敦賀さんと、部屋での待ち合わせ。
夕方に帰れるから部屋で待ってて、と渡された合い鍵で部屋に入った。
いつもデートは敦賀さんの部屋で、映画を観たり、ご飯食べたり、
とりとめのない会話の合間に、時々、キスをしたり……。
そんなまったりした時間を過ごせることが、私には、すごく幸せだった。
大きな画面のテレビでドラマを見ながらぼーっとしてると、携帯の着信音。
「もしもし?」
『ああ、最上さん?俺だけど……』
電話ごしに、敦賀さんの落胆したような声。
もう少し長引くから少しだけ遅くなると、わざわざ忙しいのに連絡をくれたようだった。
今日はお泊まりだから別にいいのに。
とりあえずご飯作って、先にお風呂を貰ってしまおう。
敦賀さんとは、付き合いだしてだいぶ経つ。お泊まりだって初めてじゃない。
キスだって何度もしたけど、その先まではしたことがなかった。
ベッドの中で、とりとめのない会話をして、
おやすみのキスの後、敦賀さんの温かな腕の中で眠るだけ。
お泊まりはいつもそんな感じで、今日だってきっといつもと変わらないお泊まりで、
それが私を、なんとなく安心させてたのだった。
お風呂上がり、大きなベッドの上で発声練習をしていると、
ガタンと大きな音を立ててドアが開いた。
「あ、おかえりなさい。敦賀さん」
「ただいま。リビングにいないから驚いたよ」
安堵のため息をもらす敦賀さんは、私を探し回ってくれたみたい。
「ご、ごめんなさい」
養成所の先生が寝転んで発声練習をするのがいいって言うから、と正直に謝ると、
「ああ。俺も昔よくやった」
って、敦賀さんは笑って許してくれた。
本当に、敦賀さんは優しい。大好き。
「あ、ご飯できてます」
「ありがとう。その前にシャワー浴びてくるから」
発声練習続けてて?って言って、敦賀さんはベッドルームから出ていってしまった。
きっと、シャワーが終わったら一緒にご飯ってことなんだろう。
いつも、ご飯は一緒に食べてるから。
一人で食べるより、二人の方がおいしいもの。
それに、敦賀さんが私の作ったご飯を、おいしそうに食べるのを見るのも、すごく嬉しい。
敦賀さんが、おいしいよって言ってくれるのを聞きたくて、
私は愛情をたっぷり込めてご飯を作ったのだから。
「ただいま」
「おかえりなさい」
洗い晒しの髪をタオルドライしながら戻ってきた敦賀さんに、思わず見とれる。
格好いい人は、そんな何気ない動作でも、見とれてしまうくらい絵になるものなのね……。
「何?ぼーっとして」
ベッドの端に座り、ほやーっと見つめる私の視線に気付いて、敦賀さんは心配そうに私の顔を覗き込む。
格好いいから見とれてました、なんて恥ずかしいことが言えるわけもなく、
「な、何でもないです」
私は、真っ赤に火照った顔を隠すために俯いた。
「本当に?」
「ホントです」
「そっか。病気とかじゃないなら、いいんだ」
そう言って、額にキスをくれる敦賀さんの唇は、優しい。
額に唇を落とした後、敦賀さんは、じっと私の目を見る。
ゆっくりと顔が近づいてくる。私は息を止めて、目をつむった。
敦賀さんの柔らかな唇が、私の唇と重なる。
ふにゅりとした感触が温かくて、心の中がほっこりと温かくなる。
キスって、すごく気持ちいいなって思う。
敦賀さんとするからかしら。すごく、好き。
唇が離れると、やっぱり恥ずかしくて俯いてしまう。
照れてしまって敦賀さんの顔が見られない。
俯いてしまった私を見て、敦賀さんはくすくすと笑った。
「最上さん、可愛い」
と、私をきゅうと抱きしめてくれる。
「可愛くなんか……」
「可愛いよ、凄く」
そう言ってくれる敦賀さんの胸が温かくて、うっとりと瞳を閉じた。
「私、敦賀さんとキスするの好きです」
ぽつり、口からでた言葉に自分でもびっくりしちゃう。
敦賀さんの腕の中で安心しちゃって、本音が思わずこぼれてしまった。
「それは嬉しいな。もっとする?」
