君の、喜ぶ顔が見たかった。
ゲストルームいっぱいに広げた、クリスマスプレゼント。
はしゃぎながら喜ぶ顔が見たくて集めたのに君は、
「こ、これっ、高かったんじゃ…」
えらく恐縮しまくってる。俺にとっては、安いものなのに。
「だって、こんなにたくさん…」
「嫌だった?クリスマスくらい、いいかと思ったんだけど」
駄目だった?と訊くと、首をぶんぶんと横に振った。
普段なら、果物をあげても、キョーコに似合うだろうなってアクセサリーを買ってあげても、
「こんな高価なもの」
って、受け取らないようにするから。
まぁ、無理矢理受け取らせるけど…。
今日くらいは、手放しで喜んで欲しい。
「じゃあ、受け取ってくれる?」
「ほ、本当にいいんですか?」
「だって、そんなにたくさんあっても、俺使えないし」
何せ、ここにあるもの全部、女性用だしね。
「じゃあ、有り難く頂戴します…」
やっぱり君はどこか戸惑っているようだった。
「あの、じっくり見てもいいですか?」
戸惑いながらも、興味はあるようで。
そりゃそうだろう。初めての時、涙を流して喜ぶくらい憧れてたんだから。
「どうぞ」
答えた瞬間、君はゲストルーム内を歩き始めた。
「うわぁ…」
一つ一つ、手にとってじっくりと眺める君の姿が微笑ましい。
「すごぉい。これ、シャ○ルだ。ディ○ール、エスティ○ーダー…。うわ、国内の会社のも全部ある」
だんだんとテンションが上がってきたのか、瞳が輝きだす。
「あっ!オデット!オデットまでっ!すごい、すごいっ!これ全部クリスマス限定版じゃない!」
くるりと俺を振り返って、
「嬉しいっ、敦賀さん。私、こんなにたくさんのコスメに囲まれたの、生まれて初めてですっ!」
目にたくさんの涙をためて笑う。
喜んでくれて良かった。でも、泣かせたいわけじゃなかったんだけどな。
「喜んでもらえて嬉しいよ」
指で涙を拭ってあげると、キョーコは俺の腰に手を回した。
ぎゅーっと力を込めて、抱きついてくる。
本当に、可愛いことばかりしてくれるな、君は。
「敦賀さん、大好きです」
ありがとうございます、と涙目で俺を見上げて、にっこりと笑う。
頬を染めて、無防備に笑う表情にくらくらときた。
「俺も、好きだよ」
額に唇を落とすと、また、嬉しそうな顔をする。
まいったな。本当に可愛くて仕方ない。
思わず押し倒しそうになったけど、自分が広げたプレゼントの山に阻まれた。
「でも、ちょっと困りました」
ぽつりと一言、君が呟く。
「何が?」
「こんなにたくさん貰っちゃって、私のプレゼントなんて、なんだか霞んじゃいますね…」
もじもじと俯く君の額が、俺の胸に埋まる。
そういえば、キョーコからまだプレゼントを貰ってない事を思い出した。
嬉しそうなキョーコの仕草や表情で、もうプレゼントを貰った気になってたな。
「キョーコから貰える物なら何でも嬉しいよ。何?」
キョーコから手渡されたのは、小さな紙袋。中に丁寧に包装した、瓶が入っている。
「香水、なんですけど…。あの、いつもの敦賀さんの香りも好きなんですけど、」
男の人って何貰ったら嬉しいのかわからなくて、と俯く。
きっと、凄く悩んでくれたんだろうな、と思うと愛しさがこみ上げた。
「敦賀さんに合うと思うんです、香り…」
一生懸命伝えようとしてくれるキョーコが可愛い。
「開けていい?」
「はい。もちろん」
包みを開けて香りを確かめると、優しい甘めの香り。キョーコの中で俺のイメージって、こんなのなのか。
「つけやすそうだ。ありがとう。嬉しいよ」
頭を撫でながら言うと、
