敦賀さんと、部屋での待ち合わせ。  
夕方に帰れるから部屋で待ってて、と渡された合い鍵で部屋に入った。  
いつもデートは敦賀さんの部屋で、映画を観たり、ご飯食べたり、  
とりとめのない会話の合間に、時々、キスをしたり……。  
そんなまったりした時間を過ごせることが、私には、すごく幸せだった。  
大きな画面のテレビでドラマを見ながらぼーっとしてると、携帯の着信音。  
「もしもし?」  
『ああ、最上さん?俺だけど……』  
電話ごしに、敦賀さんの落胆したような声。  
もう少し長引くから少しだけ遅くなると、わざわざ忙しいのに連絡をくれたようだった。  
今日はお泊まりだから別にいいのに。  
とりあえずご飯作って、先にお風呂を貰ってしまおう。  
敦賀さんとは、付き合いだしてだいぶ経つ。お泊まりだって初めてじゃない。  
キスだって何度もしたけど、その先まではしたことがなかった。  
ベッドの中で、とりとめのない会話をして、  
おやすみのキスの後、敦賀さんの温かな腕の中で眠るだけ。  
お泊まりはいつもそんな感じで、今日だってきっといつもと変わらないお泊まりで、  
それが私を、なんとなく安心させてたのだった。  
 
お風呂上がり、大きなベッドの上で発声練習をしていると、  
ガタンと大きな音を立ててドアが開いた。  
「あ、おかえりなさい。敦賀さん」  
「ただいま。リビングにいないから驚いたよ」  
安堵のため息をもらす敦賀さんは、私を探し回ってくれたみたい。  
「ご、ごめんなさい」  
養成所の先生が寝転んで発声練習をするのがいいって言うから、と正直に謝ると、  
「ああ。俺も昔よくやった」  
って、敦賀さんは笑って許してくれた。  
本当に、敦賀さんは優しい。大好き。  
「あ、ご飯できてます」  
「ありがとう。その前にシャワー浴びてくるから」  
発声練習続けてて?って言って、敦賀さんはベッドルームから出ていってしまった。  
きっと、シャワーが終わったら一緒にご飯ってことなんだろう。  
いつも、ご飯は一緒に食べてるから。  
一人で食べるより、二人の方がおいしいもの。  
それに、敦賀さんが私の作ったご飯を、おいしそうに食べるのを見るのも、すごく嬉しい。  
敦賀さんが、おいしいよって言ってくれるのを聞きたくて、  
私は愛情をたっぷり込めてご飯を作ったのだから。  
「ただいま」  
「おかえりなさい」  
洗い晒しの髪をタオルドライしながら戻ってきた敦賀さんに、思わず見とれる。  
 
格好いい人は、そんな何気ない動作でも、見とれてしまうくらい絵になるものなのね……。  
「何?ぼーっとして」  
ベッドの端に座り、ほやーっと見つめる私の視線に気付いて、敦賀さんは心配そうに私の顔を覗き込む。  
格好いいから見とれてました、なんて恥ずかしいことが言えるわけもなく、  
「な、何でもないです」  
私は、真っ赤に火照った顔を隠すために俯いた。  
「本当に?」  
「ホントです」  
「そっか。病気とかじゃないなら、いいんだ」  
そう言って、額にキスをくれる敦賀さんの唇は、優しい。  
額に唇を落とした後、敦賀さんは、じっと私の目を見る。  
ゆっくりと顔が近づいてくる。私は息を止めて、目をつむった。  
敦賀さんの柔らかな唇が、私の唇と重なる。  
ふにゅりとした感触が温かくて、心の中がほっこりと温かくなる。  
キスって、すごく気持ちいいなって思う。  
敦賀さんとするからかしら。すごく、好き。  
唇が離れると、やっぱり恥ずかしくて俯いてしまう。  
照れてしまって敦賀さんの顔が見られない。  
俯いてしまった私を見て、敦賀さんはくすくすと笑った。  
「最上さん、可愛い」  
と、私をきゅうと抱きしめてくれる。  
「可愛くなんか……」  
「可愛いよ、凄く」  
 
