「また、一緒にくらさねーか?」  
突然、言われたショータローの言葉に頭が真っ白になった。  
何を言ってるの?コイツは何を言ってるの?  
泣きそうな顔で私を見ながら、切実な声を吐き出すショータローに、私は何も考えられない。  
「何、言って……」  
「そうだよな」  
一瞬、自嘲気味に笑った後、ショータローはいつもの生意気な顔になった。  
「残念。家政婦がいなくて困ってんだよ」  
「なんですってええぇぇ!?」  
出てきた言葉に、憤慨する。一瞬でも怯んだ自分が馬鹿みたい!  
本気かと思って焦っちゃったじゃない。  
「人の事なんだと思ってんのよっ!」  
ホント、失礼しちゃう。コイツにとって私はいつまでも、都合のいい存在でしかないのね。  
「ジョーダンだよ、ジョーダン!」  
何マジにとってんだバーカ、といつものように小憎たらしい言葉を吐くショータローに腹が立つ。  
ジョーダンであんな顔なんてしたことないじゃない。  
だから、本気かと思って焦ったのに!  
「あー、タクシー来たな。先行くわ」  
「あっ、ちょっ!私が先でしょーっ!」  
ショータローは、並んでいる私を抜かして颯爽とタクシーの中に乗り込んで行った。  
全く、いつまでたっても自分本意なんだから。  
 
思い出すだけでイライラとしてしまう。  
ただ、心の中にアイツの泣きそうな顔と、声が、張り付いたように残った。  
「……敦賀さんに、会いたい」  
無性に、敦賀さんに会いたくなる。あんな奴の表情や、声なんてさっさと忘れてしまいたい。  
今更、アイツにときめく事はないけど、何かが引っかかった。  
ただ、今すぐ、敦賀さんに会いたい。  
敦賀さんという素敵な人がいるのに、アイツの事が頭から離れない自分が嫌だった。  
「もしもし、社さんですか?」  
忙しい彼のスケジュールを管理している、彼に一番近い場所にいる人に連絡をとると、  
『キョーコちゃん?もう少しで撮影終わるよ?あっ、待って…』  
電話口で、蓮、れーんー、と呼び止める声が聞こえた。  
『もしもし?どうした?』  
電話を変わった、敦賀さんの声にホッとする。  
声を聞いただけで、アイツの事なんてどうでもよくなった。  
やっぱり、私、敦賀さんの事が好き……。  
アイツにときめかないのが不思議なくらい、頭の中は敦賀さんでいっぱいだと感じた。  
「あの、今日、部屋に行っちゃダメですか?どんなに遅くたっていいんです」  
敦賀さんに会いたいんです、と絞り出した声。変だと思われるかしら?  
 
『いや、かまわないけど、もう一本撮影があるから遅くなるよ?』  
「かまいません。待ってて、いいですか?」  
そう言うと、敦賀さんはうーんと考えて、部屋で待ってて、と言った。  
急いでスタジオから降りてきた社さんから部屋の鍵を預かって、タクシーに乗り込む。  
「じゃあ、気をつけてね?出来るだけ早く帰らせるようにするから」  
「すみません。ありがとうございます」  
気を使ってくれる社さんに、深々と頭を下げて、出発した。  
 
敦賀さんを待っている間、そわそわして落ち着かなかった。  
ただ、早く敦賀さんに会いたくて、仕方ない。  
何で、今更、好きでもないアイツの事が、心に張り付いたように離れなかったのか、わからなかった。  
それが、私を不安にさせる。  
敦賀さんに対する気持ちは嘘じゃない。凄く、凄く、大好きだもの。  
憎いから、心から離れないの?過去、好きだった人だから、心から離れないの?  
でも、それは何か違う気がする。  
アイツが、泣きそうになるからだ。ホント、手のかかる…。  
「……ん?」  
私ったら、何、アイツの心配なんてしてるの?泣きそうだったから、何だっていうのよ?  
まるで、子供がすがりつくような表情が、離れなかったのは……。  
 
