逸美?」  
一瞬動きが止まる緒方だったが。にこにこと笑い続ける。  
「僕もこの男湯に入ろうとしたら、さっき清掃のおばさんに睨まれてね。本当、浴場を間違えるだなんて  
そんなドラマみたいな素敵な展開があるわけないじゃないですか。皆の夢だからよくある設定にはなる  
んですよね。まあ、そこにいる子が男の子でも女の子でも、あくまでもさっきのラブシーンは『ふり』  
ですから気にしないで欲しいんです。実をいうとその子、遊びに連れてきた僕の親戚の子ですから、性別を  
うっかり間違われたのかもしれないですけど」  
長々と淀みなく解説をする緒方を、若者たちは唖然と見つめていた。  
「…………あ、あんたの?」  
そこいらにいる女子高生よりも乙女で可憐な笑顔に、三人は、敦賀蓮がもしや男の子相手にラブシーンの練習を  
していたのではという不可解な事態にさえ、催眠術にかかったように疑問にも思わなくなかったようだ。  
ね? もう遅いから休んだほうがいいですよという純真な眼差しに、若者たちは簡単に騙されて出て行った。  
 
緒方は微笑んだままだったが、  
「敦賀君。中途半端なことをして、ダークムーンを潰したら恨むからね?」  
声の冷たさに 蓮は片眉上げる。  
気絶寸前のキョーコを見やり、すこし声を和らげた。  
「京子さんをお願いします。君がここに来て、一番喜んでいたのは彼女だったんですよ。  
さっきの『演技』はダークムーンでは使えないけれど、驚いた。でもドラマでも、女の子のことでも、  
何にでも本気じゃないと、僕は許しませんからね」  
二人を残して、緒方は軽井沢ロケ最終日に向けてゆっくり休むようにと立ち去った。  
その後、暖簾を戸に斜めに立てかけ錠代わりとして人の出入りを塞いだ上で、蓮はキョーコに服を着せ  
始めた。蓮が触れるたびに、キョーコが小さく吐息する。  
「……ぁっ……はぁっ……?」  
無防備な裸体に、押さえ込んでいた自身の欲情が再燃する。  
思うままにいたぶってやれる胸が呼吸の度に上下する。  
くすぐったいのか内股で脚を擦り合わせている姿には、かなり堪えた。  
この場で彼女を抱いてしまいたくなる。体中にキスをして自分のものだという印をつけたい。  
己の欲望を突き立てて、啼かせてやりたい。     
しかしまた人がやってきては、せっかくの緒方の行為が無駄になってしまう。それに。  
「俺も変質者と変わらないじゃないか」  
自分の我儘な願望にあきれ返り、無心を努め、キョーコの着替えを手早く済ませた。  
それからふんわりと抱き上げて、相部屋の百瀬逸美が眠っている部屋へと運んだが、鍵が掛かっていた。  
キョーコの持ち物に部屋の鍵は見当たらなかった。どこかで落としたのか? 単に彼女が部屋の中に忘れたのか?  
既に二時。ノックをして、中にいる百瀬逸美を起こすべきか。キョーコを起こして、彼女自身が逸美に頼んで  
ドアを開けてもらい、「おやすみなさい」と部屋へ戻るのをただ黙って見送るのか。  
どうしようかと一瞬考えたが、考えたふりをしただけで少女を連れて自分の部屋に直行していた。  
 
社を呼ぶこともせず、自分の部屋のベッドへ寝かせつけた。  
心地良さそうに、少女は布団にしがみ付いている。  
「んん……っ」  
にこぉっと笑いながら寝返りを打つキョーコに、昔の面影を見た。  
「どう考えても犯罪者の気分だな」  
そっと頭を撫でると、その手を取られて頬ずりをされた。  
「…………本当に、この子は」  
「……コーン、行かないでぇ……」  
急に目尻に涙を滲ませた彼女に、蓮は胸を鷲掴みにされた。  
「……行っちゃいやだよぉ……」  
愛おしさを抑え切れなくて、涙の跡に唇を寄せた。  
「どこにも行かないよ、キョーコちゃん」  
緒方の中途半端は許さないという台詞を思い出し、スキャンダルを恐れている彼女を自分の部屋へ再び、  
恐らくまた醜いエゴで引き込んでしまっていると嗤った。  
彼女への想いは本気だ。想いは真剣であっても、『敦賀蓮』として行動するとそれは、  
やはり曖昧なものになっているような気がする。  
「最上さん。俺の存在は君を苦しめるだけなのかもしれないな」    
苦しそうな声でつぶやくと、キョーコがぼんやりと目を開けた。  
「……つる、がさん?……あ、れ?」  
おぼろげな眼差しで周囲を見回した後、がばりと起き上がる。  
「ご、ごめんなさい!? 私また……何か」  
そして温泉でのことを思い出したのか赤面する。  
「わ、私、さっき? ……あ」  
「何をしたか、覚えてるんだ」  
疲れたように苦笑すると、キョーコが見る間に青ざめていった。  
「ご、ごめんなさい。私、私、あんなことしてごめんなさい!」  
 