コツンと私の額に額をくっつけて、本当に嬉しそうに言う敦賀さんの顔を見たら、言って良かったと思った。
だって、すっごく可愛い顔するんですもの。
そんなに嬉そうな顔されたら、
「はい」
としか言えないじゃない。
恥ずかしくて、顔が熱い。きっと私、真っ赤な顔してる。
そんな私を見て、敦賀さんはくすりと笑って、もう一度額にキスを落とした。
そのまま何度かキスをして、ベッドに押し倒される。
温かくてふにゅふにゅとした唇が私の唇を掠めるのが、気持ちいい。
こんなに、たくさんのキスを一度にしたの、初めて。
時々、上唇や下唇を敦賀さんの唇が挟み込んで、ちゅって吸われる。
いつもは重なった唇はすぐ離すのに、こんなに長い間、唇を重ね合ったままでいるのも、初めてだった。
ずっと息を止めていられなくて、吐息をもらすために少し開いた唇を、敦賀さんの舌がなぞった。
「……ん」
私の唇をなぞる敦賀さんの舌に、私の舌先がちょん、と触る。
敦賀さん、嫌じゃなかったかしら。あっ、また、舌が触っちゃ……。
「……ん、んん?」
どうやら私の舌が当たっちゃってるんじゃなくて、敦賀さんの舌が、
つんつんと私の舌先をつついてるみたい。
唇をなぞったり、ちゅって吸われたり、合間にちょん、と舌先が触れたり……。
こんなキス、私、知らない。キスって唇をくっつけるだけじゃないの?
キスのせいか、私が少しパニクってきたからか、頭がクラクラしてくる。
「……ふぁ、んっ!んんんん?」
つ、敦賀さんの舌がっ!舌が、するりと口の中に入ってきた。
私の舌を、舌先でゆっくりとなぞったかと思うと、絡めとってかき回す。
口の中をかき回されて、唾液が混ざり合う。
熱くてねっとりとした舌が、なんだか不思議な感触で……。
何これ、何これ、何これ……?頭の中は更にパニック。
キスって唇重ねるだけでいいんじゃないの?
「こういうの、嫌?」
私の様子を察したのか、敦賀さんは唇を離して訊いてきた。
「い、嫌じゃないです」
むしろ、かなり気持ちよかった。
「ただ、少しびっくりして……」
だってこんなキス、童話やテレビではしてないもの。
「やっぱり……。こういうキスがあるって知らなかった?」
敦賀さんはふぅとため息をついて、困ったように笑う。
やっぱり、ってことは、私が何も知らなそうだからしなかったってことかしら。
「す、すみません」
何だか急に恥ずかしくなった。
何て無知なのかしら、私。
ひょっとして今までのお泊まりで、えっちに進展しなかったのは、
私が何も知らないから、敦賀さんが気を使ってたって事なのかしら。
「謝ることじゃない」
そう言って敦賀さんは恥ずかしさで熱くなった頬に唇を落として、もう一度、唇を重ねてきた。
「ん……」
今度は、舌が入ってきても驚かない。
敦賀さんの舌の動きを真似して、舌をなぞってみたり、唇を少し吸ってみたり、
少しずついろいろしてはみるけど、敦賀さんも同じように気持ちいいと思ってくれてるかしら。
「……ん、ふ」
絡まりあうもれた吐息が、熱い。頭の中がふわふわとしてくる。
こういうキスは初めてだけど、すごく気持ちいい。
きっと、敦賀さんが上手なんだわ。
「ふぁ」
ふと、唇が離れた。私を見下ろす敦賀さんは、何だかつらそうな顔。
「どうかしました?」
私、何かしたかしら?キス、下手だったのかな。
「最上さん……」
口を開いた敦賀さんの声は、吐息と共に吐き出されたような、
今まで聞いたことがないくらい、すごく艶っぽい声だった。
「このまま君を、全部もらってもいいかな?」
耳元で囁かれる声が、低くて深くてドキドキする。
全部、ってことは。つまり、その……。えっちをするっていうことで。
「は、はい」
「ありがとう」
う、うん。大丈夫。敦賀さんとならきっと大丈夫。
下着は新品のセットアップの可愛いの付けてるし、お風呂で体の隅々まで洗ってあるし。
でも、こういう時ってどうしたらいいの!?
