最近敦賀さんと話していない。
一緒のベッドで寝てはいるのだけど、敦賀さんの帰りが毎日遅いから。
私は朝は強いんだけど、夜はその分弱いのよね…
今日こそは起きて待っていよう!と思うんだけど、お風呂に入って、ベッドに座ったら途端に眠くなってきて、
ちょっとだけ、と布団に入ったらもう最後、そこから記憶は消えてしまう。
一方の敦賀さんは、夜遅いせいか朝は気持ち良さそうに深く眠っていて、おはようございまーす、ってほっぺを突付いてみるけど全く起きない。
朝食を置いて、私はそのまま仕事か学校へ。
そんなかんじで最近は全然会話をしていない。当然キスも、抱き合うことも…。
今日こそは、本当に今日という今日は!と、強い意志で決意したんだけど、
やっぱり寝室に入ったら強烈に眠気が襲ってきた。
で、でもダメ、起きてなきゃ!起きて…なきゃ…
結局そのままうとうとしてしまって、そのまま現実との区別もつかない、曖昧な夢の世界へ誘われてしまった――
「最近彼女と話もしていないんです」
つい不機嫌な口調になってしまったことに自分でも少し驚いた。
思っていた以上にそのことがストレスになっていたらしい。
打ち上げの席で酔いも回ってきて、つい出た本音。
隣りに座っている社さんは身を乗り出して俺の顔を覗き込んだ。
「話も、って…電話は?」
「電話する暇、ありましたか?」
「確かに…」
「たまに合間をみつけて電話しても、彼女も仕事だったり…すみません、社さんを責めているわけじゃ」
覗き込む社さんが申し訳なさそうな顔をして、困らせている自分が情けなくなってきた。
「いや、俺はてっきり話くらいはできてると思ってたからさ。言ってくれれば電話する時間くらいこっそり作ったのに」
「別にそんなことしてもらわなくても…」
なんだか自分が妙に子供っぽい我が侭を言っているようで、なんとも恥ずかしい気分になってくる。
「蓮、お前もうちょっと我が侭になっていいんだぞ」
「社さんには敵いませんね」
全部思考を読まれているみたいで参っていると、「今なら気付かれないからこっそり帰れ」とせっつかれた。
「だって…主役が抜けるわけにはいかないでしょう」
「いいからいいから。適当にごまかしといてやるからさ」
満面の笑顔を浮かべられて、俺はそれに甘えてこっそり退席することにした。
「ただいま」
いつものように返事はない。
いつものように、靴を脱いで、まず寝室へ行き、ベッドに座って彼女の寝顔を眺める。
無邪気にすーすーと可愛らしい寝息をたてて、幸せそうに眠り込んでいる。
思わず長いため息が出る。まったく人の気も知らないで…。
もうとうに限界は越えていて、毎日この瞬間に襲ってしまいたいとこっちは悶絶してるっていうのに。
『お前もうちょっと我が侭になっていいんだぞ』
さっきの社さんの言葉が頭の隅をよぎる。
いや…ダメだ、それは我が侭を通り越して犯罪だろう…
しかもこんな無邪気な寝顔を前にしては、ますます自分が変質者のような気分になってくる。
「キョーコ…」
キスくらいはいいかなと、とりあえず彼女の上に跨ってみた。
前髪をかきあげて、キスを落とす。
すると彼女は幸せそうに微笑んで、「つるがさぁん」と呟いた。
まずい…もうセーブが効きそうにない。
酔いのせいにして、そのままなめらかな首筋に吸い付いた。
「んぅ…」
キョーコはくすぐったそうに身をよじって、それが俺の欲望に火をつけた。
もう止まれそうにない。
毛布を取り去り、前開きのネグリジェのボタンを外していく。
久しぶりの行為に頭の中はほとんど真っ白な状態で、俺はガキみたいに必死に愛撫を始めていた。
