ふるえる体。流れる涙。
ふくを全部、ぬぎすてて…
思い切って告白した。
世界で一番大好きな、世界で一番かっこいい人へ。
「おねがい、だいてください…いけないことって、わかってる、でも…」
「こんなにちいさいのに、いけない子だね」
「どうせ私は、子供です…」
私なんてつり合わない、でも…
ふっと笑顔を見せてくれた。
「かわいいよ…俺が大人にしてあげようか…?」
「…おねがい、します…」
本当はこわくてしかたがないけれど、うけ入れてくれた事がとてもうれしい…
力強いうでにだかれて、体中なでまわされて。
「まだ胸は小さいけど…」
「あっ…きもちいぃ…」
「君はここが一番イイんだよね…」
「ゃんっぁあっ…あぅっ、はぁん…ア…あっあぅ…っ」
乳首をぴちゃぴちゃなめられて、声を上げる。
そして、言う…
「おねがいです、いれてください…」
「お望みどおりに…」
ぐいっと足をかかえ上げられる。
なにが、おこるのかしら・・・
「…キョーコ、好きだよ…」
だめだわ。
いつものようにカーテンからまぶしい光のさす日曜日の朝。
でもいつもどおりでないのはこの気分。
さいあく、だわ・・・
この夢を見るのはもう3回目かしら。
夢ではあの時みたいにドキドキすることもへんな気分になったりすることもないけど…
やっぱりショックが大きかったのかしら。
あれからお姉様と「保健体育」のご本でお勉強はさせてもらって、
…にんしん、とか、大事なことをたくさん教えてもらったんだけど…
それはまだピンと来ないながらなんとなくわかったんだけれど、
あの…ひみつの土曜日の事はご本にはない感じがして。
あんなふうに幸せそうだった蓮様とお姉様の事は、あのドキドキする感じは…
やっぱりなんだかふしぎなまま。
これがきっとお姉様の言う「好きな人に教えてもらうこと」なのね。
それにしてもなぜこんな夢なのかしら。
初めに見たときは、たしかに私が蓮様に告白して…
はずかしいけど、はだかでだき合ってるのは私だった。
何もかもやっぱり分からないままで、ただお姉様の声をまねていただけの私。
けれども、蓮様がよぶ名前は、やっぱり「キョーコ」で。
その後に見た2回では、ちいさなお姉様と蓮様の夢になってしまった…
なんでなのかしら。
最初に見たときは、お姉様にもうしわけないわって、そんな気持ちになってこまったけど…
夢でくらい、いいんじゃないかしら。
蓮様が…私の事を見てくれたって。
そうよ、お姉様はステキだわ。
かなわないって事はよくわかってる。
でもやっぱりずうっと好きだったんだもの。
夢でくらいって思うくらいいいじゃない。
だって、蓮様以上にステキな人って、やっぱりいないんだもの!!
そんな風に…テレビで、おじい様に会いに行った事務所の中で、蓮様に出会うたび…
なんだかもやもやした気持ちになるのをとめられなくなってしまったの。
「蓮様、おわたししたいものがあるの。ちょっとまっててね。」
コーヒーをおきながら私はそう言って、ソファーにすわった蓮様からはなれる。
おうちへおじい様に会いにきただけの蓮様にむりを言って、
私のお部屋まで来てもらったことは今までにも何回かあるけど…
今日の私が今までにはない気持ちをかかえているって、蓮様はきっとぜんぜん知らない。
そばで蓮様のやさしいお顔を見てたら、なんだかたまらなくなってしまったの。
お姉様をだきしめていた、なんだか知らない人のようなあの時の蓮様。
なんだかいじわるで、それでもとても幸せそうだった、でも、なんだかこわかった、ふしぎな蓮様…
蓮様は…あの時どんな感じだったの?
お姉様をあんなふうにしてしまった、蓮様は…
どうしよう、なんだかドキドキしてきた。
ううん、私はクローバーのしおりを机に取りにきただけなのよ、落ちつきなさい!
自分に言い聞かせてみたけど、目には最初に見たときの夢が、ちらついてる。
だめよなに思い出してるのよ、分かっているわ、蓮様にはお姉様がいるのよ。
それに、あんなことは…そうよたしかに私には早いのよ。
でも…
どうしてなのかしらこの、もやもやした気持ちは。
ぜんぜん消えていかない。
私の中でいっぱいになってぐちゃぐちゃ。
私、何をしたいの?
わからない。
わからないけど…
このままじゃ、もうどうしようもないわ!
