その日、朝起きるとキョーコがいなかった。  
ようやく結ばれたその翌朝を、蓮は繋がる時と同じくらいに待ち焦がれていたというのに。  
 
どんなに遅くなっても下宿先まで送っていった付き合い始めの頃。  
手を握るだけで真っ赤に顔を染めて動揺する彼女を見て、蓮は時間をかけて愛していこうと決心した。  
キスをするまでに1ヶ月。自分からキスをしてくれるまでにまた1ヶ月。  
舌を入れるのにも、それどころか外で腕を組んでくれることにすら…とにかく全てに長い時間がかかった。  
そうやって何ヶ月も経ってからようやくキョーコは膝の上で甘えてくれるようになり、  
抱きしめた時の互いの温もりにも、相変わらず頬は染めるものの逃げないようになった。  
そして冬のある寒い日、少し遠い場所でタクシーを降り、散歩がてらマンションまで歩く途中、  
キョーコは蓮の手を握るその手に力を込めて、今夜は泊まってもいいかと小さく訊いた。  
か細いその声はかすかに震えていた。  
その夜、初めて蓮はキョーコを抱いた。  
優しくしなければという強い思いからか、あるいは彼女の緊張がこちらまで伝わってくるせいなのか、  
蓮まで神経が張りつめて、あまりに必死に前戯に夢中になりすぎて……。  
真っ白なシーツの波の中、キョーコは初めてにしては淫らに揺れた。  
その愛しい声に我を忘れて、それまでの長い沈黙を突き破るかのように、その後の蓮は何度もキョーコを抱いた。  
そしてその翌朝。  
目が覚めてキョーコの寝顔を拝む至福の瞬間を楽しみにしていたというのに、  
無意識に伸ばした手は空を舞い、覚醒した蓮は呆然とした。  
 
「モー子さぁぁん!どどどどうしよう私…っ」  
夕刻、LMEの事務所を出ようとしたところで奏江はキョーコに捕まり人気のない廊下に拉致された。  
「まったく…今度はなによ」  
「どうしよう、敦賀さんにもう会えない!」  
「はあ?」  
「ねえ、どんな顔して会ったらいいの?その……そういう日の…朝って…」  
耳まで真っ赤になって茹で上がるキョーコを見て、奏江はようやく意味を理解すると同時に驚いた。  
あまりに純粋なキョーコの恋愛。  
それに厭な顔ひとつせず付き合ってやっている敦賀蓮という男に、  
奏江は最近、もしやあんな百戦錬磨な顔をして実は不能なんじゃ…という疑いすら密かに持っていた。  
しかしそういう関係を結んだというのなら、今まで辛抱強く耐えていたということになる。  
まあ惚れた相手が天然記念物並みのこの純情少女では運が悪いとしか言いようがないけれど、  
見上げた根性というか、今までが哀れだったというか、見直したというか。  
「どんな顔って、普通の顔してりゃいいじゃないのよ」  
「無理よ!だって私…どうしよう…い、い、いやらしい声、出しちゃったのっ」  
「そりゃまあ確かに…」――そうなるかもね…敦賀さん、上手そうだし。  
「確かに恥ずかしい、よね?ね?ど、どうしようっ、おまけに…っ…やだ、もう生きていけないっ!!」  
いったい何を言わされたんだと奏江までつられて赤くなる。  
「とりあえず…どうしたらいいのかは、そこの本人に訊いてみたらいいんじゃないの?」  
「……え?」  
 
紳士的な笑顔に脅えながら、キョーコは蓮のマンションまで連れられてきた。  
車の中でも終始無言だった蓮は、キョーコをソファに座らせると隣にぴったりと寄り添い、腰に手を回して拘束した。  
キョーコは恐る恐る尋ねる。  
「敦賀さん…怒ってるんですか?」  
「怒ってるの半分、それから…不安が半分、かな。キョーコ、昨日のこと後悔してる?だから今朝逃げたの?」  
「後悔なんてしてません!あれでよかったと思ってます!敦賀さんに抱かれたかったんです!」  
拳を握って力説されて、蓮は思わず赤面してしまい動揺する。  
「そんなに力いっぱい言われると照れるんだけど…」  
「あ……すみません、私ったらっ…」  
自分が叫んだ内容に、遅れてキョーコも真っ赤になった。  
コホ、と咳払いして自分を取り戻した蓮はにっこり笑って立ち上がり、  
驚く隙も与えぬ素早い動作でキョーコを抱え上げた。  
「そんなに言うなら…期待には答えないとね」  
 
