今日は敦賀さんと共演した映画の打ち上げ。
忘年会シーズンを思わせる人の多い街の中、
指定されたお店の前で敦賀さんとふたりで待っているけれど…
ちょっと早く着きすぎちゃったみたい、まだ誰も来ない。
向き合って、お互い厚手のコートに両手を突っ込んで、足踏みしながらみんなを待つ。
「寒いですね!風が冷たいぃぃ」
「ほんとだね。キョーコ、手、握ってもいい?」
「えっ…だって…」
こんなところでいつものお願い攻撃が始まるなんて…。
ただでさえ人が多いのに、おまけに敦賀さんはただそこにいるだけで目立っていて、通過してく人、みんな見てる。
少し離れたところで敦賀さんを眺めてキャーキャー言ってる女の子たちだっている。
自覚がないのか、わかっているけど慣れているのか…。
「頼むよ、寒くて手が凍りそう」
「んもぉっ!」
仕方なく両手をえいっとまっすぐ差し出すと、その手をひとつにまとめてぎゅっと握って、
口元に持っていって、はあっと息を吐いて温めてくれた。
あったかい、けど――
「敦賀さぁん…」
向こうの女の子たちから黄色い悲鳴が上がっているのが耳に入る。
恥ずかしくて死にそうになっている私の心中を知ってか知らずか、
敦賀さんはのん気に「ん?まだ寒い?」なんて聞いてくる。そうじゃなくって!
「ほんとに今夜は冷えるね」
「そう…です、ね」
私の手をこすり合わせたり、息で温めたり、一向に離してくれる気配なし。
「キョーコ、ぎゅってしていい?」
「だっ…」
次なるお願いに一瞬驚いて、次の瞬間にはもうぎゅうっと抱き締められていた。
ますます大きくなる女の子たちの悲鳴…
思わず身がこわばってしまう。
「つるが、さんっ」
「まだ寒い?」
「ちがいますっ、あの」
「キョーコあったかい」
「あの、たしかにあったかいですけど…っ…恥ずかしくて死んじゃいそう、です……」
「知ってる」
そう言って敦賀さんはくすくす笑いながら抱き締めてる腕をほどいた。
ホッとしたような淋しいような気持ちに戸惑っていると、
敦賀さんは自分の大きなコートを広げて私をすっぽり包み込んで、またぎゅうぅっと力を入れた。
「こうやったら、顔、見えないよ」
視界が真っ暗になって、敦賀さんの匂いと温かさに守られる。
「あったかい?」
敦賀さんが話すと、顔を押し付けてる胸の中から声が優しく響く。
なんだか泣きたいくらいに幸せな気分になって、
コートの中の敦賀さんの背中にいっぱい腕を伸ばして巻きついた。
「あったかい…」
敦賀さん、大好き。こんなに温かい。
ほっぺをおなかにすりすりしたら、こらくすぐったいよ、って笑う声が届く。
私たちはしばらくそうやってじゃれ合っていた。
楽しくて幸せで、温かいいつもの二人の時間。
…だったのだけど。
「キョーコ、そろそろお店に入ろうか」
そう言われて視界が開けた私の前にはスタッフがすでに揃ってて、
恥ずかしさで目を回して倒れそうになった。