…ふるえる体。
ふくを全部、ぬぎすてて…
夢が人のねがいを表すのなら、やっぱり私はこういうことをしたかったということなのかしら。
まさか本当にやれるはずはないって思ってたのに。
でも…
蓮様に「大好き」なんて、今までにも何度も言っているもの。
そのたびに蓮様は笑って「ありがとう」って。
蓮様のことだもの、そんな言葉はたくさんたくさん、だれからももらってしまっているんだわ。
そして蓮様は私のことを、ただの子供だと思ってる…
ふつうに言ったんじゃいつもと同じだもの。
「ありがとう」でそのまま終わりなんて、いやよ。
蓮様にはお姉様がいるってわかってる。
だからバカなことをしてるわ。
でも仕方ないじゃない、蓮様よりステキな人はいないんだもの。
ごめんなさいお姉様…
でも、先にぬけがけしたのはお姉様なんだもの、こんな無茶なカケくらい、ゆるしてくださってもいいでしょう?
えらぶのは蓮様なんだし、
ねえ?
「蓮様」
私をふり返った蓮様のお顔はみるみるこわばっていった…
「マリアちゃん!?」
びっくりして目をそらしてしまう。
蓮様だめ、こっちを見て…
「私、ほんとに蓮様の事、大好きよ…」
私はそろそろと近づいていくけれど、
「だからって、だめだよマリアちゃん、服を着て…」
蓮様は目元をかくして、私を見ないようによこを向いてしまう。
その気づかいが一人前のレディとしてあつかってもらったみたいで、少しうれしい。
やっぱり蓮様は紳士だものね。
バカな子だわ私。
こんなことしてもどうにもならないのに。蓮様には…
でも、まだ終われない。
まだ何も、聞いてないもの…!
「だって蓮様、本気にしてくださらないでしょう?私…」
「…ごめん、マリアちゃん…」
よこを向いたまま、蓮様は言った。
「私が、きらいだから?」
「そうじゃないんだ。俺は…」
言葉を切って、蓮様はひくい、まじめな声でこう言った。
「マリアちゃん、服を着てくれないかな。君が本気で言ってくれたんだから、君を見てちゃんと答えたいんだ」
蓮様の言葉は私をうけ入れてはくれないものだった。
なのに心はなんだか落ちついてる。
おとなしくふくをきて、蓮様にならんでソファーにすわる。
おそるおそる、蓮様を見上げる。
蓮様はしんけんな目で私の顔をのぞき込むようにした。
少しはずかしいくらい…
「ありがとう、マリアちゃん。」
言葉はいつもと同じだけど、いつものやさしい笑顔じゃなくて、ちょっとさびしそうなお顔だった。
「…お礼を言われたいんじゃないの…」
やさしい蓮様、私をきずつけないように考えてくださってるのは分かってるわ。
それでも、私は…
「うん…ごめんね。」
蓮様が少し目をふせる。
…やっぱり、こういわれてしまうのね…
「私が、子供だから…?」
「年は関係ないよ。ただ…俺には、もう好きな人がいるから」
蓮様は…しっかりと私を見つめてそう言ったの。
ああ…
体の力がぬけていって、私はうつむいた。
「ごめん、マリアちゃん…」
私を気づかう蓮様の声。
あの時のお姉様と少しにてる。
「ううん…ううん、いいの…蓮様…」
私は顔を上げて蓮様に向き直った。
多分、いい笑顔を私はできているはずだわ。
涙が出そうだけどきっと大丈夫よ。
だってわかったの、私がしたかったこと。
「私、蓮様にそうやってきちんとふってもらいたかったんだわ…」
お姉様だからしょうがないって、それだけですぐにあきらめられなかった。
かなわなかったけど、気持ちをつたえるのってとても大事なことなんだわ。
それに…
お姉様と二人でお勉強していたあの時…
お姉様は言っていた。
「以前の私みたいに傷つかないように、相手がどんな人なのか見極められるようにならないと、駄目なのよ。
自分を大切だと思ってくれる、安心できる人に出会えるように…それがちゃんとわかるまで成長しないと、駄目よ」
人を好きになるには体の成長だけじゃなくて、心の成長も大切なんだって、教えてくれた。
女の人には大切な出来事がまっているから。
ちゃんと人を見る目を身につけて、運命の人をまちがわずに選べるように。
運命の人。本物の王子様。大好きな、大切な人。
お姉様にとっての蓮様。
蓮様が、だだをこねる私をいいかげんにあつかうような人だったら、
しっかりふってくれない人だったら、
お姉様をうらぎるような人だったら、
そんな人だったのなら…
そんな蓮様私はいやだわ。
私は最初の夢みたいに、うけ入れてもらいたかったんじゃないの。
蓮様が私をだめな、いやな子にしなかったことに、
お姉様がまちがっていなかったことに…
とても安心してる。
やっぱり蓮様はステキなの…
「ありがとう蓮様。私、やっとあきらめられるわ」
蓮様はとてもやさしく笑って、私の頭をなでてくれた。
「蓮様、その人のこと…とてもとても、大好きなのよね…?」
…わぁ…
今ふられたばっかりだというのにもう一度恋をしそうになって、
あわてて私は頭をぶんぶんとふった。
だってこんなまぶしい笑顔、こんな間近で見てはいけないわ!!
乙女の目のドクよ…!!
