「もし、俺とキョーコが結婚したら、アイツが弟になるのかと思うと…」
君の口から出たアイツの名前にごまかすように吐いた言葉を、君は受け止めて楽しそうに笑った。
そりゃあ、昔は一緒に暮らしていたくらいだし、一緒に育ったようなものだし、そういう感覚も嘘じゃないんだろう。
第一、惚れてもいない男に抱かれる事が出来るほど器用な子じゃない。
ましてや、その上、
「たまには、また、ゴムしないでシたいです…」
なんて言葉を、惚れてもない奴に吐けるような子でもない。
ただ、アイツの名前が出た事に引っかかりを覚えただけ。
つまらない嫉妬だった。
キョーコの前では大人の男を演じながら、可愛い彼女に翻弄される。
『たまには、また、ゴムしないで…』
恥ずかしそうに、でも心底、安心している表情で言う、先日のキョーコを思い出す。
全く、君っていう子は……。
「なんて可愛いんだ…」
ため息と同時に、言葉まで吐き出してしまったらしい。
隣で座っていた社さんが、ぶはっという盛大な音を立てて、茶を噴き出す様子で気付いた。
「蓮…、お前って奴は…」
無意識に出た言葉に、社さんは呆れ顔をむける。
「す、すみません」
無意識に言葉が出るほど、キョーコの事を考えていた事を悟られるのが、恥ずかしかった。
「どうせ、キョーコちゃんの事でも考えてたんだろ?顔、緩みっぱなし」
鏡を見せられ、赤い顔の自分を自覚させられる。
仕方ないじゃないか。だってキョーコは可愛いんだから。
心の中で毒付くが、社さんに言ったらまたからかわれるから、口をつぐんだ。
撮影を終えた後、社さんが慌てている。
「れ、蓮。お前に客…、なんだけど」
「よォ」
社さんを押しのけて俺の前に現れたのは、不破だった。
「アンタに話があんだよ」
と、真剣な顔で不破は言う。何で、俺なんだ?よくわからない。
「何だ?」
俺の問いに答え辛そうに俯く。二人じゃないと話せないことなんて、一つしかない。
「彼女の事か?」
俺から切り出すと、不破の顔が少し歪む。
「お、おぅ」
不破はあっさりと訊いた俺に少し驚いて、頼りなげな返事をした後、今の現場の状況を見渡した。
俺が、すぐに抜け出せるか確認しているようだ。
「社さん、今から休憩でしたよね?」
「ああ、そうだけど…」
「すぐそこの、階段の踊場にいます」
それだけ告げて、視線で不破を促す。
不破は、何も言わずに黙ってついてきた。
「アンタ、アイツと付き合ってるんだよな?」
踊場に着いた途端、口を開いたのは不破の方。
確認するように、でも、何かを覚悟したような面持ちで俺を見る。
「そうだが。だとしたら、何だ?」
はっきりと認める俺に、不破の瞳が揺らぐ。
「俺さ、アイツにまた、一緒にくらさねーかって言ったんだ…」
「知ってる」
どの面下げてそんな事を言えたのかはわからないがな。
でも、目の前にいる不破は至って真剣で、少し落ちこんでいるように見えた。
キョーコの言ってた泣きそうな顔って、これの事だろうか?
