「敦賀蓮」は自分の部屋で、キョーコを目の前にして戸惑っていた。  
 
記憶は撮影現場の騒然とした場面から始まる。  
眼鏡のマネージャーの話によると、俺は撮影を見学に来ていたマリアという子をかばって、  
倒れてきたセットの一部の下敷きになったらしい。  
幸いたいした重さではなかったため怪我はなかったが、俺にはそれ以前の記憶がなくなってしまった。  
俳優という仕事に違和感は覚えないものの、なにしろ周囲の人間の顔と名前を思い出せない。  
とりあえず今日は帰ることになったが、始終心配そうにオロオロしている共演者がひとりいた。  
 
少女、と言っていいだろう。幼い顔立ちをした純粋そうな子。  
マネージャーがこっそり俺に耳打ちした言葉を信用するなら、彼女は俺の恋人らしい。  
 
嘘だろう、まだ子供じゃないか!  
俺はロリコンの変態野郎か?そんなわけがない。  
 
そうは思うのだが、実際彼女は俺をタクシーに乗せると、慣れた様子で住所を伝え、  
マンションに着くと自分のバッグから鍵を取り出して開けた。  
 
部屋に入ったが、不思議とこの部屋のことは覚えている。  
自分の知っているこの部屋は、もっと冷たい空気だった気がするが。  
 
「キョーコちゃん…だったよね。社さんに聞いたけど、君、俺の恋人なんだって?」  
 
ソファに座りながら、帰るなり食事を作ると台所に向かった彼女に話しかける。  
 
「あの…一応そう、みたいです…すみません…」  
「一応、って?俺、君のこと適当に扱ってたとかそういうことかな」  
 
そういうと彼女は勢いよく振り向き、包丁を握り締めたまま力説し始めた。  
 
「とんでもない!そんなことありません!  
 敦賀さんはいつだって私に優しくて、そりゃあもう割れ物を扱うみたいに大事にしてくださってます!」  
「わかった、わかったよ。そんな包丁握ったまま叫ばなくたって」  
 
必死な彼女が可笑しくて思わず吹き出すと、彼女はハッと我に返り、真っ赤になる。  
 
「私ったら…すみません、必死になっちゃって」  
「いや…かわいかったからいいよ。君、おもしろい子だね」  
「いつも敦賀さんにそうやって笑われてるんです…って敦賀さんに言うのってなんだかヘンですね」  
 
くすくす笑う彼女が可愛らしくて、思わず近づいて抱きしめたい衝動に駆られた。  
そんなことを思った自分自身に驚く。  
 
なんとなくだが…自分がこの子を好きだったってのがわかるような気がしてきたな。  
 
じっと見つめていると、彼女は頬を桃色に染め、動揺したように背を向けて食事の用意を再開した。  
 
「じゃあどうして?」  
「え?」  
「さっき、どうして"一応"なんて言ったのかな」  
「ああ…だって…敦賀さんはとっても素敵な方です。  
 なんで私なんかとお付き合いしていただいているのか…いつか醒めちゃう夢なんじゃないかって」  
「それで"一応"?」  
「ええ…あ、これ敦賀さんには内緒ですけど、本人に言っちゃったら意味ないですね」  
 
こちらを振り返り、照れて笑う彼女を見たら、自分の心臓がトクン、と鳴るのが聞こえた。  
 
これは、恋、か?  
 
まさか、こんな少女みたいな子に、しかも記憶をなくしても恋をしているのか…?  
喉がカラカラに渇いてきて、言葉がうまく出てこない。  
 
「敦賀さん?気分でも悪いですか?」  
 
どうしよう、熱かなぁ、と呟きながら、自分の額と俺の額に手を当てている。  
その心配そうな表情も仕草も、すべてが俺の鼓動を早めるらしい。  
 
まったく…なんなんだこの子は!  
 
動揺した俺は、疲れたからシャワーを浴びるよ、と言って慌てて離れた。  
 
なんとか落ち着こうとシャワーを浴び、髪を拭きながら出てくると、彼女はソファに座って電話していた。  
相手はどうやらさっきのマネージャーらしく、明日の予定を確認している。  
 
「ええ、変わりありませんよ。あ、でもちょっとお疲れみたいで…  
 …無理もありませんよね、いきなり知らない女とふたりっきりにされて…」  
 
よく見ると小さく震えている。  
 
「あ…す、すみません、ヘンなこと言っちゃって。――いえ、平気です!大丈夫です…ええ、じゃあ明日」  
 
そっと横に回ると、声とは違って彼女はぽろぽろと大粒の涙を流していた。  
 
「どこが平気なんだか…大丈夫?」  
「わ、敦賀さんっ!!やだっ、違うんです、これはその…」  
「ごめん、俺のせいだね…」  
 
隣りに座って肩を引き寄せる。  
それだけのつもりだったが、健気な彼女に切なくなって、思わず向き直って抱きしめてしまった。  
 
「敦賀さん…っ…思い出したんですか…?」  
「いや?どうして?」  
「だって…いつもみたいだから…」  
「そうか。確かになんだか懐かしいかんじがするよ。君の髪の香りや、君の小さな身体の温もりとか」  
「そうですか?それは…嬉しいです」  
 
