テレビで放送される洋画の日本語吹き替えのお仕事をもらったキョーコ。
蓮の帰りを待ちながらリビングのソファで練習中。
が、一箇所短いながらもベッドシーンがあって苦戦。
「『あ、あんっ、あっあっ』…なんか違うなぁこれじゃかわいい感じだし…
『はぁ、はんっあぁんっ…』…しつこいかな…あんまりいやらしすぎるのも…
『あぁ、あんっ、はんっ』…ううっ、わけがわからなくなってきた…」
「何をやっているのかなお嬢さん」
「ひゃあああっ!?」
いきなり耳元で大魔王降臨。
「お、お、おかえりなさい敦賀さんっ!なんで怒ってるんでしょうか…」
「別に…ただ台本見て喘いでるから、誰かと濃厚なラブシーンでもするのかなって」
「え?あ、違うんですよ」
説明するキョーコ。
「でも声だけって難しいですね…特にこういう…声ってよくわからなくて」
「いつも我慢できずに喘いでるじゃないか」
「…っ…そんな意地悪っ…それは無意識なんです!
つい出ちゃってるわけで、自分がどんな声でなんて言ってるかなんて覚えてないんです…
だっていつも…気持ちよすぎちゃうんだもの…」
頬を染めて恥ずかしそうに俯くキョーコに蓮あえなく撃沈。
「じゃあ今度は意識してみようか」
「え?…ちょっと敦賀さ…やっ、ここじゃっ、あんっ!」
「自分のいやらしい声がどんなかわかった?」
リビングで、ベッドルームで、さんざん啼かせた蓮は、キョーコを腕の中に閉じ込めて訊く。
「いえ…また頭が真っ白で覚えてないです…すみません」
「じゃあもう一回」
「もういいです!!何度やってもきっと同じですからっ」
「そう?……ねえキョーコ…その仕事、断れない?」
言いにくそうにポツリと呟く蓮。
「え?!もう引き受けたんですから断れませんよ。どうしたんですか?敦賀さんがそんなこと言うなんて…」
「だって…キョーコのいやらしい声は俺だけが知ってるのにテレビで流れるなんて…」
本気でがっかりしている様子の蓮に、男の人ってそういうものなのかぁ、と驚く。
男=蓮しか知らないため基準が徐々にズレて行っているキョーコ。
「んー…じゃあ、なるべく控えめにがんばりますね」
「ほんと?」
「はい、やってみます」
「じゃあ次は控えめに喘いでみる?」
また組み伏せる蓮にくすくす笑いながら、キョーコはその熱に溶けていく。
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しかし実際仕事に向き合ったキョーコは真剣にのめりこみ、
控えめにすると言ったはずの喘ぎもしっかりいやらしく全力投球。
蓮には聞かせまいと放送の日はデートに連れ出しなんとか回避したキョーコだったが、
放送は可愛さを残しつつも妙に色気のある声に撃沈の男続出で密かに話題に。
「京子の声ってさ…」
「俺も思う、可愛いだけかと思ってたけど意識して聞いてると色っぽいよな…」
「最近特にじゃねえ?」
「…男がいるとか?」
「じゃああれ本気の喘ぎだったとか?!」
「うわーあんな声で啼かせてぇ!」
沖縄の時のように、確実に広まっていくキョーコの支持の声を偶然耳にして、
しかもその内容があの声の話題で、それからしばらく蓮の機嫌は最悪なのだった。