ぐるぐると少しパニクる私を抱きかかえて、ベッドの中心まで運んでくれた敦賀さんは、
バサリと勢いよく、着ていたものを脱ぎ捨てた。
引き締まった体につい、見とれてしまう。
「あ、わ、私も」
脱がなきゃ、とボタンにかけた手を制止して、
「脱がすのも男の楽しみ」
と、すぐには脱がせないでキスの雨を降らせてくる。
すぐに、頭の中がふわふわとしてきた。
さっきみたいにたくさん、キスをするだけ。
「そのまま、力抜いて俺に任せて」
唇を付けたまま、敦賀さんが言った。
私を組敷いたままシーツにくるまり、キスの雨を降らせてくる敦賀さんの吐息が、熱い。
「……ふっ」
私の唇からもれる吐息も、熱い。
敦賀さんのマネをしながら、ゆっくりと舌を絡め始め、首の後ろに手を回した。
後頭部を撫でると、いつもの可愛い感触が手のひらに広がる。
「……んっ、んんっ」
髪の毛の感触を楽しんでいたのに、もっと、とせがんでいるように感じたのか、
敦賀さんは更に舌を絡めてきた。
くちゅ、と唾液の混ざり合う音と共に、ふわふわとした浮遊感に似た心地よさを感じる。
これが世に言う大人のキスってヤツなのね。
ふわふわくらくらと、目眩のような甘い熱と快感が背筋を這う。
「…ふっ」
唇を重ねたまま、敦賀さんの手が私の服のボタンにかかった。
いよいよね。脱がされるのね。裸になるのね……。
明るいから恥ずかしいけど、シーツにくるまってるから平気。
一人で裸になる訳じゃないし、敦賀さんだって裸だもの。上半身だけだけど。
ボタンにかけられている手が、ふと止まり、ベッドの際に伸びた。
ピッという電子音と共にベッドルームの明かりが暗くなる。
「真っ暗の方がいいかも知れないけど、それだと君の顔が見れないから…」
ごめんと謝る敦賀さんが、豆電球くらいの明るさに照らされてるのに、
本人のオーラなのか惚れた弱みか、輝いて見える。
「い、いえ……」
答えた私に、また、キスが落とされる。
敦賀さんの唇は、柔らかくて、熱くて、気持ちよかった。
ゆっくりとボタンが外されて、ブラが露わにされた。
キスに乗じて目を閉じている私は、恥ずかしくて、更にぎゅっと目を閉じる。
そんな私を後目に、敦賀さんは器用に服を脱がせていく。
やっぱり、手慣れてるんだわ。私は、こーやって固まってるしかできないのに。
するすると服を脱がされて、されるがままの私は、すぐに下着姿になった。
「……ふぁ」
唇が離れて、敦賀さんはじぃと私を見る。
切れ長の綺麗な目が、私の体を上から下までじっくりと、満足げに見つめる。
「あ、あんまり見ないで、ください」
だって、私の体は貧相で色気もなくて、すごく恥ずかしく感じるんだもの。
「どうして?綺麗だよ」
「や、だって、恥ずかしい…です」
それに、胸もないし。敦賀さんみたいに百戦錬磨みたいな人には、物足りなくないかしら。
「最上さん、肌、綺麗だね。すべすべだ」
私の体を撫でながら、敦賀さんは笑う。
脇腹や、背筋や、太ももを撫でまわされて、私は身を捩った。
「くすぐったいです」
さらさらと体中を這い回る手がくすぐったい。
思わず笑みをこぼしてしまう私を見て、敦賀さんは反応を楽しむように手を這わせる。
「敏感なんだね」
耳たぶを甘咬みして、首筋にキスをされた。
「……んっ」
生温かい舌が首筋に這わされる。ぬらぬらとした舌で舐め上げられて、鼻から抜けるように吐息がもれた。
「ふぁ…ん」
ブラのホックを外され、敦賀さんの手がするりと入り込んでくる。
胸全体を手のひらにすっぽりとおさめて、やんわりと揉みしだく敦賀さんの手は、
なんだか優しくてあったかい気がした。
「……ん」
でも、やっぱり恥ずかしい。
胸の先をきゅうと摘まれて、背筋がぞくりとした。
くりくりと指で摘ままれたまま、こねられたり軽く引っ張られたり、
時々指先ではじかれると、何かがぞくぞくと背筋を這いずり回る。
