「あっお帰りなさい!お風呂いかがでしたか?」  
 
和室に戻ると、窓から外を眺めていたらしい浴衣姿の彼女が振り向いて、畳を擦るような細かな足取りで駆け寄ってきた。  
俺が持っていたタオルを取り再び離れる。タオル掛けに干してくれるらしい。  
まるで気の効く奥さんみたいだな…そんなことを考えて頬が緩む。  
多分俺は浮かれてる。  
まさか彼女がOKするとは思わなかったから。  
 
「最上さん…温泉…好き?」  
彼女をこの旅行に誘ったのは先週のこと。  
さりげなく言ったつもりだったが、声が少し上ずってしまい、そんな自分にさらに動揺する。  
付き合い始めたものの、まだ一緒に住んでもいない、マスコミにも関係を明かしていないこの状況で、  
しかも特に記念日というわけでもない理由もない泊まりの旅行を、彼女が承諾するとはとても思えなかった。  
だからどうせダメだろうと半ば諦めの極致で、でもとりあえず言ってみるか、そんな心境だった。  
しかし彼女はあっさり「いいですよ」と笑顔で応えた。  
あまりに意外な答えに俺のほうが驚いて聞き返したくらいだ。  
『社長の知り合いがやってる旅館だから』  
『休みが同じになったの、初めてだろう?』  
『俺たちどこにも出かけたこと、ないから』  
いろいろと用意していた言い訳も結局使わずに済んで、拍子抜けしたと同時に、嬉しさがこみ上げて抑えるのに必死だった。  
 
「髪、濡れてるよ」  
丁寧に俺のタオルを広げている彼女の後ろに立って、襟足の髪に触れると、くすぐったそうに身をよじる。  
濡れた髪。  
広い袖から伸びる細い腕。  
少し緩んだ浴衣の首元から覗く白いうなじ。  
「ふふ、くすぐったいです」  
「浴衣ってそそるんだね…知らなかったな」  
「もうっ、変なこと言わないでください!」  
振り返った彼女は頬を染めて俺を睨む。  
「変な気分になってきた?」  
「ち、違います!お食事冷めちゃいますから、いただきましょうっ」  
 
彼女は照れた様子で用意されている食膳の前へと慌てて座る。  
すぐに気を取り直したようにてきぱきと俺の分のお椀の蓋を外し用意を整え、  
「敦賀さん、どうぞ」  
と徳利を手に微笑んだ。  
「あぁ、ありがとう」  
隣りに座り杯を取ると、彼女は慣れた様子で酒を注ぐ。  
「板についてるんだね」  
「……それは…まあ…」  
顔が曇り、俺はしまったな、と内心舌打ちした。  
せっかくの状況に、不破との思い出を蘇らせるなんて。  
 
酒を一口。  
喉に熱い液が降りていく。  
「最上さんも、どうぞ」  
「え?あ、はいっ、じゃあ一口だけ」  
 
俺は二口目を口に含み、杯を取ろうとする彼女の肩を掴んだ。  
驚いてこちらを向いた顔に逃げないように手を添え、口付ける。  
「んんっ!?」  
そのまま畳に押し倒し、酒を移す。  
飲みきれない酒が唇の端から伝い、畳へと流れ落ちた。  
頬へ…首すじへ…。  
伝った酒を丁寧に舐め取ると、恥ずかしそうに目を逸らす。  
「つ、敦賀さん…お食事…冷め、ちゃう…」  
「そうだね」  
相槌を打ちながらも、すでに俺にはやめる気はなかった。  
深く咥内をまさぐるように、舌でその中を満遍なく味わう。  
どちらが含んでいたのかも区別がつかない酒の味が広がり、  
その酔いのせいか、彼女の色香のせいか、くらりと小さく眩暈がした気がした。  
 