「最上さん、何をそんな……俺は」  
消え入りそうに肩を小さくする少女に、蓮は苛立つ。  
自分が彼女をそのような態度にさせているのに、傲慢なこの感情に更にいらいらとした。  
真っ直ぐに伝えられない。伝えてはいけないと『敦賀蓮』が抑え込んでいるから。  
(駄目だ。彼女はここにいては駄目だ)  
「最上さん。部屋の鍵は? ポケットにもなくて、俺の部屋に連れてきたけど」  
「あ。そう言えば、ベッドの脇に置いたまま……」  
「じゃあ、フロントに行こう」  
勢い良く立ち上がる蓮を、キョーコは怯えた目で見つめる。  
「すみ、ません。また、ご迷惑をお掛けして」  
「迷惑? 何で俺が君を迷惑だなんて思わなくちゃいけないんだ」  
ベッドの中からおずおずと出てこようとするキョーコの肩口を、押さえつけていた。  
(駄目だ。やめろ)  
自分から部屋へ帰るよう促したのに、どこにも行かせたくないという思いが蓮を動かしていた。  
喉の奥が干からびていた。  
(言うな。言うな!)  
「俺は……君が、……好き、なんだ。だから」  
キョーコの目が見開く。  
(敦賀さんは、何を、言っているの?)  
「へ。あ、あ、あの、私も敦賀さんのこと好きですよ? 先輩として一番尊敬していて……あっ」  
ベッドへと腰を掛けて、キョーコを抱きしめていた。  
「君にとって、俺は単に尊敬する先輩という存在だけでしかないのか。  
俺が不破のことで怒ったのは、先輩としての感情からじゃないんだ。ひどく邪な気持ちだった」  
突然の告白に、抱擁に、キョーコは彼の腕の中で息を殺していた。  
強張るキョーコの身体に、蓮は硬く目を瞑り、腕の力を弱めた。  
「ごめん……、困らせたね。変質者のような真似をして怖がらせた」  
立とうとする蓮の袖を、キョーコは掴んだ。蓮は、首を傾げた。  
「怖く、ありません。怖くないです。ただ、びっくりして。だって敦賀さんが私なんかを  
好きだなんて、ありえない」  
「俺が嘘をついていると? どうして自分のことを『なんか』だなんて言うの」  
坊の時に聞いた想い人の話がキョーコの頭を支配していた。  
(だって好きな人がいるって……女子高生って……そんな、まさか、私?)  
自惚れたくはないと、傷つきたくはないとまだ濡れていた頭を振る。  
「ひどいな。そんな力いっぱい拒絶しなくても。もう、君を束縛するようなことはしないから」  
 
