「京子殿、今宵こそお顔を見せて下さらぬか」
「いいえ、なりませぬ」
時は平安、泰平の世――。
御簾を隔てて一組の男女が向き合っている。
男の名は蓮宮(れんのみや)。その美貌ゆえに当代一の貴公子と謳われ、帝の覚えも目出たかった。
女の方は京子といい、元はやんごとなき生まれの姫であったが、
両親を早くに亡くし、今は数人の女房とこのさびれた屋敷で、ひっそりと暮らしていた。
そもそも蓮宮が京子の元に通う様になったのは、宮中の噂話がきっかけであった。
都のはずれに美しい姫が住んでいるが、その姫はかつて不実な男に
裏切られ、以来男を信じられなくなったという。
姫の噂を聞き付けた数多の公達が屋敷を訪れても、
決して御簾を上げず、つれない態度を崩さない。
その噂の姫君こそが、京子であった。
そうと聞けば、色男の蓮宮も行かずにはおれない、初めは興味本位であった。
しかし、いつしか寝ても覚めても想うのは京子のことばかり・・・。
これ程迄に自分になびかない姫が初めてだからか?
涼やかな声音が彼の恋慕を掻き立てた。
「あ、なりませぬ――!」
気が付くと、蓮宮は御簾を跳ね上げ、京子の寝所に踏み込んでいた。
今迄、その様な真似はしたこともない。
が、身体が勝手に動いていた。
京子は単衣の袖で顔を隠し、肩を震わせている。
「すまない、怖がらせてしまった、ただ、どうしようもなく貴女に焦がれて――」
そう言いながら、蓮宮は頑なに隠したままの京子の顔を優しく覗き込んだ。
「どうか一目でいい、顔を見せて欲しい」
「わたくしの顔など、どうして見る価値が
ございましょう、わたくし等、地味でつまらぬ女・・・・・」
「何故、その様なことを。誰かに言われたのですか」
そこで、蓮宮は思い当たった、京子の心を踏み躙ったという男の存在を。
「私は、その男とは違う」
辛抱強く諭すように、蓮宮は京子に囁く。
「何もかも、忘れさせて差し上げます」
京子の手首をそっと掴み、顔から袖を外させた。
不安気に揺れる瞳が蓮宮を見つめていた。
宮中の姫君達とは違う無垢で可憐な美しさに、たちまち心を奪われる。
「美しい――夢で見たよりもずっと・・・」
「そんな・・・」
恥じらって頬を染める姿が初々しい。
蓮宮は激情のままに京子を強く抱き締めた。
(姫は――その男と契りを結んでいたのだろうか・・・?)
見も知らぬ男へのどす黒い嫉妬が胸に渦巻き、
知らぬ内に力がこもっていたらしい。
「・・・・痛うございます」
「こ、これはすまない」
どうも、いつもと勝手が違う。
蓮宮は腕の力をふわりと緩めた。
しかし、京子は少し身を固くしてはいるものの、
蓮宮の腕の中から逃げ出そうとはしなかった。
拒絶されていない――そのことに力を得て、形の良い唇をそっと吸った。
京子の単衣に焚きしめた香が、ゆらりと立ちのぼる。目の前に蝶が飛んでいる様な感覚に幻惑されて、
蓮宮は京子の舌に自分の物を絡ませた。
「ん、んぅ―――」
触れ合った唇の間から漏れる京子の呻き声に、
いつしか甘い物が混じり始める。
ようやく唇を離すと、京子が堰を切った様に語り始めた。
「・・・わたくし、ずっと怖かったのです――蓮宮様に惹かれていく自分が。
何人もの殿方がこの屋敷を訪れましたが、
あなたは他のどの方とも違います。
わたくしは、あなたの訪れをいつしか心待ちにする様になっていました」
「そうだったのですか?」
京子の思いもかけぬ言葉に、蓮宮は天にも昇る心地になった。
「でも、あなたの浮き名は、都中知らぬ者はいないと聞きます。
わたくしは、あなたに恋して・・・・・又裏切られるのが怖かった・・・」
「私は、決して貴女を裏切りません」
「貴方を、信じてもよろしいの?」
潤んだ瞳で見つめる姫に、つい、魅せられる。
「私を、信じて下さい」
思わず、姫の体を抱き締める腕に、力がこもる。
「んっ、苦し……」
「ああ、すまない」
着物に炊きしめられた香の香りに、胸が締め付けられた。
「京子殿……」
「はい」