そう言ってくれる敦賀さんの胸が温かくて、うっとりと瞳を閉じた。  
「私、敦賀さんとキスするの好きです」  
ぽつり、口からでた言葉に自分でもびっくりしちゃう。  
敦賀さんの腕の中で安心しちゃって、本音が思わずこぼれてしまった。  
「それは嬉しいな。もっとする?」  
コツンと私の額に額をくっつけて、本当に嬉しそうに言う敦賀さんの顔を見たら、言って良かったと思った。  
だって、すっごく可愛い顔するんですもの。  
そんなに嬉そうな顔されたら、  
「はい」  
としか言えないじゃない。  
恥ずかしくて、顔が熱い。きっと私、真っ赤な顔してる。  
そんな私を見て、敦賀さんはくすりと笑って、もう一度額にキスを落とした。  
そのまま何度かキスをして、ベッドに押し倒される。  
温かくてふにゅふにゅとした唇が私の唇を掠めるのが、気持ちいい。  
こんなに、たくさんのキスを一度にしたの、初めて。  
時々、上唇や下唇を敦賀さんの唇が挟み込んで、ちゅって吸われる。  
いつもは重なった唇はすぐ離すのに、こんなに長い間、唇を重ね合ったままでいるのも、初めてだった。  
ずっと息を止めていられなくて、吐息をもらすために少し開いた唇を、敦賀さんの舌がなぞった。  
「……ん」  
 
私の唇をなぞる敦賀さんの舌に、私の舌先がちょん、と触る。  
敦賀さん、嫌じゃなかったかしら。あっ、また、舌が触っちゃ……。  
「……ん、んん?」  
どうやら私の舌が当たっちゃってるんじゃなくて、敦賀さんの舌が、  
つんつんと私の舌先をつついてるみたい。  
唇をなぞったり、ちゅって吸われたり、合間にちょん、と舌先が触れたり……。  
こんなキス、私、知らない。キスって唇をくっつけるだけじゃないの?  
キスのせいか、私が少しパニクってきたからか、頭がクラクラしてくる。  
「……ふぁ、んっ!んんんん?」  
つ、敦賀さんの舌がっ!舌が、するりと口の中に入ってきた。  
私の舌を、舌先でゆっくりとなぞったかと思うと、絡めとってかき回す。  
口の中をかき回されて、唾液が混ざり合う。  
熱くてねっとりとした舌が、なんだか不思議な感触で……。  
何これ、何これ、何これ……?頭の中は更にパニック。  
キスって唇重ねるだけでいいんじゃないの?  
「こういうの、嫌?」  
私の様子を察したのか、敦賀さんは唇を離して訊いてきた。  
「い、嫌じゃないです」  
むしろ、かなり気持ちよかった。  
「ただ、少しびっくりして……」  
だってこんなキス、童話やテレビではしてないもの。  
 
「やっぱり……。こういうキスがあるって知らなかった?」  
敦賀さんはふぅとため息をついて、困ったように笑う。  
やっぱり、ってことは、私が何も知らなそうだからしなかったってことかしら。  
「す、すみません」  
何だか急に恥ずかしくなった。  
何て無知なのかしら、私。  
ひょっとして今までのお泊まりで、えっちに進展しなかったのは、  
私が何も知らないから、敦賀さんが気を使ってたって事なのかしら。  
「謝ることじゃない」  
そう言って敦賀さんは恥ずかしさで熱くなった頬に唇を落として、もう一度、唇を重ねてきた。  
「ん……」  
今度は、舌が入ってきても驚かない。  
敦賀さんの舌の動きを真似して、舌をなぞってみたり、唇を少し吸ってみたり、  
少しずついろいろしてはみるけど、敦賀さんも同じように気持ちいいと思ってくれてるかしら。  
「……ん、ふ」  
絡まりあうもれた吐息が、熱い。頭の中がふわふわとしてくる。  
こういうキスは初めてだけど、すごく気持ちいい。  
きっと、敦賀さんが上手なんだわ。  
「ふぁ」  
ふと、唇が離れた。私を見下ろす敦賀さんは、何だかつらそうな顔。  
「どうかしました?」  
私、何かしたかしら?キス、下手だったのかな。  
「最上さん……」  
 
