「あれからお前の演技、変わったよなぁ。  
 ところで誰にそこまで惚れたんだ?」  
 
・・・と、社長は最近会うたびに俺に聞いてくる。  
俺はその都度あいまいな笑顔で別に、とかわす。  
ところがその日は。  
 
「その様子じゃそのコに告白もしてないんだろ?  
 どっかの馬の骨にさらわれても知らんぞ?」  
 
まるで社さんみたいなことを言われて。  
 
「さあ?彼女ももう恋愛はしないって言ってますしね。」  
 
「ふーん、キョーコちゃんそれじゃ可哀想だろ。」  
 
「彼女には彼女の事情があるんでしょう。」  
 
・・・とそこまで言ってから気が付いた。しまった・・・  
社長はニヤニヤしながら、やっぱり彼女は爆弾だな、と呟いた。  
 
以前抱いた時以来、俺も忙しくて彼女とは碌に行きあってなかった。  
偶にすれ違って挨拶してくるときも、君の態度は何も変わらず、  
ほっとする気持と残念な気持が交差していた。  
そんな事を事務所の一角でふと思い返していた時。  
 
「・・・失礼します・・・」  
「あ、キョーコちゃん、ちょっと待って!?」  
 
慌ててドアを開けた風の彼女が俺の脇を走り去った。  
俺にも気付かず、うつむいて、唇を噛み締めて・・・どうした?  
同じドアから小柄な青年がもっと慌てて飛び出してくる。  
さりげなく道をふさいで、慌てる彼が俺にぶつかるように仕向けた。  
 
「こんにちわ、大丈夫?・・・あれ最上さんだよね。どうしたの?」  
「すみません、敦賀さん。いや俺ちょっと・・・・  
 ・・・彼女に告白まがいのコト言ったら、急に俯いて様子がおかしくなって・・・  
 そばに寄ってったら逃げられちゃったんですよ・・・  
 最近結構仲良くなったと俺は思ってたんですけどね。  
 そろそろ次、って、焦りすぎちゃったかも」  
 
ブリッジロックの光君は俺の目を見ながら一気に事情を説明した。  
いつもは挨拶だけなのに、珍しいこともあるもんだ。  
何か悪さをしたと誤解されたくないんだろう。  
 
「彼女、今は恋愛に臆病になってるようだよ。  
 あまり性急に追わない方がいいのかもね・・・」  
 
・・・と、どうやら何も無い様子にほっとしながら無難に返すと、  
青年は挑むような目で俺を見つめた。・・・?  
 
「敦賀さんは色々彼女のことご存知みたいですね。  
 でも俺、彼女のことが気になって仕方ないしですし・・・  
 がんばれるトコまでがんばろうかと、思ってます・・・」  
 
「そんなこと言ったって、彼女がそういう気持になれないんじゃ・・・」  
 
「・・・敦賀さんにとって、彼女はどんなコなんですか?」  
 
「・・・将来有望な、仕事熱心な後輩だよ。  
 代マネやってもらって以来、俺も色々と世話になってるしね・・・」  
 
「それだけですか?ならなぜ、彼女が他の男と話してるときに限って  
 あんな剣呑な目つきをしてるんです?」  
 
・・・返事が出来ない。自覚はあるし・・・  
 
「彼女が本当に今のまま、1人のままでいいって思ってるなら、  
 あんな寂しげな表情してないと思うんですよ。  
 少なくとも俺は、放っときたくないんです。・・・じゃあ失礼します」  
 
・・・自分の狡さを恋敵に見透かされた気がして、  
彼が去った後も俺はしばらくその場から動けなかった。  
 
それでも彼女のことはやはり気になり・・・携帯に連絡してみた。  
そのときには出なかったが、夕方、彼女から返信の電話が来た。  
普通に振舞おうとしている、でも隠し切れない浮かない声。  
「・・・どうしたんですか、敦賀さん?」  
「・・・腹が減ったんだ」  
「はぁ?」  
「たまには外食じゃないものが食べたくなったんだけど、  
 君の都合はどうかな?」  
「・・・珍しい・・・何かリクエストはありますか?」  
「んー、じゃあ和食」  
「分かりました」  
 
リクエスト通りの夕食後、彼女にお茶を飲ませて。  
「ラブミー部って、頼まれたら誰にでも夕飯作りに行くの?」  
「・・・そんな仕事、敦賀さん以外からは頼まれたこともないですよ?  
 敦賀さん、っていうか社さんからは代マネしてからたまに頼まれますけど。  
 普通はそんなことピンクツナギに頼もうなんて、まず思いつかないと・・・」  
そうか、他の男・・・例えば光君とかにはこんなコトしてないんだな、と安堵しつつ。  
 
