アイツに捨てられた日から、恋をするのが怖かった。  
人を好きになって、また、裏切られるのが怖かった。  
でも、私はまた、恋をした…。  
今度好きになった人は優しくて、王子様みたいで、触れたいと手を伸ばせば抱き締めてくれる。握り締めた手を、繋ぎ返してくれる。  
そんな些細な事でも嬉しいのに、もっともっとたくさんの、言葉や、仕草や、嬉しさや、好き、あったかい気持ちをくれる人…。  
敦賀さんに抱かれて、えっちの気持ちよさを教えてもらってから、私は、もっと敦賀さんの事を好きになった気がする。  
敦賀さんと過ごす甘やかな時間や、敦賀さんがくれる快楽が、お互いを繋ぎ合わせるみたいで、とても好き。  
繋がる体が、心を通い合わせてくれるようで、大好き。  
敦賀さん、早く帰ってこないかな…?  
『ごめんね、キョーコちゃん。相手役の女優さんが遅れて来て、今から開始なんだ…。  
その変わり、明日分の撮影は、女優さんを待ってる間に終わったから、明日はオフにしたよ。  
ご飯は、俺が食べさせるから。先に寝てていいからね』  
わざわざ、社さんが電話をくれるくらいだから、きっと手が放せないくらい忙しいのね。  
流石に、深夜。敦賀さんの大きなベッドで帰りを待つ。  
 
広くて大きなベッド、シーツの中に潜り込んだら、かすかに敦賀さんの香り。  
何だか抱きしめられているようで、頬が緩む。心の中がほわっとする。  
敦賀さんの部屋に泊まりに来た日は、私の髪も、体も、敦賀さんが使ってるシャンプーやボディーソープと同じ香りになるのが、嬉しい。  
シーツにくるまっていろいろ考えてたら、カタン、とドアの音…。  
「ただいま、まだ起きてた?」  
「おかえりなさい。なんだか、敦賀さんを待っていたくて…」  
迷惑でしたか?と訊ねる私に、近付き、軽いキスをくれた後、  
「まさか。嬉しいよ」  
って、言ってくれた。本当に嬉しそうに笑ってくれるのが、私も嬉しい。  
「駐車場からエレベーターまで走ったから、汗くさいよ?」  
抱きしめようと背中に回そうとした手から逃れて、  
「待ってて?急いでシャワー浴びてくるから」  
って、出ていってしまった。  
気にしてないのにな、そんな事。むしろ好き。なのに、そんなちょっとした事でも気にしてくれる敦賀さんは、もっと好き。  
「ただいま」  
少し待った後、バスタオルで髪を拭きながら戻ってきた敦賀さんが、なんだか色っぽい。  
「おかえりなさい」  
洗い晒しの髪から、今の私と同じ香り。  
「ふふっ」  
 
それがなんだかくすぐったくて、思わず笑みがこぼれた。  
シーツを抜け出して、敦賀さんのそばまで行こうかと思ったけど、敦賀さんの動きの方が早い。  
するりとシーツの中に入ってきて、私に覆い被さる。大きなベッドが、少しゆれた。  
「んっ」  
たくさんのキスを降らせて、舌で私の唇をなぞる。吐息と共に、息を吐き出すために開いた唇から、舌が入り込んでくる。  
どうしたのかしら?いつもの敦賀さんと違って、なんだかとても性急に感じる。  
「…んっ、ふっ、…んんっ」  
スルスルと服を脱がされ、敦賀さんの手が胸に触れた。  
薄暗い寝室に響く吐息が、なんだか獣みたい。  
「んっ、んっ」  
こんな敦賀さん、初めて。ちょっと怖いけど、ドキドキする。  
「はぁ…、敦賀さん?」  
唇が離れて、見上げる私に向けられた敦賀さん目。まるで、美しい肉食獣のような…。  
夜の帝王みたい。どうしよう?ドキドキする。  
「…っ、キョーコっ」  
「んっ」  
耳に口を付けて、吐息と共に吐き出される敦賀さんの声が、艶を帯びてて、色っぽい。  
耳が熱い。敦賀さんに触れられている胸も、お腹の中も、体全部が、熱い。  
どうしたの?敦賀さん。こんな敦賀さん、見たことない。なんだか、知らない人みたい。  
 