蓮は力なく笑い、キョーコの頭をぽんぽんと叩いた。  
「さあ、部屋まで送っていくよ。明日も、というかもう今日か、撮影があるんだからね」  
「ちが、……いやっ」  
蓮の胸に頬を埋めていた。それは無意識の行動だった。  
「帰らない、帰りたくない、……嫌わないで」  
少女の哀願に、蓮は自制が効かなくなりそうだった。  
「君が俺を男として見てくれないからといって、嫌ったりしない。大丈夫だから」  
(しばらくは『敦賀蓮』として対応するしかないんだろうが)  
ちりちりと痛む胸に、蓮は唇を噛み締めた。  
「私、図々しいとはわかっています。でも私、怖い。敦賀さんに、いない存在として扱われるんじゃ  
ないかって、いえ、それが普通なんです、私の我儘だから。でも、でも」  
「最上さんはちゃんとここにいるじゃないか。いいから、部屋へ戻ろう。混乱させてすまなかった」  
それでも必死にしがみ付いて離れない少女の顔を、蓮は冷徹な目で仰向けさせた。  
「頼むから。これ以上俺の側にいると、ひどい目に合うんだよ? こうやって」  
一度着せた服をはだけさせる。ブラウスのボタンを一つ一つ外していく。  
「君から見たら、好きでも何でもない俺にこんなことをされて、嫌悪感だらけだろう?  
結局、俺もレイノという男と変わりがないんだ」  
蓮の指先が小さな胸の谷間を擦り上げるだけで、キョーコの心臓は跳ね上がった。  
ドキドキとして、あろうことかもっと触って欲しいと願った。  
「嫌じゃ、……なかった」  
「え?」  
蓮の動きが止まった。  
「お風呂の中でも、私、嫌じゃなかった、です。敦賀さんに、されて……その」  
蓮に愛撫をされている間、彼が与える快感に溺れていた。  
尚のことは頭にも過ぎらなかった。多分あの時、レイノに襲われて思い浮かべてしまったのは、回避のため。  
沖縄にいる蓮に助けを求めても、来るはずがない、また叶わぬ想いに傷つけられると心の奥底で恐れていたため。  
「私、好きだと言っていいんですか?」  
「最上、さん?」  
蓮の手の甲に、小さな唇で口づけた。  
「あなたのことを、好きだと言ってもいいんですか? 私のこと本当にまだ、好きでいてくれますか?」  
キョーコの瞳に涙が盛り上がった。  
「好きです、好きなんです。知らなかった、私あなたのことが好き……どうしよう」  
どうしようどうしようと蹲ろうとする少女を、蓮は力の限り抱き寄せた。  
「今更撤回しても、遅いからね」  
息を吐き出すようにして宣言し、蓮は、キョーコをベッドの上へ押し倒していた。  
 
「悪いけど、俺止められないから」  
フロントホックのブラを外して、震える柔らかな胸に舌を這わせた。  
「君の身体全部に、俺が君を好きだということを教え込んであげる」  
またキスを、柔肌へ少しずつ落としていく。  
喘ぐ唇を舌全体で塞ぐと、キョーコは息苦しそうにしたが、蓮の肩に手をやり自分に引き寄せて応えた。  
「んぅ……はぁっ、…が、さん」  
ねっとりとしたキスをした後、鎖骨を、肩を、乳房を小さく吸い上げ、しこった乳首をねぶり上げる。  
「……ぁあっ?! はぁっん……」  
「ココが気に入ったんだね?」  
しつこく舌で突き、ちゅうっとしゃぶる。キョーコは小さく震え、蓮のシャツを握り締めた。  
「はぁっ……んぁっ、いぁ……っ、……ぁあんっ」  
素直に反応するキョーコの胸を楽しみながら、ショーツをずり下ろした茂みの中へ片手を伸ばし、  
花芯をほぐしにかかる。すでに愛液で溢れていて、蓮は目を細めた。  
はじめは撫でるようにしていたが、第一関節、第二関節と挿し入れし、いたずらに肉芽を摘み上げる。  
キョーコは胸を唇でまさぐられ、背中を左手で何度も擦られ、大事な秘処を右手で犯されて、  
三ヶ所に散らばる快感に翻弄されていた。  
「……い、や……、おかしく、なっちゃうぅ……」  
「まだだよ。もっともっと乱れてもらうから」  
蓮の瞳に宿る色香に、キョーコは胸が苦しくなった。  
(『美月』を見る時の目だ……)  
 
ふいに蓮の顔がキョーコの胸から離れた。  
「え?」  
まだまだとはっきり告げられたのにと、キョーコは不安になった。  
(私の裸って……やっぱり魅力、ない? む、胸小さいし)  
キョーコの曇った顔に、蓮は微笑みかけた。  
「こんなに美味しそうな身体を前にしてやめられるわけがないだろう? 自分が今どんなに色っぽい表情を  
しているか、本当に分かっていないのか? 無自覚すぎるよ、君は。でも今夜は誰にも見せられない  
君を、俺だけに見せて? ほら、最上さん。これから自分で胸を可愛がるんだよ?」  
「へ? あ?……自分で?」  
蓮の背中に回していた両腕を解かれ、キスマークの散った自らの胸に両手をのせられる。  
「もう、自分のイイところ、わかっただろう? 俺が教えてあげて良かったところを好きに   
弄ってごらん? 激しいのがいいのか、じっくりとされるのがいいのか、俺も知りたい」  
そう言うなり、蓮はキョーコの下半身に頭を下げ、ぬらぬらと濡れそぼった花芯を啜った。  
「ぁっ、……そ、んな……とこ」  
「君の身体中に教えてあげるって言っただろう?」  
吹きかけられる息にさえ、キョーコは身を竦めた。  
ディープキスをするように下の口に舌を差し込まれると、内股で彼の頭を挟み込んでしまう。  
「俺の言うとおり、胸をいたぶって楽しむんだよ。俺がこれから時間をかけて大きくしてあげるから」  
「大きく……って」  
蓮の言葉に誘導されて、キョーコは自分の乳房を両手で持ち上げた。手の内に収まる大きさを  
恥ずかしながら、揉みしだく。  
 