「そういえば今日、俺とすれ違ったの気が付いてた?  
 随分慌ててたみたいだけど。」  
と、さりげに問いかけてみると、彼女は飲んでいたお茶を噴出した。  
「つ、敦賀さん?!?」  
「・・・光君からも聞いたよ。君の事随分気遣いしてたけど、  
 ケンカでもしたの?ちゃんと仲直りした?」  
 
あんなトコ見られてたなんて・・・  
内心大汗&冷や汗をだらだら流しつつ、  
なんとかこの会話流せないかな〜と敦賀さんの様子を伺って。  
・・・後悔した・・・絶対逃がしてくれない目だ・・・  
仕方がないんで事情を説明する内に、ついつい、  
普段なら絶対に話さないことにまで踏み込んでしまった。  
 
・・・  
敦賀さんはご存知でしょう?  
私がアイツ・・・不破に捨てられたこと。  
今ならあれが「恋愛」なんてものじゃなかったって、分るんです。  
私は親は無いも同然で、愛せる対象はアイツしかいなかった。  
でも、アイツにとっては私は気が付いたらそこにいる家族だった。  
私は彼を「乞う」ていて、彼にとっては私は「空気」で。  
そのすれ違いで、捨てられたんだなって、今なら分るんです。  
でも。  
 
アイツに向けた感情が「愛」じゃないなら、  
私は最初から「愛」を知らないんです。・・・見たこと無いもの。  
 
そして、ヒトから私が好き、と言われた時にも  
どうしていいのか分らないんです。  
・・・そんなヒト今まで一人もいなかったから。  
 
彼女はぽつり、ぽつりと言葉を続ける。  
 
「光さんのこと、嫌いとかじゃないんです。むしろ好意を持ってます。  
 でもその『好き』は、モー子さんへの気持を薄めたものみたいな感じで、  
 恋愛かといわれれば、それは何か違う気がして・・・  
 どうしていいのか分らないんです・・・  
 あの後電話で話をして、光さんから謝ってもらっちゃって。  
 あれは冗談だよ、気にしないで、って。  
 彼は何も悪く無いんですけどね・・・」  
 
と、切なげに微笑う。消えてしまいそうに儚く、力なく。  
 
「・・・君は今まで彼に見惚れたりしたこと、あった?」  
「・・・?今までですか?・・・多分・・・無かったと思います・・・」  
「じゃ、今の君の気持は『恋』ではないんだろう。  
 気持のすれ違いなんて、星の数ほど良くある話だ。  
 君は君の気持に正直になればいい。それだけだよ。」  
「だったら、今後一生恋することなんてないと思うんですけどね・・・  
 一生ラブミー部卒業できないのかな・・・」  
 
「・・・君は俺のこと、どう思ってるんだっけ?」  
「?尊敬する大先輩ですよ・・・?」  
今なんでそんなことを?と彼女は不思議そうにしていて。  
 
「尊敬と愛って、よく似たものだよ?  
 君が俺を尊敬している、と言うなら・・・  
 君はもう他人に自分の気持を与えることをちゃんと知っているんだ。  
 ・・・愛する事だって、その時がくればきっと出来るよ。」  
 
そうなんですかね・・・と敦賀さんを見上げたら、  
似非紳士ではない、でも今まであまり見たことがない微笑で  
大きな手で私の頭を撫でてくれた。  
 
あったかいな・・・  
 
今まで誰かにこうやって触れられた事ってほとんど無い。  
精々手をつないでもらった覚えがある位で、  
頭を撫でられたり抱きしめられたりって事、知らなかった。  
でも、こんなにもあったかい事なんだ、って、  
敦賀さんが教えてくれた・・・  
 
髪を撫でられてるのがふわふわと気持ちよくて、  
つい目を細めてうっとりしてしまう。  
願う事はおこがましいことなんだけど、  
私はただの後輩でしかないんだけど。  
もう少しこのぬくもりがもらえるといいな・・・  
 
と思ってると。  
あれ?身体を持ち上げられて、膝の上に載せられた??  
・・・なんか、前にもこんな事あった・・・(汗  
出来るだけ意識しないように、って思ってたんだけど・・・(汗汗  
 
手のぬくもりを欲してたら、もっともっとあったかい場所に移されて。  
以前この後えらい事になったんだよね・・・(汗、って思いつつ、  
でもこのふわふわとした熱に引き寄せられて。  
・・・敦賀さんの胸に寄りかかってしまった。  
お父さんって、こんな感じなのかな・・・  
 
「・・・君は、莫迦か?」  
 
ついついうっとりとしていると、唐突に冷えた言葉が降ってきた。  
?!まずい!甘えすぎちゃった??!  
 
