―――夜も深まり、二人は照明を落とした寝室で既にベッドに入っていた。
甘えて、蓮に寄り添いながら談笑するキョーコ。いつもならこの流れでエッチが始まるのだが……
「ごめんキョーコ、今夜は疲れてるから……休んでもいいかな」
申し訳なさそうに申し出る蓮。
勿論、そんな申し出に拒否してワガママを言うわけがなく、キョーコは快諾する。
むしろ蓮の疲労に気付きも出来なかった自分を責めた。
「ごめんなさい!お疲れなのに気付きもしないで、私ばっかり喋ってしまって……!」
「いや、いいんだ。それより、お願いがあるんだけど。聞いてもらえるかい?」
ベッドの中、キョーコは向かい合わせの恋人の発言にきょとんとする。
「お願い、って?なんですか?」
「いいから。ね、いい?」
「?……よくわからないですけど、いいですよ?」
キョーコの返事を聞いた瞬間、蓮の口がにんまりと歪んだ……ように見えた。
「ふぁぅっ」
そのように見えた気がした蓮の笑みの意味を、考察しかけた時だった。
蓮と正面向かい合わせになっていた体を180度ひっくり返され、蓮に後ろから抱きつかれる格好にされると、
改めて蓮の“お願い”を聞かされるのだった。
「ちょっ、敦賀さん!もう寝るんじゃ……」
キョーコが声を上げたのは他でもない、蓮の右手が何の前触れも無しにキョーコの股間に伸びたからだった。
「お願いだから、今日はキョーコのココに入れたまま……寝させて?」
「……なっ、な、な、……なにを言ってるんですかぁぁぁ!?」
急な“お願い”に軽くパニック状態になるキョーコ。
「いいでしょ?キョーコも、欲しくないの?俺の……」
言いながら、既に硬直しているソレをキョーコの背後から押し付け、熱を伝える蓮。
毎晩のように与えられるそれの感覚が蘇り、キョーコはかっと頬を赤く染める。
わかりやすい―――キョーコの背に気付かれないように顔を綻ばせる蓮。
キョーコの頬の色を承諾の意と読み取り、さっと下着ごと、パジャマのパンツに手を掛けて引き下ろした。
「ちょっ、敦賀さん!ダメですってばぁ……!」
「ダメ?……どこが、かな?」
くちゅ……
いつの間にか引き出されていた蓮のソレが、露になったキョーコの股間に擦り付けられて音を立てた。
「なぁに?このヌルヌル?……ねぇキョーコ、……ダメ、かな?」
ぴったり閉じられたままのキョーコの股間の付け根部分を往復する、ソレの立てる水音が次第に大きくなると、
同時に蓮とキョーコの吐息も熱く変えていった。
「……ゃぁっ……、や、めてぇっ……」
口ではそう言うものの、股間を往復するだけ……要するにスマタ状態のソレに、キョーコは十分に感じさせられていた。
「ダメ?本当に……?」
そう言いながら、蓮は先ほどより強く、キョーコの下のお口に自身を押し付け、ほんの僅かに出入りを始める。
「んぁっ、ダメ、だってばぁ……つ、つるがさぁ……ん……!」
「でもキョーコのココは、そんなこと言ってないよ?ほら、この音、なぁに?」
「ゃんっ、つるがさ、ず、ずるぅ……っ」
はぁはぁと息を荒くさせるキョーコを愛しく感じる。すぐに自身を奥まで貫き、強く抱きしめたまま激しく後ろから犯したい……
そんな思いを辛うじて抑え、蓮はゆっくり、ゆっくりと密着度を高めながらキョーコの奥を目指して股間を押し込んでいった。
「んぁ、はぁぁぁ……んんっ……!」
キョーコの体が、悦びに細かく震える。これからの注挿を期待して、膣は無意識に蓮を締めて待った。
だが、奥まで入ると蓮はただ体を密着させるだけで動きを止めてしまう。
「つ、敦賀、さん……?」
どうして動かしてくれないの……?そう思い、背後の恋人を探すように問いかける。
しかし返ってきたのは、キョーコの期待通りの快楽ではなかった。
「最初に言ったでしょ?『入れたまま寝させて』って。もう忘れたの?」