口を開いた敦賀さんの声は、吐息と共に吐き出されたような、  
今まで聞いたことがないくらい、すごく艶っぽい声だった。  
「このまま君を、全部もらってもいいかな?」  
耳元で囁かれる声が、低くて深くてドキドキする。  
全部、ってことは。つまり、その……。えっちをするっていうことで。  
「は、はい」  
「ありがとう」  
う、うん。大丈夫。敦賀さんとならきっと大丈夫。  
下着は新品のセットアップの可愛いの付けてるし、お風呂で体の隅々まで洗ってあるし。  
でも、こういう時ってどうしたらいいの!?  
ぐるぐると少しパニクる私を抱きかかえて、ベッドの中心まで運んでくれた敦賀さんは、  
バサリと勢いよく、着ていたものを脱ぎ捨てた。  
引き締まった体につい、見とれてしまう。  
「あ、わ、私も」  
脱がなきゃ、とボタンにかけた手を制止して、  
「脱がすのも男の楽しみ」  
と、すぐには脱がせないでキスの雨を降らせてくる。  
すぐに、頭の中がふわふわとしてきた。  
さっきみたいにたくさん、キスをするだけ。  
「そのまま、力抜いて俺に任せて」  
唇を付けたまま、敦賀さんが言った。  
私を組敷いたままシーツにくるまり、キスの雨を降らせてくる敦賀さんの吐息が、熱い。  
「……ふっ」  
 
私の唇からもれる吐息も、熱い。  
敦賀さんのマネをしながら、ゆっくりと舌を絡め始め、首の後ろに手を回した。  
後頭部を撫でると、いつもの可愛い感触が手のひらに広がる。  
「……んっ、んんっ」  
髪の毛の感触を楽しんでいたのに、もっと、とせがんでいるように感じたのか、  
敦賀さんは更に舌を絡めてきた。  
くちゅ、と唾液の混ざり合う音と共に、ふわふわとした浮遊感に似た心地よさを感じる。  
これが世に言う大人のキスってヤツなのね。  
ふわふわくらくらと、目眩のような甘い熱と快感が背筋を這う。  
「…ふっ」  
唇を重ねたまま、敦賀さんの手が私の服のボタンにかかった。  
いよいよね。脱がされるのね。裸になるのね……。  
明るいから恥ずかしいけど、シーツにくるまってるから平気。  
一人で裸になる訳じゃないし、敦賀さんだって裸だもの。上半身だけだけど。  
ボタンにかけられている手が、ふと止まり、ベッドの際に伸びた。  
ピッという電子音と共にベッドルームの明かりが暗くなる。  
「真っ暗の方がいいかも知れないけど、それだと君の顔が見れないから…」  
ごめんと謝る敦賀さんが、豆電球くらいの明るさに照らされてるのに、  
本人のオーラなのか惚れた弱みか、輝いて見える。  
 
「い、いえ……」  
答えた私に、また、キスが落とされる。  
敦賀さんの唇は、柔らかくて、熱くて、気持ちよかった。  
ゆっくりとボタンが外されて、ブラが露わにされた。  
キスに乗じて目を閉じている私は、恥ずかしくて、更にぎゅっと目を閉じる。  
そんな私を後目に、敦賀さんは器用に服を脱がせていく。  
やっぱり、手慣れてるんだわ。私は、こーやって固まってるしかできないのに。  
するすると服を脱がされて、されるがままの私は、すぐに下着姿になった。  
「……ふぁ」  
唇が離れて、敦賀さんはじぃと私を見る。  
切れ長の綺麗な目が、私の体を上から下までじっくりと、満足げに見つめる。  
「あ、あんまり見ないで、ください」  
だって、私の体は貧相で色気もなくて、すごく恥ずかしく感じるんだもの。  
「どうして?綺麗だよ」  
「や、だって、恥ずかしい…です」  
それに、胸もないし。敦賀さんみたいに百戦錬磨みたいな人には、物足りなくないかしら。  
「最上さん、肌、綺麗だね。すべすべだ」  
私の体を撫でながら、敦賀さんは笑う。  
脇腹や、背筋や、太ももを撫でまわされて、私は身を捩った。  
「くすぐったいです」  
さらさらと体中を這い回る手がくすぐったい。  
 
思わず笑みをこぼしてしまう私を見て、敦賀さんは反応を楽しむように手を這わせる。  
「敏感なんだね」  
耳たぶを甘咬みして、首筋にキスをされた。  
「……んっ」  
生温かい舌が首筋に這わされる。ぬらぬらとした舌で舐め上げられて、鼻から抜けるように吐息がもれた。  
「ふぁ…ん」  
ブラのホックを外され、敦賀さんの手がするりと入り込んでくる。  
胸全体を手のひらにすっぽりとおさめて、やんわりと揉みしだく敦賀さんの手は、  
なんだか優しくてあったかい気がした。  
「……ん」  
でも、やっぱり恥ずかしい。  
胸の先をきゅうと摘まれて、背筋がぞくりとした。  
くりくりと指で摘ままれたまま、こねられたり軽く引っ張られたり、  
時々指先ではじかれると、何かがぞくぞくと背筋を這いずり回る。  
ブラを取られて、隠すものがなくなってしまった胸を見られると思うと、  
ドキドキと心臓が早鐘を打つように鳴り、緊張で体が固まる。  
体を起こして、私を見下ろしてくる敦賀さんの視線が、なんだか熱い。  
「そんなに、見ないでくださ……」  
「駄目だよ。最上さんの綺麗な体が見れない」  
腕で隠そうとしたのに、手首を掴まれて剥がされてしまった。  
見られてる。私の胸なんか見たって楽しいことないのに。  
じぃ、と見つめる視線が耐えきれないくらい恥ずかしい。恥ずかしくて頬が火照る。  
せめて目が合わないように、私は目を逸らした。  
「……ひゃっ」  
 