いつもは、なにかにつけメルヘン思考な彼女の理想をなるべく崩すまいと、必死に理性を保ちながら抱いてきた。  
しかし今日は、その理性を保つ自信は俺にはなかった。  
 
二人で旅をしようという俺の我が侭を受け入れた彼女。  
目の前にある、下宿先に帰す必要のない長い夜。  
彼女の扇情的な浴衣姿。  
白い肌。  
潤んだ瞳。  
言葉が紡がれる度に動く紅い唇。  
全てが俺の欲望を激しく煽り、理性を揺さぶる。  
 
「あ…っ…」  
薄い生地の上から、胸の膨らみの頂を軽く噛んだ。  
ぷくりとわずかに形が現れ、俺は唾液を含ませながら布の上から吸い付いた。  
染みが広がり、はっきりと尖りが姿を見せ始める。  
彼女の表情に艶が増していくのを堪能しながら、足へと手を伸ばし、ゆっくりと浴衣の裾を広げる。  
太ももを軽く撫ぜながら、胸元を広げ、直接その果実へとしゃぶりついた。  
「あ…だ、だめ…敦賀さん、旅館の人、来ちゃう、かも…」  
「構わないよ」  
押しのけようと俺の頭に伸ばされた手のひらを取り、指を絡めて畳に押し付ける。  
真上に跨り、文字通り獣になった気分で彼女の胸を夢中で愛撫した。  
口に含み、突起を舌ではじく。残された片方も指で同じように弄ってやると、彼女の息が次第に熱くなっていく。  
「だめ…だめ……」  
拒絶しながらも、抵抗する力は徐々に弱まっていく。  
「熱い?鼓動が早い…感じてるんだね」  
「違う…お酒の、せい…やぁ…ん…」  
快感の波へと溺れ始めるその様子は艶めかしく、拒絶は俺の愛欲を助長させるだけだった。  
 
身体を下肢へとズラし、裾をすっかり広げてしまうと、彼女は拒むようにぴたりと両足を閉じ合わせていた。  
顔を見ると、焦ったように言葉を探している。  
「あ、あのっ、明るいですし、それに、やぁっ…!」  
必死な様子に確信を持って、少し強引に膝を広げる。  
思った通り、下着の中央には大きく染みが広がっていた。  
時間をかけてゆっくりと取り払うと、和室の照明に照らされたそこは充分すぎるほどに濡れて光っている。  
彼女が力を入れる度にひくひくと動き、水音が漏れる。  
入り口に指の先を入れ、試すように揺らしてやると、くちくちといやらしく音が響いた。  
彼女の耳にも届いているのだろう、顔を真っ赤にして、堪えるように唇を噛みしめている。  
「ああ、浴衣が…いやらしい液が垂れてるよ…」  
いつも以上に濡れている恥部。  
彼女も興奮していることがわかって、俺も身体の中心が熱くなる。  
時間はたっぷりある。  
慌てることはないのだが、早く彼女を攻め立てたいと気持ちが昂ぶる。  
 
指を増やして、ぐい、と奥まで突き入れる。  
彼女の中の熱さを感じながら、ゆっくりと指を出し入れすると、かき出されるようにぐちぐちと液が溢れ出してきた。  
「ひぁああっ…あ…は…ぁあ…あ、あ、やぁ…」  
「…興奮、してるんだね」  
おそらく無意識なのだろうが、彼女は俺の指の動きに合わせて小さく腰を揺らす。  
そんな淫らな様子の彼女はなにより美しい。  
俺は身震いしそうに奮い立つ。  
彼女を愛撫しているだけで、自分の息までが熱く、早くなっていくのを感じていた。  
 
手前の壁を、指を曲げて擦り上げる。  
彼女の感じる箇所はすでに掴んでいた。  
今夜は容赦なく攻めてやりたい、腰を上げて逃げようとするのを追いかけるように、動きを強く、早めていく。  
「あっ、あっ、そんなっ…ぁああっ、やだっ、やめ、つるが、さんっ…!」  
「今日は、やめないから」  
そう、どんなに拒む台詞を吐かれても、もう抑制は効きそうにない。  
泣いているのか悦んでいるのか、その区別もつかないほどに乱れ始めた彼女の膝を広げたまま押さえ込み、  
指を奥まで入れて速度を上げると、中でちゃぷちゃぷと音が上がる。  
「ひあっ、あっ、おかしく、なっちゃ…ああっ…あ、だめっ…ぁああぁあっ…あっ…っっ…!!!」  
悲鳴のような啼き声をあげ、澄んだ液を惜しみなく飛ばしながら、彼女は最初の絶頂を迎えた。  
 
