今日は、俺と蓮がW主演で撮った映画の打ち上げパーティ。  
打ち上げパーティとは言っても、主催しているのは蓮の事務所の社長でなぜかハロウィンパーティ。  
 
第二次大戦で人生を儚く散らした若者たちを主題にした映画。  
そして…ハロウィンパーティ??  
 
「一体なんの関係があるんだ?」  
「関係なんてないですよ。ただお祭り騒ぎが好きなんです、あの人は」  
 
蓮はため息をつきながら衣装をあさっている。  
お好きなものをお選びください、と、妙な女に蓮と二人、衣装室へ案内された。  
(すでに仮装していたが、社長の付き人の一人らしい。)  
ぬいぐるみのかぶりものや有名なSF映画の衣装に始まり、眼鏡やカツラ、付け髭などの小道具にいたるまで、  
とにかく仮装には困らないものが見事に何列にも並んでいる。  
 
「すごい、本格的な仮装だな、こりゃ」  
「うちの社長は遊びには本気でつぎ込むんです。俺はこれにしますよ」  
 
見ると蓮はドラキュラの扮装セットを手に取っている。  
 
「そのキバのついたリアルなお面もすっぽりかぶるのか?暑くないか?」  
「大丈夫ですよ、会場はクーラーが少し入ってましたし、第一顔が見えないほうが気がラクです」  
「なるほどな、そりゃいい考えだ。お前は抱かれたい男ナンバーワンだ、こういう場じゃ囲まれて大変だろうしな」  
「古賀さんだって同じでしょう」  
「俺は適当に愛想振りまいて逃げるから平気だよ。お前はいちいち相手してやるから囲まれるんだ」  
 
談笑しながら俺も蓮の隣のフランケンシュタインの扮装セットを手に取り、  
着替えて最後にすっぽりと傷だらけの顔の面をかぶった。  
 
立食形式の会場は結構な賑わいで、俺は蓮と二人、酒を片手に話していた。  
蓮とは数年前に共演して以来、仕事で一緒になればたまに飲みに行く仲だ。  
俺のほうがひとつ年上だが、仕事にも真剣で、なにより気が合う。  
と言ってもこの1年近く、ほとんど会ってはいなかったが。  
 
「ちょっと酒が飲みにくいが…顔が見えないから話しかけられなくていい。  
 だいたい俺はこういうパーティは苦手なんだが」  
「よく言いますね、毎晩のように合コンしてる人が」  
「最近はほとんどやってないよ、なんか飽きた」  
「へえ、それは驚きだ」  
 
蓮は無表情なドラキュラの面で表情はわからないが、わざと棒読みの反応を返した。  
 
「信じてないな」  
「信じるわけないでしょう、毎晩飲み歩いてたくせに」  
「確かになあ…。まあ俺も若かったんだ。  
 今はそういう遊びより、大事な女がひとりいればいい、って感じなんだよ」  
「ああ、わかります」  
 
さっきの棒読みとは全く違う言い方に俺は驚いた。  
蓮はびっくりしている俺には気付かず質問する。  
 
「いるんですか?」  
「え?」  
「大事な女性、ですよ」  
「あ、いや、なかなかね」  
「そもそも古賀さんの好みの女性がわかりませんね」  
「俺もわかんねえ」  
「なんですか、それ」  
 
アルコールも効いてきたのか、蓮と俺は声をあげて笑った。  
 
「で、おまえは?」  
「いますよ、大事な子が、ひとり」  
「へえ…」  
「変ですか?」  
 
スネているような声色に吹きだしそうになる。なんだ、こいつ照れてるのか。  
 
「いや、変じゃないよ。ただ女に執着しないヤツだと思ってたから驚いてるんだ」  
「ああ…そうですね、確かに。自分でも驚きですよ、執着しまくりで」  
「そりゃすごいな。ぜひ今度紹介してくれよ」  
「いいですよ。なんなら今日、ここででも」  
「今日ここで?!来てんのかよ!」  
「ええその予定ですけど…まだ来てないのかな」  
「芸能人ってことか。しかし来ててもこれじゃ向こうは見つけられないだろ」  
 
話していると、少し遠くの入り口付近に知った顔が見えて思わず手を上げた。  
 
「あ、手を上げても顔が見えないからわかんないか」  
「誰ですか?」  
「この前ちょっと仕事で共演した子。まだ高校生くらいの新人なんだけど、これがしっかりした子でさ。  
 しかも素直で可愛くて、まるで妹みたいで。京子ちゃんって子なんだが、知ってるか?」  
「……ええ」  
「え?なんだ、知ってんのか」  
「知ってるというか」  
「あれ?こっちに来る」  
 
近づいてきた彼女は、ウエストをちょっと絞った真っ白でふわふわの丈の短いワンピースを身につけ、  
背中にはこれまた透けるような白いキラキラ光る羽をつけている。  
髪もくるくる巻かれたウィッグをつけていて、メルヘンの世界からやってきました、って感じだ。  
 