唐突に、胸の先がぬるりと生温かいものに包まれた。  
コロコロと転がされ、時々、ちゅっと吸い上げられる。  
「……っ、んん」  
舌を絡まされてから初めて、くわえられていることに気付いた。  
吐息と共に吐き出されるくもった声が、私のものじゃないみたい。  
こんなの、普通出るものなのかしら。私だけかしら。でも、やっぱり恥ずかしい。  
「声、出して?」  
「そ、んなの、言われても、…ん、わかりません」  
胸につけたまま話す敦賀さんの唇が、話す度に動いて胸の先を刺激する。  
「そうか。じゃあゆっくりでいいから」  
私が恥ずかしいと思うことを、敦賀さんは無理強いはしなかった。  
ゆっくりと体を撫でながら、胸の先に舌を這わせる。  
びりびりと小さな電流が背筋を撫で上げ、体中が熱くなってく。  
「ん、……ぁ、はぁ…」  
だんだんと呼吸が荒くなっていく。はぁ、と吐き出される敦賀さんの吐息も一緒だった。  
なんだか、獣みたい。二人して荒々しくなった息づかいが、そう感じさせた。  
お腹の中がじんじんする。時々、きゅうってなるのを感じる。  
甘い電流が体中を走り回って、緊張していた体の力が抜けていく。  
「気持ちいい?」  
気持ちいいとか、快感とかはよくわからないけど……。  
「な、なんだか、……ふっ、むずむず、します。体中が」  
「そう。嫌じゃない?」  
「はい」  
素直な気持ちで答えると、敦賀さんは納得したみたいだった。  
 
するすると体を撫で回していた手が、ゆっくりと滑り降りる。  
敦賀さんの手がショーツにかかり、するりと下ろされてしまう。  
体はシーツに隠れているから見られる事はないけど、自分の身を隠している物が何もない状態になって、  
改めて顔から火が出る程の恥ずかしさを感じた。  
私が恥ずかしがってるのを知ってか、敦賀さんも脱いでくれたみたい。  
お互い、肌を重ねて体温を感じるのって凄く気持ちいいのね。  
知らなかった。これだけでも、凄く幸せだなーっつ感じてしまう。  
「……ん」  
裸で抱き合って、教えて貰ったばかりの深い深いキスを交わす。  
ねっとりと舌を絡めて唾液を絡め合うのが、さっきよりもずっと、いやらしく感じる。  
えっちなことをしてるからかしら。恥ずかしいのに、気持ちいい。  
「怖い?」  
唇を離して、コツンと額をつけて確認するように敦賀さんが言った。  
本当は、凄く怖い。だって、こんなのした事ないし、どうしたらいいかもわからない。でも……。  
「敦賀さんとだから、平気」  
答える私に、敦賀さんは嬉しそうに笑った。  
「ありがとう。出来るだけ、優しくするから」  
って、もう一度、優しい優しいキスをくれてから、敦賀さんの唇が、どんどん下に降りていった。  
 
