遅めの夕食の後。
キョーコが皿を洗っていると、後ろから蓮がまとわりついてきた。
髪を撫でたり首すじを触ったり…。
「もぉ。くすぐったくてお皿落としちゃいますよ、やめてください」
「しようよ、キョーコ。そんなのあとでいいから」
「ん、ダメです。あとでなんて言ってたら朝になっちゃう」
「明日でいいよ」
「だぁめ、待ってください」
「待てない。今すぐがいい」
「んもぅ。なんでですかぁ」
ようやく振り向いて諭すように叱ると…
いつもなら強引にくるはずの蓮が、「理由なんかないけど」と目を逸らした。
「…なに焦ってらっしゃるんですか?」
「…なにも」
「どうして今、目を逸らしたんですか?」
「逸らしてなんかないよ」
「いいえっ逸らしました!何か隠し事―――」
そこでキョーコは思い当たった。
この前の二人の公開デートの放送時間である。
キョーコはエプロンをつけ濡れた手のままテレビに向かって走り電源を点けた。
ちょうど遊園地の観覧車から降りてくる場面だった。
間もなく最後の問題のシーンだが…
「ねえ敦賀さん……これ、差し替えられて放送されるんですよね?」
―――最後、耳元で愛の言葉を囁く、という予定だったのに、蓮が暴走した。
しかもキョーコの、カメラが回ってますから、の発言が音声で拾われ…熱愛報道となってしまったのだが、
とりあえずその場でスタッフにバレた。
呆然とするスタッフ一同の中で、まず音声さんがつぶやいたのだ。
「あの…どうもあのふたり、実際付き合ってるみたいですよ…」
必死のキョーコの制止に蓮が我に返ると赤面しているスタッフ一同が凝視していた。
しまった、まあ仕方ない、という程度の蓮に対し、キョーコは半狂乱。
必死に蓮とプロデューサーに泣きつき、普通に愛を囁くシーンを撮り直してもらったのだ。
放送ではその撮りなおしたシーンが使われる―――はずなのだが。
「そうだよ、だから見てもつまらないだろ、ほらテレビはいいから、しようよ」
「おかしいです敦賀さん!いつもだったらこういうの、私が嫌がっても見たがるのに!何か隠してらっしゃるんでしょう?!」
「そんなことないよ、ほら、撮り直したほうが放送されてるじゃないか。もう確認したから終わり」
消そうとする蓮を引っ張りテレビから離そうとするキョーコ。
「たしかに…でもなんだか怪しいです!だから最後まで見るんです!」
「見たいの?珍しいね、自ら羞恥プレイなんてキョーコはマゾだなぁ」
「ごまかさないでっ!!」
ひっぱり合っているふたりの前で、番組はスタジオに場面が変わり、久田と中野がキャーキャー言いながらコメントを付ける。
『ちょっとステキーーーー!!』
『敦賀さんって何やってもサマになりますねぇ、もうドキドキしちゃった』
『京子ちゃんも赤くなってかわいいし。この二人、実際に付き合ってるわけでしょ?』
『そうそう、今ので交際バレちゃったんでしょ?独占放送ですよ!
―――え?違うの?』
なにやらスタッフが出しているフリップを読み上げ始める中野。
『なになに、今のは京子ちゃんの頼みで取り直したシーンで?実際にラブラブしちゃった本物映像が別にありますぅ?!』
『キャーーーーなにそれっ?!!』
『それVTRあるの?見れるの?』
『見ーたーいー!!』
『なんとぉ、それを今から放送します!見れるのはもちろんこの番組だけですよね』
絶叫する久田+スタジオと共に、テレビ前ではキョーコも絶叫していた。
「キャーーーーーー!!っちょっと敦賀さんっ!!話が違います!!!」
「だって、ヤラセは良くないよ」
「って敦賀さんがOKしたんですか?!!」
「あー……そういうことになる、のかな」
「もうっ…信じられないっ…!!」
テレビでは再度観覧車から降りてきた二人が映る。
キョーコは恥ずかしさに耐えられずテレビを消そうと手を伸ばす…と、今度は蓮がそれを止める。
「なんで消すの?せっかくだから見ようよ」
「イヤですっ!!恥ずかしくて見れません!…ってもうっ離してください!!」
「いいからいいから」
蓮の力に敵うはずもなく、そのままソファまでひっぱられ、結局蓮の膝の上に座らされ無理矢理見せられることになる。
蓮は目を塞いで見ようとしないキョーコの手をはがし、
「ほらよく見てよ、イヤがってる表情もたまらないよね」
「…もうやめてっ…!」
「ちょっと感じてた?いやらしい顔だなぁ」
結局はいつもどおり「羞恥プレイ」で終わる二人であった。