「えぇっ!……でも、その……」
「?なぁに、そんなにしたいの?キョーコって、そんなにエッチが好きになっちゃったんだ?」
そんな恥ずかしい言い方をされたら、キョーコは肯定できなくなる。
わかっていてこの言い草……この、いじわる。
「じゃあオヤスミ、キョーコ」
そう言うと本当に何の動作も無くなって、ただキョーコと繋がった状態はそのままで……蓮は静かになってしまった。
「…………」
「……………………」
「………………………………」
酷い、なんて意地悪な人なんだろう。こんな状態でどうして寝ることなど出来るものか……
そう思うもののどうしようもなく、そのままで耐えていたキョーコの耳に
「…………くっ」
聞こえるはずのない声が聞こえた。
「つっ、敦賀さん!起きてますね!?」
「いや、だって寝てられないよ。……キョーコ、そんなにしたいの?」
「え?いえ、そんなこと……」
「じわじわ濡れてきてるし、細かく腰も動いてるよ……気付いてないの?キョーコ」
「そっ、そんなワケっ!」
「そんなわけない?なら、触ってごらん?」
蓮はキョーコの手を持って、キョーコ自身の股間――蓮のソレが入ったままのそこ――に導いた。
「やっ!やぁだ……っ!」
そんな恥ずかしいところを触らされている事実、それに慣れない熱い感触……キョーコが拒否してしまうのも無理はなかった。
「ほら、凄く濡れてるね……もうトロトロだよ」
「もうやだぁっ、意地悪しないで、敦賀さんっ……」
「意地悪してるつもりは無いんだけどな。……ねえキョーコ、どうしてほしい?……言って……」
キョーコの指まで操って、繋がったままの蓮にキョーコの指をそろりと這わせる。
「わかるよね、どうしてココがこんなに濡れてるのか……さぁキョーコ、どうしたいのか言ってごらん?」
顔を浮かせて、なんとかキョーコの表情を覗き見ようとする蓮だが、その表情はあまり見えない。
ただ快感に必死になって耐えようとしている、ということは読み取れる。
「このままでもいい?寝てもいいの?キョーコ?」
「んはっ……ゃぁ……っ」
問いかけながら股間を軽く揺らすと、可愛い鼻声が漏れた。
「どうしてほしい?気持ちよくしてほしいの?」
「……ぃゃ、は、恥ずかし……」
「いいの?ココ、もっとグショグショにしてほしいんじゃないの?イキたいんじゃないの?」
「ゃぁ、も、許してぇっ……!」
「何を許すの?キョーコが言ってくれないと、俺はこのまんま寝ちゃうよ?」
半泣きのキョーコの声が堪らなく愛しい。自分から始めたことだったが、自分自身をすら抑える努力が必要だった。
「……し、……し、て……!」
「?なに?キョーコ、何をして、って?」
「ひぁっ……!」
期待から、思わずキョーコの中で蓮自身が反応してしまった。
「……なに?何をしてほしいのか、キョーコが俺に教えて……?」
この間に蓮がキョーコに与えた刺激は、キョーコのソコに向けてのそれだけだった。
他の愛撫……手や指、唇や舌などから普段前戯として与えるような刺激は、一切与えていない。だから蓮自身も、もう限界に近かった。
早くキョーコを抱きしめたい。様々な角度から攻め立てたい。泣きながらイカせたい。
しかし、キョーコからはっきりとした言葉で要求を聞けるまでは何もしない……今日はそういう(自分)ルールなのだった。
「お、お願い……っ、つるがさん、エッチなこと、してぇっ……お願い……!」
「……エッチなことって?まだダメだね……もっとハッキリお願いして?」
「ぁぁん意地悪ぅ!つ、つるがさんの、コレで……いっぱい、シテほしいのぉ……っ」
コレ、と言いながら、繋がったままの蓮のそれに指先を伸ばし、恐る恐るキョーコの指がそれを撫でた。
我慢を続けていた蓮が、先に限界を迎えることになった。
「キョーコっ、いいよ、してあげる……!」