さっきまで唇をつけていた胸を通り越して、ふにゅ、ふにゅってたくさんのキスをしながら、  
敦賀さんの唇は更に下に下がっていく。  
鳩尾や、肋骨、おへそ、脇腹、下腹部、脚の付け根……。  
触れるだけの唇が、あったかいけどくすぐったい。  
両方の脚の付け根までいくと、また、唇から脚の付け根まで、  
ふにふにと柔らかいキスを何度も何度も落としながら、敦賀さんは私の膝を割り開いた。  
「んんっ!敦賀さっ、そんなの汚…」  
「大丈夫。最上さんの体に汚いところなんてないよ」  
突然、下肢の割れ目を舐め上げられて、驚いた私は声をあげた。  
恥ずかしさと戸惑いで、一気に体が熱くなる。  
戸惑っている私を無視して、敦賀さんは茂みの奥に舌を潜り込ませた。  
「……ふぁっ、んんっ」  
粒を口に含まれ、ぷりぷりと舌で苛まれる。  
中の芯のようなものをコリコリと甘咬みされて、頭の中にもやがかかったよう。  
お腹の中がむずむずと疼いて熱くなってく。  
敦賀さんの舌に翻弄されていく体が、自分のものじゃないみたい。  
食べられちゃう。実際はそんなことないのに、何故だかそう思った。  
「……んっ、んんぅ」  
えっちって、こんな事までするの?本当に私は何も知らなかったんだ。  
ぐるぐると戸惑ってばかりの私を、敦賀さんは容赦なく暴いていく。  
長い指が、割れ目をゆるりて撫で上げた。  
「濡れてきたね」  
「……え?…んっ、んん」  
濡れるって何?私何かおかしいかしら。  
「最上さんが、気持ちよくなってくれてるってことだよ」  
 
シーツの中で、私の脚の間に頭を埋め込んでいる敦賀さんの、  
声は何かに安心したような優しい声だった。  
「なんかっ、…よく、んん、わからないです」  
体は熱くてムズムズしてるけど、気持ちいいかと言われるとそうでもない気もするし。  
何より、恥ずかしさの方が勝ってしまってそれどころじゃない。  
「うん。ゆっくり覚えてくれればいいから」  
私の戸惑いや、恥ずかしさを全部お見通しのように、敦賀さんは優しい言葉をかけてくれる。  
なんだか余裕で、それがまた少し私を恥ずかしくさせた。  
「ひゃあっ、……ああっ」  
ゆっくりと、私の中に敦賀さんの指が入ってくる。  
中の壁を指の腹で擦られると、ムズムズと高ぶる中が更に熱くなって、  
じんわりと何かが湧き出るような感覚を覚えた。  
「きつい?」  
「いっ、いえ…、だいじょ、ぶです」  
さっきみたいに、茂みの奥の粒に舌を這わせながら、  
ゆっくりと指で押し開くように、敦賀さんは手を動かし始めた。  
脚に力が入らない。自然と、かかとが浮き上がってしまう。  
わけがわからないまま、私はシーツをぎゅっと掴んだ。  
体中が熱くて、じっとりと汗ばむ。  
敦賀さんが指をくるりとかき回すと、中からトロリと何かが溢れ出していく。  
ムズムズと細かな痙攣を繰り返して、指の届かない奥の方が、疼きだした気がした。  
「んっ、ふっ、……あ、んんっ、ぅん」  
吐息と、鼻にかかった小さな声が、唇から勝手にこぼれだしていく。  
指を一本増やされ、同じように中を擦られると、なんだか少し苦しかった。  
 
「大丈夫?」  
「んっ、…ん、は、はいっ、……んぁ」  
何度も私の様子を確認するように尋ねられる敦賀さんの言葉に、優しさを感じて、胸が温かくなった。  
怖かったのが嘘みたい。体と一緒に、心も溶けていくようだった。  
「……最上さん?」  
「…は、はい」  
もそもそとシーツの中から這い出てきた敦賀さんの顔は、綺麗。  
でも、切羽詰まったような、何かを我慢してるような、そんな感じがする。  
「そろそろ、君の中に入ってもいい?」  
頬に口付けながらためらいがちに吐き出された言葉。  
「はい。もちろんです」  
嫌がる理由なんてないもの。当然、私はこう答えた。  
「優しくしてあげられなくてごめん」  
ぎゅう、ときつく抱きしめられる。お互いの汗で、ぴったりとくっつく肌が気持ちいい。  
敦賀さんは凄く優しい。何度も、何度も、私を気遣ってくれるもの。  
「敦賀さんは優しいですよ」  
「ありがとう」  
呟いた言葉を後悔したのは、少し後。  
するりとシーツが剥がれて、避妊具を着ける敦賀さんを見てからだった。  
私の視線に気付いて、敦賀さんは少し申し訳なさそうな顔を向けた。  
だって、指でもきつかったのに。私の中に入るであろう敦賀さんのものはもっと大きいんだもの。  
「怖い?」  
「す、少し」  
あんな大きいもの、入るの?本当に入るのかしら。  
「痛かったら言って?止められないけど、優しくできるように努力するから」  
 