あまりに可愛らしくて、こんなに女の子らしい子だったのか、と俺は柄にもなく見惚れていた。  
顔が見えないのをいいことに思う存分凝視していたわけだが、彼女はまっすぐ俺たちのほうに近づいてくる。  
そのままどんどん近づいてきて、見ているのがバレているのかと焦る俺の前でピタリと歩を止めた。  
俺に軽く会釈をした彼女は蓮の方へ向き直る。  
 
「敦賀さん…それじゃお食事できないでしょう?」  
「あー…でもほら、ストローがあるから飲めてるよ」  
「それ、お酒じゃないですか!何も食べないでお酒を飲むなんて、身体に良くないです」  
 
おいおい、なんだその会話は…  
蓮が女の子に怒られている様子は貴重で最高に面白いが――  
 
「蓮、まさか…」  
「ええ、彼女がさっき話してた"ひとり"です」  
「なんのお話ですか??」  
 
彼女の腰に手を回し、内緒の話だよ、と耳元で囁いている蓮。こいつ、顔が見えないから堂々と。  
こんな蓮は見たことないからもう少し観察してみたいが、それより…  
 
「あのー京子ちゃん、質問がーーー」  
 
話に割り込んだ俺、いやフランケンシュタインのほうを見た彼女は困った顔で首をかしげている。  
 
「キョーコ、古賀さんだよ」  
「え!あーなぁんだ!こんばんわ、そんなおっかない顔だから全然わかりませんでした」  
「いや、蓮も同じだろう!なんでこいつだってわかったの?」  
「へ?だって、どこからどう見ても敦賀さんじゃないですか」  
「顔見えないじゃないか!」  
「だって背高いし」  
「俺と同じだよ!」  
「それはそうですけど。うーん…でもわかりますよね?」  
 
ね?って言われても…普通わかんねーだろ?  
 
「キョーコ、それは妖精さんかな?」  
「はい!ティンカーベルです、ピーターパンのお話の。敦賀さんに見てもらおうと思って」  
 
彼女はミニのスカートの裾をつまんで、くるりと一周まわり、  
蓮のほうを見て頬をピンク色に染めて、えへへ、と照れて笑った。  
 
「か、かわいい…」  
 
思わず呟いたら、ドラキュラから殺気を感じた。  
 
「おいおい、そんな怒んなよ…俺はそろそろ会場一回りして挨拶してくるから、二人でゆっくりしとけよ」  
 
えー、もう行っちゃうんですかぁ?と可愛く首を捻る彼女。  
その言葉に再びドラキュラ閣下の殺気を感じて、俺は逃げるようにその場を去った。  
 
 
二人に告げたとおり、会場を一周して関係者や共演者に挨拶をしてまわり、  
そろそろいいだろ、と人ごみに紛れて会場を出た。  
 
さてどうするかな、蓮にもう一度電話してみるか。  
 
とりあえず誰もいないところに座りたくなったが適所が見当たらず、なんとなく衣装室へ戻ってきた。  
衣装だらけの部屋の一番奥まで行って、すぽっとかぶっていた顔を取って床にペタンと座り込む。  
 
「あー疲れた」  
 
ここじゃタバコは吸えないか…とぼんやり考えていると、ドアが開く音がして誰かが入ってきた。  
 
「ちょ…ちょっと敦賀さんっ…!」  
 
京子ちゃん?…と蓮か。  
バタン、とドアの閉じる音、そして、ダン、とぶつかるような音がした。  
 
「だ、だめっ…ダメですってば…っ…んっ、んーーっ!!」  
 
腰を上げかけた俺だったが、彼女の焦った様子の声が普通ではなさそうでタイミングが遅れる。  
声をかけようか迷っているうちに、彼女の呻き声に鼻から漏れる息が混じり始めた。  
 
「…んっ!ぅんんっ…んーーっ…ん…」  
 
…キスしてんのか、ったく…  
今ならまだ笑い話で済むな、と思った俺は、声をかけようと口を開いた。  
が、同時にちゅぱちゅぱと激しく吸いあう音に変わり、俺はすっかり話しかけるタイミングを逃してしまう。  
しょうがない、思う存分キスして去ってくまで待ってやるか。  
 
そっと座りなおした俺の耳に、彼女の甘い呻き声と、服が擦れ合う音がはっきり響いてくる。  
京子ちゃん、こんな色っぽい声出すんだな。  
蓮がそうさせたってやつか?  
 
