玄関を開けてブーツを脱いでいると、敦賀さんが出迎えてくれた。  
「キョーコ、おかえり」  
「はい、ただいま帰りました」  
コート越しに、ぎゅうっと抱きしめられる。  
「ん…敦賀さん、シャンプーの香りがします」  
「キョーコも温まっておいで、お風呂用意してるから。着替えはおいておくよ」  
 
言葉に甘えてお風呂を堪能して脱衣所に出ると、バスタオルと服と下着が揃えてある。  
下着まで用意されたことになんとなく気恥ずかしさを覚えながら手に取ると、見たことがないものだった。  
「これ、新品…」  
薄いピンクにひらひらのレースのほどこされた可愛らしいブラジャーとショーツのセット。  
手に取って眺めてみる。サイズはついていない。小さなタグを確認して驚いた。  
「これってモー子さんが言ってた…セレブ御用達のオーダーメイドのお店じゃ…」  
いつもなにかとプレゼントをしたがる敦賀さんに、常々私は手を焼いていた。  
気持ちは嬉しいけど、高価なものを贈られても自分には返せる経済力もない。  
どうしても贈りたくて勝手に買ってるんだから受け取ってほしい、と捨てられた子犬のような目で訴えかけられて、  
結局はため息と共に受け取ることになるのだけれど。  
ちなみにその哀しげな視線も、自分の買ったものをなんとしても身に付けさせたい彼の作戦の一つだということに、  
このときの私はまだ気付いてはいなかった。  
敦賀さんを呼んで拒否するべきかと一瞬思ったけど、目の前のブラジャーの可愛さは格別だし、  
オーダーメイドじゃ返品もできないだろうし…今回は敦賀さんの完勝だ、と諦めた。  
 
身につけて洗面台で自分の姿を確認して思わず真っ赤になった。  
オーダーしたのは敦賀さんのはずなのに、寸分違わぬほどにぴったりなのだ。  
そして生地は透けて見えそうなほどに薄い。  
ショーツも同様に薄く、陰毛がわずかに透けてしまう上に細い紐で両端を結ぶタイプ。  
見た目の可愛らしさに騙されて着けたはいいけれど、ことさらに自分が女であることを意識させられる結果となった。  
しかもそれを買ったのは自分の恋人。  
恥ずかしさに自分の姿を直視できなくなり、慌てて服を着ようと手を伸ばして、もうひとつ新たな事実に気付く。  
「これも新品…?!」  
真っ白の上品なワンピースは膝丈までのスカートの部分がふわりとした、まるで純白の花嫁のようでこちらも好みド真ん中。  
この時点である疑惑が浮かんできた。  
「まさか敦賀さん…いや、そんなわけない…だって言ってないもの…」  
自分の考えを打ち消して、とりあえずワンピースに袖を通す。  
この格好で髪を濡らしたままというわけにもいかず、髪を乾かし整えてから、リビングで待つ彼のもとへと向かった。  
 
「キョーコ、よく似合ってる」  
自分のあつらえた格好で登場した自分を見て、敦賀さんは満足そうに微笑む。  
「サイズもぴったりだね、よかった」  
「敦賀さん、これは一体…」  
テーブルには豪華なディナーとシャンパンが並び、その中央には薄暗く落とされた照明の中、キャンドルの灯火が揺れている。  
呆然としている私の手を引いて、敦賀さんは優雅な動きで椅子をひいて座らせる。  
そして自分も斜め前に腰を下ろし、にっこり笑って言った。  
「キョーコ、誕生日おめでとう」  
「どうしてそれを?!」  
「食事はさすがに自分で、とはいかなくてね、知り合いのシェフに頼んで」  
「ごまかさないでください!どうしてご存知なんですか?!」  
「それは…まあいいじゃないか」  
「よくないです、気になって素直に受け止められません!」  
「……知ってる奴に聞いたんだよ。キョーコの誕生日を教えて欲しいって」  
「知ってる人って…モー子さんですか?でも口止めしてたんです、敦賀さんが知ったらきっと高価なものとか…」  
知ってる奴、と言う表現にふとひっかかり首を傾げる。モー子さんに使う云い方とも思えない。  
他に知っている人がいるとすれば…そんな、まさか――…  
 