「失礼してもよろしいでしょうか。お茶をお持ちいたしました」  
 
放心状態の彼女を慰めていると、障子の向こうで声がした。  
彼女は慌てふためいて立ち上がり、部屋の隅に行って浴衣の乱れを直し始めた。  
障子を開け入ってきた女性は静かにお茶を置いている。  
彼女は浴衣を整えてもこちらには来ないで、じっと隠れるように待っていた。  
浴衣はさっきの愛撫でびしょ濡れだ。おそらく恥ずかしくてこちらに来れないのだろう。  
布団を敷いておくかという申し出を辞退して、あとは自分でやるからと答えると、すべて了解したという顔で去っていった。  
 
「もう誰も来ないから、こっちにおいで」  
「あ、あの人、いつから…っ」  
「さあ……最上さんがおとなしくなるの、待ってたんじゃないかな」  
「そそそそんな!ど、どうしよう、恥ずかしくて顔合わせられないじゃないですか…!」  
「そうだね…じゃあついでだから、もっと恥ずかしいこと、しておこうか」  
彼女の元へと行き、木製の鏡台のほうに身体を向かせ、後ろから再び胸元をはだけさせる。  
恥ずかしいのか、先ほどの余韻か、桃色に染まった片方の乳房が露わになる。  
「綺麗だよ、最上さん…」  
「恥ずかしい、です、私…胸、小さいですし…」  
「俺は好きだよ、気持ちよくて。自分で、見せてごらん?」  
「こ、こう、ですか?」  
彼女は顔を真っ赤にしながらも、俺の要望に答えてそっと反対の胸元も広げた。  
「そう…自分で、触ってみて?」  
戸惑うように、そっと膨らみを揉み始める。  
「ん、自分でしても、あまり…」  
「じゃあ…俺がやってるみたいに、してみたらどうかな」  
「敦賀さんが…ですか…」  
しばし逡巡していたが、彼女はそっと尖りを指でつまみ、玩ぶように弄り始めた。  
「ん…ん…はぁ…ん…」  
「気持ちいいの?」  
「敦賀さんが、見てる、から…」  
「見られて、感じてるの?」  
 
欲情し始めたのを確認して、浴衣の裾を持ち上げ、鏡台に手を付くよう促した。  
「あ…つるが、さん…」  
「続けて?鏡、見て…そう、上手だよ」  
言われるがまま、彼女は従順に動く。  
片手を付き顔を上げ、自分の上気した顔を見ながら、もう片方の手で自分の乳首を弄る。  
潤んだ瞳、微かに開かれた唇。  
 
俺は満足して、膝をついて彼女の臀部へとキスを落とした。  
張りのある豊かな果実を押し広げ、溝をぺろりと舐め上げる。  
「はあぁっ…ぁっ…」  
かくんと膝が落ちそうになるのを支え、更に続ける。  
零れ落ちる蜜を舌で掬い上げ、目の前の菊の花へ、そしてクリトリスへと舌で伸ばすように濡らしていく。  
とめどなく溢れる愛液を塞ぐように、舌を蜜壷へ埋め込んでみる。  
何をやってもぴしゃぴしゃと卑猥な音が上がり、彼女と、そして俺の興奮を高めていった。  
 
