最近敦賀さんは変だ。  
 
どう変かって聞かれるとうまく答えられないけど、なにかごまかされている気がする。  
確証はないけど、隠し事をしているんじゃないかしら…。  
一度そう思ったらいつものマイナス思考が頭を占めてしまって、もうそうだとしか思えなくなってきた。  
もしかして他に好きな女の人ができて…  
 
「私、敦賀さんに捨てられそうなの」  
ぐすんと鼻をすすって打ち明けた私に、モー子さんは一瞬の間を置いて、おなかをかかえて笑い出した。  
「な、なにがおかしいのよモー子さんひどいっ!」  
「ごめん、悪気はないんだけど…ぶふっ…いや、あんたらしい思考回路だと思って」  
「何か知ってるの?モー子さん、知ってるなら教えて!」  
「し、知らないわよっ、何も…私は言わないわよ。気になるなら直接敦賀さんに聞けばいいのよ!」  
聞けないから悩んでるのに。  
聞いたらこの恋に終わりを告げられるんじゃないかって怖いのに。  
そう言った私に、モー子さんはため息をつきながらアドバイスをくれた。  
いつも受け身じゃなくて、たまには我が儘を言ったり自分を突き通すことも必要じゃないかって。  
 
敦賀さんと住むマンションに帰ったけれど、まだ彼は戻っていない。  
冷え切った部屋を温める。  
そしてごはんとお風呂の用意をしようと思ったけれど、その前に電話してみることにした。  
まだ仕事中かな?社さんに帰る時間を聞いてみよう。  
「社さんですか?」  
「あ、キョーコちゃん?どうしたの?」  
「あの、敦賀さんは…」  
「あれ?蓮ならもうとっく…あ……いや、もうちょっと…かかる、かな…」  
「そう、ですか…」  
 
電話を切って、歯切れの悪い社さんのごまかしに、大きな不安に襲われた。  
このままあらゆるマイナス妄想に埋もれてしまいそうだけど、モー子さんの言葉を思い出す。  
思い切って敦賀さんに電話して…それで、不安になってることも言ってみなくちゃ…。  
 
震える手で電話をしたら、敦賀さんはすぐに出た。  
『もしもしキョーコ?』  
「あのっ敦賀さん、今、どこですか?」  
『あー…もうすぐ帰るよ。キョーコはもう家?』  
「はい、あの」  
会話を続けようとした私の耳に、そのときはっきりと『敦賀さん?』と女の人の声が聞こえた。  
頭がぐらぐら揺れるみたいになって、何も考えられなくて、喉がカラカラになって言葉がうまく出てこない。  
「女の…ひと、と…」  
そこまで言って、一方的に電話を切ってしまった。  
 
ソファに突っ伏してひとしきり泣いた頃、敦賀さんが慌てた様子で帰ってきた。  
敦賀さんは私の顔をつかんで、  
「…キョーコ…こんなに泣いて…」  
呆れたような、困ったような、ちょっと傷ついたような顔をしてため息をついた。  
私がそんな顔させてるんだ、って思ったらまた悲しくなって、  
ふえぇっ、と止まりそうだった嗚咽がまた喉の奥から湧いてきた。  
そんな私を見た敦賀さんは焦って取り乱し始めた。  
 
「ち、違うんだキョーコ、誤解だよ」  
「だって、だって敦賀さ…なんか隠して…ぇっ…」  
我慢できずにボロボロと涙がとめどなく流れてしまって。  
敦賀さんは天井を仰いでふぅっと息をして、  
しょうがないな、と言いながらまだ着たままのコートのポケットをごそごそと漁りだした。  
「本当はまだ渡すつもりじゃなかったんだけど…」  
 
敦賀さんが取り出したのは小さな正方形の箱。これって…  
くちをぽかんと開けて動かない私を見て、敦賀さんはその箱をそっと開けた。  
中には小さなピンクの石のついたシンプルな指輪。  
「これ…私に…?」  
「クリスマスに渡そうかと思って、キョーコに隠れていろんな店を回ってたんだ。  
 それで最近帰りが遅くて…ごめん、琴南さんに聞いたよ、不安にさせてたみたいだね」  
敦賀さんは私の左手を取って、薬指にそっと通した。  
「ぴったり…」  
「オフの時だけでもいいから、つけてくれるかな」  
「ありがとうございます」  
嬉しくて幸せで、ぎゅっと敦賀さんのおなかに巻きついた。  
「でもどうしよう…こんな素敵なものいただいて…私こんな立派なお返しできません…」  
「いい方法があるけど」  
「なんですか?」  
見上げようとしたら、ひょいっと軽々と抱きかかえられた。  
「その分ベッドでお返ししてくれればいいよ」  
「え?えーっ?!」  
 