「・・・俺、まだ20代なんだけど・・・それでなんで君の『お父さん』なんだ・・・」  
「いやソノ・・・敦賀さんフ・・・いや年齢以上に落ち着いた方ですし・・・」  
「今『老けてるし』って思っただろう」  
「いやそんなコトは・・・思いました・・・〜〜ごめんなさい〜〜(TT)」  
「・・・あのさ、『キョーコ』、ちょっと聞くけどね。  
 男と、二人っきりで、無防備で、まして膝の上にいるって、  
 ・・・どういうことなのか分ってる?」  
 
・・・笑顔で名前を呼ばれて、私は頭上を見て固まってしまった・・・  
 
憎しみと愛の方がよく似てるけどね、は言葉にしないで。  
寂しげに微笑う彼女の、一人で意地を張って頑張っている、  
でもどこか脆そうな姿を見てふと手を伸ばして頭を撫でた。  
 
髪を梳くように撫でていると、君はふと目を細めて。  
それはまるで子猫みたいで。  
・・・今日の事を問いただすのが先になってた自分の黒い欲が、  
気が付けば抑えられず咽元までせり上がって。  
 
「君は本当に隙だらけだね」  
・・・俺は彼女を抱き寄せていた。  
胸にかき抱くと彼女は一瞬身体を強張らせた後、  
・・・そっと力を抜いて俺にもたれ掛った・・・?  
微かに緩んだ安心しきった表情を見ていると、  
俺は自分が異性として意識されていないことを・・・まざまざと思い知る。  
あまりにも無防備なその様子に、彼女の頬をぺちぺちと軽くはたいた。  
 
「・・・最上さん?どうした?」  
「・・・あ、ごめんなさい・・・あったかいなー、と思って・・・  
 お父さんって、こんな感じなのかな・・・って思っちゃって・・・」  
 
・・・お父さん、って・・・  
 
君、俺とこないだやることやってんだけど・・・覚えてる?キョーコちゃん?  
気を許したような彼女を見ているのはやぶさかではない。ないんだけど。  
でもね・・・俺も、とっくに限界ってものがね・・・  
君の目の前に居るのは一度でも肌を合わせた男なのに、  
甘くもたれればどうなるのかなんてまるで意識してない。  
・・・冗談じゃない。・・・そんなの、許せない・・・  
 
・・・名前を呼ばれた?え、一体ナニが??  
見上げるとそこには目一杯の似非紳士笑顔。  
・・・光ってる・・・キュラキュラが刺さってくる〜〜  
ごめんなさい、つい甘えすぎた私が悪いんです〜〜  
〜だからそんなに怒らないで〜〜  
お父さんみたい、なんて言っちゃってゴメンナサイ〜〜  
 
恐くて多分涙目になってる私を見てふと嘲笑うと、  
敦賀さんの顔がふいに近づいてきた。  
 
・・・口付けられた。あの時のように・・・  
でも、あの時よりも少し、分る程度に少し意地悪な手荒いキス。  
その瞬間に唇から意識を持って行かれて  
縋るものを探して敦賀さんのシャツを掴んだ。  
どの位そうしていたんだろう。  
気を失いそうに自分を侵食されて、やっと唇が離れたとき。  
 
「男と二人でこんな無防備でいるとどうなるかって・・・  
 教わった方がいいみたいだね、君は」  
 
膝の上で後ろ向きにされ背中を抱かれて、  
両肩にふわりと手を置かれて。  
 
「逃げたいなら逃げればいい」  
と、甘く低く耳元で凄まれた。  
 
・・・更に固まってしまった。なんかもう反射的に逃げたい・・・!!  
でも背中のぬくもりからは離れたくない。  
今離れてしまうと、次はいつこんなにあったかくなれるのか分らない。  
・・・敦賀さんの言ってることは意味が違うのは分ってる。  
分ってるんだけど・・・ぐるぐると考え込んでいると、  
 
「・・・君は、莫迦、なんだな・・・」  
 
そんなに莫迦莫迦言わなくたって!っと憤慨して振り向いたら、  
 
「君が選んだ事だよ」と暗い瞳で囁かれ、耳朶に刺激が走った・・・  
耳朶を甘噛みされ、首筋から背中に舌を這わされ、  
そうしているうちに上半身はするりと全て剥かれて。  
明るい、リビングの、ソファーの上で。  
スカートをたくし上げられて、下着を脱がされて。  
 