まるで、子供がすがりつくような表情が、離れなかったのは……。  
「ああ、そっか」  
世話の焼けるアイツが、いつの間にか、弟のように感じるようになってたのか。  
そんな答えを出すまで、悶々と考えてしまった自分が恥ずかしい。  
やっぱり、私が好きなのは敦賀さんだわ。何を不安になってるのよ。  
まだアイツの事が好きになんじゃないかって、一瞬でも不安になってしまった事が、  
あまりにも馬鹿馬鹿しくて笑ってしまう。  
「嫌だ、私ったら…」  
感情のままに行動してしまって、それでも、敦賀さんに会えるのが嬉しい。  
「早く、帰って来ないかな?」  
妙にスッキリした気持ちで、敦賀さんの帰りを待った。  
「ただいま」  
勢いよくドアを開けた敦賀さんは、息を切らしている。  
私の様子がおかしかったから、急いで帰ってきてくれたみたい。  
「おかえりなさい」  
敦賀さんの腰に手を回して、ぎゅーっと抱きしめると、愛しさが込み上げた。  
「会いたいなんて、わがまま言ってごめんなさい」  
胸に頬をくっつけて言うと、敦賀さんがぎゅっと抱きしめ返してくれる。  
それが嬉しくて、心の中がほんわりとあったかくなった。  
 
「そんなのわがままだなんて思わないよ。キョーコが会いたいと思ってくれて嬉しい」  
そう言いながら、額に唇を落としてくる敦賀さんが愛しい。  
好きな気持ちが溢れ出して、止まらない。  
「敦賀さん、好きです」  
声に出したら、もっと、好きだと確信した。  
「うん。俺も。どうした?今日は」  
いつもは素直に甘えてくれないのに、と嬉しそうに笑う。  
そんな敦賀さんを見られるのが嬉しい。  
「何かあった?」  
「少し…。わがままついでに、敦賀さんにお願いがあるんです」  
「何?」  
何があったか、敦賀さんは何も訊かなかった。  
きっと、アイツ絡みだって気付いているから、訊かないんだと思う。  
いつも、私が話したいと思うまで待って、それからゆっくりと話を聞いてくれる。  
「抱いてください」  
言葉と一緒に敦賀さんを見上げると、間の抜けた、驚いた顔。  
どうしよう。すっごく可愛い。  
こんな顔、私だけが見られると思ったら、心がムズムズとこそばゆくなる。  
敦賀さんの首に手を回して、目一杯、背伸びをして、ちゅとキスをした。  
「駄目ですか?」  
見上げると、敦賀さんは照れて真っ赤になってる。  
いつもは格好良いのに、口の端がふよよと緩む。  
「駄目なわけないだろう」  
 
照れた顔を見られたのが恥ずかしいのか、私を抱きかかえて、目を逸らした。  
そのままベッドまで運んでくれて、ゆっくりと下ろしてくれる。  
「……ん」  
深く深く口付けた後、敦賀さんは私の目をまっすぐに見つめて、  
「アイツの事なんて考えられないくらい、可愛がってあげるよ」  
と、言った。  
お互いの服を脱がせ合って、シーツの中にくるまる。  
敦賀さんは私の膝を割って体を滑り込ませ、首筋や、鎖骨に舌を這わせ始めた。  
「……ん」  
胸をやんわりと揉み先を摘む指に、甘やかな快感がゾクゾクと背中をなぞる。  
敦賀さんの指や舌が私に触れる度に、心も体もきゅん、と熱くなていく。  
「あ、んっ」  
胸の先に舌を這わせると同時に、下肢の割れ目を撫でる敦賀さんの指が熱い。  
頭のてっぺんから脚の先まで、電流が駆け巡るように、ゾワゾワと快感が走る。  
体が熱くなってきた。重なる敦賀さんの体も熱い。  
するり、手を滑り込ませて敦賀さんを掴むと、もう硬くなってた。  
「んっ、敦賀さん、もう…、あ、おっきくなってます」  
さわさわと撫でながら言う私を、愛撫する手は止めないで、  
「キョーコがあんまり可愛いから」  
と、敦賀さんは言う。  
「んんっ、敦賀さんのっ、熱いです」  
 