先端を私にあてがって、敦賀さんは言った。  
「入るよ」  
ゆっくりと私を押し広げて、敦賀さんが侵入しようとしてくる。  
でも、敦賀さんのは大きくて、やっぱり入りそうにない。  
「……うぁ、キツぅい…」  
「ごめん。少し、我慢して」  
ゆっくりゆっくり、出たり入ったりを繰り返して、少しずつ奥深くまで入り込もうとしてくる。  
でも、やっぱり苦しい。避けてしまいそうな痛みが走る。  
「こんな、のっ、……無理っ」  
思いも寄らない圧迫感に、涙がこぼれた。  
「……っ、入った」  
はぁ、とため息を突き出して、敦賀さんは動きを止めた。  
私の中に何かが埋まっている感じがする。  
「苦しい?」  
「す、少し……」  
慣れるまで、敦賀さんは私の中に埋まったまま、抱きしめてくれていた。  
触れる肌の温かさに安心して、敦賀さんが入っている状態に慣れ始めた頃、  
敦賀さんはゆるゆると腰を動かし始めた。  
「痛い?」  
「少しだけ、…んっ、でもっ、平気です」  
のの字を書くようにぐるりと腰を回して、私の中を少しずつ開くように動かされる。  
動きはやがて抜き差しに変わり、ゆっくりだった動きが激しくなっていく。  
「……ぅあっ、んんっ」  
涙がこぼれ落ちる瞳を敦賀さんに向けると、恍惚とした表情で、やけに艶を帯びていた。  
 
「ずっと、こうしたかった……」  
吐息と共に耳元で吐き出されるかすれた声に、いつもの敦賀さんには感じられない、余裕のなさを感じた。  
「んっ、んんっ、……つ、敦賀さ、好きっ」  
言葉を出せば少しは痛みが楽になるかと思って、口から出した言葉を受け止めて、  
敦賀さんは嬉しそうに笑ってくれる。  
「俺も、……っ、好きだよ、君の事が、凄くっ」  
荒々しい息の合間を縫って、途切れ途切れに言って貰える言葉が嬉しい。  
敦賀さんが好き。本当に好き。  
気持ちいいとかはわからないけど、こうやって敦賀さんと繋がっていられることが、  
なんだか凄く嬉しく感じてしまう。  
「好きっ」  
必死でしがみついて、何度も何度も好きと言った。  
敦賀さんは私の言葉を受け止めて、  
「俺も」  
と呟き、頬にキスをくれる。  
涙を唇で拭って、私の右手に自分の手を重ね指を絡めた。  
「んんっ、…ぁ、ああっ、んっ」  
敦賀さんの体の動きに慣れ始めた頃、また、体の中がムズムズと疼きだした。  
少し、熱くなり始める。  
「最上さんっ、そろそろ、出すよ」  
絞り出すような声を出した後、敦賀さんの眉間にシワが寄った。  
中で、敦賀さんがびくんびくんと跳ね回るのを感じる。  
痛くなくなり始めてたのにな。終わったんだ。  
私の中から、敦賀さんが引き抜かれるのが、少し寂しかった。  
 
「優しくしてあげられなくて、ごめん」  
避妊具を外して私の股をティッシュで拭った後、シーツにくるまって、  
私を抱きしめながら敦賀さんが言った。  
「いえ。こちらこそ、すみません……」  
敦賀さんが、あんなに優しくしてくれたのに、気持ちいいとかよくわからなかった。  
「最上さんを、全部くれてありがとう」  
嬉しそうに、本当に嬉しそうにそういう敦賀さんが、凄く可愛い。  
そう言ってもらえると、私も嬉しい。  
「初めて、を、全部貰ってくれて、ありがとうございます」  
告げた言葉に、敦賀さんはにっこりと笑う。  
ぎゅーっと力強く私を抱きしめて、ふかふかと頭を撫でてくれた。  
「ご飯にしようか。テーブルに美味しそうなのがいっぱい並んでた」  
「あ、そうですね」  
「今日はここで食べよう?待ってて、持ってくるから」  
するりとシーツを抜け出した敦賀さんの後を追いかけようとして、起き上がろうとした。  
お腹に、鈍い痛みを感じて、上手く歩けない。  
だからここで食べようって言ってくれたのか、と妙に納得する。  
「お待たせ」  
お盆を持って現れた敦賀さんの姿と、お腹の中の鈍い痛みに、  
身も心も敦賀さんのものになったのだと実感する。  
こみ上げてくる笑みを押さえきれずに、私は、どうしようもない幸せをかみしめていた。  
 
 

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