幸せだと思っていた。解り合えてると思っていた。  
だから、だからこそ……。  
 
「別れてくれませんか?」  
突然、切り出された、君からの別れ話。  
「…え?」  
当然、俺は受け止められない。  
「どうして?」  
だって、今までうまくやってきたじゃないか。幸せだと二人で笑いあって、繋いだ手を離さないと、約束したじゃないか。  
「敦賀さんは、私と別れた方がいいんです」  
君が、俺と付き合っていることで、世間からいろいろ言われているのは、知ってる。  
君と付き合っていることで、俺の人気が少なからず下がったと言われているのも知ってる。  
でも、それは、俺の実力不足だ。  
「俺は、別れたくない」  
俺の言葉にきゅ、と眉を寄せる君の顔が、別れたくないって言ってる。  
「でも、別れてください」  
目に溜めたたくさんの涙が、別れたくないって言ってる。  
それは、俺の自惚れじゃないはずだ。  
君にそこまで言わせるのが、何かはわからない。  
ただ、無償に腹が立った。  
「どうしても?」  
「どうしても、です」  
「そう…」  
深くため息を突き出して、キョーコの手を取る。  
「え?敦賀さっ…?」  
有無を言わさずベッドルームまで連れてきた。  
「……っ、きゃあっ!!」  
 
ドサッと音を立ててベッドが撓む程、勢いよくキョーコを押し倒す。  
「俺は別れたくない。君は、本当に別れたいと思ってる?」  
抵抗出来ないように両手を頭の上で繋ぎ止めた。  
君の瞳が、くらりと揺れる。  
「……は、はい」  
今、君は嘘をついたね?  
君と付き合い出して、いろんな君の表情を見てきたんだ。  
そんな事もわからないくらい、俺だって馬鹿じゃない。  
ただ、簡単に別れを切り出された事が許せない。  
「……っ!やっ、敦賀さん!止めてっ!」  
君の服を掴んで、ボタンを引きちぎった。  
何で別れたいと言い出したのかは解らない。ただ、このままでは終わらせたくない。  
「これで最後なんだろう?これが終わったらもう、君を抱けないんだ。だから…」  
だから、君を傷つけてやろうと思った。  
無理矢理抱いて、傷つけて、君は俺を嫌いになるだろう?  
そしたら君は、俺を忘れない。  
「君の体に俺を刻みつけてあげる」  
「…っ、ぃやっ、敦賀さん!こんなの、嫌ああぁぁぁっ!」  
「嫌なら、俺を嫌いになればいいよ」  
冷たく言い放って、スカートの中に手を突っ込む。  
無理矢理ショーツを脱がせた。  
ボロボロと涙を流して抵抗する君を見てると、ちらりと罪悪感がわく。  
 
今更、俺だって止められない。  
「……いっ、やあぁ」  
スカート中に手を入れて、割れ目を撫で上げた。指を差し込み、少しだけ入り口を弄ぶ。  
流石に、濡れてないのは可哀想だからね。  
「中、濡れてきたね…」  
「やだっ、敦賀さん、…止めてくださっ」  
「止めないよ」  
君が悪いんだ。別れたくなんかないくせに、そんな事を言うから。  
俺に何の相談もなく、別れを決めたから。  
キョーコの中に入れた俺の指が、ヌルヌルと滑り出す。少しだけ、潤んできているようだった。  
「少しキツいかも知れないけど、入るよ」  
ごめんね。俺はズルいね。  
君に忘れられるのが、怖いだけなんだ。  
別れて君に忘れられるくらいなら、嫌いになってくれた方がいい。  
この行為を思い出す度、俺を思い出すだろう?  
「嫌っ、やだっ、ぃ、やだあぁぁぁ!」  
だから、どうか、俺を憎んで。  
嫌いになって……?  
「い、…っ、やあっ」  
避妊をしないまま、君を貫いた。  
君の襞が絡み付いてきて、心地良い。  
本当はこんな形で、こうしたくはなかった。  
大事に大事に扱って、君と一緒になってから、こうしたかったな…。  
「嫌がる割には濡れてるね。…っ、絡み付いてくるっ」  
「いやっ、…つ、敦賀さっ…」  
 