「ひゃ、あ、はぁあ、あっ…」  
「足りない?どこがいいのかな…?」  
舌先では足りないのか、彼女は尻を突き出すように揺らし始めた。  
「ぁあっ…な、中っ…あ、あ、もう…まだ、ですか…?…ん…ぁっ…」  
「手がお留守だよ?」  
余裕を失った彼女は浴衣を乱れさせ、ただ自分の乳房をぎゅっと鷲掴みにし、懇願するように鏡越しに俺を見た。  
「お願い…です…」  
涙目の台詞に理性が飛んで、俺は自分の裾を広げる。  
そしてすでに欲望を限界まで溜め込み滾るように熱くなったものを、彼女の中へと入れ込んでいった。  
 
「はあっ、はあっ、やあ、あ、あ、つるがさ、ぁあっ、そんな、ぁああんっ!」  
んっ、くっ、と小さく呻きながら、彼女の腰を引き寄せる。  
身を打つ音が響き、彼女の華奢な身体が、その小ぶりな乳房が激しく揺さぶられるのを鏡越しに見ながら……  
もっと加減をしなければと頭の隅では声がするが、昂ぶりすぎた愛欲が制御を許さなかった。  
「あ、んぁあ、あっ…もぉ…だ、だめ…っ…、つるがさんっ、い、ちゃう、いっちゃうぅっ!」  
彼女が震えながら頂へと昇りつめていくのを眺めながら、俺は一層激しく攻め立てる。  
「好きなだけ、ほら…っ…」  
「はぁああっ、ぁあああっ、あぁっ、ぁああんっ、あっ、だめっ…ぁっ…ゃあああぁあっ…っ!!!」  
瞬間を迎え、鏡台へと倒れこんだ彼女を後ろに倒し、俺は後ろに手をついて、そのまま間を置かず下から突き上げた。  
「ぁああっ!あっ!だめぇ、ぁあっ!んはあっ、やだも…ぁああぁあっ!」  
「…っ、く、あ…っ!!」  
「はあぁあっ……ぁああっ…っ!!」  
背中を大きく反らせた彼女は俺の上に仰向けに倒れかかり、そのまま尽きたように脱力した。  
 
大きな波をひとつやり過ごし、ようやく少し落ち着いた俺に襲ってきたのは、満足感と、そして罪悪感。  
「…ちょっと…やりすぎたかな…」  
「こんな激しいの…初めてですよ…?」  
彼女をそっと畳に横たえさせて頬を撫でると、恨めしそうに睨まれた。  
「ごめん、理性が効かなくなって」  
「激しすぎ、です……あの、でも…」  
乱れた息を整える彼女の言葉の続きを黙って待つ。  
「き、気持ちよかった、です…こんな風に思うなんて、私…い、淫乱、なんでしょうかっ」  
照れているというより、本気で悩み始めそうな彼女に、思わず吹き出してしまいそうになるのをなんとか堪えた。  
「そんなことないよ、乱れてる最上さんも、綺麗だから、好きだよ」  
「…っ…敦賀さん、そういうこと、サラッと言わないでください…」  
「思ったことを言ってるだけなんだけど…もう一回、いい?」  
「い、いいえっ!先にお食事を!」  
焦った彼女に制止され、渋々食膳へと移動することになったのだが、  
結局再度日本酒の口移しから始まって……食事にありついたのは、まだまだ夜が更けてからだった。  
 
 
長い夜を充分すぎるほどに味わったというのに、彼女への渇望は募るばかり。  
ますます彼女から離れられそうになくて、わずかな時間も離れるのが辛くなりそうで。  
 
「最上さん……一緒に…住まない?」  
帰り道、運転しながらそっと呟いてみた。  
 
返事が怖くて鼓動が跳ねる。  
 
答えがなくて、表情を見ようとそっと脇を見やると、助手席の彼女は幸せそうにすやすやと眠っていた。  
思い切って言ってみた努力は無残に消え散り、俺は深い深いため息をつく。  
 
「はぁぁぁぁ…まあ、疲れさせたし…自業自得、だよな……」  
なんとか同棲を承諾してくれないと、こっちの精神が持ちそうにないな。  
無防備な寝顔は可愛らしいと同時に頭痛の種で、  
結局旅行前となんら変わらずこうして俺は、絶えず彼女への独占欲で悩まされるのだった。  
 

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