一週間前、私は敦賀さんと結婚した。
マスコミには連名でファックスを送った。特に会見はしていない。
予想以上に大騒ぎになってるみたいだから、
敦賀さんは「どうする?キョーコが嫌じゃないなら会見でもしとく?」なんて言っている。
どうしようかなあ、このままだとマイクを持った人たちに追いかけられそうだし。
それについてはまだ考えているところ。
というのもこの1週間お休みをもらっていたから、区役所に敦賀さんと行って以来出かけていないのだ。
周りの反応を知らない私は、まだ敦賀さんと結婚したなんて実感が湧かない。
ただ時々、敦賀さんがふざけて「奥さん」なんて呼んだりするんだけど。
「手伝いましょうか、キョーコさん?」
お皿を洗っていたら、敦賀さんが声をかけてきた。
隣りにぴったり寄り添って、腰を引き寄せて耳元で囁く。
いつものことで、ようやくこんな敦賀さんにも少しだけ慣れてきて、
とりあえず真っ赤にのぼせ上がって倒れそうになることだけはなくなったけれど。
それでもやっぱりなんだか恥ずかしくて顔が熱くなる。
おまけにさっき少し飲んだワインのせいか、敦賀さんの色気のせいか、くらくらと眩暈がしてきた。
「いえ、大丈夫、もう終わりますから」
耳にかかった息がくすぐったくて身体をよじって答えたら、突然敦賀さんの顔が目の前に。
次の瞬間には唇をぺろりと舐められた。
「ーーーっ!!な、なんですか、突然っ」
突き放そうにも、洗剤の泡だらけで手が出せなくて慌てふためくのみ。
動揺している私を見て、敦賀さんは「甘いね」とくすくす笑いながら言う。
「もう…」
「ん、ケーキの味がする」
「いちごのショートケーキですよ」
「キョーコ、美味しい」
「美味しいのは私じゃなくてケーキですっ」
ぷいっとお皿洗いを再開しようとするけれど、敦賀さんは腰に回した手を離してくれない。
見上げてじろりと睨んでも、くすくす笑って全然効いていない。
「敦賀さぁん、離してください」
「フラフラしてるから離せないよ、酔っ払いさん」
「大丈夫だもん…これはお酒のせいじゃなくって敦賀さんのせいだし」
「『敦賀さん』じゃなくて『レン』だろう?」
「だ、だってそんな急に…」
「呼んで?」
「…ん」
「聞こえない」
「……れ、ん…」
「こっち見て呼んで?」
「れん…」
「キョーコ、愛してるよ…」
敦賀さんの顔がゆっくり近づいてきて…私はうっとり目を――
「ちょっとーもぉーーーいい加減にしてぇえええっ!!」
部屋に響き渡る怒号で、私はハッと我に返った。
そ、そ、そうだった!
今晩は新婚のお祝いにと、お互いの親友であるモー子さんと社さんを招いて夕食をごちそうしたところだったのだ…
私としたことが、ホロ酔い気分とお祝いされた嬉しさで舞い上がっていたのとで、すっかり二人の存在を忘れていた。
カアアっと熱くなった顔で俯いて、エプロンの裾を握り締めて弁解する。
「ごごごごめんなさいっ!私、そのっ…つい、嬉しくって、周りが見えなくなっていたと申しましょうか…っ」
「いや俺は見慣れてるから構わないけど」
と笑顔の社さん。いつもすみません…
「もー見てらんないわ!」
って怒らないでモー子さぁん…
「困るよ琴南さん、君も見慣れてもらわないと」
って爽やか笑顔で脅さないでください敦賀さん!
「あ、あの…ほんとにごめんなさい、私…今までお友達もいなかった私が、好きな人と…結婚…できたうえに、
こんな風に家に招いて一緒にごはん食べたり、それにお祝いまでしてもらえて本当に嬉しくて。
なんだか夢みたいでフワフワした気分で…ありがとうございます、私…幸せ…」
自分で言ってて照れてしまって、えへへ、と笑ったら、モー子さんも社さんも、真っ赤になって私をみつめている。
あ、あれ?私なにか変なこと言ったのかな…???