それまでただ横になって繋がっていただけだった蓮がとうとう身を乗り出すと、
キョーコの右足を持ち上げ大きく股を広げて、下から勢いよく突き上げた。
「ひぁぁあああっ!!あぁっダメぇ、すぐイッちゃいそ……!」
「いいよ、何度でもイッていいよ、イッてキョーコ!」
右足を大きく広げ、高く上げた状態で、後ろからガシガシと激しく突き上げる。すぐにキョーコの一回目の絶頂が襲ってきた。
「あぁっ、イク!イクぅっ、んぁ、ぁあっあぁあっ……!!」
「くぅ、キツっ……」
昇りつめたキョーコから強い刺激を与えられ、蓮も危うく吐精しそうになったが何とか耐えた。
そしてすぐに体勢を変え、今度は向かい合わせの正常位に。
「キョーコ、好きだよ……」
言いながら、休むことなくすぐに奥深くへ打ち付ける蓮。
「ひぃあぁぁっ!!ま、まってぇ、つるがさっ……!」
「だーめっ」
「あっ、あぁぁっ!い、イッたばっかりなのに、ダメっ!またすぐ来ちゃう……!」
「いいよ……たくさん感じて、たくさんイッて、キョーコ」
「ひぁぁっ、らめっ、つるがさん……イッちゃうよぉ!イッちゃ……!」
「あ、待って、キョーコ」
昇りつめる途中で“待った”をかけられ、キョーコはそこで我慢をしなくてはならなくなった。
強い快楽から身を震わせ、両目に涙を溜めて酷い仕打ちをする蓮を見る。
「ど、どうしたんですか……?」
「キョーコ……つるがさん、じゃなくて“蓮”だよ。……蓮って、呼んで。
イク時は、俺の名前を呼んで、イッて」
ボッと火が点いたようにキョーコの顔が真っ赤に染まるのを見ると、蓮は愛しそうに目を細めて彼女の唇にキスを落とす。
優しく律動を再開して、再度キョーコに可愛いお願いをした。
「呼んで、俺の名前……“蓮”って、言って?キョーコ」
「あっ、はぁん、んぁぁ……っ!」
絶頂を一度は我慢したものの、いまだ大きな快感の渦の中にいて、更に再開された律動。
だらしなく開かれた口元から漏れ出るのは嬌声ばかりだというのに、無茶な願いを……だが、これ以上なく甘い“お願い”。
「ぁっ、ぁあぁっ……っれ、……れ、んんっ……!」
恥ずかしさに歪むキョーコの顔。
湧き上がる快楽を拒否することもできず、愛しい人の顔を正面に見据えながら名前を呼ぶことすらままならない。
「っは、れ、ん……、れ、ん……!ぁぁあっもぉダメぇ、イッちゃいそぉ……!」
言葉や表情だけではなく、蓮に与えられる刺激からもキョーコが達しそうであることが感じ取れる。
蓮はキョーコに軽くキスを落とすと、唇を付けたままでキョーコに囁いた。
「イッて、キョーコ。イッて……!俺もイクから、一緒に……!」
「あぁっ……!激しい、蓮、激しいのっ……!イク、イッちゃうよ、連!イクぅ、イッちゃうう……!!」
「あぁっ!キョーコ!ぁ、ぁあ……!!」
二人は達する直前、唇を深く交わらせて……同時に達した。
しばらく二人は余韻を楽しみ、どちらからともなく他愛ない会話をしていた。
「結局、しちゃった……もう、敦賀さ……あ、や、その……“蓮”……」
行為中は夢中で呼んだ名前だったが、こうして静かになったところで言うと改めて照れくささを感じさせた。
再び顔を赤くさせて俯く彼女を穏やかに見つめ、頬の感触を楽しむように指先で撫でて愛でる蓮。嬉しそうに微笑んで、囁きかける。
「いいんだよ、無理しなくても……急がなくていい。俺はずっと傍にいるから……」
キョーコの感動の眼差しと目が合うとキスを降らし、ぎゅっと抱きしめ目を閉じる。
まるで世界にはなんの不安もないかのような、夜が終わろうとしていた。
「……ところで敦賀さん、疲れていたんじゃ……?」
「……よく眠れそうだから結果オーライってことで……」
最愛の君を抱いて、ただ眠れるわけがないんだって……君はわからなくてもいいけどね。