「んっ、ん、んん…んぁ、ま、待ってつるがさ…ん!」  
「…なに?」  
「なにって…ダメです、帰りましょう?」  
「どうして」  
「だって…人がきちゃう」  
「こないよ。みんな衣装着たまま帰るから、ここには戻ってこない」  
「でもっ」  
「固くなってるよ、ココ」  
「ああっ!」  
 
マジかよ!蓮、おまえまさかここで最後までやる気じゃ…  
 
「だ、だ、だめっ、それ以上」  
「これ以上って?ココとか?」  
「ぁあんっ!」  
「熱くなってるよ。それにこっちも…びしょびしょになってる」  
「ぁんっ!あ、あ、ぁあ、やだ、舐めちゃ、ゃあっ、あっ」  
 
京子ちゃん…その声は目に毒…じゃないや、耳に毒…  
これ以上聞いていられない、いや聞いてちゃいけない、と思うが、  
しかし彼女の声がたまらず色っぽくて、もっと聞いていた…いやいや、  
これ以上聞いてるとガキみたいに興奮しそうだ!クソ…  
 
俺の悶絶も知らずに彼女の声は高まり、さらにくちゅくちゅと蓮が舌でたてているであろう水音まで加わる。  
 
「…ん…やめて欲しい?」  
 
はぁはぁと息遣いだけが聞こえる。  
 
「言葉で言って」  
「…やだっ…やめないで、ください…もっとぉ…んんーーーっ…」  
 
口を塞がれたのか、喘ぎが再び呻きに変わる。  
が、そのせいでますます水音が大きく聞こえるようになった。  
 
くちゅ、くちゅ、ぐちゅ、と淫らな音と共に、ん、ん、と彼女の声。  
そこには既に拒否の意志は全く汲み取れない。  
むしろ蓮の行為を助長しているのだろう、かき回す音が早まっていく。  
 
「んぁっ、あ、あ、あぁっ、あんっ、やぁ、あっ!ぁああぁっ…!!!」  
 
ずるずると…崩れ落ちたか。  
 
「大丈夫?立てる?…車まで抱いて行こうか」  
「…だ…やだぁ…」  
「じゃあ、立てるまでここにいよう」  
「やだ…ちがっ、ちがう、の…っ!」  
「どうした?」  
 
蓮の声は終始優しい。聞いたことないような甘い声出すんだな、と思っていると  
 
「ほし…欲しい、つるがさんの、入れてっ」  
 
京子ちゃん…君はかわいい顔してなんてことを…!  
 
「ダメだよ、帰ったらあげるから」  
「やだっやだ、いま欲しいの!」  
「いい子だから、我慢…」  
「ゃだぁ…おねがい…ちょうだい、おねがいだからぁ…」  
 
嘆願がひくひくと泣き声に変わる。  
 
「しょうがないな…一回だけだよ?」  
「んっ」  
 
少し間を置いて、喘ぎ声が再開された。  
 
「あっ、ぅん、んっ」  
「欲しかった?」  
「うんっ、すごぉ…く、ほしかったぁ、ぁあんっ、きもち、いぃ…」  
「すごく…締まってて、いやらしいね、キョーコ」  
「…んっ、ぁんん、あ!だ、だめっ、そこ触っちゃ、やっ!」  
「どうして?」  
「やだっ…ダメなのっ、気持ちよすぎちゃうっ」  
「キョーコは我がままだね」  
「ごめ…なさい…あっ、だ、だめですってば!あ、あぁっ!」  
「我がままは聞いてあげないよ」  
 
ちゅっ、ちゅっ、とキスを落とす音、身が打ち合う音、それに合わせてぐちゅぐちゅと蜜の弾ける音が淫らに響く。  
 
「あ、あ、あっ、あっ…ぁあっ、きちゃ、きちゃうっ、ぁぁあっ、やだっ…  
 …つ、つるが、さんっ…!い、イっても、いい?も、だめっ」  
「…んっ…いい、よ…」  
「あっ、あぁっ!い…っちゃうっ…!ぁあ、はぁんっ、あぁああっ!…ぁああっ…あっーーーー!!」  
 
二人が出て行って少しして、呆然と座ったままの俺のズボンのポケットで携帯電話が震えた。  
ボタンを押すと、蓮の声が聞こえてくる。  
 
『古賀さんですか?』  
「ああ」  
『お先にそろそろ失礼しようかと思ってるんですが』  
「あ、そう…」  
『…なんかお疲れですね』  
「ああ、なんかぐったりだよ…俺はもう少ししてから帰る」  
『そうですか、じゃあまたお会いしましょう』  
「今度は飲みに行くぞ。いろいろ…言いたいことがあるしな」  
『なんだか怖いですね。ではまた連絡します』  
「じゃーな」  
 
携帯を畳んで立ち上がる。  
 
「もう一杯飲んで帰るか…」  
 
俺の脳裏には、さっき見た場面が焼き付いて離れない。  
実は最後、欲望に勝てずに盗み見てしまった。  
 
鏡越しに見えた彼女は、服を背中までズリ上げられ、ほとんど服を着たままの蓮に後ろから貫かれていた。  
左手をドアに付き、背中にキスを落とされる。  
右手は前に回された陰核を擦りあげている蓮の右手首を振りほどこうと握りしめ、  
そして…俺が今までに見た誰より艶っぽい顔をして絶頂を迎えて崩れ落ちた。  
 
あんな顔してあんな声で啼かれちゃ、そりゃ執着もするよな…  
 
俺は深いため息をつきながら、会場へ再び戻っていった。  
 

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