「あの、どうかしましたか?」
「二人とも…俺限界なんで、ちょっとお時間いただきます」
「へ?…ちょっと、敦賀さん??!」
「キョーコ、君は酔ってるんだよ、もう休んだほうがいい」
「何言って…酔ってなんか…!!」
私はそのまま敦賀さんに強引に寝室へと連れ去られてしまった。
「敦賀さ…んんーーっ!」
私をベッドに押し付けて、敦賀さんは強く唇を押し付けてきた。
抗議の意味を込めて胸をぎゅっと押し返すけれど離してくれない。
「んーっ…んっ…」
苦しいくらいに口の中をまさぐるように口付けされて、ダメだと思いつつも力が抜けていく。
「ん、んぁ…っ…つるがさ……んは…ぁ…」
尖らせた舌で、敦賀さんは私の舌を追いかけてくる。
発しようとした言葉は絡め取られて、応えようとすると逃げられて、今度は思わず追いかけてしまう。
息が乱れ始めた私を嬉しそうに見て、敦賀さんはセーターの中に手を入れてきた。
「あっ…だ、だめです!」
「どうして?」
「だっ…だって…ん…」
「こんなに固く、なってるのに」
「ぁん!」
「ん…おいし…」
「はあっ…あん…やだ、敦賀さんの、えっちぃ…」
めくりあげたセーターの中で、ブラをずらして乳首を吸われた。
ちゅうっと吸われて、引っ張るように吸い付かれて、ちゅぽん、と離される。
ちゅぽっちゅぽっと何度も遊ばれて、その度に感じて反応してしまう。
敦賀さんの手は私の太ももへと伸びていて焦らすように軽く撫で上げる。
足がもぞもぞと動いてしまって、触ってほしくて膝を立てて揺らすのになかなか触ってくれない。
胸への愛撫に夢中になっている敦賀さんの胸を押して、下から懇願するように見上げてみる。
「…ねえ、敦賀さん…」
「なに?」
楽しそうに笑う彼が憎らしい。
わかっているくせに、こうしてわざと言わせるのだから。
「なに?じゃありません、意地悪っ」
「言わなくちゃわからないよ」
「だって…恥ずかしい…」
また言わされるんだと思うと、顔が火照って。
目が見れなくて伏せたその隙に、敦賀さんはスカートの中の下着をするりと取り払う。
「いつものおねだり、してごらん?」
「や、やだっ」
「やめていいの?」
敦賀さんの長い指が、ぬるりと熱く私の溝を這った。
その軽いタッチだけで、身体中の血が沸き立つみたいに熱くなる。
「はあっ、や、やだ…っ…してっ」
「いつものおねだり、だよ?」
諭すように言われて、私は自分の膝の裏を抱えて大きく足を広げる。
恥ずかしい…だけど、その恥ずかしさの何倍も敦賀さんの愛撫は気持ちいいから、私はこうして結局負けてしまう。
負けてしまって、いやらしい格好でおねだりしてしまう。
「あ…つ、つるがさんっ…疼いてるのっ…止め、てぇ…」
「いいよ。今日はどっちがいいかな。指?舌?」
ここで『舌』って答えると、必ず部屋を明るくしたままぺろぺろとあそこを舐められる。
溝を何度も往復して、クリトリスを突付いたり転がしたりして、
『すごい、どんどん溢れてくるよ、飲みきれないよ』ってわざわざ教えながら、
敦賀さんはじゅるじゅると汁を吸い取っていく。
そんなことを思い出して、膝を抱えた手に力がこもる。
「キョーコ、ここ、ひくひく言って待ってるよ。我慢できないんだろう?どっち?」
あそこからトロンといやらしい液が漏れて伝い落ちるのがわかる。
敦賀さんに会って、キスですら初めてだったのに、こんなに淫らになってしまった自分が恥ずかしい。
しかもどんどん淫乱になっていくみたい。
絶対この人のせいだと思うけど、それを言うと『キョーコがいやらしいんだよ』と責められる。
「ゆ、指っ…指で、してっ」
『指』って答えると、敦賀さんの長い指が、私の中に埋め込まれて、
「ゃあぁ…ぁあ、ん…」
ちゅぽちゅぽと音を立てて出し入れされる。
何度も往復するその感覚で、気持ちよくて我を忘れそうになると、
今度は探るようにくいくいと器用に私の感じるツボをいじり始める。
「ここ、かな」
「やっ、ああっ、あ、あっ…ひゃっ、だめっ、だめぇっ!」
そして私を、じっと見る。
『感じてる私の顔はいやらしくて綺麗だから』そう言って、必ず食い入るように顔を見る。
その視線でまた羞恥心を煽られて、そしてもっともっと、感じてしまう。
身体をよじって逃げているのか、もっと感じたくて自分から指を埋め込んでいるのか、
脳みそが溶けてくみたいで自分でもわからない。
「暴れちゃダメだよ、キョーコ」
「あっあっ、もぉ、そんなっ、だめっ、すぐイっちゃう…っ」
「イってもいいけど…いいの?そんなに声出して、琴南さんたち、聞こえてるかも」
「ーーっ!」
どうしよう、私ったらまた忘れてた!
