その夜私は、久しぶりに敦賀さんに抱かれた。
気持ちよくて…気持ちよすぎて、変になっちゃいそうだった。
数ヶ月前には声を出すことすら恥ずかしかったはずなのに、最近じゃもう声を抑えるなんて、絶対無理だ。
これって…敦賀さんのせい、なのかな。
確かに最初の頃から敦賀さんの触るところはすべて気持ちよくて、
自分の身体にこんなに感じる箇所があるのかと驚きの連続だった。
そしてなんとなく気持ちいい、って快感が、徐々にはっきりとした刺激に変わってきて、
今じゃ指先で触れられるだけで、電撃が走ったみたいに快感が体中を突き抜けて跳ね上がる。
そんな私を見て敦賀さんは嬉しそうに指を這わせていく。
もう逃がさないよ?
そう言われているみたいでぞくぞくする。
逃がさないで、捕まえて。もっと、もっと淫らに、私を愛して。
乱れていくお互いの息で、そんな会話をしていく気分になってくる。
きっと伝わってる。
抱き合う行為は激しくて夢中になっていて頭が真っ白になりそうで、
でもそうやって心が通い合っていることが確信できる大事な瞬間だ。
敦賀さんと手を繋ぐ、肩を寄せ合う、微笑みあう、キスをする…
そんな行為と同じように、愛し合う行為はもう私の中で当たり前のように必要なことになっていた。
会えない時間が長くなると、会いたくなる。
そして…抱かれていないと、抱かれたくなる。
敦賀さんが欲しくて、たまらなくなる。
時々そんな自分の考えに驚くし恥ずかしくなるけれど、どうしようもない。
敦賀さんが地方ロケに行ってしまって、会えなくて、そして私は敦賀さんに会いたくなった。
つまり、敦賀さんが「欲しく」なった。
一度だけ電話越しの敦賀さんの言うとおりに自分でしてみたけれど、余計に敦賀さんが欲しくなった。
だからもう帰るまではしない、と強く思った。
これ以上敦賀さんに会いたくなったら、会えたときに自分がどうなるか、怖くなったから。
「早く会いたい…」
電話の向こうの敦賀さんに発した声が思わず沈んでしまって後悔した。
傍にいない敦賀さんを心配させてどうするのよ、自分を責めたが言ってしまってはもう遅い。
「俺も会いたい。早くキョーコを抱きたいよ」
ストレートに返されて言葉を失う。
愛してる、とか、抱き合いたい、とか、私が言いたくても飲み込んでしまう言葉を、敦賀さんはいつも真正面からぶつけてくる。
敦賀さんといると、自分もちゃんと伝えなくちゃ、と思うようになった。
「私も敦賀さんに早く、…だ、抱いてほしいっ」
恥ずかしくて、でも言わなきゃ、と思って、勢いをつけて言ってしまった。
これじゃ、なんだかものすごく発情してるみたいじゃない!
まあ…実際そうなのかもしれないけど…
「ほんとに?それは帰ったら頑張らなきゃね。帰った翌日はオフだし、丸一日」
「い、一日中は無理です!」
敦賀さんは電話の向こうでくすくす笑った。
「でもほんとに解放させてあげられるか自信がないよ。キョーコに触れたいんだ。覚悟しといてね」
「はい…待ってます…」
そして帰ってきた敦賀さんにお帰りのキスをして、そのまま二人、ベッドへなだれ込んだ。
どんなに渇望していたかを伝え合うように、激しく求め合った。
何度目かで落ち着いて、ようやくシャワーを浴びて。
ソファで話をしながら髪を乾かし合っているうちにまたなんとなくキスが深くなっていって…。
座ってまた愛し合って、そのまましばらく息を整えていたら、
私のおなかがグウ、と鳴って、一瞬の沈黙のあと二人で吹き出した。
「そういえばおなかすきましたね」
「そうだね。そんなこと考える余裕もなかったな…なんだかガツガツしちゃってごめん」
「いえ、私も…夢中だったから…」
「またしたくなる前に何か作って食べようか」
とりあえずバスローブを羽織って簡単に食事を作る。
食べさせ合ってるうちに今度は床で…。
自分でも信じられない、こんなに何度も何度も。
終わるたびに、もう無理、もう充分、そう思うのに、少し時が経つとまた欲しくなる。
今日の私、変かもしれない。
そうやって気付くと明け方になっていた。
大きく腰を打ち付けてくる敦賀さん。
背中に回した私の手のひらにはにじんだ汗が絡んで、そんなことにすら私は煽られる。
私の顔の横に手をついて、腰を揺らしながらキスを落としてくれる敦賀さんの早い息が、首に、耳元にかけられる。
それがなんだかいやらしくてドキドキして、私の身体をカアっと熱くする。
時々こらえきれずに漏れる声も、力がこもって苦しそうになる表情も、すべてが私の快感を高めていく。
「ああっ…はあぁん、ああっ、敦賀さん、気持ちいっ、すご、く、いいのっ、私、カラダっ、変、かもぉ」
「…だい、じょうぶ…変じゃ、ないよ」
敦賀さんは「んんっ…」と低く唸ってから…そこで動きを止めてしまった。
「つるが、さん?」
私の額にひとつキスを落としてから、肘をついてハァハァと息を荒げる。
さらさらとした髪が私の頬にかかってくすぐったい。
「ごめんっ…ちょっと…待って……」
「あ…敦賀さん、お疲れだったん、ですよね…すみません、私ったら…」
与えられる快感に夢中で、欲望を満たすことばかり考えていた自分の浅ましさが恥ずかしくなった。
考えてみれば敦賀さんはロケから帰ってきてくたくたのはずで、なのにそのまま休みもせずに私をずっと抱き続けてたんだ。
ぐっすり眠らせてあげないと。そして起きたら栄養があるものを食べさせてあげないと。
それからマッサージでもしてあげて…でもでも――…
とりあえずこの状況のままじゃ、生殺しだ。
噴き出すように燃え上がっていた気持ちよさの、ちょうどド真ん中でお預けを食らっている私。
続きはあとにしましょう、って言うべきだと頭の隅で声がする。
だけどもう一方では我慢できない自分が確かにいて暴れている。
敦賀さんの吐く息、零れる呻き、時々こくっと唾を飲む音、その時に動く喉仏。
何もかもが私を興奮させる。
「いや…こうしたかったのは、俺のほう、だしね…」
「違います、私だって…あの、でも…」
「…ん?」
ようやく顔をあげた敦賀さんと、目が合った。
無理しないで?