驚いて口をあんぐり開けて見つめると、敦賀さんは拗ねた顔をして視線を反らした。  
「もういいだろう、その話は。せっかくのキョーコのバースデイディナーなんだし」  
「敦賀さん…」  
普段はアイツの名前を耳にしただけで不機嫌になるのに、その相手に自分から頼みごとをするなんて…  
驚愕と同時に、そこまでして自分の誕生日を知ろうとしてくれたこの恋人に目じりが熱くなった。  
「じゃあ気を取り直して、プレゼント」  
立ち上がった敦賀さんは後ろに回り、小さなハートのついたネックレスをそっとつけた。  
「受け取ってくれるよね?」  
「…はい」  
恐る恐るそのハートを手にとって眺める。  
中には石が入っていて、キャンドルの明かりでキラキラ光る。  
玄関を入った時からなにからなにまで尽くされている状態に  
この時の私は少々混乱するほどに胸がいっぱいで、もはや拒否の言葉も浮かばなかった。  
なにより気持ちが嬉しくて、素直にそれを受け入れよう、そう思う。  
頬を零れ落ちるのも拭わずに、にっこり笑って礼を言った。  
「嬉しい…敦賀さん、ありがとう……」  
 
頑張って内緒で用意してきてよかった、俺は内心ホッとした。  
数週間前、不破の連絡先をようやく入手し、他に方法が思いつかなかった俺は意を決して電話をした。  
「付き合ってるくせに、誕生日も知らないのかよ」  
挑発する発言にも怒りを押さえ、教えて欲しいと頼み込んだ。  
そんな俺の態度に驚いたのか不破はしばらく黙り込んだが、結局は小さな声で日にちを告げ、乱暴に電話を切った。  
もしかしたらアイツは、祝ってやれる俺の立場が羨ましかったのかもしれない。  
それからの俺は、仕事が終わると一刻も早く帰りキョーコに会いたい気持ちをなんとか抑え、  
前々から頼んでおいたネックレスを急がせ、ディナーの打ち合わせをし、シャンパンを選んだ。  
キョーコのためと思うと楽しい作業ではあったが、教えられたキョーコの誕生日は間近に迫っていたし、  
多忙な俺にはなかなか大変な計画ではあった。  
 
しかしそんな苦労も、澄んだ涙を落としながら礼を言う愛しい恋人の表情を目にして、すべてどこかへ消え去ってしまった。  
「嬉しい、敦賀さん…ありがとう……でも…」  
「でも?」  
「でも…私、こんな素敵なプレゼントじゃ、敦賀さんにお返しできません…」  
潤んだ瞳で見上げられて、俺はくらりと眩暈を覚えた。なんて可愛いんだ…もう罪だよ、それは。  
「いいんだよ、そんなことは」  
そう、気にしなくていい。だってこの後すぐに、何倍にもしてお返ししてもらうのだから。  
 
その後食事を終えて片付けを始めたキョーコに、  
実はもうひとつプレゼントがあると紳士的に微笑んで、俺は半強制的にある格好をさせた。  
キョーコに身に着けさせたのは、首の後ろと背中でかろうじて肌に繋ぎとめる真っ白なレースのエプロン。  
なんとなく脱がせるのが惜しかった紐タイプのショーツだけはとりあえず残しておいた。  
うなじを赤く染め、その格好で皿を洗うキョーコを後ろから眺めていたら、  
やはりと云おうか、我慢できなくなって寝室へと連れ込んだ。  
ベッドに放り投げるようにうつ伏せにさせ、下着の布をズラして指を入れると、ぐちゅぐちゅと悦んで受け入れてくれる。  
「ヌレヌレだね…こんな格好を眺められて、俺の視線で感じてた?」  
「あ…っ…だめっ、敦賀さんの、指…だめなのっ、弱いのぉ」  
腰を前後に揺らし、俺の動きと合わせて自ら快感を高めている。  
張りのいい臀部の果実には、じっとりとにじんだ汗でショーツが貼り付き、  
白いレースの清楚なデザインとそのいやらしさのギャップが欲望をそそる。  
時折クイっと指を折り曲げて膣を苛めてやると、「あぁっ!!」と悲鳴をあげて高く啼く。  
なにからなにまで可愛くて煽られる。  
我慢できずに指を抜き、下着をズラした状態のまま自分の欲の塊をねじ込んだ。  
「あ…はぁ…んっ、あん…やだ敦賀さん、今夜は…せっかち、です、あんっ…」  
「ごめん、キョーコが…いやらしいからっ」  
「あ、あ、あぁっ…やだっ、壊れ、ちゃうっ、いやぁっ!」  
イヤだと言いつつも動きに合わせて腰を振るキョーコに対抗心が芽生え、俺は遠慮なく激しく突き上げた。  
普段ならこんなエプロンすらどんなに懇願しても首を縦に振ることは有り得ない。  
この悦び様は、やはり今日の俺のもてなしに対するご褒美だろうか?  
確かにこれなら、吐き気を抑え、不破に電話までした甲斐もあったというものだ。  
見返りを求めて贈り物をする気はさらさらないが、まあこのくらいのご褒美はもらってもいいかもしれない。  
いや…こんなご褒美がもらえるのなら、やはり今後も定期的にプレゼントはあげたいものだな。  
 