全裸にしたキョーコをベッドに落とし、ゆっくりと時間をかけて舌を絡めとる蓮。  
昨夜と違うのは、いきなり股を割りその中央へと指を入れたこと。  
驚いたキョーコは息を呑む。  
優しく擦っては逃げていき、その蜜をまだ知られたばかりの陰核へと擦り付け弄ぶ。  
その指が熱く、いや自分が身体が熱く火照り、キョーコは思わず声を漏らしそうになった。  
まだ耳に残る、自分のあの淫らな声。  
焦ったキョーコは両手で口を必死に押さえる。  
愛撫を避ける術も見当たらず、腰を揺らして逃げようとするが執拗に指は追いかける。  
身体を引いた蓮は張りのある白い太腿に舌を這わせ、時折痕をつけるようにちゅうっと吸い上げる。  
キョーコはなんとかやめてもらおうと震える片手で蓮の頭を押しやるがその力はあまりに弱く、  
見上げた蓮はフッと肩を小さく揺らして笑みをこぼした。  
そしてぐっと膝を持ち上げて恥部を露わにすると、ヒクついて甘く誘う溢れる泉の源へと舌を入れ込んだ。  
 
生暖かいものがねじ込まれた突然の感覚に驚いたキョーコは、ビクンと腰を跳ね上げ反応する。  
「敦賀さんっ、…っ…やっぱり、だ、だめっ…今日は…」  
「ココはそのつもりみたいだけど」  
先ほどから指と舌で弄ばれて、卑猥な音をイヤと言うほど聞かされていたのだから、  
舐められているその場所がいかに濡れているか、キョーコにも充分すぎるほどわかっていた。  
しかし、だからこそ羞恥が勝る。  
これ以上淫乱な自分を開発されたらおかしくなってしまう…  
キョーコに芽生えたのは不安、そして予感と――…一抹の期待。  
いけないと思いながらも、蓮の容赦ない攻めに確実に流され始めている。  
欲望に抗えず理性を見失うほどに乱れてしまう、そんな自分には耐えられそうにない。  
頭の隅でもうひとりの自分がなにやら警告しているのはわかっているが、  
休む間も与えず迫り続ける快楽がキョーコの思考力を次第に奪っていく。  
 
溺れ始めたキョーコを見て、タイミングを計っていた蓮はその両手に自らの指を絡め、  
泣きそうなキョーコの顔の上に強く押し付け、ゆっくりと杭を埋め込んでいった。  
「あっあっ…やだっ、入っちゃ…あぁっ…ぅんんっ…んっ」  
「…っ…キョーコ……拒まない、でっ」  
まだ慣れない異物感からか力を込めるキョーコの膣壁は、蓮を押し返すように締め付ける。  
奥までゆっくりと時間をかけて入れてから、蓮は大きくグラインドさせる。  
慎重に、快楽のツボを探り当てるように、まだほとんど未知のその場所を存分に味わう。  
「ぅあぁ…はぁっ…ああっ…」  
昨夜の快感と自分の痴態がキョーコの脳裏に蘇る。  
今更ながら羞恥の波がまた襲ってきて、目一杯顔を背けて目を強く閉じた。  
 
「いいんだよ…もっと感じて?」  
「い、いやですっ…こんな私、見ないで、くださっ…んんっ…」  
「声、出して」  
「だ、だってっ…恥ずかしっ」  
カァっと耳も首も染め上げた色は、蓮の欲望をさらに煽るということを、この時のキョーコはまだ知らない。  
「喘いでる、声、可愛くて…もっとキョーコのこと、好きになるから…っ」  
「ん…ふぁっ…ほんと、ですか…?」  
「ほんとだよ、悦んでくれてると、嬉しい…んっ…俺も、興奮してっ」  
徐々に動きを早める蓮の逞しいその背中は汗ばんで薄暗い照明で艶っぽく光り、  
巧みに制御する臀部の筋肉は引き締まって踊り始める。  
「ああっ……っ…でもっ、やっぱりっ…!」  
最後の理性か、蓮の言葉にも決壊しなかったキョーコはそれでも必死に声を押し殺す。  
その様子に蓮は苦笑いをこぼした。  
思いきり喘ぎ声をあげるようになるまで、果たして今度はどのくらい要するのか…  
まあ…徐々に理性を壊していくの楽しいかもしれないが。  
長い間待っていたことで忍耐力ができたのか、あるいは心の奥底に眠る嗜虐癖の強い獣の声なのか。  
「キョーコっ…イって、ごらん…っ!」  
「…ぁあっ、あっ…あっ……ぁあんっ…んんっ…あっ……っっ!!」  
そう、まずはこの子に底なしの快楽を教え込まなければ――  
蓮は自分の欲望を解放することを二の次にして、何度も何度も、キョーコの自制心を壊すことに専念した。  
 
空がかすかに白さを増し始めた頃、蓮は微かに覚めつつある意識の中でキョーコを探ろうと手を伸ばし、  
その腕がまたしても虚しく空振りしたことに気付いて飛び起きた。  
シーツに触れるとまだ温かい。  
「また逃げられた、か……」  
またしても希望通りの朝を迎えられず、蓮はがっくり頭を垂れたが、  
リビングの方でカチャカチャと食器を取り出す音が聞こえてホッと安堵の息をついた。  
「寝顔を思う存分眺めて…キョーコを起こしてあげるのがずっと夢だったのに、な…」  
俺の夢はいったいいつ叶えられるんだろうか…  
振り回されっぱなしの自分に呆れつつも、実はそんな自分が嫌いでもない蓮は  
キョーコの温もりの残るシーツをたぐり寄せ、もう一度暖かな眠りへと落ちていった。  
 

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