大好きな人がいるの。  
パパと、おじい様と、天国のママ。  
そして、蓮様と、お姉様。  
 
お姉様はとっても大事な人。  
お姉様のおかげでパパと仲直りできたの。  
シビアで強くて、お料理やおさいほうがとっても上手で。  
演技もどんどん上手になってて、本当にステキな人よ。  
 
蓮様は大好きな、大好きな人。  
世界一かっこいい男の人。  
他のだれにもわたさないわ。  
いつか蓮様ににあうお嫁さんになるの。  
…そう思ってた。  
 
大好きな二人。  
でも、その大好きはちょっとちがうの。  
お姉様に、マリアちゃん大好きって言われたことは何度もある。  
お姉さまに言われると、ただうれしくて、本当のお姉様ができたみたいにわくわくする。  
蓮様に好きって言われると…少し悲しくて、くすぐったくて…  
それでもやっぱりうれしかった。  
うれしいのに悲しいのって、へんだけど…  
だって私はまだ小さいもの。蓮様は大人で。  
そう、どんなに大好きでも蓮様は私とちがう大人なの。  
わかってたわ…  
 
でも、何も知らなかったように、何も言わずにあきらめるのって、とてもつらいことだわ。  
二人が大好きだから、よけいにね。  
 
だから、ね…  
 
「マリアちゃん、これでいいの…?」  
真っ赤なお顔でお姉様が言う。  
やっぱり私はまだまだ子供なんだわ。  
この4日間で、初めて知ったことが多すぎるもの。  
人が顔を赤くするときって体も赤くなるものね。  
あの時にもお姉様のはだかを見たけど、あの時はそんなことに気がついてる場合じゃなかったわ。  
私はお姉様をしっかり見て、はっきり言った。  
「ううん。ね、ブラジャーとパンツもぬいで。」  
 
「どうして、こんなこと…」  
お姉様とまどってる。  
私だって、自分でもどうかしてると思うわ。  
最初はただ新しい役のおいわいにって、お部屋まで遊びに来てもらって。  
四つ葉のクローバーのしおりをわたすだけのつもりだったけど…  
お姉様を見たら、思い出さずにいられなかったの。  
4日前のあのひみつを。  
蓮様とお姉様の、あんなところを…見てしまったことを。  
そうしたら…  
「人生初めての失恋なのよ。蓮様、大好きだったのに。お姉様も、知ってたのに。  
 私お姉様の事も大好きだけど…でも、二人してだまってたなんてひどいわ。」  
なんて、せめずにはいられなくて…  
お姉様にこんなにイジワルな気持ちになったのは今までにないことだわ。  
ふと気づいたら、こんな無茶をお姉様におねがいしていたの。  
 
こまったお顔でお姉様はこちらを見るけど、まだやめられない。  
「もう両想いなんてむりなんだもの、かわりにおねがい聞いてくれたっていいじゃない…」  
するとお姉様はおどろいた顔をして…  
私がだまったまま見つめていると、きゅ、っとくちびるをかみしめて。  
それから、おずおずと下着をぬいでくれた。  
 
それでもお姉様は体をかくしてじゅうたんにすわりこんでしまう。  
おかしいわ、女の子同士なのに。  
はずかしがることないのにね。  
お姉様のきれいな色白のはだには、まだところどころ赤い点々がついてる。  
蓮様のつけたあれ、すぐには消えないのね。  
私が自分でつけた手首のは2日くらいで消えたのに…  
蓮様はもっと強くしてたんだわ。  
「ありがとうお姉様。ねえ、もうひとつおねがいがあるの。」  
ふしぎそうに、お姉様がこっちを見ようとしてる。  
「蓮様みたいにさわらせて?」  
 
はずかしさを忘れたみたいにお姉様はばっとこっちを向いた。  
自分でもどうかしてると思うわ。  
思うけど、どうしようもないのよ。  
どうしたのかしら、私…  
こうしないではいられない気持ち。  
かたくなったお姉様のお顔に、とっさに思いついた一番ヒドイ言葉をかける。  
「じゃないと、あの時の蓮様との写真を、へんなところへ売っちゃうわ」  
写真なんてもちろんウソ。  
でも、そうでもしないと、お姉様言うこと聞いてくれないでしょ?  
こんな変なおねがいなんて。  
私だって4日前の事がなかったら、こんなことする気になんてなるはずないもの…  
 