「貴女の過去に、何があったのかはわかりません。
しかし、私は、貴女に焦がれてやまない。
このまま、貴女と肌を重ね、三日夜の餅を食み、二世の契りを交わしたいのです」
目を、しっかりと見つめて告げる蓮宮に、姫の目が揺らぐ。
「本当に?わたくしで、よろしいの?地味でつま……、んっ」
姫の、自分を卑下するような発言を、自分の唇で塞ぎ、
「貴女でなければ意味がない」
それだけ告げて、しゅるり、しゅるりと着物を脱がせた。
「あまり、見ないでください」
現れた美しい肢体に、目を見張る蓮宮に言葉を投げかけはするものの、姫は、紐解く指や、触れる唇を拒みはしなかった。
「やはり、貴女はお美しいです」
蓮宮は、再び、唇に深く口付け、首筋に舌を這わせていった。
「あ、待って、待ってください」
蓮宮の唇が肌を這う感覚に、京子は戸惑いの声をあげる。
「もしや、急いてしまいましたか――?」
「い、いえ。そうではありませぬ。
ただ先程から何やら、身体の奥から
熱い物が込み上げてくるような・・・・・。
これは一体、何なのでしょう・・・?」
京子の初々しい反応に、蓮宮は彼女が男に
肌を許すのが初めてだと悟り、歓びに胸を躍らせた。
「これから、ゆっくり教えて差し上げます」
――幾千幾万の夜を尽くしても、この想いは伝え切れない――。
そんなことを考えながら、形の良い乳房の先の突起を
口に含み、もう片方の乳房をやわやわと手で弄ぶ。
豊かな黒髪が床に乱れる様は、まるで天空の星の河を思わせた。
「あぁ、宮様、蓮宮様・・・また、溢れてしまいます・・・・」
「ここから、ですか・・・?」
そう言って、蓮宮は京子の秘所に手を伸ばそうとする。
「・・・・いや、恥ずかしい・・・・」
触れられる寸での所で脚を固く閉じ、羞恥に
身を捩らせる様は、美しく艶めかしかった。
蓮宮は下方に伸ばした手で、そのまま京子の太腿を撫で上げた。
指先だけで羽根の様に軽く、何度も何度も太腿から
ほっそりとした腰へと繋がる稜線をなぞり続ける。
もう片方の手は変わらず右の乳房を揉みしだき、
舌と唇は左の乳房の先で固さを増してきた桜色の果実を味わっている。
「あ、はぁ・・・・・いけませぬ・・・・」
蓮宮の愛撫に翻弄された京子は、身をくねらせ吐息混じりの声を漏らす。
「もう、止められませぬ」
瞳に強く妖しい光を宿した蓮宮は短く告げて、再び先程の果実を口に含んだ。
舌先で突つき、転がし、軽く歯を立てる。
「・・・・ひゃぁん――!」
唐突に襲った強い刺激に、京子は一際高い声を上げ、軽く頭をのけぞらせた。
自らの声に驚き慌てて口を塞ぐが、その間に太腿を撫で擦っていた、
蓮宮の指がいつしか内股へと伸びていたことに気付く。
先程とは打って変わった、荒々しい手つきで撫で回され、
京子は抗おうとするが、背筋を駆け上る甘い痺れに身も心も溶かされていく。
京子の白い胸元から顔を離した蓮宮は、
しなやかな下肢の間に身体を割り入れ、
閉ざされた花園を目の前に開かせた。
そのまま、甘露に濡れて妖しく光るそこを、しばらく見つめ続ける。
「やはり・・・・・・ここから溢れていたのですね・・・」
「・・・・いや、もう・・・・・許してください・・・」
「申し上げたでしょう、もう止められぬ、と」
蓮宮はそう言って、京子の秘所に顔を埋めた。
「あ、そんな・・・・・いけませぬ、不浄な・・・」
「不浄?こんなに美しいのに・・・。お見せ出来ないのが残念だ」
蜜を啜り、舌で花弁の間をなぞる。
「は、ぁん、もう・・・・・あぁ、ん」
京子は美しい眉根を寄せ、快楽の波に溺れまいとしている。
が、彼女の意志とは裏腹に、その腰は淫らな揺らぎを見せていた。
その時、顔を上げた蓮宮が尋ねた。
「姫、私がお嫌いですか?」
「いいえ、いいえ!」
愛する人を失いたくなくて、京子は必死で首を振る。
「良かった」
蓮宮の笑顔に、京子の胸はとくんと鳴り、そして思った。
――この方になら、何をされてもかまわない――。