少し、怖い。でも、知らない敦賀さんを見るの、少しわくわくする。  
「あっ、んん」  
胸の先を摘まれて、ゾクっとした。ズボンを脱がされ、下着に敦賀さんの手がかかる。  
「…、つ、敦賀さん?」  
「……っ、あ、ご、ごめん。怖かった?」  
私の胸を弄っていた手が止まった。体を離して、敦賀さんはすまなそうな顔をする。  
「少し。でも、ちょっとわくわくしました」  
「…そっか」  
あれ?なんだか拍子抜けな顔。その後、安堵したような表情になって、  
「嫌われなくてよかった…」  
って、私の肩に顔をうずめて囁く敦賀さんが可愛い。  
「どうしたんですか?一体…」  
いつもは、私を気遣って、優しすぎるくらい優しいのに。  
「ん?」  
あ、その顔好きだな。ん?って聞き返す声も。雰囲気が好き。いやいや、そんな場合じゃなくて…。  
敦賀さんは真っ赤な顔になって、私から目をそらした。私の顔色を伺うように視線を泳がせる。  
「今日、ラブシーンを撮ったんだけどね」  
チクリ、胸が騒ぐ。きっと、相手は、それはそれは綺麗な女優さんなんでしょう?  
「相手がキョーコならな、って思った」  
へ?今、何か、凄く嬉しい事を言ってくれた気がする…。  
敦賀さん、なんだか照れてるみたい。騒いだ胸の痛みなんて、すぐに消えた。  
 
「キョーコに会いたくて、キョーコを抱きたくて仕方なかった」  
軽くキスをして、ぎゅう、と抱きしめてくれる腕が愛しい。  
「ごめん。怖かっただろう?」  
軽い、啄むようなキスを繰り返しながら、言ってくれる敦賀さんが愛しい。  
さっきみたいな荒っぽいキスもドキドキしてよかったけど、今みたいな優しいキスが好き。  
「少しだけ。でも、敦賀さんだから平気です」  
「ごめん。優しくするから」  
「謝らないでください…」  
ん?優しく?敦賀さんはいつも、優しくしてくれてる。優しくするって言ってくれるけど、それって、敦賀さんの好きなようにできてないって事…?  
「遠慮しないで、敦賀さんの好きにしてくれたら、私は嬉しいです」  
「でも、そうしたらキョーコを壊してしまうかも知れない」  
呟く敦賀さんは、優しい目をしてる。  
やっぱり、私に合わせてくれてたんだ。敦賀さん、経験豊富そうだもの。物足りないんじゃないかしら?  
「ごめんなさい」  
私が、まだまだ慣れないから。  
「キョーコが謝る事じゃないよ」  
私の首筋にキスを落としながら言う敦賀さんの唇は、優しい。  
「少しずつ、ね?」  
私の考えなんて、敦賀さんにはお見通しみたい。  
「…はい」  
なんだか、切ないな。私ばっかり嬉しい気がする。  
 
「…あっ」  
一度離した手を、また胸に戻して胸の先を弄ぶ。敦賀さんの冷たい指先が、少しずつ熱を帯び始める。  
さっきまでの熱がすぐに戻ってきて、全身が熱い。  
ショーツを脱がせて、敦賀さんの指が私の中に入ってきた。  
「あっ、あんっ」  
中を擦られるの、弱い。お腹の中が、じゅん、て熱くなる。中がヒクヒクと敦賀さんの指を締めつけてるのがわかる。  
「ああっ、んっ」  
胸の先を唇で捕らえて、私の表情を確かめるように見上げる敦賀さんの視線が、なんだか…。  
恥ずかしい。見ないで、敦賀さん。カァ、と体が熱くなる。だって、敦賀さん、夜の帝王の顔してるんだもの。  
「つ、敦賀さんっ、んんっ、そんなに、見ない、でぇ…、ああんっ」  
指が入り込んでくる度に、壁を擦られると、くちゅくちゅと恥ずかしい音が響いた。  
敦賀さんの視線にドキドキして、舌や指に翻弄されて、熱い。熱くて、恥ずかしいのに、気持ちがいい。  
「ああんっ、…つ、敦賀さんっ!」  
ムズムズと高ぶってくる。もう、すぐ…。  
「蓮、だよ。キョーコ」  
「れ、蓮っ、んっ、きちゃ、きちゃうぅ…、ああああんっ」  
ビクビクと震える体で、敦賀さんの頭を抱え込むようにしがみつく。  
「キョーコ、かわいいっ」  
 
「んっ、んんっ」  
唇を塞いで私の舌を絡めとる敦賀さんの、指はまだ、私の中で蠢いてる。  
いつもは、一息付くまで待ってくれるのに…。苦しいような、でも、甘くて激しい快感に飲まれてく。  
「んんっ、んっ、ふっ」  
敦賀さんが唾液を啜る音や、私の中を擦る水音が部屋いっぱいに響く気がした。  
もっと、欲しい。指じゃ足りない。もっともっと、奥が、熱い。  
脚を開いて、もっと奥まで敦賀さんの指をくわえ込もうとする。  
「…っ、どうしたの?」  
「中が、…熱いのっ、蓮、ああんっ、おねがいっ」  
「どうしようかな…」  
最近、えっちをする時、敦賀さんは少しいじわるになった。わざと、入れてくれなかったり、恥ずかしい事を言ったりするようになった。  
「…おねがっ、蓮っ、…頂戴?」  
「どうしても?」  
そんな時の敦賀さんは、いつも楽しそうで…。  
楽しそうな敦賀さんを見るのは嬉しいけど、ちょっぴりつらい。  
「ど、してもっ…、ほしいっ、のっ、ああっ」  
恥ずかしい事を言わせた後、仕方ないなって笑って、敦賀さんはゴムを被せた。  
「キョーコ。今日は、いつもと違うコトしてみようか?」  
いつもと違うコト?どういうのか、わからない。けど…。  
「敦賀さんのしたいコト?」  
 