「中、ヌルヌルだね」  
「やっ、…いやぁっ、…んんっ」  
わざと君を傷つけるような事を口にした。  
君の目から、涙がボロリこぼれる。  
ごめん。傷つけて、ごめん…。  
俺はね、別れたくない。離れたくない。  
君が好きなんだ。  
だから、せめて、気持ちよくしてあげる。  
君の好きなとこ、たくさん擦ってあげる。  
君に俺を刻みつける方法が、他に見つからないんだ。  
「んんんっ、んんっ、んっ、んっ」  
悲鳴が聞きたくなくて、キョーコの唇を塞いだ。  
傷つけてるのは、俺なのに矛盾してるね。  
君を抱く時はいつも満たされた気持ちになるのに、こんなに悲しい気持ちなのは初めてだ。  
こんなに、好きだ、愛しい、と君に刻みつけたいと思いながら抱くの、初めてだ。  
君の怯えた顔が、涙が、嫌だと泣き叫ぶ声が、俺の胸を締め付ける。  
「んっ、…んんっ!…つ、敦賀さん!」  
「……、キョーコ、好きだっ」  
君が好きだ。君が好きだよ。  
別れたいなんて嘘だろう?  
別れるなんて、無理だよ。信じられない。  
「……っ、敦賀さんっ」  
離れてしまった唇から溢れる俺の気持ちを受け止めた、キョーコの口から漏れる声。  
ボロボロとこぼれる涙。  
ごめん。傷つけて、ごめん。  
「嫌いになって?」  
 
君の心に、俺が残るなら俺はそれでいい。  
「ふっ、…無理です!やっぱり、別れるなんて…」  
君はぐすぐすと泣き出した。  
今、はっきりと、別れるなんて無理だと言った。  
「やっぱり、…っ、そうじゃないかっ」  
「……っ!気付いて?…ああんっ」  
でも、今更、止まれない。  
別れようとしたことは、許さない。  
「俺、キョーコが好きだよ?簡単になんか別れられない」  
「私もっ、…あ、敦賀さんがっ、好きです。別れたくないっ、…でもっ、別れ、ないとっ、だめなんですっ」  
わあぁ、と泣き出してしまったキョーコを見て、俺は拘束していた手を緩めた。  
自分自身を抜き、キョーコをきつく抱きしめる。  
「敦賀さんが、好きなんです」  
少し泣いて落ち着いたのか、キョーコが口を開いた。  
「じゃあ、なんで別れるなんて言ったの?」  
優しい声を出しているつもりなのに、キツ目の声になってしまう。  
少し、怒っているのが伝わったのか、君がビクッと身をすくませた。  
「…つ、敦賀さんの人気が少し落ちたのが、私のせいだ、と。私自身の仕事も少なくなってるのが、交際が発覚したからだ、と。  
このまま、敦賀さんの人気が下がる一方になってしまったら…、敦賀さんの仕事にまで、  
 
影響が出てしまったら、君は責任とれるのか、と。  
私のレベルじゃ、まだまだ敦賀さんには追いつけないし、敦賀さんの重荷にはなりたくなくて…」  
知らなかった…。  
何か、ごちゃごちゃ言われてたのは知ってたけど、こんな事になってたなんて。  
きっと君の事だから、俺に言えずに、独りで悩んでたんだろう?  
「ごめん、気付かなくて」  
ひどいことをして…。  
「いいんです。本当のことですから…。社長さんがそういうの…、あっ」  
キョーコは、ぱしっと口に手を当てて、しまったという顔をする。  
「社長が?言ったの?」  
「………はい。蓮を潰す事だけはするなって。だから、私…」  
なるほどね。それで君は追いつめられて、別れを切り出したと。  
「どうして俺に言わなかったの?」  
問いつめると君は、小さな小さな声で、ごめんなさいとだけ言った。  
「キョーコを好きだって言う、俺の気持ちは無視したの?キョーコは、俺と別れても平気?」  
「そんなわけじゃ…」  
君の目から、また、大粒の涙。  
本当はわかってる。君が、本当に俺の事を想ってくれてるの。  
でも、ショックだった。  
君の口から、簡単に別れ話が出た事。  
誤解が解けても、それだけは許せない。  
「約束して欲しい…」  
 