コイツは、何をそんなに必死に確認したいのだろう。
もう、彼女はお前の物じゃないと、現実を突きつけられて、それ程ショックだったのだろうか。
「アンタ、ホントにキョーコに惚れてたんだな…」
ああ、そうだ。俺は、彼女に惚れてる。
それこそ、狂おしいくらいに彼女を求めている。
だが、それをコイツに宣言するまでもない。
「何が言いたい?」
不破の目が、キロリと俺を見据える。
「俺、キョーコが好きなんだ」
きっぱりと言う言葉に、今更だろうとうんざりした。
今更、お前がそれを言ってどうする?彼女を捨てたお前が。
「でも、今はキョーコにそれを言えない」
「それは、そうだろうな。今更だ」
俺の言葉に、不破は自嘲気味に笑った。
「そうだよな」
それは、嫌という程わかっているらしい。
眉間に深いしわを寄せて、後悔しているコイツの表情が、語っている。
「キョーコは、もう俺のもんにはならねーと思うんだ。アイツ、一途だし」
もう、アンタのもんみてーだし、と呟く。
「彼女は俺のものでも、お前のものでもないだろう。彼女は彼女のものだ」
いい加減、お前の物扱いを止めたらどうだ?と、苦言を言う俺に、不破は目をパチクリさせている。
「アンタ、なんか大人だな」
大人なもんか。お前が本気で彼女を好きだと自覚して、一番焦ってるのは俺なのに。
「でも、余裕なのも今の内だぜ?」
自信なげに俯いていた不破の目に、ぎらりと光が戻る。
何か、覚悟を秘めた強い視線を、受け止める。
「アンタを芸能界No.1から引きずり下ろして、キョーコを奪い返す」
じっと俺の目を見据える不破の目に、迷いはない。
きっと、本気でそう思っているんだろう。
でも、俺だって、彼女を手放す気はさらさらない。
互いの過去も全ても認め合えて、ようやく、手に入れたんだ。
「お前が何を言おうが、しようが、彼女は渡さない」
宣戦布告を受け止めて、きっぱりと返す俺に、不破はニヤリと不敵に笑った。
「それまで、キョーコを泣かさないでくれよな」
話はそれだけだ、と去ろうとする不破の瞳がくらりと揺れる。
ああ、コイツ強がってるだけだ、と何故か確信した。
さっきの宣戦布告は、きっと本気だろう。
しかし、下手な演技でごまかしているが、ごまかしきれてないキョーコへの心配の方が強い。
なんだ、コイツ。ただの子供じゃないか。
大切なものを人に取られて、心配で諦めきれないのに、必死に整理をつけようとしている子供。
「時間取らせて悪かった」
「不破」
去り際の不破を呼び止める。これだけは、俺も言っておかなければならない。
「今更、お前が何をもがいても無駄だ。キョーコは俺が幸せにする」
俺の言葉に、不破の後ろ姿がピクリと動いただけだった。
ひらひらと右手を挙げて、去っていく。
ヤツの後ろ姿を見ながら、無償にキョーコに会いたくなった。
「れーんー。今日はもう遅いぞ?諦めたらどうだ?」
今日の予定が全て終わり、携帯を握り締めて、何度かコールを鳴らし、
留守電になる度に撃沈されるのを繰り返して、何度目かの電話の後、社さんに諭された。
「そうですね……」
遅いし、彼女だって下宿先に帰っているかも知れない。
「でも、もう一回だけ」
諦めの悪い俺に苦笑しながら、社さんは電話が終わるのを待ってくれる。
「それで出なかったら、お兄サンと飲みに行こうな」
と、俺を憐れむ社さんを後目に、最後の望みを託して、コールを鳴らした。
プルルルル、と耳慣れたコールを数回聞いた後、
『もしもし。お疲れ様です、最上です』
急いで電話に出たのか、跳ねるような声でキョーコが話す。
「ごめん、遅くに。俺だけど…」
電話の向こうに話し出した俺を確認して、社さんが良かったな、と目配せした。
ポンっ、と肩を叩いてから、気を使って席を外してくれる。
『どうかされました?』
「や、キョーコの声が聞きたくて…」
『何ですか?それ』
ふふ、と笑うキョーコの声が、鼓膜を揺らす。
「今、どこ?」
『今ですか?事務所ですよ』
キョーコの話によると、バラエティー番組の収録が長引いたから、今日は事務所に泊まるらしい。
俺にとっては好都合だった。
