敦賀さんとつきあいだして、もうすぐ一年が過ぎようとしている。
お互いのスケジュールがなかなか合わず、会えたのは月に一回くらい。
堂々とデートすることもできなくて、いつも敦賀さんのマンションで会ってきた。
敦賀さんはいつも私を大切にしてくれる。
自分で言うのはおかしいけれど、まるで宝物を扱うみたいに触れてくる。
でも、まだ大人の関係にはなっていない。
どちらが先に相手に参ってしまうのか、そんな駆け引きをしているみたいなスキンシップ
が続いている。
今日は初めて、お泊りをする。
「キョーコと朝まで一緒にいたい。」
敦賀さんがそう言ってくれた時、顔から火が吹くんじゃないかと思った。
でも、欲しがっていたのは自分だけじゃなかった事に安心した。
敦賀さんはきっと誤解している。
私はきれいでもなんでもない。
東京でショータローと暮らしている間、やっぱりそういう関係になった。
私はショータローの事が大好きでたまらなかったし、
ショータローも私の事を好きでいてくれてるんだと信じていた。
だから、ショータローが求めてきた時、私は何の抵抗もなく彼を受け入れた。
初めての時はつらかったし、ショータローはいつも終わったらさっさと寝てしまうので
とても寂しかったけれど、それが普通なんだろうなと思う。
敦賀さんも、きっと、同じ。
でも・・・・望んでしまうのをやめられない。
敦賀さんなら、私を幸せにしてくれるんじゃないか。
敦賀さんとなら、あったかい気持ちで朝を迎えられるんじゃないか。
昨日、私が経験あるって事を正直に話したほうが良いのか、モー子さんに相談してみた。
答えはノー。
やっぱり、あんなヤツと関係があったなんて知られたら、幻滅されてしまうのかな。
でも、言わないでいるのってずるくないのかな。
嘘をつくことにならないのかな。
「キョーコ?どうしたの、ぼーっとして。」
目の前に、綺麗な敦賀さんの顔があった。
すごい距離が近くて、キス、したくなる。
この長いまつげも、綺麗な瞳も、柔らかい唇も。
全て私のものにしたくなる。
「キョーコ、大丈夫?」
不安そうな彼の声を聞き、はっと現実に帰ってこれた。
敦賀さんの部屋で夕食を一緒にした後、敦賀さんがお皿を洗ってくれてる間、リビングのソファで腰掛けていたのだ。
「はいっ、大丈夫です。すみません・・・ちょっと考え事しちゃって。」
「怖くなった?」
ギシ・・・とソファを鳴らせて、敦賀さんが近づいてくる。
私の耳元に手をやって、顔を引き寄せ、キスをする。
なんて、やさしいキス。
唇から溶けてしまいそう・・・。
「怖く・・・ないです。敦賀さんの事、好きだから、もっと敦賀さんのそばにいたいです。」
「俺もだよ。」
微笑んで私をそっとソファに寝かせ、キスの雨を降らせてくる。
唇に、おでこに、首筋に、はだけられた胸元に。
このまま、何も言わずにいれば、幸せになれる?
でも・・・。
「キョーコ、目をあけて。」
ばちりと目が合った。
いつもやさしく見つめてくれる、敦賀さんの目が好き。
この人に嘘なんかつけない。
「敦賀さん・・・私、実は・・・ぁあっ」
「しっ。黙って。」
敦賀さんの手が触れたところが熱い。
いつの間にか服は全て脱がされて、ソファの上で二人、生まれたままの姿で抱き合っている。
「でも、聞いて欲し・・・いっ」
「大丈夫。俺色に染めかえてあげるから。」
その一言と同時に、敦賀さんが入ってきた。
ずっとしていなかったから?挿入箇所が、わずかに痛む。
シーツを握り締めて痛みを堪える。
敦賀さんとひとつになった場所から、熱が広がっていく。
揺れるソファのきしむ音も、敦賀さんの吐息も、肌と肌のこすれる音も、
全てが熱へと変わっていく。
そのうちに、熱は体の中で収まりきらなくなって、声をあげてしまった。
「ああっ・・・・んっ・・・・ごめ・・・なさ・・・」
ショータローは私のこの声が嫌いだと言っていた。
近所に聞こえるとまずいからって、よくタオルを口に噛ませられていた。
でも今はもう、我慢できない。
声に出さなければ、あつすぎる熱で、私はきっと死んでしまう。
「どうして、あやまる・・・?」
「だって・・・ああっ・・・うるさい・・・でしょぉっ」
敦賀さんが奥を突くたび、声が途切れる。
「俺は好きだよ、キョーコの声。かわいくて、もっと高く啼かせたくなる。」
「あああっ」
敦賀さんはきっと全部分かってるんだ。
私に経験があることも。その相手も。
全部包み込んで、私を愛してくれてる。
そう考えると安心して、私は快楽の波に飲み込まれていった。
もう何も考えられない。
私が何度目かの絶頂を迎えた時、敦賀さんも一緒に昇り詰めた。
重ね合わせた胸から、敦賀さんの早い鼓動が伝わってくる。
荒い息を整えていると、敦賀さんの両腕が私を抱きしめた。
「キョーコ。過去も未来も俺に預けて。愛してる・・・。」
「敦賀さん・・・。」
涙が後から後からこぼれて、止まってくれない。
「泣かないで・・・」
目元にキスをされ、涙を舌ですくいとられる。
「私も。私も敦賀さんを愛しています・・・。」
「知ってるよ。」
敦賀さんはそう言ってクスリと笑うと、私を抱きかかえてベッドまで運んでくれた。
その後も何度か愛し合って、私は敦賀さんの腕の中で眠りについた。
それはひどくあたたかで。
敦賀さんと出会えた事に、深く感謝した。
終