約束の時間は午後9時だった。  
 
 
ドラマの収録というものは実に水物で、大抵は予定通りに終了するということはない。相手役のNG、  
監督の拘り、セットの組立ての遅れから果ては天気との待ち合わせまで、予定よりも長引くことが多  
いのが現実だろう。だが極稀に、それらの全てが巧く噛み合って、予定よりも大幅に早く上がれるこ  
ともあったりする。  
 
「じゃあお疲れさん。明日は午前中オフだから、正午ちょうどに迎えに来るよ」  
 
今日は撮影地の都合で移動にはタクシーを使った。よって帰宅もタクシーで、住所を告げたマンション  
の前で停止したタクシーから降りようとした時、マネージャーの社にそう声をかけられて、蓮はゆっく  
りと社を見返った。  
 
「解りました」  
 
「…で、こっちに?それともあっち?」  
 
謎掛けのような言葉は、タクシーの運転手を気遣ってのものだろう。蓮は1、2秒の間を空けて答えた。  
 
「多分こっちのままだと思います」  
 
予想していた通りの返事に社は肩を竦めると、ひら、と手を振って、車を降りるように蓮を促した。  
 
「了解。あんまり無理はするんじゃないぞ」  
 
一見、蓮を思いやってのように聞こえる言葉は実は単なる牽制で、それを充分理解している蓮は口許  
に薄く笑みを刷くと、被っていたキャップを更に目深に被り直して、それを返事の代わりにした。  
 
何度も打ち込んだことのある暗証番号を押してエントランスを抜けると、ちょうど一階に止っていたエ  
レベーターで、まっすぐ目的階に到着する。  
 
下層階とは違って間取りに余裕のあるこの階は、その分戸数も少なくて、人口密度が極端に低い。誰に  
見咎められることもなく一番奥のドアの前に到達すると、蓮はドアチャイムに手を伸ばした。  
 
ドアの向こうで軽やかに鳴るチャイムの音は二回。  
 
しばらく待ったが反応はない。もう一度押す。が、やはり無反応だ。  
約束していた時間は午後9時。  
だが珍しく早く終わった撮影のため、現在の時刻はまだ午後7時を回ったところだ。もしかして、夕方  
には終わると言っていた彼女の仕事の方が、まだ終了せずにいるのかもしれない。  
蓮はこの部屋の住人から貰っていたスペアキーを取り出すと、躊躇いもなくドアノブへと差し込んだ。  
指先に光る銀色は、ちいさな音を立ててロックを解除する。  
室内へ入って忘れずに鍵をかけると、靴を脱いで玄関を上がる。勝手知ったる恋人の家、だ。シューズ  
ロッカーを開けて靴を所定の位置にしまおうとした時、奥の方で微かに水音が聞こえた。  
どうやらこの部屋の住人は帰宅しているらしい。蓮は靴をしまいがてら、玄関のドアにチェーンもかけ  
てしまうと、満足そうに微笑んだ。鍵ひとつが増えただけとは言え、これは気分の問題だった。  
これでこの部屋は、明日の朝までふたりの世界にできあがり。  
 
玄関から真っ直ぐ伸びた廊下の突き当たりはリビングで、その手前にあるドアはランドリールーム  
だ。そこの奥には更にもうひとつドアがあって、それはバスルームとなっている。先程の水音は  
シャワーの水飛沫の音で、だから彼女はチャイムの音が聞こえなかったのだろう。まあ聞こえて  
いても出て来れはしないだろうが。  
蓮は迷いのない足取りでバスルームへ向かうと、予告も何もせずに、いきなり磨りガラスのその  
ドアを開けた。  
 
「きゃあっ!!」  
 
ただでさえ音響のいいバスルームに、甲高い悲鳴が響き渡る。  
勿論それは無理もないだろう。防音設備がしっかりしているから、隣の部屋に聞こえることはないだ  
ろうが、蓮の耳を激しく打つには充分すぎる声だ。  
 
「…ただいま」  
 
「な、な、な、なんだ。敦賀さんですかっ。びっくりさせないでくださいよ!」  
 
あたりまえだが相当に驚いたらしい恋人が、真っ赤な湯船につかったまま、バスルームの入り口に  
立つ蓮を視線と言葉で非難する。  
─────真っ赤?  
 