少し身体を離して顔を見つめると、彼女は嬉しそうに微笑んでいる。  
自分がこの少女に恋していたということに、今さらながら確信を持ってきた。  
 
「他には?」  
「え?」  
「俺、他にどんなことしてた?」  
「他にはって…」  
 
彼女は今度は首まで真っ赤にして俯いた。  
 
ああ…そうか、恋人なんだからそういうこともしてたのか、当たり前だよな。  
 
真っ赤になっている彼女を見ていると、自分がどんな風に啼かせていたのか、  
彼女がどんな顔をして喘ぐのか、たまらなく知りたくなってきた。  
 
敦賀蓮は紳士かと思っていたが…こんな黒い面があったのか。  
内心苦笑しながら、試しに手をスカートから覗く彼女の太ももに這わせてみる。  
 
「こんなこともしてた?」  
 
彼女はビクン、と反応し、潤んだ瞳で困ったように俺を見上げる。  
下着の中に手を入れて花芯を撫でてやると、いとも簡単に潤ってきた。  
その下で待つ熱い口に指を差し入れてかき回してやると、  
彼女は耐えるように小さく声を上げながら絶頂に達した。  
愛液の垂れる指を抜いて彼女に無理矢理見せて、ペロリと舐める。  
 
「いやらしいんだね、キョーコちゃんって」  
「ちがっ…敦賀さんが…敦賀さんがこんな身体にしたんです…」  
「俺のせい?だってすごいよほら、びちゃびちゃだ」  
「敦賀さんの意地悪…!」  
「ごめん。だって記憶がないときは、同じ事をすると思い出すって言うだろう?」  
 
適当に言ったことだったが、彼女は、そうなんですか?と言って何か考え込んでいる。  
 
「どうした?」  
「敦賀さん、ちょっと…じっとしててくださいね」  
 
そう言うと、彼女は前に回り、カチャカチャと俺のベルトを外し始めた。  
 
「ちょっとキョーコちゃん?!」  
「いいから…脱いでいただきますね」  
 
彼女は驚いている俺を無視して下半身をさらけ出させると、  
まだそれほど力を備えてはいない俺のモノを愛撫し始めた。  
先のほうに軽く舌を這わせ、チュパチュパと音を立てて吸い付き、下から上へと舐め上げる。  
そして徐々に勢いを増してきたのを見ると、奥まで咥え込んだ。  
 
「んっ、んっ…んんっ…」  
 
愛撫自体もたまらないが、一生懸命な様子に興奮が増してくる。  
不本意ながらもすぐに放出してしまいそうで、クッ、と思わず声を上げると、彼女は口を離してしまった。  
 
「まだダメですよ、我慢してください」  
 
そう言うと、立ち上がってスカートを脱ぐ。  
ショーツに手を伸ばすのをじっと見ていると、「見ちゃダメです…」と手を止め赤くなる。  
 
「全部見てないと、思い出せないかもしれないだろう?いいの?」  
「そんな…!そんなのイヤです、けど…」  
「じゃあ見せて」  
 
彼女は嫌がりながらも明るい照明の下でショーツを脱ぎ捨て、俺の上に跨ってきた。  
 
「驚いたな。いつもこんな風に自分からしてるの?」  
「いつもじゃ…時々、です…敦賀さんが喜ぶから…」  
「ここからどうするの?教えて」  
 
促すと、肩に手を置き、ゆっくりと自分の中に埋め込んでいく。  
 
「んっ、あっ、あんっ」  
「どんどん入ってくね。すごくいやらしい顔してるよ」  
「あっ、やだ見ない、でぇっ」  
「奥まで入ったね…」  
 
焦らされたようで、我慢できずに腰を突き上げる。  
 
「あっ!や、やだっ、いつもは、敦賀さん、動かないんですっ…!動いちゃ、ダメっ」  
「嘘だろ。騙されないよ、こんなの我慢できるわけがない」  
 
腰を揺らしてやると、ぎゅ、と彼女の内側が締め上げる。  
 
「…っ…すごいね、キョーコちゃん…締め付けて…っ」  
「だって、こうすると敦賀さん、上手って褒めて、くれる、からぁ…」  
「上手だよ…すごく、気持ちいい…イきそうだっ…」  
「いいですよ…?イって、敦賀さん…!お願いっ、んっ、あっ…」  
 
もう限界だ。我を忘れて滅茶苦茶に突き上げ続ける。  
 
「あっ、ん、あっ、やだっ、き、きちゃぅっ!あんっ、あぁっ、あっ!あぁっ!」  
 
彼女の声に煽られて…頭が真っ白になって、思わず彼女の――その名前を読んだ。  
 
「…っ…キョーコ…!!」  
「あぁっ、んんーーーーっ!!!」  
 
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二人で達した後、息を荒げる彼女の乱れた髪を整えてやる。  
 
「大丈夫?」  
「…はい…敦賀さん…思い出したんですか?今…私のこと、キョーコ、って…」  
「ああ、思い出したよ。ごめんね、泣かせて」  
「ほんとに?よかった!」  
 
笑顔で胸に抱きついてくるキョーコが改めて愛しい。  
 
「心配かけて悪かったね。だけど」  
 
体勢を入れ替えて、キョーコをソファに押し付ける。  
 
「"一応"ってのは聞き捨てならないな」  
「あ、あれはっ…!」  
 
言い訳しようとするキョーコの口を塞ぐ。  
 
何度記憶を奪われても、自分はこの子に恋をするのかもしれないな…。  
 
そう思いながら、俺は再びキョーコの温もりを味わうことにした。  
 

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