「あっ…ああんっ!つるがさんっ…やだ、またっ…っ」  
「またっ、イき、そう?」  
敦賀さんは意地悪に確認して、突然熱く突き上げていたソレを抜き去った。  
「ああっ!やっ…抜かない、で…もっと、もっとしてっ」  
「次はキョーコがして?指輪のお返し、してくれる?」  
いきなり快感を取り上げられて、あそこが疼いて待ちきれない。  
ベッドの頭に寄りかかって座った敦賀さんにおずおずと擦り寄る。  
「私が、って…」  
「おいで。挿れてごらん」  
敦賀さんに導かれるまま跨って、恐る恐る腰を下ろしていく。  
こんな体勢は初めて…橙色のベッド脇の照明が近くて恥ずかしくて、思わず力が入る。  
「そう…んっ…上手だよ…力、抜いて」  
「んん……っ…あっ、あっ…入っ…てくぅ…」  
「ああ…どんどん呑み込んでくね…自分で突っ込んで、いやらしいよ。いい眺めだな」  
「や、やだっ、見ちゃ…っ!」  
敦賀さんの目を塞ごうと手を伸ばしたけど、手首を掴まれて制止され、唇を塞がれる。  
ゆっくりと挿入している途中だったのに、ふいをつかれて腰が落ちる。  
奥まで突かれる感覚に、悲鳴にも似た喘ぎを上げたけど、その声は彼の咥内へとくぐもって消えた。  
 
「んんっ、んーーーっ!」  
激しいキスで操られ、同時に器用に下から腰を回され、  
さっきまでの絶頂の直前まで高められていた熱いうねりが再び蘇る。  
「んっ、んぁっ、あっ、つるが、さんっ、もおだめっ、イっちゃうっ!」  
唇を振りはらうようにして、思わずのけぞるように胸を突き出してしまう。  
腰を回され、突き上げられて…ちがう、自分で腰を回して、狂ったように腰を振ってるのかもしれない。  
だけどもう、そんな自分に恥ずかしいと思う余裕もなくて、夢中になって動きに応える。  
敦賀さんはのけぞった私の喉元に強く吸い付いて、最後の仕上げとばかりに激しく突き上げた。  
「あっ、あぁっ、ああっ!いやっ、ぁああっ…あっ……あぁ…―――っ!!!」  
その瞬間敦賀さんは私の左手を手に取って、薬指にはめられた指輪に愛しそうにキスをした。  
 
「つるが…さぁん…も、ほんとに…これ以上無理、です」  
「ホントに?キョーコはいつもムリムリって言っても結局悦ぶから限界がわからないよ」  
「そ、そんなこと…!ほんとに、無理です…2ケタになっちゃいます…」  
その後も何度も何度も啼かされた。  
行為そのものも大好きだけど、そのあと繋がったまま話をするこの時間が好き。  
「もう俺が浮気してるかもなんて疑ったりしない?」  
「あの…今日の電話の時の女の人の声は?」  
「あれ?あれは店員さん。指輪を受け取ってたんだよ」  
「そっかぁ」  
改めて左手の指輪をまじまじと見る。  
手の角度を変えたり、照明に当てたり…そっと外してみて、じっくり眺めてみた。  
「そんなに嬉しい?」  
「はい、もちろんです。…ここ、なんて書いてるんですか?」  
指輪の裏側に、小さく英語で何か書いてあるの。  
「『蓮からキョーコへ、永久の愛をこめて』って彫ってあるんだよ。ずっと離さないから、覚悟してね」  
「えっ、ちょっと敦賀さん、もう無理ですってば!」  
「でもキョーコの中もまた濡れてきてるし」  
体勢を整えて動きを再開されて、拒む声につい甘さが宿る。  
ホントにこれでお返しになるのかしら、頭の隅で少し不安になったけど、そんな思考も気持ちよさですぐに飛んだ。  
 

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