答えはなかったけれどお姉様はこわばったまま止めはしなかった。  
お姉様の前にすわって、女の人らしくふくらんだ胸をさわる。  
ふにふにして気持ちいい。  
私のも、こうなってくれるのかしら?  
お姉様はぎゅっと目をつぶってかたくなったまま。  
蓮様みたいにさわりながら、ぺろっと乳首をなめてみる。  
「マリアちゃんっ…!」  
あせってお姉様がさけんでる。  
「っ、やめっ…」  
こまった声。  
肩にかけられた手はそれでも私を気づかってくれてるみたいで、むりやり引きはなしたりしなかったけれど。  
お姉様はまゆをよせてやっぱりこまったお顔をしてる。  
…やっぱり、私じゃだめなのね。  
蓮様じゃないと、あの時みたいなかわいい声を出してくれないのね?  
あの、色っぽいきれいなお顔も、見せてはくれないのね…?  
 
ほんとに何をしているのかしら私、って思うけど、  
4日前のひみつが私をただ動かしてる。  
あの時どんな感じだったの?お姉様…  
 
手を下げて、お姉様のまたのところをさわる。  
おどろいたわ。  
毛が生えててぜんぜん、ちがう…  
ママも、生きてたらこんな感じだったの?  
私もこうなるの?  
信じられない。  
あの時…このあたりをぴったりくっつけて…  
お姉様たち、何をしていたの…?  
「やめてマリアちゃん!」  
さすがにあわてて、お姉様は手にぎゅっと力を入れる。  
止められるのは分かってたから冷たく言ってみた。  
「だめよ。蓮様にめいわくかけるの、おイヤでしょう?」  
お姉様は泣きそうな顔をしてうつむいてしまう。  
 
蓮様は、あの時足を持ち上げて…  
そうするのはさすがにとまどっていたら、  
「ごめんね、マリアちゃん」  
小さな声といっしょにほろほろとしずくがふってきた。  
え…?  
「マリアちゃんの失恋も、あんなところ見てしまったのも、私のせいで…」  
ふって来たのは涙。お姉様の涙だわ。  
見上げると、次々と涙をながす悲しいお顔のお姉様。  
お姉様、泣いてる…!  
「好きな人に、裏切られる辛さは…、私が一番思い知っていたのに…っ」  
 
「やだっ、お姉様、泣かないで!泣かせるつもりなんて、なかったの…!」  
顔をおおってしまったお姉様のうでを引きはなすようにすがりつく。  
「やだ、ごめんなさい、お姉様、お顔かくさないで…!」  
今まで私の前で泣いたことのない、ずっと年上のお姉様が泣いてる。  
がまんできないほど、本当にどうしようもなく悲しいのね。  
どうしよう、どうしようどうしよう。  
私がそこまでお姉様をこまらせてしまったんだわ…  
最初はイジワルな気分だったけど、悲しかったのも本当だけど、  
泣かせるつもりなんかなかったのに、そんなお姉様見たくなかったのに、  
ただ、ちょっとこまらせたくて、  
ただ、あの時の二人の事が、ずっと頭にのこってて…  
「ごめんなさい、私、うらぎられるなんて…そんなんじゃないわ…」  
お姉様は泣いているけど、必死でしゃべる私をやさしく見つめてくれた。  
お父様の気持ちを教えてくれたあの時みたい…  
そうよ、お姉様はとてもおやさしいの。  
「でも、マリアちゃんの気持ちを無視したのは本当だもの」  
さびしそうにお姉様は言った。  
 
それから、お姉さまはぽつぽつとお話をしてくれたの。  
小さいころ、かわいがってくれないお母様の気を引こうとがんばっていて、  
そんなお姉様の心のささえはおさななじみの王子様だったこと。  
その王子様にひどくうらぎられて、悲しくて、あんまりにつらくてにくくて、もう恋なんかしないって思ったこと。  
それでも…  
蓮様に出会って好きにならずにいられなくなって…  
恋する事がこわくて、こわくてしょうがなかったのに、蓮様にはひかれずにいられなかったこと。  
蓮様の気持ちを知って、恋なんかしないって決心を続けることができなくなってしまったということ。  
 
