・・・・・・・・・あーーーーーーーーーーっなんなんだよもう!?  
 
 
俺はここ数日イライラしてる。  
ミルキちゃんやポチリにも「なにイライラしてんの?」って聞かれるくらい、  
目に見えて分かるくらいにイライラしてる。  
原因は・・・原因はそう、分かってる。  
・・・すげぇ言いたくないけど。認めたくないけど。・・・アイツだ。  
 
・・・・・・っっあぁそうだよ!あいつがあのキザったらしい絶対絶対  
ずぇぇぇ〜〜〜ったい裏があるに違いないあの!にっくき!敦賀蓮と一緒にいたからだよ!  
一緒にいんのを見ちまったからだよ!  
だいたいあいつもあいつだ!俺の前では散々あの男の悪口言いまくってたくせに  
俺に捨てられたとたん手のひら返しやがって。  
なーにがドラマ競演だ名作のリバイバルで話題のドラマだ初の連ドラ出演だっ。  
あぁ、なんかもうなんに怒ってんのかも分かんなくなってきちまった。  
っていうか認めたくない。  
アイツがあの男と収録とか関係なさそーなところで一緒にいて  
会話してて楽しげに笑いあってて。  
たまたまそれを見ちまったからって三日三晩悶々と夜をすごすほどイライラするなんて。  
俺のイライラの原因がアイツだなんて。  
認めたくない。  
 
「尚さーん、お願いしまーす」  
ノックの音とともに聞こえたADの声に、俺はとりあえずこの収まりのつかないイライラを  
ムリヤリ胸の奥に封じ込めて、楽屋を出た。  
 
・・・・ってここで見事に封じ込められりゃかっこいいのになぁ。  
結局何かにつけてはアイツの顔がよぎり、そのたびにあらぬ妄想(あいつとあの男が  
新婚カップルみたいに「あーん」とかニッコニコしながらやってるなんてほんとありえねぇ!)を  
打ち消すため挙動不審になってみたり、挙句共演者にも、一部のファンにさえ  
白い目で見られてしまったり、今日の収録は最悪だった。  
帰りの車でミルキちゃんといちゃいちゃしても(「危ないでしょっ!」って怒られたし)  
全然イライラは収まらず。今日もまた悶々とした夜を過ごすのか。  
 
あぁもうかっこわりーな俺!・・・っつか仕事とプライベート割り切れねぇとか、  
ただのガキじゃん。「あの」敦賀蓮ならそんなことねーんだろーな。  
どーせ俺はガキだよいっくら見た目がかっこよくても中身までかっこつけてらんねーよ  
いつでもどこでもあんな嘘くさいスマイル振り撒けねーよっ!  
…あぁ、また取り乱しちまった。  
 
もう、ほんと情けねー。  
キョーコと離れてからの俺はずっとこうだ。一人でイライラしたり悶々としたり  
妄想してみたり。かっこ悪いことこの上ない。  
だってしょーがねーじゃん。  
あいつ俺のもんだったんだもん。  
それが急に手元からなくなったんだ。  
急にお気に入りのゲームとか・・・ペットとか?いなくなってみ?  
誰だって挙動不審になるだろーよ。  
・・・あの敦賀蓮だってきっと・・・。  
 
・・・・・・・・・・・・。ってだから!なんで!ここであの男が出てくんだーーーーーーーーー!  
・・・はぁ。キョーコと一緒にいたからだよなー。キョーコが笑いかけてたから。  
あいつの、あんな顔。久しぶりに見た。  
こっち来たばっかのころは俺にもあんな風に笑いかけてくれてたよなぁ。  
 
あいつの、笑顔に。「くれてた」なんて思う日がくるなんて。  
あの頃は考えもしなかった。  
・・・もう、認めてしまおうか。いや、「認めざるを得ない」か。  
俺は、のろのろと電話を手に取った。  
 