「・・・やぁ・・・っ!?」  
や・・・こんなの・・・こんな恥ずかしい・・・っ  
両手で胸をやわやわと揉まれ、指の間で乳首を挟まれ、  
鋭い刺激にいやいや、と首を振っていると、  
肩に鈍い痛みが走る。・・・きっと今、紅い華が咲いている・・・  
もう覚えてしまった感触に、全身が・・・特にあそこが、熱くなっていく。  
どうしよう・・・こんな明るい所で、こんなことされて・・・  
 
「・・・敦賀さん、こんな・・・嫌がらせなんてしなくても・・・  
 私みたいに地味で色気の無い女に、こんなことしなくたって・・・」  
 
あなたなら、よりどりみどりじゃないですか・・・  
 
「地味で色気が無い」?  
まだ緑色をした薔薇の蕾を見てそう言うのなら、  
それは見る目のない愚か者ってだけだ。  
今ですら蕾の先から覗く彩だけでこんなにも目を奪われるのに、  
咲き誇ればどうなってしまうのだろう。  
 
「嫌がらせなんかじゃないよ・・・君があまりに無防備で・・・  
 誘ってるようだったから、ね・・・?」  
「誘ってなんかいません!」  
「・・・あれは誘ってた、って言うんだよ」  
 
あれが誘いじゃなくてなんだっていうんだ。  
あまりにも自覚の無い彼女の言葉に  
黒い気持が抑えきれずに加速する。  
 
彼女の腰を掴んで俺を跨らせて向きあった。  
膝立ちにさせると、ちょうどの位置で乳房がふるり、と揺れる。  
 
上気して目の潤んだ、白い肌の半裸の少女。  
・・・これで欲情しない男の方がどうかしてるだろう?  
 
彼女の表情をじっ・・・と見つめながら乳首を口に含んで吸いたてる。  
あそこに手を伸ばして指先が奥に触れた瞬間、  
肩に置かれた彼女の手に更に力が入った。  
 
・・・しまった。やりすぎた・・・  
 
いや・・・っ、こんなの、恥ずかしいのに・・・っ  
敦賀さんの手は大きくて、力強くて。逃げられない・・・  
膝立ちで敦賀さんに向き合わされて、  
スカートでしか身体を隠してない自分が恥ずかしくて恥ずかしくて・・・  
俯いていると、見上げる敦賀さんと目が合った。  
今まで見たこともない暗くて深い、強いまなざしが私を射抜く。  
・・・恐い・・・敦賀さん、恐いの・・・  
 
いたたまれなくなって目を閉じると、  
乳首に強い刺激が走る。音を立てて吸われてる・・・  
やぁ・・・っと思った瞬間あそこを指先で触れられて。  
もう恐くて恐くて限界で。体が強張る。  
敦賀さんの肩に掴まっていた手に知らずに力が入った。  
ぎゅうっと握り締めて、竦むように敦賀さんの肩に顔を埋めた。  
 
・・・お願い・・・もう・・・許してください・・・  
 
 
・・・身体を硬くして縮こまってしまった私を見たからか、  
敦賀さんが手の力をゆるめてくれた。  
私を腿の上に座らせて、ゆったりと胸にかき抱く。  
脱いだブラウスを肩に掛けてくれると、  
「・・・ごめんね」と、私の背中に手を当てた。  
 
さっきの敦賀さんの目も手も本当に怖かった。  
・・・すごく怖かった、のに・・・  
こうして胸に抱かれていると、だんだんと落ち着いてくる。  
甘くて優しい、世界で一番安心な場所にいる錯覚。  
そんな筈無い。絶対に無いって分かっているのに、  
この錯覚の中にずっと居たい自分も確かに居る。  
私、一体どうしちゃったんだろう?  
 
