シン、と静かなマンションの一室で、敦賀さんの帰りを今日も待つ。
最近敦賀さんは帰りが遅い。しかもたいていお酒を飲んで帰ってくる。
「本当はさっさと帰ってキョーコと一緒にいたいんだけど…」
ひとりの夜が続いて、淋しくてたまらなくなってきた私に気付いたのか、
今朝の敦賀さんは申し訳なさそうにそう言って、ごめんね、と謝ってくれた。
それもお仕事だから仕方ないです、と納得したフリをしたけれど、ちゃんと笑えたかどうか、自信がない。
あーダメダメ、また考えすぎてうじうじしちゃうところだった。
「あ、そうだ!」
私はバタバタと寝室のクローゼットから今度のドラマの衣装を取ってきた。
衣装といっても普通のスーツ。白いシャツにジャケット、ミニスカート。
ミニドラマで新任教師の役が決まったのだ。
ソファの前に鏡をセットして、立ったり座ったりしていろんな角度からチェックしてみる。
「う…なんだか似合ってないないような気がする…」
新人の先生役だからいいのかなあ、なんて考えていると、ガタン、と音がした。敦賀さんが帰ってきたらしい。
いつもだったら玄関まで喜んでお出迎えに行くところだけど、なんとなく素直になれなくて、
そのままリビングで突っ立って待っていた。
敦賀さんはそんな拗ねた私の様子も気にせずに、一直線にやってきて後ろから抱き付いてくる。
「ただいま、キョーコ。遅くなってごめんね」
耳元で吐かれた息にはアルコールの匂いと、それから――…
心の中にもやもやしたものが溜まっていくのを感じる。
敦賀さんは一旦身体を離して、コートをソファに脱ぎ捨てた。
お偉いさんとの飲み会だったのか、スーツを着ていた敦賀さんは、ネクタイをきゅきゅっと緩めてため息をつく。
そんな気だるい様子に見惚れていると鏡越しに目が合って、私は慌てて視線をそらした。
「キョーコ、なにか怒ってる?」
「別に…」
目を合わせられない。
なのに、背中にすり寄われて、耳元で囁かれて、太ももを撫でられて…
それだけでゾクゾクして、身体が火照ってくる。
何日も抱かれていないせい?違う匂いが鼻につくせい?
発情している自分が恥ずかしくて、ますます顔が熱くなる。
「だめ…」
「どうして?ずっとこうしたかった…俺だけ?」
そんなわけない。私もしたかった。
現に私の上着を取り払う手も、シャツに入ってくる手のひらも…太ももを擦って、スカートをめくり上げる手も、
下着越しに溝を軽く撫でるその指も…拒むどころか「もっと」「早く」と頭の中で叫んでる。
なんとかそれを飲み込むけれど、敦賀さんに翻弄されて、足の力が抜けていく。
崩れていく私の手をソファに付かせて、彼はゆっくりと下着をおろしていく。
「敦賀、さん…」
「なに?」
「もう……」
愛撫なんていらない、早く…
「欲しい?」
お尻を円を描くように撫でて太ももに舌を這わせながら敦賀さんは優しく訊いてきて、私はうんうんと頷いた。
ぬちゅ、と音がして指が埋め込まれていくのを感じる。
「や…ちがう…の…っ」
欲しいのは、指じゃないの。いきなり入れて、欲しかったのに。
でもそんなこと言えなくて、それに、この指を拒めるわけがない、私の感じる箇所を熟知しているんだもの。
「ひあっ…んあっ…ああっ…あああんっ…」
「キョーコ、すごいよ?どんどん溢れて…溜まってた?」
「そんなっ…ことなぃっ、あ…んんっ、やだっそこっ、ぃあぁっ、はぁああっ」
何本かの指に中を弄ばれて、感じるところを強くこすられて、
イきそうになると敦賀さんは動きを止めたり単調に抜き差ししたりして意地悪に焦らす。
「だ、だめ、意地悪っ、だめっ」
「じゃ、こっち見て?ちゃんと俺の目、見て」
手をついたまま振り向いて敦賀さんを見る。
「はや、くっ」
「キョーコ…いやらしい顔してる」
「あああっ、あっああぁっ…はああぁっ…あああぁああっ…あっっ…!!」
指を根元まで入れ込まれてぐちゅぐちゅとかき乱されて、私は高く喘いで崩れ落ちた。
「はああぁっ…んんっ!」
ズボンと下着を脱いだ敦賀さんのものが、熱く深く、埋め込まれていくのがわかる。
もう何も喋れなくて、力が入らなくて…ただ息を荒げてなすがままの私を抱きかかえて、奥まで繋がった敦賀さんはソファに腰をおろした。
目の前の鏡に映るのは、大きく膝を広げた敦賀さんの足の間で、服を乱して繋がってる自分の姿。
