「キョーコは明日の仕事、なに?」
食事の後、いつものようにふたりで台所の流しに並んで片付けている時、敦賀さんが聞いてきた。
「明日は富士テレビでドラマ撮影です」
私が答えると、敦賀さんの動きが止まって、水の流れる音がジャーーーー、と響いた。
「敦賀さん?どうかされました?」
「いや…」
敦賀さんの動きは再開されたけど、なんだか上の空で動作も鈍い。
何か怒ってる?
ううん、怒りのオーラは感じないし…。
「あのー」
「キョーコ、アイツには注意するんだよ」
ゆっくりと皿を洗いながら、無表情で敦賀さんが言った。
「アイツ?アイツって誰ですか??」
「…アイツだよ…古賀って男」
泡を流したお皿を渡されたのにも気付かず、私はポカンと口を開けて敦賀さんの横顔を眺めていた。
いつまでも受け取らない私にようやく敦賀さんが目を合わせる。
「え?古賀って…古賀さんですか??」
「そうだよ、古賀って言ってるじゃないか」
「あの古賀さん?」
「…他に古賀がいるのか?キョーコがドラマで共演してるあの古賀だよ」
敦賀さんの鋭い口調がため息に変わる。
「まったく君って子は…」
「その古賀さん…ですよね?どう注意するんですか??」
「だから――……言いたくないけど、あの男はキョーコに気があるんだよ」
なぁんだ。敦賀さんってば
「焼きもちですか?大丈夫です、ドラマの中だけですから」
なんだか愛されてるかも、なんて思ったらくすぐったくて、照れくさくて思わず吹き出してくすくす笑ってしまう。
そんな私を見て敦賀さんは天を仰いで、ハァァァァァァ、とさらに巨大なため息をついた。
「琴南さんも一緒だったよね、ドラマ」
「はい!そうなんです。だから楽しくって」
「ひとりになっちゃダメだよ」
「ひとりに?テレビ局で、ですか??」
「そう、帰りは迎えに行くから、それまでひとりにならないように」
「なんだか子供みたいですね、私」
「子供じゃないからタチが悪い…」
「え?」
「いや…とにかく、そういうこと」
「心配性ですねぇ、敦賀さんってば」
再び笑ってしまった私に、敦賀さんは洗い物を中断して後ろから抱き付いてきた。
「心配だよ、ほんとに。無防備というか疑いを知らないというか」
「んー敦賀さん、濡れちゃいますっ」
「まあそこがキョーコのいいところではあるんだけど」
「もう、聞いてます?冷たいですってばぁ」
いつもどおり私の制止は無視されて、唇も…身体も舐め回されて、そのまま明るい台所で啼かされた。
翌日撮影のあと、モー子さんと別れて敦賀さんと落ち合う予定の地下の駐車場へ行こうとしていると、
後ろから古賀さんに呼び止められた。
「キョーコちゃん!」
「あ、お疲れ様です。古賀さんももう上がりですか?」
「うん、そうなんだ。それで、キョーコちゃんにお願いがあるんだけど」
「なんですか?」
敦賀さんは注意しろ、なんて言ってたけど、古賀さんはとってもいい人。
まだ新人なのにドラマの準主役に選ばれて、なにかと風当たりの強い私を気遣って、こまめに声をかけてくれる。
おかげで最近、モー子さん以外の女優さんたちも私に声をかけてくれるようになった。
「ちょっと荷物がたくさんあって持ちきれないんだ。楽屋にあるんだけど、一緒に運んでくれない?」
「お安い御用です!」
「よかったぁ。事務所に持ってくるように頼まれたんだけど、数が多くてさぁ」
「古賀さんってば、売れてらっしゃるのにそんな雑用引き受けるなんて、人が良すぎですよ」
「いやー売れてるタレントとして扱ってもらえないんだよ」
ハハハ、と笑う古賀さんに連れられて楽屋に入ると、確かにダンボール箱が5,6個並んでいた。
「大丈夫?無理しないでね」
「任せてください!古賀さんだって、力なさそうなのに大丈夫ですか?」
「ハハ、これでもたまにジム行って鍛えてるんだけどな」
駐車場にある車まで2往復して楽屋に戻ると、もうあとは大丈夫だよ、と礼を言われた。
「何もお返しがないな…。ああ、じゃあ、せめてお茶でも入れるよ」
「あ、私が入れますよ」
それじゃお返しにならないと遠慮する古賀さんを制して急須にお湯を注ぐ。