身体を起こして逃げようとしたけれど、指を根元まで何本か入れられて、
ぐちゅぐちゅとかき回され始めて再び力が抜けていく。
「ああっ、だめです、聞こえっ…は、早く、行かないとっ、変に思われっ、やあっ、はあっ…んああんっ!」
「早く、イきたい?」
「違っ、あっ…んっ、んんぁ、はあっ…も、ゃあっ」
やめて欲しいの?そうじゃないの?もうわからない。
ただただ熱くて、あの波が押し寄せて、くる。
「ああっ、あっ、つるがさんのっ、ばかぁっ、んっ、んんぁっ、もお、いっちゃ…ああぁああっ!!」
必死に息をしていると唇を塞がれて、
敦賀さんの重みに気を取られていると、指が抜かれて熱いものが入ってきた。
この瞬間が、私は好き。
敦賀さんとひとつになれる、この瞬間が大好き。
それに手を回した背中の逞しさや、そっとお尻に手を伸ばしたときの小さな反応や、
動き出したときにきゅっと締まるその筋肉も。
全てが愛しくて、これが今この瞬間は自分だけのものだって思えて、嬉しいの。
これを知っているのは…私だけじゃないかもしれないけれど、
でも少なくとも今だけは、私のものだって思えるから。
敦賀さんはゆっくりと、押し付けるように大きく動く。
私の小柄な身体には敦賀さんはとても大きくて、逞しすぎて…
そんなことですら、もしかしたら不釣合いなのかもって不安になる材料になってしまう。
マイナス思考の悪い癖が襲ってきて、胸が苦しくなってくる。
私でいいの?敦賀さんにはもしかしたら、もっとふさわしい人がいるのかもしれない。
私の存在は、その可能性を潰していて、敦賀さんの幸せを奪っているのかもしれない。
「はあっ、あっ…敦賀さんっ、おねがい…優しく、しちゃ、いやぁ…」
ぶわっと涙ぐんだ私に驚いて、敦賀さんは動きを止めて少し慌てた。
「ちょ…キョーコ?どうした?」
「私、敦賀さんのものに、なったんですよね?」
「そう…だね」
「だったら、敦賀さんの好きなように、して欲しいです…そんな、一生懸命優しく、しないでください…っ」
「いや、そういうわけじゃ…」
困ったな、と小さく呟かれて、私はまた切なくなって、涙がこぼれ始めた。
私はいつも、この人を困らせてばかりだ。
「…っく…ごめ…なさ…っ…」
「いや、違うよ!好きなようにしてるって意味で…激しくしたら、いい?」
「はい。イヤですか?」
「イヤじゃないけど…その…なんだか悪いことをしているようで…」
「私、敦賀さんのおもちゃになりたいんです……敦賀さん?ヘン、ですか?」
敦賀さんはみるみる顔を赤く染めていく。
…なんで敦賀さんが照れるの?
不思議に思って、私は自分の発言を思い返した。
確かに…『激しくしてください』って、私ったらすごく破廉恥な発言をしたんじゃ…
「あ、あのっ、やっぱり撤回…」
「それは却下」
「ひゃあっ、やああっ…あぁっ、あぁっ、ゃあああんっ…!!」
いつもと違って、考える余裕も与えられないくらいに強く、早く、奥まで深く押し込まれて。
やっぱり敦賀さんの言うとおり、私はほんとにいやらしいのかも。
だって気持ちよくてたまらない。
「あっ、ああぁっ、つ、敦賀さんっ、もっと、んっ、もっとぉっ、いっぱい、欲しいっ、ですっ」
「…んっ、まだ、足り、ない?」
「まだっ、まだいっぱい、欲しっ、敦賀さんが、足りないっ、ああぁあっ、あああんっ!」
抱え上げられて、向き合って繋がった。
ぴったりと強く抱きついて、足を大きく開いて、敦賀さんの腰に巻きつける。
敦賀さんは低く呻きながら下から突き上げて、私もそれに合わせて跳ねるみたいに腰を振った。
もっともっと、この人を感じていたい。
やわらかい髪の先から短く整えられた足の爪の先まで…もっともっと深く愛したい。
熱い彼の愛が注ぎ込まれるのを中心で感じながら、私はしがみついた両腕で大きな身体をかき寄せた。
――このあとしばらくしてから我に返って、モー子さんと社さんのことを思い出して…
さらにドアが少し開けられていたことに気付いて、私は真っ青で絶叫することになるのだった。