「何をですか?」  
すんっ、と鼻を啜って見上げてくるキョーコが愛しい。  
「キョーコが俺を好きだと言うなら、俺だけを見て。他の人に何か言われても、俺がキョーコを好きな事、忘れないで」  
わかった?っと訊くと、  
「はい」  
と、ためらいがちな返事。  
「後、俺の子どもが出来たら産んでくれる?」  
中では出してないけど、一応、ね。  
「もちろんです」  
当たり前ですよ、と言わんばかりの即答に、少し、あっけにとられた。  
「後、もう一つ」  
体を離して、目を見つめる俺に、  
「何ですか?」  
君は少し怯えた様子。  
「婚約しよう?」  
切り出した俺に、驚いた目を向ける。  
当たり前か。突然だもんな。  
少し格好悪いけど、君を手放すよりはずっといい。  
「いいんですか?」  
「俺はキョーコじゃないと意味がない」  
信じられないといったような君の目からは、大粒の涙。  
嬉しいと泣く位なら、初めから別れ話なんて切り出さなければ良かったんだ。  
でも、その涙に免じて、君を許すよ。  
「じゃあ、準備して出掛けようか」  
「え?どこに…」  
「社長のトコ」  
 
「よぉ、蓮、来たか」  
「来たか、じゃないですよ」  
突然、押し掛けたって言うのに、この人は楽しそうだな…。  
「彼女も一緒か。んで?何の用だ?」  
 
「婚約会見を開いて欲しいんです。出来るだけ、早く」  
「えっ?」  
社長に告げた言葉に、一番驚いたのはキョーコだった。  
君、さっき、嬉しいって言ってなかった?  
「本気か?」  
「本気です」  
「彼女の仕事が、最近減ったのは知ってるな?  
お前は、彼女を潰さずに守れるか?」  
「守ります」  
誰が何と言おうと。  
俺は、キョーコが好きだから。  
「最上君は?」  
「敦賀さんを守れるかは、自信がありません。でも、別れたくありません。  
私、敦賀さんが好きなんです」  
さっきの約束を守ってか、しっかりと社長の目を見て言ってくれるキョーコが愛しい。  
「そうか。じゃあ、いいぞ」  
もっと、粘らないといけないかと思っていたけど、社長は快諾してくれた。  
挙げ句、  
「最上君を煽ったかいがあったってもんだ」  
と、笑って言った。  
「どういう事ですか…?」  
社長は、キョーコや俺の仕事が減ったと思わせといて、キョーコを煽り不安にさせ、  
二人の仲を公表するように仕組んだと、そういうことらしい。  
「ホントに別れてたら、どうしたんですか…?」  
「そん時は、お前ぇ、それまでの関係だったって事だろ」  
あっさりと、悪びれずに言う社長に、かなわないなと思った。  
 
「ちなみに、会見は明日の昼にセッティングするから。お前らは、午前中はオフだ」  
「やけに、準備がいいですね…」  
「お前らなら、公表した方がいいと思ってな」  
嬉々として語る社長に、もはや何も言えない。  
キョーコはというと、俺達の会話について来れないのか、  
「別れなくて、いい…?」  
小さく呟いて、涙を流した。  
 
「さっきは、ひどいことをしてごめん」  
君を傷つけて、たくさん泣かせた。  
怖い思いをさせた。  
帰りの車の中で謝る俺に、  
「許しません」  
と、呟いた。  
そりゃあ、そうだ。許せないよな…。  
「帰ったら、続き、してください」  
顔を赤くして、俯きがちに呟き君が、物凄く可愛い。  
「でも、今度は優しくしてくださいね」  
「もちろんだよ」  
答えた俺に、君は笑いかけてくれる。  
「キョーコこそ、もう別れ話なんかしないでくれ」  
頼むよ、と呟いた俺に、もういいませんと約束してくれた。  
「私にひどい事してるのに、泣いてる私より泣きそうな顔してる敦賀さんを見たら、  
やっぱり別れられないって思いました」  
そう言って、泣きながら笑う君が愛しい。  
キョーコ、君が好きだ。  
君が、好きだよ。  
ひどいことをして本当にごめん。  
これからはずっと、ずっと、大切にする。神に誓うよ。  
 
だから、ずっと、そばにいて……。  
 
 

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