「ぁっ……やぁっ……」  
蓮の舌の動きに合わせて、キョーコは乳房を回した。  
花芯をじゅるじゅると吸い付かれる。彼が自分の愛液を飲み込んでいると知って頭を振った。  
「だめ、だめぇ……やぁっ」  
両手で自分の下にある彼の頭を押しのけようとする。  
「最上さん。手が動いてないよ」  
くすりと笑われ、キョーコは目を伏せる。  
「だって、敦賀さんが、破廉恥で……どう、…あっ…したら……はぁっ、いいか……んっ」  
「お願い。してみせて? 君は乳首が好きみたいだったから」  
蓮の美しい瞳に促され、キョーコはそっと自らの胸の尖りに指を添えた。人差し指と親指で  
摘む。お湯の中で蓮が捏ね回したように、思い出し思い出し同じ動きを辿る。  
蓮はキョーコが胸への自慰を再開したことを確認して、彼女の割れ目へ舌を滑らせた。  
じっくりと割れ目の中をねぶられて、キョーコは小刻みに震えていた。  
蓮の淫らな行為から目を逸らしたいからか、快感を追い求め始めたのか、  
乳首をくりくりと回し始める。  
キョーコの愛液はとどまることを知らなかった。蓮はわざと音を立ててちゅくちゅくと少女の  
秘処を攻め続ける。  
「……ぁあっ、い、ぁ……もっと、もっと、強く、……してぇ……!」  
「ああ、イキそうなんだね? 最上さん」  
「い、いくって……? ど、こ……?」  
その言葉に本当に彼女はうぶであると知って、蓮は堪らなくなって彼女の胸へ手を伸ばした。  
「本当に可愛いんだから。こういうことだよ?」  
キョーコが胸の先端を相変わらずくりくりと弄っていた手を押しのけ、それを思いっきり引っ張り、  
長い指を根元までキョーコの奥へと突っ込んでいた。  
 
うつろな瞳で天井を見上げた少女は、蓮が彼自身にコンドームを手早くつけているのを横目で  
眺めていた。  
「今度は、大分きついかもしれないよ? 君が欲しいんだ」  
キョーコはこくりと頷いた。これからすることは今までの前戯で、予想はついていた。  
「敦賀さんはまだ『イってない』んですね?」  
蓮は嬉しそうに笑った。  
「うん。これから君にイカせてもらうから」  
キョーコは真っ赤になると同時に、心細げに瞳を揺らした。  
「私、敦賀さんみたいに、何にも知らないですし、……敦賀さんがっかりしたらどうしよう」  
「君に失望だって? 俺のベッドにいるだけで夢のような気分なのに。それに  
今夜は俺が教えるって言っただろう」  
蓮はすでに柔らかくなっている花芯を再び指で愛撫した。  
キョーコは先程の快楽を思い起こしたかのように、すぐに吐息を漏らす。  
「……ぁっ、はぁっ、ぁあっ……んっ……」  
蓮の指はキョーコを愛でていてくれるのに、あまりに緩やかなその動きにキョーコはもどかしげに首を振った。  
襞を撫でて、入り口を軽く引っかく程度の優しい愛撫。  
「足りない?」  
蓮はキョーコが腰をくねらす淫媚なさまに、声を上ずらせた。  
キョーコは答えず、蓮の指にただ腰を押し付けてくる。くちゅくちゅと自分で内の感じるところを探そうとしている。  
そのまま彼女の淫乱な面を見続けてもいたかったが、惜しいという思いを捨てて指を引き抜いた。  
 