「…どうしたの、これ」  
 
「あ、今日撮影で使った花なんです。スタッフの方にいただいたので持って帰って来たんですけど、一  
度こういうお風呂に入ってみたかったから、思い切ってやってみたんです」  
 
そう言ってお湯を掬い上げたキョーコの掌には、真っ赤な薔薇の花弁が数枚浮かんでいた。湯船を覆い  
尽くす薔薇の花弁。これは相当の薔薇の数だろう。  
今や押しも押されぬ人気女優の位置を確立したキョーコだが、その本来の性格は変わっていない。普段  
あまり贅沢をしない彼女だが、貰い物の薔薇という気軽さから、憧れの薔薇風呂を堪能しているという  
ことなのだろう。  
 
「でも敦賀さん、早かったんですね。私、敦賀さんが来る前にお風呂に入っちゃおうと思って…」  
 
「ああ、珍しく撮影が早めに終わってね。他の予定もないし、真っ直ぐ来たから」  
 
「…あの、リビングに行っててもらえますか?私、すぐに上がりますから」  
 
キョーコの言葉に蓮はにっこりと笑うと、被っていたキャップを手近な棚に放って、服を着たまま、バ  
スルームへ踏み込む。そして何の躊躇いもなく、そのまま浴槽へと足を突っ込んだ。  
 
「きゃーっ!な、なにしてるんですか、敦賀さん!」  
 
「なにって?一緒に風呂に入ろうと思って。見て解らない?」  
 
「服着たままでですか!」  
 
「悠長に脱いだりしてたら、逃げられるかもしれないしね?」  
 
「ってゆーか、なんで一緒に入らないといけないんですか!!」  
 
「キョーコも俺もドラマ撮影が続いて、最近ろくに会ってないんだよ?久しぶりに会った恋人と、片時も  
離れたくないって言うのはちゃんとした理由じゃないかな」  
 
違う。なんか違ぁう!!  
そう叫びたいような顔をして、キョーコは口をパクパクとさせて蓮を見る。  
ふたりで入ってもそう狭くは感じない大きめの浴槽に、蓮はキョーコと向かい合うような体勢を取った。  
波打つ湯船。揺らぐ赤い花弁。  
蓮が無理矢理入ってきたせいでお湯が溢れて、その拍子に零れた幾枚もの花びらが、タイルの上に散って  
いた。  
蓮が着ている黒のジャケット、インナーに着ている白のカッターシャツ、スリムのブラックジーンズは、  
言うまでもなくずぶ濡れだ。  
 
「……呆れちゃう」  
 
「そう?」  
 
心の底から、とキョーコは付け足して、深い溜息をついた。  
 
「今日のお夕飯はしゃぶしゃぶなんです」  
 
「ふうん、それは楽しみだね」  
 
「ビールもグラスもキンキンに冷えてます」  
 
「さすがに気が利くね」  
 
「…だからもう、上がりませんか」  
 
10分後。  
長い時間を薔薇風呂で楽しむために、低めの湯温にしていたとはいえ、さすがにこのままではのぼ  
せてしまう。  
湯船に散らせたたっぷりの花弁のおかげで、今は自分の姿が蓮の目から隠されているけれど、蓮に  
先にここから上がってもらわなければ、キョーコだって上がれないのだ。いくらとっくの昔に蓮と  
そういうおつきあいをしているとは言え、自分だけが素っ裸、という状態でなんの衒いもなく彼の  
目の前に立つことができるほど、キョーコは恥知らずではなかった。  
 
「そうだなぁ………どうしようか?」  
 
「どうしようかじゃありません!私はもう上がりたいんです!敦賀さんの言うとおり、い、一緒に  
お風呂に入ったんだからもういいでしょう!早く上がってください!!」  
 
「解ってないなぁ、キョーコは。一緒にお風呂に入ったって言うのは」  
 
蓮はにっこりと微笑んだまま、浴槽に軽く頬杖をつくようにしていた右腕を伸ばして、素早く  
キョーコの左手首を掴むと。  
 
「…こういうことを言うんだよ」  
 
強引にその身体を抱き寄せて、耳許に甘く囁いた。  
 
蓮の左手がキョーコの細い顎を捉える。  
僅かに力を込めた指先で唇を開かせると、蓮はそこに尖らせた舌先をするりと忍び込ませた。  
粘膜を辿り、そのしっとりとした舌触りを楽しむと、歯列の向こうで怯えたように隠れているキョーコの  
舌を、絡めるようにして掬い上げた。  
 