ブラを取られて、隠すものがなくなってしまった胸を見られると思うと、
ドキドキと心臓が早鐘を打つように鳴り、緊張で体が固まる。
体を起こして、私を見下ろしてくる敦賀さんの視線が、なんだか熱い。
「そんなに、見ないでくださ……」
「駄目だよ。最上さんの綺麗な体が見れない」
腕で隠そうとしたのに、手首を掴まれて剥がされてしまった。
見られてる。私の胸なんか見たって楽しいことないのに。
じぃ、と見つめる視線が耐えきれないくらい恥ずかしい。恥ずかしくて頬が火照る。
せめて目が合わないように、私は目を逸らした。
「……ひゃっ」
唐突に、胸の先がぬるりと生温かいものに包まれた。
コロコロと転がされ、時々、ちゅっと吸い上げられる。
「……っ、んん」
舌を絡まされてから初めて、くわえられていることに気付いた。
吐息と共に吐き出されるくもった声が、私のものじゃないみたい。
こんなの、普通出るものなのかしら。私だけかしら。でも、やっぱり恥ずかしい。
「声、出して?」
「そ、んなの、言われても、…ん、わかりません」
胸につけたまま話す敦賀さんの唇が、話す度に動いて胸の先を刺激する。
「そうか。じゃあゆっくりでいいから」
私が恥ずかしいと思うことを、敦賀さんは無理強いはしなかった。
ゆっくりと体を撫でながら、胸の先に舌を這わせる。
びりびりと小さな電流が背筋を撫で上げ、体中が熱くなってく。
「ん、……ぁ、はぁ…」
だんだんと呼吸が荒くなっていく。はぁ、と吐き出される敦賀さんの吐息も一緒だった。
なんだか、獣みたい。二人して荒々しくなった息づかいが、そう感じさせた。
お腹の中がじんじんする。時々、きゅうってなるのを感じる。
甘い電流が体中を走り回って、緊張していた体の力が抜けていく。
「気持ちいい?」
気持ちいいとか、快感とかはよくわからないけど……。
「な、なんだか、……ふっ、むずむず、します。体中が」
「そう。嫌じゃない?」
「はい」
素直な気持ちで答えると、敦賀さんは納得したみたいだった。
するすると体を撫で回していた手が、ゆっくりと滑り降りる。
敦賀さんの手がショーツにかかり、するりと下ろされてしまう。
体はシーツに隠れているから見られる事はないけど、自分の身を隠している物が何もない状態になって、
改めて顔から火が出る程の恥ずかしさを感じた。
私が恥ずかしがってるのを知ってか、敦賀さんも脱いでくれたみたい。
お互い、肌を重ねて体温を感じるのって凄く気持ちいいのね。
知らなかった。これだけでも、凄く幸せだなーっつ感じてしまう。
「……ん」
裸で抱き合って、教えて貰ったばかりの深い深いキスを交わす。
ねっとりと舌を絡めて唾液を絡め合うのが、さっきよりもずっと、いやらしく感じる。
えっちなことをしてるからかしら。恥ずかしいのに、気持ちいい。
「怖い?」
唇を離して、コツンと額をつけて確認するように敦賀さんが言った。
本当は、凄く怖い。だって、こんなのした事ないし、どうしたらいいかもわからない。でも……。
「敦賀さんとだから、平気」
答える私に、敦賀さんは嬉しそうに笑った。
「ありがとう。出来るだけ、優しくするから」
って、もう一度、優しい優しいキスをくれてから、敦賀さんの唇が、どんどん下に降りていった。
さっきまで唇をつけていた胸を通り越して、ふにゅ、ふにゅってたくさんのキスをしながら、
敦賀さんの唇は更に下に下がっていく。
鳩尾や、肋骨、おへそ、脇腹、下腹部、脚の付け根……。
触れるだけの唇が、あったかいけどくすぐったい。
両方の脚の付け根までいくと、また、唇から脚の付け根まで、
ふにふにと柔らかいキスを何度も何度も落としながら、敦賀さんは私の膝を割り開いた。
「んんっ!敦賀さっ、そんなの汚…」
「大丈夫。最上さんの体に汚いところなんてないよ」
突然、下肢の割れ目を舐め上げられて、驚いた私は声をあげた。