「じゃあ、今から迎えに行ってもいいかな?会いたいんだ」
『私はかまいませんが、敦賀さん、大丈夫なんですか?』
「うん。今から、向かうよ」
「……んっ、んんっ」
社さんを送り届けて、事務所に向かい、キョーコを部屋に連れてきた俺は、
キョーコの体を玄関のドアに押し付けて、唇を奪い、深く深く口付けた。
噛みつくくらいの勢いで、荒々しいキスをする俺に、戸惑いながらキョーコが応えてくれる。
「……んっ、ふぁ、ん」
本当に、なんて可愛いんだ、君は。誰にも渡したくないよ。手放したくない。
「好きだよ」
耳元で囁きながら、キョーコのスカートの中に手を入れる。
「つっ、敦賀さん!ここ、げんか…、んんっ」
慌てて体を離そうとするキョーコが逃げられないように、もう一度唇を捕らえて、舌を絡めとり貪った。
「んん、んっ、んんっ」
ショーツをずらして、キョーコの中に指を差し入れる。
少し潤んでいるそこを、くるりとかき回してやると、トロリと蜜が零れた。
口腔内を犯されここを潤ませているキョーコは、こういう行為には慣れたものの、
羞恥心はいつまでも失わない。
俺としては、恥ずかしがる様子を見たり、それを少しいじめるだけで、
キョーコは必死になってくれるから、可愛いもんだが…。
流石にここでするわけにはいかないよな。
第一、避妊具がない。
『また、ゴムしないで…』
ふと、キョーコの言葉を思い出す。でも、駄目だ。
この子の体に負担になることは出来ない。
それに、アレはヤバい。直接伝わるキョーコの熱や、絡まる襞が、すぐに射精を促す。
思わず、キョーコの中で出してしまいそうになる。
「キョーコおいで」
「……っ、敦賀さっ」
ぐい、とキョーコの手を引き、ベッドルームまで連れてく。
ベッドにキョーコを押し倒して、更に、深く激しく唇を奪った。
「んっ、んんっ」
ショーツを脱がせて、キョーコの中を弄る。
服の中に手を入れて、ブラの隙間から手を入れ、ツンと尖った胸の先を摘んだ。
キョーコは、戸惑いながらも俺の愛撫を受け入れて、快楽に身を任せはじめている。
絡まり合う吐息が、熱い。
互いの体も熱を帯びて、唇を貪り合う。
「可愛いよ、キョーコ」
部屋に入って間もなく、堪えきれずに突然の行為に及んだ俺の愛撫を受け入れて、
頬を染めながらうっとりと身を任せているキョーコ。
「あっ、んんっ、つるがさっ、あんっ」
中を擦り上げ、胸の先を摘む度に、半開きになった可愛らしい唇から、
吐息に似た色っぽい声が零れ落ちていく。
「キョーコ可愛い。ホントに、可愛い」
清純そうな彼女の痴態に、俺の教え込んだ行為を素直に受け入れ、快楽に変えていく体に、
ハマって行くのは俺の方だ。
今すぐにでも、突き入れてしまいたい衝動にかられる。
でも、流石にこんなにすぐじゃ、キョーコが辛いだろうな。
「んあっ、つ、つるがさっ、ああっ、あっ、あっ、あっ」
ぐちゅぐちゅと擦れた水音が響くように、抜き差しを繰り返して、キョーコの中を激しく擦り上げると、
俺の指の動きを促すように、中がヒクヒクと細かい収縮を繰り返している。
「あっ、あっ、あっ、だめっ、そんなっ、んん、擦っちゃ、だめっ」
そろそろキョーコも限界らしい。淫靡に寄せた眉が、潤んだ瞳で俺を見上げる表情を、
更に淫らにして、俺の欲望をかき立てる。
「あぅ、んっ、だめっ、つるが、さんっ、もうっ、いっちゃっ、…ぅ、ああああんっ」
きゅう、と俺の指を締め付けながら、キョーコの体がビクビクと震えた。
「……ぁ」
達した余韻で、ふるりと体を震わせるキョーコのとろけた表情を見ながら、
俺は、自分のものに避妊具を被せる。
キョーコの細くて綺麗な脚を開かせ、M字になるようにして、
ゆっくり、ゆっくりと自分自身をキョーコの中に沈めていく。
「あっ、あ、あああ、入って…」
ヒクヒクと収縮を繰り返しているキョーコの中は、きゅ、きゅと細かく痙攣しながら、
すんなりと俺を受け入れ、締め付けてくる。
「あっ、あっ、ああっ」
まとわりついてくる感触に、目眩のような快楽を覚えた。
「ぅあっ、ああんっ、ひぅっ、あああっ」
一度、達したキョーコの中は敏感になっているようで、奥まで侵入し、入り口ギリギリまで抜いて、
