蓮に先に入り口で車から降ろしてもらって事務所の廊下を歩いていると、  
キョーコちゃんが女の子の顔を覗き込みながらなにか真剣に話している場面に出くわした。  
確か最近LMEに入った子だ。後輩ができたってキョーコちゃん喜んでたっけ。  
何か相談に乗ってあげている、というかんじ。  
一生懸命話しているキョーコちゃんが可愛い。  
蓮と付き合い始めて妙に色っぽくなってきて、時々俺でもドキっとしてしまって蓮に睨まれることもあるくらいだ。  
 
「あ、社さん!」  
「やーキョーコちゃん。何か真剣な話?」  
「はい、恋の相談に乗ってるんですっ!」  
嬉しそうなキョーコちゃんの横で、隣りの子がオレに会釈する。  
お邪魔かな、と思ったけど、座るように薦められたので蓮が来るまでと従った。  
 
「とにかく、真剣だって気持ちを伝えないと!あっそうだ!」  
キョーコちゃんはバッグをごそごそと漁り、「はい、これ持っとくのよ」と小さな箱を彼女に渡した。  
「キョーコちゃん、そ、それ…」  
「恋する乙女の必需品ですっ!」  
 
きょ、キョーコちゃん…それはもしかしなくても、コンドーム、だよね?  
嗚呼なんてことだ…蓮め、キョーコちゃんの純潔を返せ!!  
顔が茹で上がりそうに熱くなってしまったオレを置き去りに、  
キョーコちゃんは鼻息荒く彼女に箱を渡している。  
渡された彼女も「ありがとうございます!」なんて平気な顔。  
今どきの女の子とはこういうものなんでしょうか…嘆かわしい気分になってきたよ…  
 
「あ、あの、キョーコちゃん…つかぬ事をお伺いしますが、その…いつもそれ、持ち歩いてるの?」  
「はい、いつ何どき、どういう状況で相手が発情して、しかもその相手が持ってない、なんてこともあるかもしれない、って…」  
そのあと声を潜めて、隣の子に聞こえないようにオレに小さく「敦賀さんがくれたんです…」と付け加えた。  
ええ、誰が持たせたかは聞かなくてもわかりますけれども。  
 
大きくため息をついて頭を抱えたオレを見て、キョーコちゃんは不安げに呟いた。  
「社さん…?あ、あの…私、何か間違ったことを言ってるんでしょうか」  
「いや…間違ってはないんだけど…」  
お兄ちゃんは悲しいよ…蓮と付き合ってくれるのは嬉しいけど、純情で男慣れしていなかったはずの――  
「はわわわぁあっ!そ、そうですよね、わ、わたしったら!!」  
よかった!  
反応は少し、いやかなり遅かったけど、やっぱり恥ずかしがり屋でウブなままのキョーコちゃんだ!  
「ごめんね、これ、あげられないわっ」  
キョーコちゃんは真っ赤になって女の子の手から箱を奪い返した。  
「これ、特注品なの。私の恋人、サイズ規格外らしくって…どうしよう、普通はこういうの、薬局で買うんでしょうか?  
 薬局って、レジに持っていかないといけないんですか?教えてください社さぁん…」  
うるうると涙ぐまれて、こっちまでうるうる涙目になってなってきたところで蓮が現れた。  
「社さん、お待たせしまし…」  
「るぇええええぇんん?」  
純真無垢なキョーコちゃんを蹂躙し続けるこのエロ大魔王に、今日という今日はとくと説教してやるっ!と決意したオレだった。  
 
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終わり。  
 

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