ソファに座ってキョーコの帰りを待っていると、玄関でコトンと音がした。  
一秒でも早く会いたくて、玄関まで急ぎ足で出迎えに行くと、  
靴を脱いでいたキョーコはひどく驚いて…いや、狼狽した、と言うべきか、  
慌てて背筋を伸ばし、持っていたものを背中に隠した。  
 
「つつつ敦賀さんもうお帰りになってたんですか?!だって今日は遅いって…!」  
「撮影がスムーズに済んだから……キョーコ、今うしろに隠したの、何?」  
 
俺の質問にキョーコはますます慌てふためいてくるくると目を回す。  
 
「な、なにも隠してませんなにひとつとして隠し持ってなどおりませぬ!」  
 
…それじゃ隠しましたって白状してるも同然じゃないか。  
 
思わず吹きだしそうになるが、とりあえず隠したものを見せてもらおうかと詰め寄り、  
ひょいと問題のものを取り上げた。  
 
筒状になった…ポスターか?  
 
「あ!!ちょっとダメっ!ダメですってば!!」  
 
キョーコは取り戻そうと手を伸ばすが届かずぴょんぴょん跳ねている。  
留めてある紙を取り外してポスターを広げると――  
 
「なんでこんなもの…」  
 
俺が専属モデルをしているブランドの広告ポスター。  
上半身は裸でジャケットを羽織り、カメラ目線で睨み付けている自分と目があって、今度は俺が動揺してしまった。  
 
俺のポスターを持って帰ってくるなんて…しかもこっそり。  
 
赤くなっているはずの顔を見せまいとキョーコには背中を向けてごまかした。  
 
「だ、だって…その敦賀さんとっても…その…かっこよくて…」  
 
徐々に声は小さくなり、消え入るような声で「…なんだかドキドキしちゃって…」と付け加えた。  
 
「それでどうしても欲しくって…松島主任に必死に頼んで最後の一枚をいただいてきたんです」  
 
さっきまでの動揺を消化して振り向くと、「だめですかぁ?」と恐る恐る涙目で見上げられた。  
 
「実物が目の前にいるのに必要ないじゃないか」  
「つ、敦賀さんだって!敦賀さんだって、ケータイでいっぱい私の写真撮って集めたり、  
 こっそり私のポスター椹さんにもらったり私の映画のパンフレットを夜中に隠れて見てたりしてるじゃないですか!」  
「なっ?!」  
 
なんで知ってるんだ!椹さんめ、口止めしてたのに…いや、社さんだな?あの乙女ハードクラッシャーめ…  
 
「とにかく…これは没収」  
「どうしてですか!い、いやです、せっかく土下座までして手に入れたのに…」  
 
キョーコはぐすんと涙ぐんでいる。  
 
「だぁめ。代わりに生身の身体でかわいがってあげるから、おいで」  
「ほぇ?…ち、違います、それとこれとは話が別っ」  
「違わない」  
 
なんでポスターなんかで自分を眺められなきゃならないんだ、まったく。  
 
自分のキョーコ収集は棚に挙げ、俺はコートを着たままのキョーコの手を取りそのままベッドルームへ連れ込んだ。  
 
 

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