ミュールを履こうとしてふらついた私を支えて“大丈夫?”なんて、さらりと聞いてきた敦賀さんに“誰のせいだ〜!”と思いっきり言ってやりたい。
そりゃあ覚悟を決めてやって来たけど、まさかあんなにっ、あんなだなんてっ。寝ている時以外ずっと敦賀さんに翻弄されて、っていうか寝ている時こそ何されるか分かんないっていうか、敦賀さんの遣りたい放題っていうか。
昨日なんて起きたら、起きたら、、、ああっ卑猥すぎて頭の中でさえも言葉に出来ないっ。
昼間NGワードゲームなんてやってちょっとホンワカしたと思ったら、負けたら『言って欲しいワードリスト』やら『して欲しいリスト』やらが出てきて“キョーコの好きなのでいいよ”だなんて、どれも全部恥ずかしすぎるっ。
それでも結局色々言わされて、させられてっ。
ローターを使われた時とか敦賀さんの見ている前で自分でとか、これ以上恥ずかしいことはもう無い。なんて思ってたけど、今回はさらに恥ずかしいことが山積みだった。
あれこれ考えて動きを止めていた私に、敦賀さんが出発を促す。“その服よく似合っているよ”なんて言いながら。私は敦賀さんが準備してくれていたキャミとスカートを着ている。
とっても可愛い服だけど、それよりなにより、これが人前に来ていける服だということにほっとしている。
なにせ休みの間中着せられていた服というのが……、いや、あれらは衣裳もしくはコスプレというべきだろう、下着だけってのもあった。何も着ていない時間が一番長かったわけだが……。
お泊りの準備で一杯悩んで、可愛い洋服と下着を選んで持って来たのにっ。でもそんなこと言ったら敦賀さんの前で下着のファッションショーやらされる。やる。敦賀さんならキットやる。
その敦賀さんはというと今日は、専属モデルをやっているブランドの服をカッコよく着こなしているけど、暦の上では秋とはいえ、このロングのコートは流石に暑いんじゃないだろうか。
エレベーターに乗ると敦賀さんに囲い込まれるようにして奥の隅へと立たされた。背中と腰に手が回ってきたけど他に誰も乗っていないし、すぐに下に着くだろうから、“まぁいっか”なんて思っていたら
手は怪しく動き出すし、敦賀さんの顔がどんどんアップになるしっ!!
「つっ、敦賀さん。すぐ下に着くからっ!」
「大丈夫、動いてないから」
そう言われて、やっと気づいた。エレベーターの扉が閉められただけで、動き出していないことに。
エレベーターに気を取られている隙に唇は塞がれて、敦賀さんの手は私の胸とお尻を揉みしだいていた。慌てて身を捩ろうとする私に
「このエレベーター防犯カメラがついているから、暴れると怪しまれるよ」
「だったら変なことしないでっ」
「キョーコが暴れなければ大丈夫。俺の後姿しかカメラには映らないよ」澄ましてそう言いながら、服の下に手を侵入させてくる。
そのうち下のほうからファスナーを下ろす音が聞こえ、お腹に硬くて熱いものが押し当てられた。
と、エレベーターが動き出し、直ぐに止まったかと思うと扉が開いた。扉の側で人が戸惑う気配がする。
「どうぞ」まるで何事も無いような声と、そして見えないけれどきっといつものような紳士スマイルで敦賀さんが言う。
結果的に幸か不幸か、敦賀さんの手は大人しくなり、ただ私をキツク抱きしめるだけになった。だがそのせいでお腹に当たる熱がさらに強く感じられてしまった。
ひどく長く思える時間が過ぎてやっとエレベーターが止まり、不幸な遭遇をしてしまった人が慌てて降りていった。
敦賀さんの手が離れたらきっと立っていられないと考えていると、いつの間に脱いだのか、敦賀さんがコートを私の頭から被せて抱き上げ歩き出し、イタズラが上手くいったというように機嫌よく笑っていた。
“今年の目標”の残りを全てクリアするために敦賀が“ラブホテル 温泉 露天風呂”でネット検索をしていることを
キョーコが知るのはこれから三ヶ月ほど後のこととなる。
おしまい