また突き入れ、繰り返す度に嬌声をあげながら、俺を締め付ける。
俺を更に奥まで誘うように、細かい収縮を繰り返す。
ずりずりと容赦なくキョーコの中を蹂躙する俺の、袖にしがみつきながら、
襲いくる快感に身を任せるキョーコは、何とも淫らで、艶を帯びている。
もっと、もっと乱してしまいたい。
「あっ、あっ、あっ、つ、るが、さんっ、奥、えぐっちゃ、だめっ、ああんっ」
奥まで突き入れて、コツンと当たる所を重点的に責め立てると、
キョーコの体がひくん、ひくんと跳ね回る。
「ああっ、可愛いよ、キョーコ。食べてしまいたいくらいだ」
本当に。何て可愛いんだ、君は。心も体も、こんなに俺を虜にして、離さない。
「あっ、ああっ、つるがさん!またっ、いっちゃっ」
直接的で荒々しい愛撫に、キョーコの中がまた、ヒクヒクと蠢く。限界が近いと、教えくれる。
「いいよ、キョーコ。何度でもイって」
「あっ、あっ、ああああぁぁっ!」
俺の言葉と同時に、ガクガクと体をしならせるキョーコの中が、
ぎゅうぎゅうと俺を締め付けて、危うく俺も達しそうになった。
でも、まだ駄目だ。まだまだ、キョーコと繋がっていたい。
「ぁ、つるがさ、動いちゃっ、だめ、だめ、これ以上したらっ、壊れちゃうっ」
達してすぐに、ゆるゆると腰を動かし始めた俺に、キョーコが言う。
「いいよ、キョーコが壊れるところ。見ててあげる」
「やっ、やぁんっ、だめっ、ああっ、あんっ、あっ」
再び、激しく腰を動かし始めた俺の動きに合わせるように、
キョーコの中が締め付けてくる。
何度も達して、敏感になっているのが、いつもよりキツい。
締め付けられる感覚に、ムズムズと高ぶる。
「あっ、ああっ、ああんっ、だめっ、もう、だめっ」
「キョーコ、待って、……っ、俺もっ、すぐだから」
「やあぁっ、まて、ないぃっ!あっ、ああっ」
ぎゅうぎゅうと俺を締め付けて、収縮を繰り返す中に、互いの限界が近いのを感じた。
俺自身をえぐり込むようにキョーコの中に突き立て、襞を擦り上げて、射精を促す。
その動きの激しさに、キョーコは目を瞑って、達してしまいそうになるのを、必死に耐えている。
「あっ、ああっ、ひぅっ、つ、るが、さっ、まだぁっ!?もっ、だめっ、だめ、な、のっ」
「いいよ、俺もっ、出すよ?」
「あっ、きゃっ!?あっ、ああああぁぁっ!!」
ぐぐっと奥まで突き上げると、キョーコの中がぎゅうぅと俺を締め付ける。
ガクガクと体をしならせながら、痙攣を繰り返すキョーコの奥で、
俺も、せり上がってくる欲望を吐き出した。
「もう!どうしたんですか?一体」
あ、あんな激しく…、と頬を薄紅色に染めながら、目を逸らすキョーコの体を抱き締めた。
少し落ち着いて、さっきまでの行為を思い出しながら、頬を染めるキョーコは……。
「可愛いね」
「もう、ごまかさないで下さい!」
照れながら言う、キョーコを抱き締める腕に力を込める。
「今日、アイツに会ったよ。キョーコの弟」
「……え?」
キョーコの体がぴしりと固まった。
「アイツに会ってから、キョーコを抱きたくて仕方なかったんだ」
「敦賀さん、アイツに何か言われたんですか?」
「ん?キョーコを泣かせるなって、それだけ」
宣戦布告を受けた事は秘密。アイツとの事はキョーコにとって過去で、今更、気にされても困るしな。
「ホントですか?」
「本当だよ」
今更、キョーコを手に入れたいなんて、ふざけるなよ?不破。
俺は、何があっても、この子の事を手放すつもりはないからな。
「私、敦賀さんの事が好きです」
「俺もだよ。キョーコが好きだ。何があっても手放さないから、覚悟して?」
さっきまで、激しく抱き合った体を組敷き唇を落とす俺の首に、キョーコは手を回した。
「私、敦賀さんと幸せになりたい」
耳元で囁くキョーコの言葉に、胸が熱くなる。
「幸せにするよ」
そう言って、再び体を重ね合う。
俺達の邪魔は誰にもさせない。心も乱させない。それが、不破、お前でも、だ。
「ん、敦賀さん、好きです」
「俺も好きだよ」
この後も俺達は、何度も何度も求め合った。
互いの、揺るぎない想いを確かめ合うように……。