お姉様は心のひみつを全部、私にくれたの。  
お姉様の言葉の一つ一つが心にしみていく。  
 
「ごめんね」  
ってお姉様は何度もくり返す。  
「ううん、あやまるのは私のほうだわ…だって、私、私じゃだめだって事も、  
 きっとお姉様たちは好き同士だって事も、わかってたもの…」  
そう、わかってたわ。  
そして思い出したの。  
ねがいをかけたキャンドルにほった名前が蓮様じゃなくてお父様だって当てたお姉様。  
蓮様よりもまだお父様にいっしょうけんめいだった私は、お姉様の想いに勝てるはずなかったの…  
うらぎられた思い出の中から、蓮様のおかげで大切な想いを取りもどしたお姉様…  
 
 
お姉様はまださびしそうな目をしてたけど、ちょっと笑ってくれたわ。  
心がかるくなった。  
ふっと気づくと、私はお姉様にだきついていたの。  
お姉様の手も、やさしく私の体にまわされていて。  
お姉様のはだかから体温がつたわってきて…  
あったかい…ママが生きていたら、こんな感じだったのかしら…  
 
 
「写真なんてウソ。最初からそんなものないの。ちょっとこまらせたかっただけなの。」  
ちょっとてれくさい気分で、私は口を開いた。  
「それから…ただ、知りたかっただけなの。…あの時のお姉様たち、とても幸せそうだったんだもの…」  
お姉様の口はおどろいたようにぱっくり開いて、そして、お顔がだんだん赤くなっていって…  
声を聞くまでには思ったより時間がかかった。  
 
「…それは…っ…、好きな人に教えてもらうことよ…」  
真っ赤な顔で、しどろもどろにお姉様は言う。  
「お姉様は、蓮様に教えてもらったのね?」  
「そう…って、そうじゃなくて!」  
あわてて手をばたばたふって、お姉様は私に向き直った。  
「マリアちゃんにはまだ、早いわ…学校でも教えてもらえるし、もっと大きくなってから、ね…?」  
なぁんだ、大人のよく言いそうなこと。ちょっとむっとした。  
「私は子供だから?」  
「それもあるけど…これは大事なことなのよ。体の事も、心の事も…」  
うーんとむずかしいことを考えるようにして、  
「そうよ、これは大変なことだわ、困った、どうしよう、どう言おう」  
お姉様はしばらく顔を赤くしたり青ざめたりして百面相していた。  
その目まぐるしさについ笑っちゃいそうになったけど、なんだかうれしい。  
お姉様は私のためにいっしょうけんめいになってくださっているんだもの。  
結局、あとで本を見て一緒にお勉強しようと私たちはお約束をしたの。  
あんな無茶をした私なのに、ごまかしたりめんどうだってなげ出したりしないで、  
私のなやみが消えるまできちんとお姉様は向き合ってくれるのね。  
最初に会ったときからずっとそうだわ。  
 
…だから私はお姉様が好きなんだわ…  
 
 
「ねえお姉様、お姉様は…蓮様をどのくらい好き?」  
そう聞いたら、お姉様はぱっとお顔を赤くして、少し考えて言った。  
「よくわからない…敦賀さんはとてもとても、たくさんのものを私にくれた人だから…大切すぎて。」  
お姉様はきゅっと両手をにぎって、ふっと泣きそうな目をしたの。  
「ねえマリアちゃん、好きって…ただ好きなだけじゃ駄目なの。大切な人にずっと好きだと想ってもらえるように、その人にふさわしいように頑張らないといけないの…」  
その気持ちは分かる。  
私も、蓮様にふさわしくなりたいって思っていたわ。  
お姉様もそう思っていたのね。  
このところお仕事がどんどんふえてきてイキイキとしているお姉様、  
やっぱり、それは…  
「…お姉様は、蓮様のためにがんばってらっしゃるのね…?」  
そう聞くと、ぱっとほほをそめたお姉様から、ポツリと答えが返ってきた。  
「まだまだ、敦賀さんにふさわしくなるのは大変なことだけどね…」  
少しさびしそうな声だったけど、お姉様はとってもキラキラした目をしていたの。  
あの時とはまたちがうけど…お姉様、とってもきれい。  
私、まだまだかなわないなあって思わずにはいられなかった。  
だから、  
「お姉様なら、ぜったいぜったい、大丈夫!」  
心からそう言うことができたの。  
 
そうよ、今のお姉様は私がうっとりするくらいだったの。  
蓮様だってそう思うはずよ。  
そしてきっとお姉様を前より好きになるわ。  
まだちょっとくやしいけど…ぜったいよ。  
 
私もいつか、お姉様みたいになれるのかしら?  
なれるといいな…  
だってお姉様は私のあこがれなんだもの。  
 
 
(2話目終)  
 

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