そう言うのが「いい恋人」なんだろうと、頭ではわかっているけど、どうしてもここで終わり、は我慢できそうになかった。
「あの…できればもうちょっとだけ…無理、してください…」
「ん、わかった。じゃあ…とりあえず、もうちょっとだけ、ね?」
申し訳なく囁いた私に、敦賀さんは苦笑いしてそう言った。
「はい…お願いします、もうちょっとだけ…」
きっとその『もうちょっと』が終わってまた少ししたら、また敦賀さんがもっと欲しくなる。
だけど、とりあえず、もうちょっとだけ…。
「はぁ、あ…ん……敦賀、さん…気持ち、い?」
「ああ…いい…よ…」
そうしてやっぱり欲しくなってしまった私。
でも敦賀さんは疲れ果てて、起こしてしまうのは憚れるくらいぐっすり眠りに落ちていた。
だからなんとかお昼まで待ったけど、もう我慢できずに起こしてしまって、まだ眠そうな敦賀さんを襲ってしまった。
ぼんやりしているのも構わず、敦賀さんのモノを口に含んだ。
寝起きのソレはすぐに大きくなって、待ちきれなくて自分の中に埋め込んだ。
狂ったように腰を振ったら、敦賀さんはあっという間に達してしまった。
だけど私はそれだけじゃ満足できなくて、敦賀さんの息が整うのを待たずに再びゆっくり身体を揺らし始めていた。
「ごめんなさい…まだ、眠いですよね…」
「ん、眠い、けど……キョーコ、我慢できなく、なった?」
私の太ももを、敦賀さんのおなかのあたりに置いた腕を、愛しそうに優しく撫でてくれる。
「はい…なかなか起きないから、待ち遠しくて」
「いいよ、気にしないで…あぁ…たまらない…な…」
「敦賀さん、じっとしてて、くださいね?」
小さく口を開けて、気持ち良さそうに目を閉じる様子がなんだか可愛い。
うっとりと陶酔しているみたいで、その快感を自分が与えているって思ったらすごく嬉しくなってくる。
もっともっと、気持ちよくしてあげたい。
中を満たしている熱さがまた大きくなってきて、私は次第に我を忘れ始める。
敦賀さんが目を閉じていることに甘えて、お尻を打ち落とすみたいに激しく腰を上下に揺らす。
「あ、あぁ、はぁあ、あっ、あぁあ、んんっ!」
「…っ、あ、キョーコっ…ちょっと待っ…」
「だめぇ、待てないっ、あ、ん、だって、いつも敦賀さんだって、待ってくれないっ、ぁあっ、はあっ、良く、ないの?」
「いや、すごくいい、けど…んあっ…ほんとに、待ちなさいって…」
敦賀さんは慌てたように私の腰を掴んだ。
強く抑えて動きを止めようとされたけど、私は抗って腰を振り続けた。
「あっあっ、いやあっ、やめ、ない、気持ちいいのっ、もっと、ぁあ、あ、あぁっ、もっと、欲しいのぉ!」
「…くっ、キョー…ダメだって、また…っ」
「いいからっ、きて、つるがさんも、きてぇ、あ、ああっ、ぁああ、いっ…ぁああっ…ぁあああぁ…っっ!!!」
大きくのけぞったあと、敦賀さんの胸に倒れ込んだ。
耳の鼓膜にドクドクと早鐘を打つ心臓の音が流れ込んでくる。
「…困った子だな、キョーコは…」
子供をあやすように、頭をよしよしと撫でられる。
ちっとも叱られている気がしなくて甘えたくなって、敦賀さんの胸に頬を擦り付けた。
「だって…我慢できなかったんだもん…」
「しょうがない…な…」
敦賀さんの声が小さくなる。
見上げるとやっぱり目を閉じていた。
手だけはゆっくり動いていて、相変わらず頭を撫でてくれているけれど。
「敦賀さぁん、また眠っちゃうんですかあ?」
「ん、ごめん…眠い…」
「そんなぁ」
せっかく起きてくれたのにな…。
眠らせてあげたいけど、もっと話もしたいし、もっと抱き合いたい。
どんどん私、ワガママになってくみたいだ。
「このまま…繋がったままで…眠っちゃ、だめかな…」
「んぅー。ちょっとだけ、ですよ?」
「ん…ちょっとだけね……ちょっとだけ…」
敦賀さんはそこまで言って、またすーすーと気持ち良さそうに眠ってしまった。
またちょっとだけ、かぁ。
待ち長い時間の再来に小さくため息をついて、敦賀さんの胸にもう一度耳を当てる。
トク、トク、と静かで温かい、でも確かにここにある心臓の音。
なんだか心地よくて、私も眠くなってきた、な。
優しいその音を子守唄代わりに、私は幸せな眠りの森へと誘われていった。