「良かったぁ」
と、満足気に笑うキョーコが本当に安心したようだった。
そんなに俺の事考えてくれたんだ。
そういう、キョーコの気持ちがもの凄く嬉しかった。
「じゃあ、移動しようか…」
なんだか照れくさくなってしまって、キョーコの手を引く。
ベッドルームに移動しても、初めてキョーコを抱いた時のように胸が高鳴るのがわかった。
「…ん」
触れた唇が熱い。ただの触れるだけのキスなのに。
壊れ物を扱うようにゆっくり、優しく唇を重ねると、ふにふにとしたキョーコの唇の柔らかさに、心がじんわりと暖かくなった。
「なんだか、初めての時みたい」
クスクスと笑うキョーコも、同じように感じているみたいだ。
「ホントだ」
俺も、そう感じてたよ。一緒だ。
そんな、小さな一致が心を満たした。
「好きだよ」
「私も」
ベッドの上に押し倒したキョーコの体に被さり、触れるだけのキスを繰り返す。
ゆったりと時間をかけて、唇の感触だけを、何度も角度を変えて楽しんだ。
いつもみたいに、激しく舌を絡めるでなく、体中をまさぐるでなく、ただ、唇を重ねるだけ。
そんな行為で、体が熱くなるのを感じた。
「なんだか、熱いですね」
「うん」
いつもみたいな激しい熱さじゃなくて、心がほっこりとするような、甘い熱。
洋服越しに感じる体温が、何だかもどかしい。
「何だか、照れるね」
改めて、こういう行為をすること。
「そうですね」
キョーコも、それを感じているようだ。
キョーコの手を引いて座らせて、服のボタンに手をかけた。
恥ずかしそうに俯く君が、可愛い。
恥ずかしそうにしていたけど、俺の服に手を伸ばして、ボタンを外し始めた。
「わ、私も」
赤い顔して、俺を見上げてくるキョーコの表情に、ムズムズと高ぶる。
ゆっくり、キョーコのペースに合わせて脱がし合い、裸になって抱き合った。
重なった肌、伝わる体温に、二人が溶け合えるような錯覚を覚える。
抱き合ったまま、さっきのように唇を重ねた。
俺の体温か、君の体温か。唇を重ねる度に高まって、熱くなる。
まだ、やらしい事、何もしてないのにな。もう、君の中に入りたい。
「敦賀さん?何だか、一つになりたいです」
君も、同じように感じてた?
「うん。俺も、キョーコの中に入りたいって思ってた」
不思議だね。重ねた肌から、温もりと一緒に気持ちまで伝わったみたいだ。
自身に避妊具を被せ、キョーコの膝を割る。
入り口に指を差し込み、くるりとかき回した。
「んっ、……敦賀さん、大丈夫ですから。そのまま…」
濡れてないのは痛いかと心配したけど…。
キョーコの言葉に甘えて、自身を入り口にあてがい、ゆっくりと沈めた。
キョーコの中は、ゆっくりと俺を飲み込んで、やわやわと締め付ける。
痛くはなさそうだ。
「動く?」
「…もう少しこのままで、さっきみたいに、キス…」
言われるままに、唇を落とした。
何度も何度も、柔らかい唇を重ねるだけのキスをして、お互いの体温を確かめるように肌を重ねる。
キョーコの右手に、俺の左手を重ねて指を絡めた。
いつものように、激しい目眩のするような快感はないけど……。
たまには、こうして肌を重ねるのも悪くない。
さっきの嬉しそうな君を思い出して、心が満たされる。
君とこうして過ごせる時間が、幸福だと感じる。
君も同じように感じているのが、重ねた肌から伝わって、心も体も温かい。
はしゃぎながら喜ぶキョーコもたくさん見たし、プレゼントも貰った。
後は、二人の気持ちを確かめ合うように……。
今日は、このまま、ずっと、肌を重ね合っていたいと思った。