「キョーコの中も、熱いよ」  
はぁ、と吐息を吐き出して、敦賀さんは私の中に指を埋めた。  
「あっ、ああん」  
胸の先を吸われながら、中を擦り上げられる。  
たまらずに声をもらす私を、敦賀さんは更に責め立てる。  
ずりずりと襞を擦り乱す指に翻弄され、熱が上がってく。  
「ふぁ……、ああっ、あっ」  
中が熱くて、敦賀さんの指をきゅうきゅうと締め付けるように収縮を繰り返した。  
敦賀さんのも、凄く熱い。  
握り締めたものを上下にしごくと、その度に、ひくん、と痙攣した。  
欲しい。コレ、もう入れて欲しい。  
「……ぁ、敦賀さん…」  
「どうした?んっ」  
私の上に覆い被さっている敦賀さんの体を起こして、口付けながらゆっくりと腰を下ろした。  
我慢出来ずに、敦賀さんをくわえ込んでいく私に驚いて、唇が離れる。  
「……っ、こらっ、キョーコ」  
「…ん、ご、ごめんなさい」  
避妊をする間もなく、受け入れた敦賀さんは熱い。  
ゴム越しじゃなくて、直接伝わる熱が新鮮。  
「待てなかった?」  
「…はい。んっ、敦賀さん、が、欲しかったぁ、ああん」  
絡まる舌も、触れる唇も、繋がる中も、全部が気持ちいい。  
「んんっ、つるがさんっ、きもち、いっ」  
「うん。俺も」  
 
ゴム越しじゃない、直接伝わる体温にこんなに満たされるなんて。  
こんなに、敦賀さんを感じる事が出来るなんて、知らなかった。  
いつもより繋がってる気がして、高ぶるのが早い。  
「キョーコの中、あったかいよ。それに、絡み付いてくる」  
「んあっ、ああっ、つ、敦賀さん、も、熱っ…、ですっ」  
熱くて、私の中を擦る肌が、すごくすごく気持ち良くて…。  
「ふっ、あっ、ああっ、いっちゃ、……ぅ、あああぁぁんっ」  
簡単に、私の頭の中は真っ白になった。  
「……ぁ」  
達した余韻から、ひくん、と体を震わせている私の中から、敦賀さんは自分を引き抜き、素早くゴムを被せた。  
そのまま私に被さり、再び、中に入ってくる。  
「あああっ」  
ゴムの厚みか敦賀さんがおっきくなったのかわからないけど、さっきより大きく感じる。  
「あっ、あっ、あっ、んんっ、はげしっ」  
激しく突き上げられて、一度、去った波が、また襲ってくる。  
ズチュ、と擦れ合う音や、荒々しい吐息が響いて、お互いにもう少しだと悟った。  
「ふああっ、んんっ、つ、つるが、さっ、またっ、きちゃっ」  
敦賀さんは低い声でうなった後、私の中でひくん、ひくんと蠢いた。  
 
 
「弟か……」  
「そうなんです。何か引っかかるな、って思ってたんですけど…」  
二人でシーツにくるまって、今日会いたかったわけや、あった事を話した。  
アイツにときめかなくなったのが不思議に感じた事。  
敦賀さんに会いたくて仕方なくなった事。  
それに、何より…、  
「私、敦賀さんが好きです」  
敦賀さんの事が、大好きだという事。  
一通り話を聞いた敦賀さんは、微笑ましげに私の頭を撫でた。  
「でも、少し嫌だな」  
やっぱり、ショータローの話なんて聞きたくないわよね。  
でも、私の気持ち、わかって欲しかった。  
「ごめんなさい」  
「もし、俺とキョーコが結婚したら、アイツが弟になるのかと思うと…」  
そう言って、敦賀さんは困ったように笑う。  
その表情が何だか可愛くて、口の端がゆるんでしまった。  
「何、笑ってる?」  
「あ、や、敦賀さん、可愛いなーって」  
ふふ、と吹き出してしまう私を見て、敦賀さんは拗ねた目を私に向ける。  
「敦賀さん?お願いがあるんです」  
「何?」  
すごくすごく、恥ずかしいお願い。  
「たまには、また、ゴムしないでシたいです…」  
「君って子は……」  
また、間の抜けたような驚いた顔を浮かべる敦賀さん。  
その後、照れたように真っ赤になって、少し緩んだ口の端をごまかすように、唇を寄せてきた。  
口付けを受け入れながら、私は、安らぎと幸せを感じるのだった。  
 
 

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