「キョーコ、こっち、おいで」  
「えっ、あっ…」  
四つんばいになっていたキョーコの脇を抱え上げ、俺は仰向けになって自分の上にキョーコを乗せた。  
天井を仰ぐ体勢に一瞬驚いたキョーコだったが、シーツに手を付き、戸惑いつつもゆっくりと腰を上下に揺らす。  
悪戯に腰を引いて逃げようとすると、キョーコは慌てたように腰を下ろして埋め込んでいく。  
すでに紐のほどけていたエプロンを取り去り、ショーツの紐をそっと解いて、  
上半身を起こし、正面にくるようにあらかじめ配置しておいた姿見の鏡に顔を向けさせた。  
戸惑うキョーコの両膝をつかみ、外側に大きく広げさせる。  
「あぁっ、あっ…ぃやぁっ…」  
「ほら見てキョーコ…俺たちの繋がってるところ…」  
「あっあっ…やだ、見ない、でっ…んんっ、はぁんっ」  
「俺のモノがキョーコの穴に出たり入ったりして…わかる?キョーコが自分でやってるんだよ…嬉しそうな音、立てて」  
「…っ…恥ずか、しいっ…やめ、あっあっ、あっ…あぁんっ」  
鏡越しに目が合うと、キョーコの身体の赤みがサッと増す。  
力を込める太ももに走る筋。  
キョーコが懸命に上下に揺らすたび、俺の肉棒にはキョーコの膣液が絡みつき、  
くちゅ、くちゅ、と卑猥な音をあげながら溢れて弾ける。  
攻めているのか、あるいは攻められているのか…  
見えない攻防を繰り広げている気分にさせられていた俺は、次第に主導権を奪われていくようで焦り、  
余裕をなくして下から小刻みに突き上げてしまう。  
「……っ」  
「あっ、あっ、あああっ、あっ…るがさ…んんっ、だめっ、そんなっ!!」  
キョーコの『ダメ』は俺には『もっと』に思えてくる。  
何度も何度も執拗に…徐々に大きく深く、高く入れ込む。  
自分の姿を眺めるのも忘れ、胸を反らせて大きく喘ぐキョーコ。  
さらなる快感を与えようと、繋がった部分に手を伸ばし、その上にある陰核を指でしごいた。  
「あああっ!だめっ、いやぁあ、あ、ああっ…ぅあっ…っ…!!」  
 
ビクン、ビクンと大きくしなり、脱力したキョーコを横に下ろす。  
上から組み伏せ、ヒクヒクと泣くように痙攣しているそこに、一旦抜いた自分のモノを再びゆっくりと挿入する。  
蹂躙され、息を荒げ、虚ろな目で俺を見るキョーコの乱れた髪を整えてやり、耳に、首筋にキスを落とす。  
そういえば…最後には必ずといっていいほどこの体勢で繋がっているような気がする。  
キョーコが絶頂を迎える瞬間の顔をこの目に焼き付けたいという願いからなのか、  
それまで激しくしてしまった罪悪感から、謝罪するようにすがってしまうからなのか…。  
どんなに荒々しく抱いても、キョーコは俺を優しく受け入れる。  
俺はついそれに甘えてしまうのだ。  
我が儘で自分勝手で嫉妬深い俺を、キョーコはなぜいつまで経っても見捨てないのだろう…?  
「ごめんキョーコ…きつかった?」  
前髪をかきあげ、その額に唇で触れると、いつものように優しく微笑まれた。  
「いえ、大丈夫です……敦賀さん、まだ、でしょう…?い、ですよ…して…」  
「でも…キョーコ、苦しそうだ」  
「敦賀さんは、優しすぎ、です」  
予想外の言葉に驚いた。  
そんなことない、俺はいつも自我でいっぱいいっぱいで、自分のドス黒い欲望を抑えられずに苛めてしまうのに。  
言葉を失っている俺に気付いているのかそうでないのか、  
キョーコは俺が所有の証としてつけたネックレスを手にとり、その石の部分にチュっと口付けた。  
「これ、コーンと同じ石ですか?」  
「そうだよ。ハートに入れるには、ちょっと色が濃かったかな…」  
「いえ、これでいいです…これが、いい…」  
気持ちが溢れそうになって、表現がわからずに深く唇を塞いだ。  
舌を絡め、咥内を味わい、ゆっくりと顔を離す。  
キョーコはうっとりとした瞳で俺の頬を両手で包み込み、もう一度天使のような笑みを浮かべた。  
「続き…して?」  
激流のごとくこみ上げてくるこの熱情。  
それを伝える術を他に知らない俺は、ただその言葉に誘われるように、キョーコの深い愛の波に攫われていった。  
 

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