恥ずかしくて思わず目をそらしたけれど、すぐにまたむずむずしてきて、敦賀さんの膝に置いた手を支えにして動いてしまう。
お尻を浮かせて…また押し付けて…
淫らな自分なんて見たくなくて、ぎゅっと目を閉じて抜き差ししていると、
余計にその感覚が体中に響いて感じてしまって、思わず動きも、漏れる声も、早まってしまう。
「あっ、あっ、んっ、んんっ、んは、はあっ」
「キョーコ、目を開けてよ」
「いやっ、見たく、ないっ、あんっ」
「俺の顔、見てればいい、だろ?」
「やっ、いやあっ、見たく、ないのっ」
「それは…ひどい、な」
しまった、と思った時は遅くて、敦賀さんは私の膝を大きく開いて自分の足にかけた。
「いゃあっ!」
「隠しちゃだめ」
思わず繋がったそこを覆ったけれど、その手は掴まれて阻まれる。
スカートをめくり上げてしっかりと鏡に映るようにして、敦賀さんは下からぐいぐいと突き上げる。
私の身体が跳ね上がる度に、ぐちゅ、ぐちゅ、と卑猥な音が耳を犯す。
「いやっ、だめっ、ああぁあっ、激しっ、ひああっ!」
「ほらっ…見てっ、どうなってるか、よく見て、教えて?」
「やあっ、ああっ、やだっ、すごいのっ見ないでぇ…っ」
敦賀さんの大きなソレが出たり入ったりしていて…私の中からいやらしい液がかき出されて飛び散っていく。
見ていられない光景で何度も目をそらすのに、また何度も見てしまう。
「やだ、もおっ、だめっ…ぁああっ、きちゃうっ、つるが、さ…だめっ、ぁああっああっ!」
「いいよっ、キョーコ…気持ちよく、なって…?」
「あっあああっ、だめえ、いっちゃうぅ、あああああぁっ!!」
身体をねじって敦賀さんの腕にしがみついて、ガクガク震えて脱力した。
「キョーコ…」
敦賀さんが私の髪を優しく撫でる。
いつもならここで終わり、だけど…私は必死に力を出して体勢を変えて…向き合ってもう一度繋がった。
首にしがみついて、一生懸命腰を振る。
「んっ、んっ、ん…あっ、あ、んんっ…」
「…っ…どう、したの、キョーコ?」
「敦賀さん、なんてっ…んっ、嫌いっ、大ッ嫌いっ…ふぇっ…」
「なに…どうした?」
盗み見た敦賀さんの顔が焦っていて困っていて…私は堪えきれずに胸にしがみついて泣き出してしまった。
「違う女の人の匂い、プンプンさせてっ…敦賀さんなんて、大ッ嫌いっ…」
「え…っと…あー、そういえば隣りに…」
「隣りに座ったくらいじゃ、こんなに付きません!」
「うん、ちょっと…抱きつかれたんだよ…ごめん…」
「うぅっ…ひどいっ…浮気です…!」
「いや、違うよ!ほんとごめん…参ったな」
見上げた敦賀さんは心底困った顔をしていて、本当はその瞬間にすっかり許してしまったのだけど、
ちょっと悔しかったからそれは言わずにおくことにした。
「許しません」
「キョーコ、許して…」
「いやです」
「…ごめん、本当にごめん…」
何度も何度も謝ってくれるのがだんだん嬉しくなってきて、
そして情けない顔の敦賀さんがなんだか可愛く思えてきて、私はぷっと小さく吹き出してしまった。
「キョーコ…ひどいな、からかったの?」
「いいえ、ほんとに怒ってました」
「怒ってた、ってことはもう怒ってないよね?よかった…」
敦賀さんにぎゅうぎゅう抱きしめられて、現金な私は幸せな気分になる。
泣き虫ですぐにうじうじしちゃう私だけど、もっともっと、敦賀さんにふさわしい強い人になりたい。
温かい余韻に浸っていたら、突然ソファに押し倒された。
「ひゃっ、つ、敦賀さんっ」
「じゃあ、大ッ嫌いと言われたお返しをしないとね」
くすくす笑う敦賀さんにつられて私も思わず笑みがこぼれる。
快感に溶けてぼんやりしていく意識の中で、さっきの敦賀さんの困った顔が浮かぶ。
「…私、ずっと敦賀さんと一緒にいたい、です」
「俺もだよ。キョーコとずっと、一緒がいい」
「じゃあ、明日は?一日中一緒にいられますか?」
「いや、明日は……」
「あさっては?」
「ごめん…」
しゅん、と落ち込んだふりをしてみたら、またさっきの、困った顔。
これって病み付きになりそうだなあ、とこっそり思う。
思わず微笑みそうになるのを見せないように、私は敦賀さんをぎゅっと引き寄せて、耳元でそっと囁いてみる。
「じゃあ、そのぶんいっぱい、愛してくれますか?」
「もちろん」
ホッとした声の敦賀さんが愛しくて、でも次はどんな我がままで困らせようかなあ、なんて意地悪に思ったりした。