「古賀さんってば、気を使いすぎですよ。私みたいな新人にまでこんなに親切にして」
「キョーコちゃん」
「なんですか?」
お茶を入れ終わって、急須を置いたところで聞こえてきた古賀さんの声は、
さっきまでとは違って真剣な口調だった。
「親切…じゃ、ないんだけど」
「え?」
振り向こうとしたところで、後ろから強く抱きしめられた。
「こ…古賀さん?どうされたんですか…?」
答えがなくて、ただ耳元で息遣いが聞こえる。
混乱する頭の隅で、昨日敦賀さんに同じように抱きすくめられたことを思い出していた。
「あのっ…ちょっと……!」
「親切なんかじゃない。そんなイイ奴じゃないよ、オレ」
「なにか…あったんですか…?あの、古賀さんは優しい方です。だから皆さんに好かれてて―」
「キョーコちゃんは?」
「え??私がなんですか?」
「キョーコちゃんはオレのこと好き?」
「…?好きですよ?」
「じゃあオレと付き合って」
「な…っ!なにおっしゃってるんですか?!!」
「好きなんだ、君のこと。だから優しくしてるんだよ。全然気付いてくれなかったみたいだけど」
苦笑いしながら耳元で囁く言葉に、ようやく状況を理解して頭の中が真っ白になった。
昨日敦賀さんが言ってたことの意味にやっと気付く。
敦賀さん、全部わかってて…それでひとりになるなって…
自分の愚かさが情けなくて涙が込み上げてくる。
バカだ、私…敦賀さんの言うこと聞かないから…
「…なして…離してください…」
「本気だよ。君のこと、すごく好きになっちゃったんだ」
振りほどこうと身体を捩るのに、華奢な古賀さんは意外と力が強くて逃げられない。
そのまま首にちゅーっと吸い付かれて、私は自分の血の気がひいていくのを感じた。
…やだ…っ…敦賀さん以外の人に、こんな…こんなことされるなんて…
涙がぽろぽろ落ちて、力が抜けていく。
「…だ…いや…だめっ…!」
「いるの?付き合ってる人」
「…いる…いますっ、だからやめて!」
「誰?」
うなじにキスをしながら呟いている。
事務所に交際は伏せておくよう言われてる。敦賀さんの名前なんて出せないのに!
「誰って…誰でも…いいでしょう?もう離して…!」
「オレ以上の男じゃないなら諦めないよ。それとも、付き合ってる人なんて本当はいないとか」
「ちがっ…!!」
「俺だよ」
突然ドアが開いて、敦賀さんが入ってきた。
呆然としている私をちらりと見て、そして同じく唖然とする古賀さんから私を引き剥がして――
ぎゅっと腕を引っ張られた私は顔を敦賀さんの胸にうずめる格好になった。
なんだか力が抜けてしまって、座り込んでしまいそうになる。
「古賀君、そういうことだから。キョーコが欲しいなら、次から俺に言ってくれないかな?
もちろん渡す気なんかさらさらないけどね」
ひくひくとしゃくりあげて泣く私を車に押し込んで、敦賀さんは運転席に乗り込んだ。
「キョーコ」
「ごめ…っ…るがさ…ごめんな……」
わぁっと泣きだしたら引き寄せられて敦賀さんの胸に押し付けられた。
怒られるかと思っていたのに、上から優しい声が聞こえる。
「いいよ、わかってる」
「私…なにも…わかって、なくって…」
「いいんだよ、キョーコは悪くない」
「怖かっ…た…わかったんです、敦賀さんじゃなきゃイヤだって…!」
「――なにされた?」
敦賀さんの声が鋭くなる。
「……っ」
「キョーコ、アイツになにされた?」
「…首に…っ…首すじと、うなじ…」
「キスされた?」
何度も頷く。再び涙が込み上げてきて、それに気付いた敦賀さんが背中を撫でてくれた。
「許せないな」
「ごめ……」
「キョーコがじゃなくてアイツだよ。ったく油断も隙もない」
私の顎を掴んで、瞼にキスを落とし、頬を伝う涙をペロリと舐める。
「大丈夫だよ、忘れさせてあげるから」
敦賀さんは私の首筋に吸い付いた。
まるですべての箇所を埋め尽くすみたいに、丹念にキスを落としていく。
「イヤ?」
「んんん、イヤじゃ、ない…敦賀さんのキス…熱い、です…」
「忘れられる?」
「んぅ。も、忘れる…んー、でも…痕に、なっちゃうかも…」
