俳優敦賀蓮と女優最上キョーコは今日、マスコミがノーマークの中、度肝を抜いて交際宣言文とやらを発表した。
で、私の目の前にはその渦中の二人がいる。
「ふふ…やだ敦賀さん、何おっしゃってるんですかあ」
「だってキョーコ、あの男の方、見てただろう?」
テーブルを挟んで向かい側、敦賀蓮はキョーコの腰に手をやり顔を寄せ、いちいち耳元で話しかける。
頬杖をついている私はつい、じーーーーっと見てしまう。
話を聞いたときは意外だと思っていたけど、こうして見ていると案外絵になるというかお似合いというか。
今夜私は初めて二人の住むマンションに呼ばれ、キョーコの作った晩御飯を食べた。
ひと通り食べ終えるとふたりは流しに並んで食器を洗い、キョーコは私と自分に食後の紅茶を出し、またふたり並んで前の椅子に座った。
で、目の前のイチャイチャに至るわけだ。
なかなか他の人が見ることができないであろう場面に、思わず穴が開くほど凝視し観察してしまう。貴重だわ。
敦賀さんはこそこそと耳元で囁き、そのまま流れるような動きで耳たぶにキスをし、ちゅ、と小さく音がした。
キョーコは真っ赤になって俯き、ちらっと私の方を見て、ますます茹で上がりそうに真っ赤になって再び俯いた。
敦賀さんは全然私のことなど気にしていない。
…というより、忘れてるのかもしれない。恋は盲目とはよくいったものだ。
そういえば敦賀さんは食事前からひとり赤ワインを飲んでいた。
アルコールが回っている上に、キョーコが言うには今日はえらく機嫌がいいらしい。
交際を公にしたのがよほど嬉しいってわけね。
赤くなったキョーコにくすくす笑いながら、今度は横から首にチュウっと吸い付くようにキスをした。
キョーコは身をよじって敦賀さんの方を向き、
「もう敦賀さ…っ…んんー…!!」
あーあ。抗議の声は途中で塞がれた。
キョーコの行動は全部読まれている。
一連の無駄のない動き、さすが敦賀蓮だわ。思わず見とれてしまう。
「んっんんー…んっ…!」
逃げようとするキョーコの顔をしっかりと掴む。なんとまあまあ。
それでもキョーコは離れようとする。
顔は逃げられないから身体を、と思ったらしいけど、椅子から落ちそうになって敦賀さんの手に支えられた。
それではますます逃げられない。唇は相変わらず貪られ…哀れキョーコ。鮮やか、敦賀蓮。
カシッ
何か面白い写真が撮れるだろうかと持ってきていたデジカメを取り出し、シャッターを押してみた。
「んん!?んっ…ちょっ、ん、ちょっとモー子さ…ん、んんあ、何、してっ、もぉ、敦賀さ…っ」
「何って見りゃわかるでしょ、写真撮ってんの。敦賀さん、出来ればもう少し…」
「んん?」
敦賀さんはこちらに視線を向け、どうやら『こう?』と言っているらしい。
角度をつけて深く口付けたり、顔が見えやすそうな位置に動いてみたり、いろいろ動いてくれているみたいだ。
私は何度もシャッターを押した。
徐々にキスが深くなり、キョーコは小さく震え始めた。
重なる二人の唇の端からは唾液が伝い、舌が絡まるこもった音が耳に入る。
敦賀さんは妙に艶っぽい表情になってくるし、キョーコも苦しそうに時々ハァっと息を漏らすし目は虚ろだし…
さすがの私も見ていて少々恥ずかしくなってきた。
「そろそろ失礼するわね、キョーコ、美味しかったわありがとう」
「んぇえっ!?もう?あ、じゃあタクシー…ん、も、つるがさん…」
「いいわ、下で自分で拾うから。あ、敦賀さん、この写真…」
「ん…お好きにどうぞ」
「はい、ありがとうございます!」
「ふえ?好きにって、んう、ん…んんっ、んーー!」
キョーコの言葉を遮って、私にひらひらと手を振る敦賀さんに感謝しながら部屋を後にした。
帰りのタクシーで写真の出来映えをチェックする。
どれもブレがなく見事な出来。
これはきっとデジカメの機能だけじゃないはず。
角度や動きを映りがよくなるように調整していたのだ、やはりあなどれないわ、敦賀蓮。
「よかったぁ、これで今度の収録、ネタに困らない!」
ドラマの宣伝のためにと出演することになったバラエティ番組で、
週末に何をやっていたか、プライベート写真を撮ってくるようにと言われていたのだ。
渦中の二人のプライベート写真、しかもラブラブ写真の数々。
「これで視聴率上昇、ドラマの宣伝にもなるわ」
このベロチューはさすがに使ってもらえないかしら…こっちはギリギリOKね、きっと。
それにしても敦賀さんのキスはエロかった…恐るべし、敦賀蓮……。
あのテクに翻弄されるキョーコを一瞬だけ哀れんで、あとは収穫ほくほくでご機嫌の私なのだった。