「…ん、ん……っ」  
 
頭を振って蓮の腕から逃げようとするその身体の動きを許さずに、右腕をキョーコの背中に回し、更に  
抱き寄せる。くちづけたまま、キョーコの顔を殆ど真上に向くように上向かせると、蓮はもっと深くま  
で、キョーコの口中を攻めた。  
 
「ん…っ……ふ…っ」  
 
逃げようともがいていたキョーコの動きがやがて収まり、蓮からのくちづけに酔うまま、鼻から甘い声  
が抜ける。その反応にそっと笑うと、蓮はキョーコの顎から指を外して、なめらかな胸のふくらみに触れた。  
 
「いや…っ!」  
 
びく、と震えてキョーコが仰け反るように背を逸らしたため、ふたりの唇が離れる。透明な糸を引いて震える  
小さな赤い舌を見送って、蓮はキョーコの左の乳房にくちづけた。その頂点の赤い尖りに舌を這わせて吸い上げる。  
 
「あ、あ……っ」  
 
心臓が脈打つ音を、舌先で感じる。蓮の舌を押し返すように、つん、と立ち上がる実を甘く噛んで、舐めて、  
しゃぶって。もう片方は指先で摘んで爪で引っ掻くように刺激する。  
 
「あ、あん…っ、や…っ」  
 
感じやすいキョーコの身体はびくびくと断続的に震えて、その動きに比例して湯船が激しく揺らめいた。赤い  
花びらが踊る。薔薇の花弁に負けないほど艶やかなキョーコの胸の赤い実はひどく甘くて、蓮はそれを強く吸  
い上げた。  
 
「やあ…っ!」  
 
唇を外してみると、更に赤みを増したその場所は堅く尖りきっていて、そこは微かな空気の動きにさえも感じ  
て、痛いほどの快感をキョーコに齎すのだろうと蓮は思った。  
 
「…キョーコ……」  
 
湿度の高い、熱い吐息の混ざったような声で恋人を呼ぶ。  
その背中を抱き寄せていた右手の指先で、背骨を数えるように下へと辿らせていって。  
ひくり、と揺れた身体の奥深く。蓮の欲望を受け止めるその場所へと、一番長い指を沈み込ませた。  
 
「あ、あ……っ」  
 
その場所に指を沈めるのは、無理に花びらを散らせるような独特の触感がする。  
しっとりと纏わりつく滑らかな粘膜。  
熱くて狭いその内壁が、迎え入れた蓮の指をきゅ、と締め付ける。  
指先までゆっくりと退いて、同じ速度で突き入れる。緩慢ともいえるその動きに、キョーコは仰け反る  
ように震えた。  
 
「や、いや……っ」  
 
退く時は吸い付くように、突き入れる時は巻き込むように蠕動するその場所は、蓮しかその感触を知らない。  
キョーコですら知らないその場所に、中指をそれ以上はないほどに一番深くまで沈めると。  
途端に蓮の指を離すまいと絡んできた内壁の締め付けを楽しみながら、親指と人差し指で、その前方の  
襞の中に隠れている敏感な蕾を探し当てて、そっと摘んだ。  
 
「ひゃう……っ!」  
 
最初は弱く、次第に強く、指先で擦り合わせる。  
 
「や、いや…っ、あぁん…っ」  
 
強烈な刺激に、キョーコは思わず蓮の首にしがみついた。その反動で、蓮の逞しい胸元に、さっき  
限界までに高められた胸の先端がぶつかる。  
 
「あ…っ…」  
 
身体のあちこちから溢れる快感に、キョーコはなす術もなくいやいやをするように、頭を振るしかなかった。  
 
「気持ちいい…?」  
 
蓮が耳許に囁いた言葉と吐息にすら感じて。キョーコは自分から、蓮の指に擦りつけるように、腰を落とした。  
相変わらず一定のリズムで出入りを繰り返す蓮の指が沈んだ場所から、お湯ではない別の滑りが零れ出してきて、  
蓮は薬指を添えて指を2本に増やした。  
 
「あん、あ、ぁ、あ…っ」  
 
体積が増えた指にそこは敏感に反応して、甘く蠕動しながら増えた分のスペースを、蓮の指に提供した。  
 
「キョーコの身体は素直だよね…」  
 
俺にだけ、と蓮は甘く囁いて、そのまま揃えた指でキョーコを穿ち始めた。  
早く、遅く、強く、弱く。リズムを変え、角度を変えて。  
 
「あ、あん、あ、あ……っ」  
 
蓮の奏でるリズムに言われたとおりに素直に反応して、キョーコの身体は上下に揺れる。お湯の浮力を  
借りたその動きは滑らかで、そして淫らで。水面で踊っていた花弁がひとひら、キョーコの白い肌に  
偶然貼りついた。なだらかな胸の谷間に。  
吐息だけで蓮は笑って、再びキョーコの左胸の先端を、殆ど噛み付くような強さで吸った。  
 