「え……敦賀さん?」  
キョーコは蓮の指を引き止めようと、ひくつく花芯で締めつけようとした。  
蓮は目を細め、キョーコに口付ける。  
「待ってて。今あげるから」  
反り返った自身を、彼女の愛液で溢れかえった処へ挿れ始める。  
指とは違った脈打つソレに、キョーコは唇を噛み締めた。  
「痛い?」  
少しずつ半分まで進んだところで、蓮はキョーコの表情を窺った。  
「すこ、し……でも、大丈夫、です」  
蓮は痛みを和らげようと、唇でキョーコの肌に吸い付き、舐め上げる。  
蓮の小さな心遣いにキョーコの胸がきゅんと高鳴る。  
「ん、すごい、……締めつけてくる……最上さんは食いしん坊なんだね」  
「そ、そんなこと、……言わないで……ぁっ」  
会話で気を逸らしながら、蓮はキョーコの奥へ奥へと身を沈めていく。  
「んぅ……っ、ぁあっ……いぁ……っ」  
ついに蓮自身を全て受け入れたキョーコは、眉を顰めていた。  
支配される圧迫感に、声も出ない。  
蓮はいきなり動くことはせずに、彼女の苦痛を悦楽に変えようと、臍から胸へと何度も撫で上げる。  
「んふぅ…」  
「最上さん? 俺は、今君の中で必死に絡みつかれて、気絶したいぐらいなんだけど、君は、どう?」  
「……敦賀さんのが、私の中でドクドク暴れてて……恥ずかしい……で、も、私、幸せかも……」  
彼と一つになっているのだという実感で満たされていた。  
「じゃあ、もっと激しくするよ?」  
蓮はほんの少し腰を揺らした。  
「あっ、んぅ……」  
何度かの注挿で、キョーコの股から破瓜の印が流れ落ちた。  
それをすくい取って、唇に寄せた。  
「ああ、最上さんの処女を貰ってしまったね……後悔なんてしてない?」  
「そんな、してませんっ…だって……私は、あなたしか欲しくない。お願い。あなたをください。  
早く、あなただけしか考えられないようにして?」  
 
最後まで優しくしようと決めていたのに、キョーコの一言が蓮の劣情に火をつけた。  
「ぁああっ、んぅ……」  
蓮の突然の腰の動きに、呻いてしまう。  
箍の外れた青年は、少女のよがり声を求めて、M字に脚を広げさせたその真ん中へ何度も楔を打ち付ける。  
キョーコは、蓮の背中に爪を立てた。  
「…い、……いやぁ……っ、あっ、あっ……こんな……やぁっ……」  
「ごめん、……最上さん、んっ、……止まれない……君の、誘惑に、俺が……勝てるわけ、ない、だろ」  
餓えた獣のように、蓮は少女の肉壁の上を下をと勢い良く攻めた。  
狂ったようなセックスに震えながらも、キョーコは蓮を掻き抱く。  
自分をこうまで欲していてくれていると思うと、苦痛ではない何かが胸の中で生まれていた。  
「……ぁんっ、ぁんっ……敦賀、さ、ん……気持ち、イイ……の? …んぅ……ぁっ」  
「ん、最高に……イイ、よ……最上さん……とずっと、君の中で、こうしていたい……んっ、  
また絡みついて、くる……なんて子だ……」  
蓮の恍惚とした表情が嬉しくて、キョーコは彼の胸へキスをする。  
「……そんなの、どこで、覚えた、の? 悪い子だね」  
蓮はにやりと笑ってスピードを緩め、繋がったまま、キョーコを抱き起こした。  
青年の膝の上で向かい合うように座り、続けざま下から突き上げれる。  
「俺ばっかり楽しんだんじゃ、君にイイ思い出が残らないだろ? ほら俺と一緒に動いて?」  
一つ突き上げて、キョーコの反応を待つ。  
「敦賀さんと一緒に……?」  
また一つ突き上げられて、キョーコは彼に合わせて腰を上下に動かした。  
 