「うん。キョーコとしてみたかったコト」  
まただ。瞳に少し、獣の光をやどして、夜の帝王の雰囲気を醸し出しす。少し怖い。でも…。  
「だったら、いいです。……して?」  
「ありがとう」  
嬉しそうに笑いながら、ちゅって可愛いキスをくれる敦賀さんが好き。大好き。  
「じゃあ、後ろ向いて、手をついて?…そう」  
敦賀さんの言う通りの格好になる。これは、四つん這いになって…。こんな格好でするの?  
「……恥ずかしい」  
でも、ドキドキする。  
「入るよ」  
「あっ、あああんっ」  
初めてした時の痛みなんて、今はすっかりなくて、私の中はすんなりと敦賀さんを飲み込む。  
腰を掴んで、奥まで腰を進める敦賀さんが、いつもより深いところに入ってくるみたいで…。  
「どう?」  
「あっ、…こんなカッコ、恥ず、かし。…恥ずかしっ、のに、いっぱいっ、奥まで、くるのっ」  
「気持ちいい?」  
「んんっ、あっ、気持ちいっ、ああっ」  
よかった、と呟く敦賀さんの表情はわからないけど、声は凄く優しい。  
「あっ、あっ、ああっ、あんっ」  
手に力が入らない。シーツを握り締めたままへたり込んでしまった私は、お尻を突き出す形になった。  
敦賀さんは、更に奥まで入ってくる。  
 
「あっ、ふっ、深いっ、ああんっ」  
ずりずりと中を擦られる。むずがゆいような、くすぐったいような、甘い熱さに目眩がする。  
また、きちゃう。  
「あっ、あんっ、蓮っ!きちゃう…、きちゃっ、こんなカッコで、ああんっ!いっちゃ、…ああんんんっ」  
敦賀さんが、一番奥まできた時に、頭の中が真っ白にはじけた。  
私の中に入ったまま敦賀さんは、くるりと私の体を反対に向けて、顔が見えるようにしてくれた。  
「恥ずかしかった?」  
「んっ、凄く」  
軽くキスを落として、私の息が落ち着くのを待ってくれる間、訊ねる敦賀さんは嬉しそう。  
「キョーコ?俺の好きなようにするって事はね?今より恥ずかしいコトもいっぱいするって事なんだよ?」  
ゆるゆると腰を動かしながら、諭すように敦賀さんが言った。  
「今みたいに、キョーコが一息つくのも待てないくらい、激しくするって事…。それでもいいの?」  
あれより恥ずかしいコトって何なんだろう?そういうの、あんまりよくはわからない。  
でもきっと、敦賀さんなら気持ちよくしてくれる…。それだけは、確信できる。  
「あっ、か、構わないですっ」  
構わない。だって、敦賀さんが…。  
「蓮が好きだからっ、いっぱい、…して?」  
 
そう告げると、敦賀さんはもの凄く嬉しそうな顔。その顔、好きだな。  
「……っ、ありがとう」  
敦賀さんは、そう囁いてから私の中をたくさん擦った。唇を吸って、言葉なんて交わせないくらい舌を絡めとられると、私の中は高ぶってくる。  
体中が熱い。一番熱いところに、敦賀さんを感じる。敦賀さんを感じる度、じゅんじゅんと熱が上がっていく。  
「んっ、んっ、んんっ、んっ」  
熱い。迫り来る波に飲み込まて、真っ白になる。  
「んんっ、んぅっ、……んんんんんんっ!」  
ガクガクと痙攣する体の奥で、敦賀さんがビクビクとはじけるのを感じた。  
 
「大丈夫だった?」  
「はい。…気持ちよかったです」  
恥ずかしいけど、今、言わなきゃ。敦賀さんはきっと、また、私に気を使うから。  
「敦賀さんに、いろんなコト教えてもらうの好きです」  
それに、物凄く嬉しい。  
「ホントに?」  
「ホントですよ」  
敦賀さんに抱きすがりキスをする私を、もう一度組敷いて、私の目を覗き込む敦賀さんの目。やっぱり、どこか、獣めいてる…。  
「じゃあ、いっぱい気持ちよくしてあげる」  
今日の敦賀さんは優しいけど、官能的で…。  
この夜、私は、初めて気を失うまで敦賀さんに体を預けた。  
 
アイツに捨てられた日から、恋をするのが怖かった。  
人を好きになって、また、裏切られるのが怖かった。  
けど、敦賀さんとなら大丈夫。ずっと、一緒にいられる。育てていける。  
きっと、きっと……。  
 

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