「あ、ああ……っ!」  
 
攻めていた指を激しく、これ以上ないほどに深く突き入れると、たっぷりと溢れて蓮の指の動きを  
助けていたキョーコは、これ以上ないほどまで奥深くに侵入を許して、強く蓮に絡みついた。  
 
「ひゃぅ…っ!」  
 
背が撓み、一瞬の空白を置いてキョーコの身体がゆらりと後ろに倒れ掛かる。  
指だけで上りつめたその身体の背中を左腕で支えると、蓮は脱力しきったキョーコを抱えて、浴槽  
から立ち上がった。  
タイルの上にキョーコを座らせると、揺らぐ上体を支えるように、キョーコは両腕をタイルについて  
身体を支えた。繰り返す呼吸が未だ荒く熱を持っていて、瞳もたっぷりと快感に潤んでいる。  
蓮は水を含んで重くなったジャケットを脱いで浴室の隅へと放り投げると、水の滴るカッターシャツ  
はそのままに、ジーンズのボタンを外して、ファスナーを下ろした。  
タイルに座り込んでいるキョーコを真正面にして浴槽の縁に腰掛けると、長い脚をゆったりと開く。  
 
「…キョーコ……」  
 
呼びかけに、キョーコはゆっくりと蓮を仰ぎ見た。  
その細い顎を右手で掬うように持ち上げて、蓮は自分の方へと、優しく、けれど強引に引き寄せた。  
 
「つ、…つる、が、さ…」  
 
いやいやをするように、僅かに首を横に振ったキョーコを許さずに、今までさせたことのない行為を  
甘くねだる。  
 
「一度だけでいいから…俺のことを愛してくれないか……この唇で」  
 
「だ…だめ……」  
 
否定の言葉のために開いた唇に。  
けれど蓮は容赦なく、自分の欲望を迎え入れさせた。  
 
熱くて狭い粘膜に、先端からゆっくりと覆われて。蓮は深く息をついた。  
自分の脚の間に、白くて細い身体が一糸纏わずにいる。淫らに開いた赤い唇には、半ばまで昂ぶった  
自分の欲望。彼女のちいさな口には収めきれずにいる。  
今まで経験したことのない行為にキョーコは戸惑いを隠せずにいるが、嫌悪はないようだった。純粋に  
どうしていいのか解らずに、蓮を上目遣いに見る。  
 
「…手を」  
 
蓮の言葉に、キョーコはおずおずと右手を差し出してくる。殆ど無理矢理の行為だというのに、自分の  
言葉にはどこまでも素直な恋人に、蓮は微笑む。  
キョーコの右手に自分の左手を重ねて、キョーコが口に含みきれないでいる蓮の欲望の根元に、指を絡めさせた。  
びく、と引こうとするのを許さずに。  
 
「舌…絡めて。括れのところ……」  
 
蓮の言葉に、最初はどうすることもできずにいたキョーコだが、しかし少しの逡巡の後、僅かに舌を  
動かした。仔猫がミルクを舐めるように密やかに。けれどそれは、だんだんと時間を追うごとに、  
大胆な舌使いになっていく。  
 
「…ん……ん…っ」  
 
鼻から甘く抜けるような吐息が零れてきて、蓮は良くできた生徒を褒めるように、キョーコの頭を撫でた。  
そのままするりと指を滑らせて、頬へ。やがて『自分』を咥えて奉仕している唇へ。風のように触れて、指先で愛撫する。  
口腔の奥、ぎりぎりまで迎えて、次には先端までを引き出して。最初は舌だけを動かしていただけのキョーコが、  
次第にその頭までも前後させて蓮を喜ばせることに夢中になっていく。  
キョーコが頑張れば頑張るだけ、蓮の欲望は徐々に形を変え、質量を増していくのだ。絡めた右手の指でも  
楽器を奏でるかのように優しく愛撫して。  
いつもは一歩的に施される愛撫で感じる身体が、自分が奉仕することでも感じることをキョーコは初めて知った。  
タイルに横向きに投げ出した脚の間。身体の奥が熱い。覚えのある疼きが身体を支配する。  
舌を絡めて。吸って。先端を甘噛みする。  
一度口から全部を出すと、その裏筋を根元から先端までゆっくりと、舌先で辿る。  
 