 
「いまさら何の用?」  
「・・・そー思うなら来るなよ」  
俺は呆れた顔で言った。や、内心かなり嬉しいんだけど。  
あー、前回のプロモんとき、ミルキちゃんに(半ばムリヤリ)キョーコの個人的な連絡先  
聞き出してもらっといて良かったぜ。  
・・・でも。  
「おまえ、そのしかめっ面なんとかしろよ。余計ブスに見えんぞ」  
って、笑って欲しいだけなのに!なに言ってんだ俺は!  
「はぁっ!?私がブスだろうとしかめっ面だろうとあんたには関係ないでしょ!?」  
案の定。そりゃ怒るよな〜。  
でも俺は素直に謝れない。昔の癖っつーかなんつーか。  
「とにかく上がれよ。茶ぐらいだすぜ」  
「そんなもんいらないわよ!大事な話ってなによさっさと言いなさいよ!」  
「・・・いーから上がれよ」  
「ここじゃだめなの?さっさと済ませて帰りたいんだけど」  
頑なに俺を避けようとするキョーコに、イライラがつのっていくのが分かった。  
「上がれっつってんだろ!とにかく中入れ!」  
声を荒げた俺に一瞬キョーコは身を竦ませたが、すぐに俺を睨み付けてきた。  
「命令しないでよ!もう私とあんたは何の関係もないでしょ!?用がないんなら帰るわよ!」  
その言葉に、俺は切れた。  
 
帰ろうとしていたキョーコの腕をつかみ、ムリヤリ抱き寄せる。  
「関係なくねぇ!!お前は俺のもんだ!」  
抱きしめていた腕に力をこめる。  
「ちょ・・・しょ・・・う、くるしっ・・・離して・・・」  
「いやだ」  
「う・・・」  
「お前が俺のもんだって認めたら離してやるよ・・・」  
抱きしめた力はそのまま、キョーコの耳元でささやく。  
「な・・・に言って・・・」  
「認めろよ・・・」  
「いや・・・」  
だろうな。予想通りの答えに、でも、やはりガッカリした。  
キョーコを抱き込んだまま押し問答をしてるうちに、俺は段々冷静さを取り戻していった。  
 
・・・よく考えたら、こいつとこんな近くにいんの初めてじゃねぇ?  
あ、PVでもかなり近かったけど。なんつーか、素では初めて?  
一緒に住んでたときは手ぇ繋ぐかちょっと触れ合うくらいがいいとこで、  
少なくともAもBもCも(笑)してねぇよ。  
ちょっと腕を緩めてキョーコの顔を覗き込むと、よっぽど苦しかったのか  
キョーコは涙目で、しかもちょっと怯えたような顔で俺を見上げてきた。  
・・・その顔には、たいがいの男は弱いわけで。  
っつーか・・・こいつこんな可愛かったっけ?  
俺が捨てた直後ならともかく今はまたダッセー黒髪だぞ?  
しかもご丁寧にすっぴん。  
しかもこの至近距離。  
目の錯覚とか言って誤魔化せねーぞ?  
こいつが、こんなに可愛く見えるなんて。  
俺は、吸い込まれるようにキョーコの顔へと、唇を近づけていった―――――。  
 
「いやぁっ」  
『ゴキッ』  
・・・?今、ゴキッっつったぞ?・・・え?俺の首?  
「っっっってぇぇぇーーーーーーー!!」  
叫ぶ俺を尻目にキョーコは俺の腕からすり抜ける。  
「てめぇ何すんだよ!俺の体は商売道具だぞ!?それを傷つけやがって!」  
首を押さえながら怒鳴ると、キョーコも負けじと言い返してきた。  
「何すんのはこっちのセリフよ!今あんたキッ・・・キスッ・・・!」  
顔を真っ赤にしながら叫ぶ。  
「あぁしようとしたよ!キスぐらいで喚くなよ!」  
「キスくらいってあんたねぇ・・・!」  
「キスくらいしたことあんだろ!あの男と!」  
言ってしまってから俺はハッと口を押さえる。  
「あの男?」  
「・・・・」  
「あの男って・・・っていうか何の話?何のつもり?あんたは何がしたいの?  
また私を弄んで捨てたいの!?」  
俺の不可解な行動と言動に、今度はキョーコが切れた。  
「もういい!もー2度とあんたには近づかないわ!金輪際!仕事だろうとなんだろうとお断りします!」  
そう言い捨ててドアノブに手をかける。  
俺は慌てて再び、キョーコの腕をつかんだ。  
キョーコは振り返り、俺をにらみつけながら怒鳴る。  
「だからなんのつもりよ!今すぐ腕を離して!次はその大事な顔殴るわよ!」  
 