恥ずかしさと戸惑いで、一気に体が熱くなる。
戸惑っている私を無視して、敦賀さんは茂みの奥に舌を潜り込ませた。
「……ふぁっ、んんっ」
粒を口に含まれ、ぷりぷりと舌で苛まれる。
中の芯のようなものをコリコリと甘咬みされて、頭の中にもやがかかったよう。
お腹の中がむずむずと疼いて熱くなってく。
敦賀さんの舌に翻弄されていく体が、自分のものじゃないみたい。
食べられちゃう。実際はそんなことないのに、何故だかそう思った。
「……んっ、んんぅ」
えっちって、こんな事までするの?本当に私は何も知らなかったんだ。
ぐるぐると戸惑ってばかりの私を、敦賀さんは容赦なく暴いていく。
長い指が、割れ目をゆるりて撫で上げた。
「濡れてきたね」
「……え?…んっ、んん」
濡れるって何?私何かおかしいかしら。
「最上さんが、気持ちよくなってくれてるってことだよ」
シーツの中で、私の脚の間に頭を埋め込んでいる敦賀さんの、
声は何かに安心したような優しい声だった。
「なんかっ、…よく、んん、わからないです」
体は熱くてムズムズしてるけど、気持ちいいかと言われるとそうでもない気もするし。
何より、恥ずかしさの方が勝ってしまってそれどころじゃない。
「うん。ゆっくり覚えてくれればいいから」
私の戸惑いや、恥ずかしさを全部お見通しのように、敦賀さんは優しい言葉をかけてくれる。
なんだか余裕で、それがまた少し私を恥ずかしくさせた。
「ひゃあっ、……ああっ」
ゆっくりと、私の中に敦賀さんの指が入ってくる。
中の壁を指の腹で擦られると、ムズムズと高ぶる中が更に熱くなって、
じんわりと何かが湧き出るような感覚を覚えた。
「きつい?」
「いっ、いえ…、だいじょ、ぶです」
さっきみたいに、茂みの奥の粒に舌を這わせながら、
ゆっくりと指で押し開くように、敦賀さんは手を動かし始めた。
脚に力が入らない。自然と、かかとが浮き上がってしまう。
わけがわからないまま、私はシーツをぎゅっと掴んだ。
体中が熱くて、じっとりと汗ばむ。
敦賀さんが指をくるりとかき回すと、中からトロリと何かが溢れ出していく。
ムズムズと細かな痙攣を繰り返して、指の届かない奥の方が、疼きだした気がした。
「んっ、ふっ、……あ、んんっ、ぅん」
吐息と、鼻にかかった小さな声が、唇から勝手にこぼれだしていく。
指を一本増やされ、同じように中を擦られると、なんだか少し苦しかった。
「大丈夫?」
「んっ、…ん、は、はいっ、……んぁ」
何度も私の様子を確認するように尋ねられる敦賀さんの言葉に、優しさを感じて、胸が温かくなった。
怖かったのが嘘みたい。体と一緒に、心も溶けていくようだった。
「……最上さん?」
「…は、はい」
もそもそとシーツの中から這い出てきた敦賀さんの顔は、綺麗。
でも、切羽詰まったような、何かを我慢してるような、そんな感じがする。
「そろそろ、君の中に入ってもいい?」
頬に口付けながらためらいがちに吐き出された言葉。
「はい。もちろんです」
嫌がる理由なんてないもの。当然、私はこう答えた。
「優しくしてあげられなくてごめん」
ぎゅう、ときつく抱きしめられる。お互いの汗で、ぴったりとくっつく肌が気持ちいい。
敦賀さんは凄く優しい。何度も、何度も、私を気遣ってくれるもの。
「敦賀さんは優しいですよ」
「ありがとう」
呟いた言葉を後悔したのは、少し後。
するりとシーツが剥がれて、避妊具を着ける敦賀さんを見てからだった。
私の視線に気付いて、敦賀さんは少し申し訳なさそうな顔を向けた。
だって、指でもきつかったのに。私の中に入るであろう敦賀さんのものはもっと大きいんだもの。
「怖い?」
「す、少し」
あんな大きいもの、入るの?本当に入るのかしら。
「痛かったら言って?止められないけど、優しくできるように努力するから」