「キョーコ……」  
 
囁かれる声が甘くて、優しくて。キョーコは夢中で蓮を愛し続けた。そしてまた、今度は自分から唇の中へ迎え入れて。  
少し苦いような味を舌先に感じてキョーコは、きゅ、と先端を吸った。  
 
「………っ」  
 
頭上から落ちてきた深い吐息に、キョーコは嬉しくて更に奥まで蓮を迎え入れる。  
蓮の欲望は既にかなりの質量を蓄えていて、キョーコの唇ではもう先端くらいしか含むことはできなかった。  
それでも行為を続けようとするキョーコの顎を、再び蓮の右手が掴んだ。固定して、キョーコの  
舌と歯の抵抗を楽しむように腰を前後させる。最初はゆっくりと、しだいに激しくなっていく  
その動きに、キョーコは唇を開いたまま、そのすべてを受け入れていた。やがて蓮の動きが止んで、  
ずるりと欲望が抜き出される。  
どくり、と音が聞こえたような気がした。  
白い粘液が溢れて、キョーコの頬を濡らす。  
一度の放埓では硬度を失わない蓮の欲望が、次の居場所を求めて熱く張り詰めていた。  
 
「キョーコ…」  
 
吐息だけで名前を呼んで、蓮は自分を愛してくれた唇を敬うように深くくちづけた。  
いつも自分を受け入れてくれる場所とは違い、だがこの唇も、蓮にとっては天国のような心地好さだった。  
熱く絡みつく舌も、いたずらを仕掛けてくる歯も。  
力なく投げ出されたキョーコの脚の間に、再び右手の指を潜ませる。そこはもう既に甘く蕩けていて、  
いつも以上に熱を帯びていて、その行為が決してキョーコを不快にさせなかったことを知った。いや、むしろ  
酷く感じていることを。  
何もかもの準備を終えているキョーコの身体をタイルに横たえて、蓮はその上に覆い被さった。蓮だけに許される  
その場所に、欲望をぴたりと押し当てて。  
キョーコの身体は、歓喜に震えて蓮を迎え入れた。  
 
「あ……あっ……ああっ!」  
 
「…キョーコ…」  
 
身体の奥深くまで侵入して。蓮の全てを受け入れるキョーコの身体は、やっぱり蓮だけに与えられた天国のようだった。  
しっとりと絡みつく。  
いつもキョーコを抱く度思うけれど、本当に、もう二度と離れたくないと思ってしまう。  
ひとつになったまま、このまま永遠に溶け合えたなら。  
あまりにも心地好く蓮を酔わせるキョーコにくちづけて、蓮はふと社の言葉を思い出した。  
 
─────あんまり無理はするなよ  
 
あれは本当は、キョーコにあまり無理をさせるなということだ。  
お互い多忙を極めていて、こうした時間をあまり持てずにいるから。だから、こうしてキョーコを抱く時には、  
蓮はいつもかなりの無茶をしてしまう。  
社は、翌日のキョーコの様子からそれを薄々感づいている。  
 
口許だけで笑って、蓮はゆったりと注挿を開始した。  
キョーコは気づいているだろうか?  
ここは寝室じゃない。前置きもなく蓮が始めたこの行為はいきなりだった。だから『なに』もしていない。  
キョーコの身体を守る避妊の類を、一切。  
だからもしかすると。  
もしかすると、蓮の望む結果が得られるかもしれなかった。  
まだ早いとキョーコが思っていたとしても、蓮は欲しい。キョーコを完全に手に入れることができる、その最終的なカードが。  
迂闊だったと、自分たちの周囲を固める人間たちはそう言うだろうか。  
だが、もしもそうなったら。  
蓮にとっては願ったりなのだ。この心で、身体で、法律でもキョーコを縛って、決して離さない。  
非力だった子供の頃のように、もう二度と傍を離れたりしない。  
 
「あ…っ…あぁ…っつる、がさ……っ!」  
 
キョーコの身体を揺さぶって。感じる場所を舌で指で愛撫して、蓮はその耳許に囁いた。  
 
「キョーコ…」  
 
 
 
傲慢だと君は怒るだろうか。  
でも、もう手放せない。この果てのない快楽を。  
あまりに愛しい、愛しすぎて壊してしまいそうなほどのこの恋を。  
 
 
 

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