 
こいつがやたら可愛く見えたとか。  
こんなときにあの男を思い出すとか。  
こいつが出て行こうとするたびに締め付けられる胸とか。  
そんなことを反芻しながら、あぁ、もうこいつは俺の思い通りにはなんないんだなぁ、  
なんて他人事のように思った。  
 
「・・・悪かった。ちゃんと説明する。説明するから・・・行くな・・・」  
俺の情けない声に驚いたのか、振りほどこうとしていた腕の力が弱まった。  
キョーコの腕から手に、自分の手を滑らせ、キョーコの手を掴んだまま  
俺は玄関の段差に腰掛ける。  
キョーコは手を差し伸べるような体勢で俺を見下ろしている。  
「何よ・・・説明って・・・聞くからさっさと話しなさいよ・・・」  
 
やべぇ。緊張してる。何から話したらいいかわかんねー。  
なんだ俺どーした。こいつ相手に緊張するなんて。  
 
って、それが今の俺なんだよなー。  
こいつがいなくなってからの俺。  
 
俺は、意を決して口を開いた。  
「お前と・・・お前と離れてからさ・・・俺・・・」  
「・・・・」  
「・・・なんか、駄目なんだよ・・・」  
「・・・・」  
「なんでか知んねーけどモヤモヤしてて、こないだは・・・」  
「・・・何?」  
「お前が・・・あの、男と、一緒にいんの見て・・・」  
「あの男ってだから誰よ?」  
「・・・あの男ったらあいつだよ!・・・敦賀蓮・・・」  
「えっ・・・あぁ・・・」  
「あいつと一緒に笑ってんの見てからはずっと俺イライラしてるし・・・。なんつーか、  
わかんねーけど駄目なんだよ。お前がいないと。」  
「・・・・」  
「・・・・」  
「・・・で?」  
「え?あ、あぁ・・・。あ・・・のさ、・・・ハァ」  
 
「何よ」  
「・・・なんか、お前こえーよ。んな怒った顔すんなよ」  
「えっ・・・。っっだってっ!あんたの前にいるとこー言う顔になんのよ!」  
「あーー・・・。そっか。俺のせいだよな。わりぃ」  
俺は自嘲気味に笑った。  
「な、なによ急に・・・あんたがそんなしおらしいと気味悪いわよ。謝るなんて・・・  
明日雪でも降るんじゃない?」  
「・・・そしたらキョーコがあっためてくれよ」  
見上げた姿勢のまま、多分相当に情けない顔で俺は言った。  
「はぁっ!?何言って・・・またあんたはっ・・・!」  
キョーコが顔を赤くして手を引こうとする。  
俺はその手を逆に、強く掴みひっぱった。  
キョーコがバランスを崩して俺の腕の中に倒れこみ、俺は再びキョーコを抱き込んだ。  
先ほどよりは弱い力で。  
でも、絶対に離しはしない。  
腕の中で暴れるキョーコの耳元でまたささやく。  
「お前がいないとほんとに駄目なんだ俺・・・。なぁ、俺のもんになってくれよ。  
命令はしないから・・・頼む。お願いだ・・・」  
多分、俺からの初めてのお願い。  
その言葉に、キョーコは暴れるのをやめた。  
「い、いまさらそんなこと言われたって・・・もう・・・尚のこと信じられないし・・・」  
・・・まぁ、そりゃそーだろーな。  
「なら、どーしたら信じてくれる?」  
「どうしたらって・・・」  
「なんでもする。土下座でもなんでもおまえが言うならする」  
「・・・無理よ。ダメ。いまさら・・・土下座されたって信じられないもの・・・」  
そっか。これも自業自得だな。・・・でも。  
「信じてくれるまで諦めねーよ。なんでもするっつったろ。世間に公表したって良いぜ。  
お前の気が済むなら・・・俺のイメージなんかどうでも良い。お前がいれば・・・」  
「・・・・」  
「・・・なぁ、頼むからチャンスだけでもくれよ?」  
「チャンス・・・」  
 
キョーコが呟く。  
「そ。お前が信じてくれるためのチャンス。なんでも・・・命令してみろよ。そんで・・・  
達成できたら・・・信じてくれ」  
「・・・・」  
「それでもだめか?」  
「・・・そこまで、言うなら・・・」  
 