花園の中の、小さく膨らんだ蕾を見つけた蓮宮は、迷わずそれに吸い付いた。
「ああ―――!」
何をされてもかまわない、確かにそうは思ったけれど・・・。
京子はあまりに強い快感に慄き、思わず逃れようとしてしまう。
しかし、蓮宮に下肢をしっかりと押さえ付けられ、それも叶わない。
蓮宮は蕾を強く吸い上げると同時に、舌先でくるくると転がした。
「・・・・あ・・・・・ぃやぁ、はぁ・・・・ひぁん・・・」
もはや、声を抑える余裕等無かった。
蓮宮は飽く事無く、蕾を責め立てる。
「・・・ぁあ、れ、んの・・・みや、さま・・・・」
途切れ途切れの声で名を呼んだ。
一際強く、長く蕾を吸われ、
「や、あぁん―――!」
京子は生まれて初めての極みを迎えた。
その目の端に乱れたまま置かれた桃色の単衣が映り、
――まるで、わたくしの心のよう――。
ぼんやりと、そんなことを思った。
快楽の名残で、息が乱れている京子を
労る様に抱き締めながら、蓮宮は囁いた。
「次は・・・・・少しお辛いやもしれませぬが・・・。
どうか、私にお任せください」
「はい・・・」
蓮宮は再び秘花に手を伸ばし、まず指を一つ“そこ”に差し入れた。
異物を受け入れたことの無い上に、先程絶頂を
迎えたばかりの“そこ”は、きゅうきゅうと蓮宮の指を締め付けた。
京子の反応を伺いながら、もう一つ、二つと、
慣らすように指を増やしていく。
「ん、ぅん・・・・」
京子が、くぐもった悦楽の呻きを漏らした。
三本の指で京子の中を掻き乱しながら、親指の腹で蕾を擦ってやる。
「ぁ・・・・ひぃ・・・ぃい・・」
とめどなく溢れる蜜は、京子の太股を伝い、滴り落ちていた。
再び高みに駆け上がろうとする京子から指を抜いた蓮宮は、
痛い程に張り詰めていた自らの猛りを、代わりに突き立てた。
「――――!!」
全身を貫く様な破瓜の痛みに声も出ず、見開いた瞳の端に涙が滲む。
蓮宮は、そんな京子の頬に優しく触れ、指で涙を拭ってやった。
「・・・・すまない」
京子は、何とか微笑みを浮かべながら、首を振った。
「少し、動きますよ」
蓮宮はゆっくりと腰を動かし始めた。
京子の中は蠢く様に彼の分身に絡み付き、吸い付き、波打っていた。
甘やかな愉悦の淵に溺れそうになりながら、蓮宮は驚きを隠せない。
このような女人が、この世にいたとは。
ますます深く惹き込まれ、もはや離れられそうにない。
京子も蓮宮の動きと共に、次第に激しい痛みが遠退いていき、
代わりに快楽の波がひたひたと打ち寄せてくるのを感じていた。
再び、その唇から悦びの吐息が漏れ始めた。
「・・・・あぁ・・・・ぁはあ・・・・」
蓮宮は繋がったまま、京子の白い肌に唇で印をつけていく。
首筋や乳房に紅色の愛の花が滲んだ。
京子の背は波打ち、瞳は今迄に無い程の快感に潤んでいた。
「ぁ、もう・・・・壊れてしまいます・・・」
いつしか蓮宮の動きに自らも応えながら、京子は浮わ言の様な声で言う。
幾度も腰を打ち付け合い、その度に小さな絶頂が京子を襲った。
蓮宮も無垢な姫君が、蝶の如く艶やかな女に
花開いていく様を目の当たりにして、
「・・・姫、京子姫・・・・・お慕いしています・・・」熱っぽい声で告げた。
「わたくしも・・・・あぁ、蓮宮様、狂ってしまいそう、わたくし、怖い――!」
「大丈夫、二人で狂いましょう、貴女と狂えるなら、私は本望です」
「嬉しい・・・・」
蓮宮は狂うと言ったその言葉の通りに、一層激しく、深く京子の奥を抉った。
「・・・・ひぁ、ぁん、ゃあ、ぁあ・・・・・」
蓮宮の動きが早まると共に、京子の声も切羽詰まった響きを増していく。
「ああ、蓮宮様、あぁ――――!」
京子が高い声で啼いて果てると同時に、蓮宮も彼女の中に精を解き放った。
〜〜〜〜〜
その後も、蓮宮は京子の許に通い続け、やがて彼女を妻として、自分の屋敷に迎え入れた。
かつて京子を裏切った尚中将(しょうのちゅうじょう)は、
仲睦まじい二人の様子を伝え聞き、大層悔しがったそうな。
(おしまい)