先端を私にあてがって、敦賀さんは言った。
「入るよ」
ゆっくりと私を押し広げて、敦賀さんが侵入しようとしてくる。
でも、敦賀さんのは大きくて、やっぱり入りそうにない。
「……うぁ、キツぅい…」
「ごめん。少し、我慢して」
ゆっくりゆっくり、出たり入ったりを繰り返して、少しずつ奥深くまで入り込もうとしてくる。
でも、やっぱり苦しい。避けてしまいそうな痛みが走る。
「こんな、のっ、……無理っ」
思いも寄らない圧迫感に、涙がこぼれた。
「……っ、入った」
はぁ、とため息を突き出して、敦賀さんは動きを止めた。
私の中に何かが埋まっている感じがする。
「苦しい?」
「す、少し……」
慣れるまで、敦賀さんは私の中に埋まったまま、抱きしめてくれていた。
触れる肌の温かさに安心して、敦賀さんが入っている状態に慣れ始めた頃、
敦賀さんはゆるゆると腰を動かし始めた。
「痛い?」
「少しだけ、…んっ、でもっ、平気です」
のの字を書くようにぐるりと腰を回して、私の中を少しずつ開くように動かされる。
動きはやがて抜き差しに変わり、ゆっくりだった動きが激しくなっていく。
「……ぅあっ、んんっ」
涙がこぼれ落ちる瞳を敦賀さんに向けると、恍惚とした表情で、やけに艶を帯びていた。
「ずっと、こうしたかった……」
吐息と共に耳元で吐き出されるかすれた声に、いつもの敦賀さんには感じられない、余裕のなさを感じた。
「んっ、んんっ、……つ、敦賀さ、好きっ」
言葉を出せば少しは痛みが楽になるかと思って、口から出した言葉を受け止めて、
敦賀さんは嬉しそうに笑ってくれる。
「俺も、……っ、好きだよ、君の事が、凄くっ」
荒々しい息の合間を縫って、途切れ途切れに言って貰える言葉が嬉しい。
敦賀さんが好き。本当に好き。
気持ちいいとかはわからないけど、こうやって敦賀さんと繋がっていられることが、
なんだか凄く嬉しく感じてしまう。
「好きっ」
必死でしがみついて、何度も何度も好きと言った。
敦賀さんは私の言葉を受け止めて、
「俺も」
と呟き、頬にキスをくれる。
涙を唇で拭って、私の右手に自分の手を重ね指を絡めた。
「んんっ、…ぁ、ああっ、んっ」
敦賀さんの体の動きに慣れ始めた頃、また、体の中がムズムズと疼きだした。
少し、熱くなり始める。
「最上さんっ、そろそろ、出すよ」
絞り出すような声を出した後、敦賀さんの眉間にシワが寄った。
中で、敦賀さんがびくんびくんと跳ね回るのを感じる。
痛くなくなり始めてたのにな。終わったんだ。
私の中から、敦賀さんが引き抜かれるのが、少し寂しかった。
「優しくしてあげられなくて、ごめん」
避妊具を外して私の股をティッシュで拭った後、シーツにくるまって、
私を抱きしめながら敦賀さんが言った。
「いえ。こちらこそ、すみません……」
敦賀さんが、あんなに優しくしてくれたのに、気持ちいいとかよくわからなかった。
「最上さんを、全部くれてありがとう」
嬉しそうに、本当に嬉しそうにそういう敦賀さんが、凄く可愛い。
そう言ってもらえると、私も嬉しい。
「初めて、を、全部貰ってくれて、ありがとうございます」
告げた言葉に、敦賀さんはにっこりと笑う。
ぎゅーっと力強く私を抱きしめて、ふかふかと頭を撫でてくれた。
「ご飯にしようか。テーブルに美味しそうなのがいっぱい並んでた」
「あ、そうですね」
「今日はここで食べよう?待ってて、持ってくるから」
するりとシーツを抜け出した敦賀さんの後を追いかけようとして、起き上がろうとした。
お腹に、鈍い痛みを感じて、上手く歩けない。
だからここで食べようって言ってくれたのか、と妙に納得する。
「お待たせ」
お盆を持って現れた敦賀さんの姿と、お腹の中の鈍い痛みに、
身も心も敦賀さんのものになったのだと実感する。
こみ上げてくる笑みを押さえきれずに、私は、どうしようもない幸せをかみしめていた。