おっ、手ごたえ有りか?俺は次の言葉を待つ。  
 
そして腕の中のキョーコが発した言葉は・・・  
「尚のスケジュールを全部教えて。ちゃんと事務所にも確認取るわよ。そんで、仕事以外  
では一切遊ばないこと。仕事終わったら大人しく家に帰りなさい。仕事中ももちろん無駄  
に女の子はべらしたりしないこと。私だって芸能人の端くれなんだから情報はいくらでも  
聞きだせるんだからね。抜き打ちでチェックするわよ!」  
キョーコは一息で言い切った。  
・・・なんかドス暗いオーラが出てないか?  
まぁ、でも。  
「いいぜ。キョーコが家で帰り待っててくれるんならいっくらでも帰ってくるさ。  
できる限り傍にいる」  
「何言ってるの?家で待ってるって・・・一緒には住まないわよ?当たり前じゃないまだ尚のことなんか  
これっぽっちも信じてないもの。私にだって仕事があるしね!」  
「えっ・・・じゃぁ、俺一人で家にいろっていうのか?」  
「そーよ」  
「そんな・・・何してりゃいいんだよ!」  
「知らないわよそんなの。・・・私のためになんでもしてくれるんじゃなかったの?」  
「うっ・・・」  
 
それは・・・かなりツライ。派手好き、遊び好きの俺様が一人家にこもってじっとしてるなんて・・・  
でも折角掴んだチャンスだ。  
「わかった。でも、期限は決めてくれよな?そんで、俺のこと信じられるようになったら  
また一緒に暮らしてくれ。それでいいな?」  
「ハァ・・・分かったわよ。じゃぁ、期限は1ヶ月ね」  
「1ヶ月!?長っ・・・」  
「なんか文句ある?」  
キョーコが笑顔で言う。  
いや、笑顔は欲しかったけど。やっと向けてくれた笑顔だけど。  
ドス暗〜いオーラをまとったコレは違う・・・。  
昔のように笑いかけてもらうためにも、ここは言うこと聞くしかないよなぁ。  
「分かった。1ヶ月やってやるよ!」  
「今の言葉に嘘はないわね?尚のスケジュールと照らし合わせていきなり家に来るわよ?  
家にいるはずの時間にいなかったらアウトだからね!」  
なんか、キョーコが楽しそうだ・・・。  
「私がアウトと見なした場合、金輪際私に近づかないでね!私も近づかないから!」  
そんなこと、笑顔で言うなよ。  
あぁ〜、もう俺ほんと、情けねぇ。  
「それから今すぐこの手を離して」  
・・・そんなに俺がいやか?  
「なぁ、離したら・・・次こーやって抱きしめられるのは1ヵ月後か?」  
「まぁ・・・そーいうことになるわね」  
「ならさ・・・1ヶ月頑張ったらご褒美くれよ」  
「ご褒美?」  
「そ、ご褒美」  
「・・・何が欲しいの?」  
「キョーコ」  
「え、と、それは・・・また一緒に暮らすとかそういう・・・」  
「それももちろんだけどな。キョーコ自身も欲しい。意味分かんだろ?」  
「なっ・・・!?だ、だって私みたいのタイプじゃないって!前は手なんか出さなかったじゃない!  
キスすらしなかったくせに・・・!」  
 
「もう・・・タイプとかタイプじゃないとかじゃねーんだよ。キョーコが良いんだ。キョーコじゃないと・・・ダメなんだよ」  
「そんな・・・」  
「だから・・・さ。ご褒美。くれよ。ダメか?」  
「そ、それは・・・また、一緒に暮らしてみないと分かんない・・・。だって、今だって尚のこと  
ちゃんと好きになれるかも分かんないし・・・」  
「そっか。まー仕方ねーけどな。ならさ、キスならいいだろ?」  
「う・・・分かったわよ。その代わり!1ヶ月我慢してもらうからね、色々と!」  
「あぁ、約束する。お前がいつうちに来ても出迎えてやるよ」  
 
1ヶ月かー・・・気が遠くなる。でもやるしかねーな。こいつもやるっつったら  
真夜中だろーがなんだろーがチェックしに来るだろうしな。  
でも、また一緒に暮らし始めたら・・・その後のことは保障しねー。  
キスしたら我慢なんかできなくなんの自分でも分かるしな。  
俺様のテクニック総動員すりゃこいつ陥落させんのくらい簡単だろ。  
とりあえずは1ヵ月後を楽しみに。  
耐えろ、俺。  
 

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