笑顔だけでもこんなにぐるぐるしてしまうのに、
「そうだね。とても大切で、大好きなんだ」
そんなやさしい目と声で言わないで…!
蓮様、本当に罪な人だわ…
でも、今の蓮様をそうさせているのはお姉様なのね。
ドラマの蓮様はいつもとてもステキだけど、この「本物」にはかなわないもの…
今お姉様がここにいたら、あの時の幸せそうな二人をまた見られるにちがいないわ。
思い出すと自然に顔が笑ってしまう。
そうして私は言った。
「お姉様と、お幸せにね…」
ぴたっと、蓮様の手が止まった。
「マリアちゃん、君…?」
あら?
いやだしまった、お姉様、って言っちゃったわ!
私がお姉様ってよぶのはたった一人だけ。蓮様、なんで知ってるのってお顔をしてる。
人気の芸能人同士なんだもの、だれにもひみつにしてた事なのよね、やっぱり。
…でも、もしかしたらお姉様からお話聞いてるかもしれないと思ってたし…
ううんだめね、あの土曜日の事も、4日前の事も、あんまり言いたいことじゃないわ…!
「え、っと、その、こないだの土曜に、蓮様とお姉様を、見て…そうじゃないかって…!」
あ。
ばかばか、私のバカ!!土曜日なんて、わざわざ言わなくてもいいじゃないのー!
私は真っ赤になって、かたまって…
そうしたら、蓮様の目がだんだん見開かれていって。
…二人とも、そのまましばらくかたまってた…
だけど、それ以上決定的な話をしあえるはずもなくて。
あいまいなまま…気まずい空気を、笑ってごまかした。
コーヒーを一口のんで。
変な空気をやぶったのは蓮様のほうだった。
「マリアちゃん…今度から絶対に、あんな告白をしたら駄目だよ…」
これは大変なことなんだから、と、蓮様はお姉様とにたようなことをつぶやいた。
気まずそうに蓮様は目をそらしてる。
私はさらに真っ赤になってしまう。
本当に、なんて事をしたのかしら、私…
でも…
「わかってるわ…蓮様だから、ふられるって分かってたから、できたんだわ…」
今なら、そう思える。
「それに…蓮様はこんな、年のはなれた子供なんて相手にされないでしょう?」
蓮様は、ふくざつな顔をしてゆっくりとこっちを向いた。
「俺もそう思ってた事があったけど…好きになってしまえば、きっとそんなことは考えられなくなるよ」
なんだか遠い目をされてる。
もしかしてお姉様の事?
でも、私とちがってそんなに歳がはなれていないのに?
「…じゃあ、蓮様、今お姉様が私と同じ8才だったとして…さっきの私みたいに告白してきたら…?」
がた、と重い音がテーブルにひびいた。
テーブルの上にころがる、蓮様の持っていたコーヒーカップ。
中身はほとんどなくなっていて、こぼれたりはしなかったけど…
「…蓮様?」
口元をおさえて目をおよがせる、今まで見たことのない蓮様のお顔は…
このお顔って…蓮様、あわててる?
少しほおが赤いような…もしかして照れていらっしゃるの!?
おどろいて私は何も言えなくなってしまった。
こんな蓮様は初めて見るわ…
さっき私が告白した時にだってカップを落とすほどにはおどろかなかった蓮様なのに。
…でも照れたようなそぶりの蓮様は、とてもかわいらしかったの。
きっとそこまで、お姉様のことが特別なのね。
ふと、今朝見た夢が頭をよぎらずにはいられなくて…何も言えないまま私は深いため息をついた。
運命の人…
「そんな人に出会えるかしら」って言ったら、
「マリアちゃんなら、大丈夫よ」
お姉様はそう笑ってくれたけど。
こうやってふられてしまった今でも、蓮様よりステキな人がいるなんて思えないわ。
私はどうしたらいいのかしら…
運命の人と幸せな家庭を作ることなんて、夢の夢みたい。
家庭…?家庭を作るって…
そうだわ。
「ねえ蓮様、おじい様もお姉様との事、ごぞんじなのよね?」
蓮様は苦笑した。
「あの人はすぐ気づいてしまったからね。まだ公表は出来ないけど、許してくれて…感謝してる」
やっぱり。
だから、蓮様たちはあんなだいたんなことも出来たのね。
おじい様は蓮様をとても気に入っていらっしゃる。
…きっと、出来ないことじゃないわ。
それにああいうことをしているなら、蓮様とお姉様はちゃんとかくごをしているって事で…
そうよ!
いきおいづいて、私は蓮様の手を取った。
「ねえ蓮様、お姉様と早くご結婚なさって!そしてたくさんえっちをするのよ!」
…あら蓮様、青くなって変な顔してる。
だってしょうがないじゃない、私はもう8才なのよ。
長くは待ちたくないわ、早く出会わなくちゃならないもの。
だからお願い、蓮様、お姉様。
――いいえ、未来のお父様、お母様――…
(完)