幸せな夢を見ていた。
うとうとしていたら、敦賀さんが珍しく早く帰ってきて、「ただいま」って私のおでこにキスをする。
「おかえりなさい」
久しぶりのキスはなんだか初めての時みたいに恥ずかしくて、でも嬉しくてたまらなくて、きっと私はすごく幸せそうに微笑んでいるはず。
それを見た敦賀さんも嬉しそうで、お互い微笑み合って、
あぁ、幸せってもしかしたらこういうこと?なんて思いながら何度も何度もキスをして…
気付いたらそのままベッドに押し付けられて、久しぶりに「そういうこと」が始まってしまう。
正直、ずっとしたかった。
したかったけど、「したいです」なんてとても恥ずかしくて言えないし、第一言おうにも話もしてなかったし、
万が一言えたとしても、忙しい敦賀さんにとってはただの我が侭な発言で困らせるだけだし。
だけどこうして首筋に吸い付かれて、敦賀さんの大きな手が太ももを這い始めたら、
思っていた以上に自分がすごく「したかった」ことに気付いてしまった。
すっと指先が線を描くように足の付け根へと這っていく。
それだけで身体中に火がついたみたいに熱くなって、思わず「あっ」と声が出てしまった。
慌てて口を押さえた私を見上げて、敦賀さんはふっと笑った。
「感じるの?」
ふるふると首を振ると、そのまま私の顔を見ながら指をすべりこませてきた。
「ひゃ…っ…ぁあっ!」
「すごく濡れてるよ?ほら」
見せられた敦賀さんの指は卑猥に糸をひく液が絡み付いていて、もう恥ずかしさでたまらなくなってしまう。
「ぃやっ」
「今日はすごいね。気持ちいい?」
「だって…久しぶり、だし…」
「うん、ごめんね」
「あっ!だ、だめっ、敦賀さんっ、ぁああっ!」
いきなり足を大きく広げられて、顔を埋めた敦賀さんは舌で愛撫を始めた。
「ん、だめじゃない、よね?すごく、溢れて…」
「あ、あぁ…ん、あ、だめっ、今日、ヘンみたい、あ、やだもう、い、ちゃうっ」
「いいよ、気持ちよく、なって」
「あ、ぅああっ…やぁっ、つるが、さんっ…ぁああっ…ぁあああんっ…!!!」
あっさりイかされてしまった私はびくん、びくんっと身体を震わせて――…
そこでようやく覚醒した。
「えっ…ぇええ?!つ、敦賀さんっ!!!」
夢?!いや、夢じゃなかったの!!?
起きたら敦賀さんは大きく広げた私の足の間にいて、「おはよう」と爽やかな笑顔で微笑んでいた。
「いや…おはようじゃなくて『ただいま』って言うべきかな」
「そ、そういうことじゃっ!ななな何をなさって…」
って聞くまでもないけど、と思った時にはもう遅かった。
「何ってキョーコのココを舐めてたんだけど」
「わ、わざわざそういうことを言わないでくださいっ」
「だってキョーコが聞いたから。気持ちよかった?」
質問を返されて、さっきの夢の中での卑猥な会話が蘇って顔がみるみる熱くなる。
「き、気持ちよくなんかっ」
「そうか…悪かったね…じゃあシャワーでも浴びて――」
気付いたら、身をひいてベッドから降りようととした敦賀さんの腕をぐいっとつかんでいた。
「何?」
「あ、あのっ」
「ん?」
にっこりと微笑んで、私の言葉の続きを待っている。
やっぱりこの人、意地悪だ…きっとわかってて聞いてるんだわ…!
「……です…」
「何?聞こえないなぁ」
「…いんです…っ…し、したいんですっ!や、やめないでくださいっ、続き、してください…」
「いいよ。俺もそうしたかった」
神々しいくらいに眩しい笑顔でそう言いながら、敦賀さんはゆっくり私をシーツに押し付けて…
私たちは夢の続きを始めることにしたのだった。