それは、ほんの少しのイタズラ心だった。
真夜中にベッドに入って、愛しい恋人を待って、いつの間にか眠っていたらしい。
目を覚ますと、すやすやと安らかな寝息を立てている恋人の腕に抱かれて寝ていた。
「おかえりなさい……」
声をかけても返事はない。余程、疲れているのだろう。
少し期待をしていたのに、今日は恋人に抱かれる事はないのだと、がっかりした。
むくり、半身を起こして、恋人の顔を覗き込む。
艶やかで美しい黒髪や、長い睫、綺麗な顔立ち。思わず息を飲んで、見つめてしまう。
するりと体を重ねて、胸に顔を埋めた。パジャマの中に手を入れて、滑らかな肌の感触を楽しむ。
「……敦賀さん」
名を呼んでも起きる気配はない。
静かに唇を重ねても、起きる気配はない。
唇を重ねた瞬間、疼いた中に、抱かれたかったのだと気付く。
少しだけ、少しだけ……。
恋人の下着の中に手を差し入れ、やわやわと握り締めた。柔らかいそれが刺激されて、熱く、硬くなる。
下着をずらしてそれを取り出し、軽く唇を落とした。
それでも、恋人は目を覚まさない。
するりと自分の下着を脱いで、自分の中にそれを埋めた。
「……んっ」
起こしてしまうだろうか。目を覚まさないだろうか。淡い期待を抱いた。
しかし、恋人は起きる気配もない。
「……はぁ」
自分の中が、恋人のそれで目一杯、満たされると、急に安堵した。
恋人の体温を感じて、眠気に襲われる。
そのまま、体を重ねたまま、温かく幸せなまどろみの中に落ちていった。
「これは、どういうことだろう…」
息苦しさを覚えて目を覚ました男は呟いた。
自分の上で、体を預けて幸せそうに寝息を立てている恋人。
恋人の中には自分のものが収まっているという現状。
何が起こったのかわからない。
「……ん」
そうこうしているうちに、恋人が目を覚ました。
「おはよう」
「…おはよう、ございます」
目があった瞬間、顔を真っ赤にして自分を見上げてくる恋人の眼差しが、可愛らしい。
「これはどういうこと?」
「…んっ」
ゆるり、腰を動かすと恋人の体がぴくりと跳ねる。
「したかったの?」
そう質問した男に、恋人は、はい、と素直に答えた。
「ごめんね、寝ちゃって」
「い、いえ」
「今から、いっぱい、可愛がってあげる」
これから二人はぬくぬくとしたシーツの中で、安らぎに似た官能的な時間を過ごすのだった。