「キョーコ、ちょっとおいで。」
「何ですか?敦賀さん。」
この日キョーコはいつものように蓮のマンションへ食事を作りに来ていた。
蓮と付き合い始めてからというもの、キョーコは「恋人なんですから、体調管理くらい私にさせてください!」と言って毎日のようにマンションへやって来る。
そして、出来上がった食事を一緒に食べ、蓮に送られて帰っていく。
そんな日々が続いていた。
勿論、これはこれで幸せな日々だ。
誰も愛さないと決めていた二人が、お互いを必要として愛し合っているのだから。
だが、蓮だって若干20歳の男だ。
愛する女が傍にいたら、抱きたくなるのが本音。
紳士の皮を被っていたが、日が経つにつれてその皮は脆くも剥がれていった。
「ねぇ、キョーコ?」
キョーコを自らの足の間に座らせ、後ろから抱きしめながら甘い声で名前を呼ぶ。
この体制に慣れるまで1ヶ月かかった。
「はい?どうしたんですか?」
「そろそろさ、もっとキョーコに触れたいんだけど。」
ストレートに『抱きたい』というのもどうかと思い、表現を和らげて伝えてみた。
「・・・?触ってるじゃないですか。」
キョーコはキョトンとした表情で言うと、自分のお腹あたりにあった蓮の手を持ち上げた。
ほら、この手が。とでも言わんばかりに。
「そういうことじゃないんだよ。」
「違うんですか?」
幾分固く感じた蓮の声に、キョーコは問いかけながら体を捻って振り向いた。
すると、そこには真っ直ぐと自分を見つめる瞳があった。
「敦賀さん・・・?」
「キョーコは俺に触れたいと思わない?もっと近くにいたいって。」
「思わないわけないじゃないですか!!私だっていつも近くにいたいし、もっと近くにいたいですよ!」
胸の前で拳を握って力説するかのようなキョーコに、思わず蓮の頬が緩んだ。
「そう。じゃあ、いいよね?」
「え?」
キョーコが言葉の意味を理解するのを待たずに、蓮はキョーコを抱き上げてベットルームへと向かった。
綺麗に整えられた白いシーツの上にゆっくりとキョーコの身体を横たわらせる。
「えっ!?ちょ・・・敦賀さん・・・?・・んっ」
蓮はキョーコの上に覆いかぶさるようにして唇を重ねた。
ぷっくりとした柔らかい唇を、啄ばむように求めて味わっていく。
唇をくまなく味わうと、今度は蓮の舌が動き出す。
唇の形を確かめるかのように舌で舐め、少し開いているその隙間から舌を差し入れた。
「・・んっ?・・・・っ・・はっ・・あ・・・・んんっ・・・」
口腔内で蓮の舌が動き回ると、キョーコの口からは吐息と共に小さく声が漏れる。
それを耳にすると、キョーコの口腔内で自由を得た蓮はもっと、もっと奥へとキョーコの舌へ自らのものを絡めていった。
唇を重ねる角度を変えるたびに、ピチャッ、ピチャと淫らな音が鳴り響く。
キス自体は初めてじゃない。
蓮はキスだけはどうしても我慢できず、付き合い始めてからは毎日していた。
けれど、それはフレンチなもの。
唇を重ねるだけのものだった。
初めてキスをした日、キョーコは蓮にこんなことを言った。
「キスって、こんなに優しくて温かいものなんですね。」と。