「最上さん、……ん、……本当に、初めてなの?」  
蓮の律動に同調して腰を揺らすタイミングが、絶妙だった。腰をくねらす度に、小さな口で  
蓮自身に食いついたり離したり、翻弄されっぱなしであった。  
キョーコは何を言われているのか判っていないらしく、蓮にしがみ付いて、腰を振る。  
「意地悪、意地悪……あぁっ、……はぁっん、……きて、きてぇ…一緒にいくぅ、のぉ……」  
駄々っ子のように振舞う少女にすでに、苦痛の色はなかった。  
我儘な彼女を初めて見て、蓮の悦びは高まった。  
「そういうことは、俺以外に言うんじゃないよ。君の我儘は全部叶えてあげるから」  
キョーコを四つんばいにさせ、後ろから一気に貫いた。  
肌が打ち付けられる音が部屋中に響き渡る。獣のように少女の身体を貪り続ける。  
「ぁあっん……はぁっっああっ……ぁあっ……んぁっ……あぁっ……だ、めぇ…イイっ……イイよぉ……っ、  
い、イくぅ……イっちゃうよぉ……!! もぉ、待て、ない……我慢、できないよぉ……  
つる、がさん……が、さん!……き、てぇ、早く、きてぇ! ……激しくしてぇ…!」  
「イくことを覚えたんだね」  
蓮は小さく笑い、インサートの動きを早くする。  
突き上げるたびに、キョーコの胸が揺れ、彼女の嬌声がかすれていく。  
「どう? もっと奥がイイ?」  
「あっ、あっ、あっ、…ぁあんっ、きちゃぅ……きちゃぅっ、きちゃうよぉ…ぁはぁっ  
……んぁ、いぁぁっ!! イイっ! だ、めぇぇぇ!」  
自身を震わせると同時に、蓮はキョーコの好きな乳首をここぞとばかりにつねり上げた。  
 
カーテンの隙間からもれた朝日で、キョーコは目を覚ました。  
「……あれ?」  
逸美と並んでもう一つベッドがあるはずなのに、彼女の姿がない。  
「えっと……」  
肩口に掛けられた重い物体に首を傾げる。男の腕だ。そして背中に吹きかけられる寝息。  
「!」  
驚きにベッドから飛び降りようとするのを耐えて、ゆっくりと振り向く。  
蓮が安心しきった寝顔を見せていた。  
「う、うそ……あ、あれは、ゆ、夢じゃなかったの? どう、しよう私、どんな顔して」  
身体中に残る甘い咬み跡、残滓、気だるさが、蓮との行為が現実だったと物語っている。  
「……お、落ち着け、落ち着くのよキョーコ。まず着替えて、敦賀さんの部屋を片付けて、  
こっそりここを出て、普段と変わらないように撮影現場へ……ひっ!」  
「……何を画策しているのかな?」  
神々スマイルではなく紳士スマイルの蓮と目が合って、キョーコはベッドの端に退いた。  
「お、おはようございます」  
「おはよう」  
習慣で挨拶を交わしたが、何を話せばいいのか、キョーコはうろうろとした。  
「やっぱり後悔したんだね?」  
蓮の笑顔が消えたのを見て、キョーコは首を振る。  
「こ、後悔なんてしてません。昨夜も……その、言いました。でも、こんなこと世間に知られたら  
敦賀さんの立場が」  
「いや、俺の立場はどうにでもなるけど、最上さんの立場を考慮してなかったね。ごめん」  
「そろそろ百瀬さんも起き出して、私戻らないと」  
ベッドから抜け出そうとするキョーコを蓮は、引っ張り込んだ。  
「なっ?!」  
 
「またしたくなった」  
「も、もう朝の五時ですよ! こんな朝から、しかも百瀬さんに心配かけて、だめっ!」  
腕の中で暴れるが、蓮はさらに強く抱きしめる。  
「うん。さっき社さんにね、頼んで、最上さんは温泉で貧血起こして『別室』で休ませてあるって  
メールを入れてもらったから。それからダークムーンの放送終了後に、君とのことをマスコミに  
公表したいってお願いした。緒方監督にもね」  
「や、社さんに? お、緒方監督にも?!」  
「ああ、だから君が俺の部屋にいることが他にバレても、いろいろ考えてくれるよ?」  
だからしよう? といたずらっ子のような目で覗き込まれる。  
大きな手はすでにキョーコのお尻を撫で回している。  
キョーコは唇を尖らせるも、頬を染めて彼のモノに腰を押し付けていた。  
「はぁっん……、敦賀さんの、もう、大きくなってます……」  
「今まで我慢してたからね」  
(不破にも誰にも君を絶対に渡したりしない)  
蓮は、キョーコと親密に二人でいるところを尚に見せつけてやりたいという  
子供のような自分の感情に苦笑しながら、吐息を漏らすキョーコに自身に座るように命じていた。  
「朝からもうぐしょぐしょだ。……ほら。『きて』って誘って? キョーコ」  
キョーコは素直に頷き、大好きな蓮の肉棒に跨った。  
 
 
 

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