ガチャリ、と勢いよく開けた玄関のドア。  
とたとたと、中に入った俺に向かってくる、小走りな足音。  
「おかえりなさぁい、敦賀さんー!」  
部屋に入った俺に抱きつき、すりすりと頬を擦り付けてくるキョーコがやけに可愛い。可愛いんだけれど…。  
「どうしたの?」  
何かがおかしい。  
「んー。おかえりなさいのちゅーうー」  
体を離そうとキョーコの肩を掴んだ俺の、首に手を回して目を瞑る。  
頬を染めて唇を寄せるキョーコはやっぱり可愛くて、帰って早々、俺の理性は飛びそうになった。  
「ん?」  
口付けの瞬間、鼻を掠めるアルコールの香り。  
「キョーコさん?」  
「なぁんですかぁ?敦賀さぁん」  
「お酒、飲んだ?」  
訊いた俺に、きょとんと小首を傾げて、なんのことかわからない、といった様子のキョーコの表情もまた、可愛…いやいや。そんなこと言ってる場合じゃない。  
「でも、かわいい瓶のピンク色のジュースなら飲みましたぁ。甘くて美味しかったですようー?」  
キョーコの言葉にピンときた。  
「あれね、お酒だよ」  
「そぅなんですかぁー?」  
うふふ、と笑って俺の手を引き、ソファに腰掛けるキョーコを見て、思わずため息が漏れた。  
くそっ。社さんめっ!  
 
心の中で、酒をくれた張本人に毒づく。  
『貰いもの。持って帰ってくれないか?』  
そこまでは、良かったんだ。問題は、  
『くれぐれも、キョーコちゃんには飲ませるなよ?未成年なんだから。ましてや、飲ませた上で襲ったりなんかするなよ?』  
釘を刺されたこの言葉。  
無理。無理です、社さん…。  
俺の膝の上で、  
「つーるーがーさんっ、うふふふ」  
猫なで声で甘えてきながら、キスをねだるような、こんな可愛い生き物、どうやって我慢したらいいんですか?  
「キョーコ…、駄目だよ」  
ギリギリのところで理性を保って、膝の上に座ったキョーコを下ろそうとする。  
流石に、酔ったこの子を抱くのは、いくら俺でも抵抗がある。  
あるのに…。  
「敦賀さん?えっちがしたいです」  
言いながら、俺の首に手を回してキスをしてくるキョーコを見たら、理性なんか吹っ飛んだ。  
「んっ、ふっ」  
深い深いキスを交わすと、キョーコは嬉しそうに、にへらと笑う。  
「敦賀さぁん、触って?」  
俺の手を取り、自分で服の中へといざなう。  
「どこ、触って欲しい?」  
「胸の先っぽ」  
唇は付けたままで、キョーコに言われるがまま、胸の先を摘むと、甘やかな吐息が漏れた。  
 
「んっ、んっ」  
胸の先を指で弄ぶと、キョーコは気持ちよさそうに、うっとりとした顔をする。  
同時に漏れる、ため息のような吐息が色っぽい。  
いつもなら、有無を言わさずご飯の時間なのにな。  
ぼんやりと考えながら、酒の力を借りるのもたまにはいいかと、不埒な事を考えていた。  
「あっ、敦賀さんっ」  
「どうしたの?」  
「…………気持ち悪い」  
はい?  
「はく…」  
キョーコは口を抑えて、トイレに駆け込んだ。  
俺は、唖然としたまま、一人残されている。  
戻ってきたキョーコは、ひとしきり吐いてスッキリしたのか、すぅすぅと可愛い寝息を立てて、眠りに付いた。  
………………うん。  
キョーコさん。今日のあなたは大変可愛らしかった。  
可愛らしいが故、俺をこんなに煽っておいて、ほっぽらかしですか。  
不埒な事を考えた罪なのか…。  
安らかに眠るキョーコの隣で、高ぶった欲望と戦う、長い長い夜が始まったのだった。  
 
 

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