「いいよ、キョーコは俺のモノ、ってマーキング」
ふふ、と笑うと、敦賀さんはますます吸いつきを強くしながらキスを下げていく。
胸元に降り、服の上から胸の突起のある場所を噛み付かれて私は思わず声を上げた。
「あっ!…だ、だめ…こんなとこじゃダメです、誰かきちゃいます…」
「構わないよ」
スカートの中に手を入れられ、下着の横から指を入れられ弄られる。
身体を伝い降りていく甘さと熱さ、そして誰かに見られてしまうかもしれないという恐怖と羞恥。
双方の快楽に苛められ、昇りつめていってあの感覚が迫って来る。
「――ぁあっ、つ、つるがさんっ!!」
「イきそう?」
「…ィくっ、イっちゃうっ!」
敦賀さんの視線を感じながら目をぎゅっと瞑ると、そこで指を抜かれた。
「や、ぃやぁっ!」
「おあずけ。帰ろう」
それからマンションまで、敦賀さんは頬を染めて足をすり合わせる私の様子を楽しみながら、でも決して触らずに運転して帰った。
「お願い…ね、敦賀さん、続き、して?」
「ダメだよ、外から見えたらイヤだろう?」
「構いません…お願い…ねぇ?」
「だーめ。おあずけ」
マンションに着いて、エレベータの中で敦賀さんの手をひっぱる。
「おね、お願い、ココ、触って…!」
「いけない子だな。カメラがあるだろ?映っちゃうからダメだよ」
「いいの!」
「よくないよ、もう少しの辛抱」
「もぉやだぁ…」
「いい子だから、我慢して」
敦賀さんは私の腰を引き寄せてお尻を撫でた。
その手が触れるところ、全てが熱くてたまらない。
部屋に入るなり敦賀さんの服を必死に脱がせた。
シャツのボタンを全部外して、ベルトを抜いて下は裸にした。
「キョーコ、そんな急がなくても時間はたっぷり――」
「やだ!もう待てないっ…意地悪ばっかり…!」
自分の服は脱ぐ時間がもったいなくて、着たままスカートの中から下着を落とす。
スカートをめくりあげて、廊下の壁にもたれて膝を立てた。
「お願い…入れて、早く、熱いの、欲しいのっ!」
「しょうがないな」
あそこから溢れて熱い蜜が足まで滴り落ちていくのがわかる。
多分私のそこはもうじゅくじゅくになってる。
でももう恥ずかしいよりも、脳天が痺れたみたいに麻痺して、ただ入れて欲しくて。
待ちわびてた敦賀さんのものが入ったときも、我を忘れて喘いでしまった。
「ああっ――!!!」
身長差から、敦賀さんはしゃがむようにして挿入したけど、そのあとの突き上げで私の身体は浮いたみたいに跳ね上がる。
同時に敦賀さんは私の身体を抱え上げて、私は首にしがみつく。
挿入感が奥まで染み渡って、言いようのない快楽に占領される。
それでも…もっと…もっともっと気持ちよくなりたくって、私はいやらしく腰を振ってしまう。
だって、こうやって揺するとすごく…気持ちイイんだもの。
これ自分の声?ってくらいにいやらしい声と、ぐじゅぐじゅって卑猥な音が耳をいたぶる。
「…――っ…キョーコ、激し、すぎだよっ」
「だ、だって…あ、ああっ、やっ、やだ、気持ち、い、んっ、はぁ、ん!…ぁあ、あんっ!」
敦賀さんもいっぱい腰を振って…あ、だめ、イっちゃう!
ううん、ダメ、じゃない、イきたいっ、来る、きちゃうっ…!待ってた、の…やっと…!
「あぁっ!つ、つるが、さん…!」
「…キョーコ、イきそう?」
素直にウンウンと頷くと、いきなり敦賀さんは身体をひいて抜いてしまった。
そして私を下ろし、そのまま壁に押し付けた。
「や、やだっ!!抜いちゃヤぁっ!!」
「ごめんね」
半泣きで必死に抗議する私に悪びる風でもなく、突然抜かれた穴に敦賀さんは自分のモノ――ではなく、
指を何本か入れてかき回し始めた。
「――っ!!ち、違う、やだ、つるがさんっ!」
「違わない」
「そうじゃ、ない、の!指じゃ、ぃやあっ!あ、あ!やだ、いっちゃうっ、から、ヤダッ!!」
「イっていいよ」
「イヤっ!違う、のぉ!つるが、さんの、あふい、おっき、の!で、イキ、たぃ…のにぃっ…!」
「んー…あとで、ね」
敦賀さんはものすごく…早い動きで、私のそこをかき回してる。あ、も…いっちゃう…!
「すごいな…飛んでるよ、いやらしい液」
「…だ…めぇ…っ―――!!!!」
戦慄に似た衝撃が身体中を走って、立っていられなくて崩れ落ちた。
すわりこんだ私を敦賀さんは強引に立たせて、後ろ向きにして壁に押し付けた。
壁に手をつけて立とうとするけど、ほんとに力が、入らない…
それでも腰を支えられて、座り込むことも許されなくて。
「…つるがさん…ダメえ、立てない…」
「熱くて大きいのが欲しいんだろう?」
「だめっ、まだ…待って!」
「待てない」
あああっ!!もぉ…なんでこんな、いじめっ子なの…!
「…っ…すごい、締まってるし、ビクビクうねって巻きついてくるよ…
キョーコ…すごく淫乱、だね…」
恥ずかしいこと言われて、顔がカァっと熱くなる。
敦賀さんはゆっくりと腰を回す。
立っていられなくて崩れそうになるのに、手がズリさがるとますますお尻を突き出してる格好になって。
それになにより…また気持ちよくなってきて、敦賀さんの動きに合わせてしまう。
敦賀さんの右手はしっかり私の腰を掴んで、回す動きから今度はズンズンと突き始めた。
身を打ち付ける音が廊下に響く。
「だ、ダメっ、つるが、ひゃん、もぉ、無理っ!さっき、…ったのに、も、イけ、ない、あんっ!」
「大丈夫だよ、キョーコ、は、いやらしいから、何度だって」
「ああっ!や、やだ!んん、気持ち、よすぎて、狂っちゃ、うぅん!」
「…んっ…」
「あ、やだっ!また、き、ちゃう!もぉ、い、イキたい、よぉ!イって、いい?もう、いい…っ?」
しまった、言わなきゃよかった!
そう思ったときはもう遅くて、私の言葉を聞いて敦賀さんはまた意地悪に動きを止めた。
「もぉ…ほんとに…もうだめぇ……ぉねがい、イかせて…イきたい、のっ…!
なんでも、する、からっ…なんでも、言うとおり、する、からぁぁ…」
泣きながら懇願する私の背中を指で這わせながら、敦賀さんは楽しそうに言う。
「なんでも?」
「なんでも、する……だから、はや、く…」
「もうあの男に近づかない?」
「え??」
あ、すっかり忘れてた…まさかそれで意地悪してたの…?
「近づいてなんか…ああっ!!」
大きく突き上げて、敦賀さんはまたじっと待ってる。
「だってぇ、お仕事…」
「仕事以外で」
「近づかない、です、だから、おねがい…続き、してぇ…」
「ほんとに?」
「ほんと、ほんと、です。欲しいの、つるがさん、だけ!つるがさんの、欲しい、の!!」
「んー…心配だけど…」
「早くっ!!!」
「わかったよ」
「ああぁあっ――!!!」
敦賀さんはようやくお願いをきいて、昇りつめるまで激しく苛めてくれた。
今までにないくらいさんざん焦らされてたぶん、後から思い出すと顔から火が出そうなくらいに乱れてしまった。
「つるがさ……」
「ん?」
「ベッド…連れてって…」
「あっちでもう一回って意味?」
「ちがいますっ…もう無理ぃ…」
「無理じゃないよ。なんでも言うこと聞くんだろう?今夜は2桁にでも挑戦しようか」
「…怒ってるんですか?」
「キョーコには怒ってない」
私に怒ってなくても…その矛先が私に向かうなら同じだと思うんですけど。
抗議しようかと思いつつ、でももう一回してもいい、かな…なんて思えてきて、
素直にベッドまで運ばれることに――ううん、そのあとも、素直に言うことをきくことにする。
「私…今夜はつるがさんのおもちゃ、ですね…」
「好きに遊んでいいってことかな?」
にっこりと微笑んで確認してくる敦賀さん。
そうです、と言葉で認めてしまうとさらに苛められそうな予感がして、
私はとりあえず黙ってコクンと頷いた。