そして、どうしてこの人は私の肌に触れるのだろう・・・?  
貴方の周りには綺麗で華やかな女性が幾らでも居るのに・・・  
私なんかが視界に入るはず無いのに・・・  
親切な時にはすごく親切で、怒ったときには本当に怖くて。  
本当に分からない。・・・この人は私には全く分らない・・・  
 
静かに泣きながら縮こまる君の頬をなでて雫を拭う。  
胸に押し付けるように抱いて背に手を回していると、  
身体の緊張が抜けてきた。よかった・・・  
「ごめん、大丈夫?怖がらせちゃったね・・・」  
 
君は大分気の抜けた表情でこくん、と頷く。  
「・・・さっきの敦賀さん、・・・怖かったです・・・」  
 
「・・・ごめんごめん。・・・男って、コワイでしょ?分かった?」  
 
「・・・敦賀さんが怖いっていうのはよーく分かりました!」  
 
「ん?まだそんな憎まれ口を言う元気があるのか」  
 
「・・・ゴメンナサイ、キヲツケマス・・・」  
 
まだ少し涙の跡の残る紅潮した顔で、  
上目遣いで探るように俺を見る君の額にキスを。  
そしてこめかみに、頬に、鼻の頭に。  
彼女はくすぐったそうに、でもじっとしている。  
引き裂いてしまいたい欲望もまだ燻ってはいるけど、  
今は・・・少しでも安心させたい・・・  
 
静かに抱いて背中をそっと撫でていると、  
ふいに寝息が聞こえてきた。  
 
・・・キョーコちゃん・・・  
 
君は、あれほど怖がった男の腕の中で、  
そんなに身を預けきって半裸で眠れるのか・・・  
愛という言葉にはあれだけ臆病になるのに。  
君の最初を奪って深く抱いても、これほど荒ぶってみせても、  
俺は・・・君にとって・・・何なのだろう・・・  
俺には「男として見られていない」以外は全く分らないよ・・・  
 
衝動のままに裂いてしまわなくてよかった、  
あのままだとひどく惨く弄ってしまっていた。  
今までこんな事なかったのに・・・とほっとする一方で。  
でも、このまま帰そうとも思わない・・・思えない。  
 
まだ早い時間だからその内目を覚ますだろうけど。  
俺は保険を掛けることにした。  
 
電話を1本掛け、寝室に連れて行き  
全て脱がして俺の腕の中で寝かす。  
ひどく安心しきった寝顔になんとも複雑な気持ちになる。  
 
目を覚ましたら・・・君は・・・?  
 
 
・・・目を覚ますと、男の人の胸板で視界が半分埋まっていた。  
「???!?」  
恐る恐る上を見上げると・・・敦賀さんだ・・・眠ってる。  
こんな時でもないとまじまじとは見ないけど、  
やっぱり綺麗な顔立ちだなぁ・・・睫長ーい・・・  
 
にしても、この状況は一体?私・・・眠る前って・・・えーと・・・  
敦賀さんに抱きしめられてたところまでは記憶にあるんだけど・・・  
・・・なぜ全裸に・・・たしか最後まではしなかった・・・はず・・・(汗  
??今何時だろう?・・・私、だるまやに何にも連絡してない!  
がばっと起きようとすると、腰に廻された手に力が篭った。  
 
「・・・最上さん?起きたの?」  
「敦賀さん、・・・今何時ですか?」  
「ん?・・・12時廻ったとこ。結構眠ったね。疲れてたんじゃない?」  
「それならまだ終電ありますよね?!帰らなきゃ!」  
「その必要はないよ」  
 
ナンデデスカ・・・キクノガコワインデスケド・・・  
 
「俺からだるまやに連絡しといた。だから大丈夫」  
 
・・・!?え"ーーー!??  
 
「なななな・・・んて・・・?!?」  
「ラブミー部の仕事で付き合ってもらっていたら、  
 疲れていたようで眠ってしまったので今日は泊めます。  
 明日送ります、って連絡したよ。一応嘘じゃないだろう?」  
「(涙目)・・・大将・・・女将さん・・・怒ってるかなぁ・・・」  
「明日の予定は?」  
「学校です。うーーーどーしよーーー・・・」  
「じゃあ早朝送っていけばいいね。」  
「う"・・・」  
 
敦賀さんからの電話を二人はどう思っただろう・・・  
恐い、恐すぎる!!・・・とあたふたしてたら、すっと手が伸びてきた。  
 
「・・・え?敦賀さん?・・・もうさっきで嫌がらせ・・・  
 イヤイヤもとい先輩の指導は終わった・・・のでは?」  
「男の生理をもう一つ、教えてあげるよ。  
 途中でお預けを喰うとね・・・後でもっと怖いコトになるんだよ?」  
 
強い目で射抜かれて竦み上がる私にくすっと微笑うと、  
嘘だよ、怖くなんてしないよ、止まらなくなるだけだ・・・  
と、唇と舌を胸元に這わせていく。  
触れられた処がなんだか、こないだよりももっと熱い気がする。  
どうしちゃったんだろう、私の身体・・・  
この間よりも、あちこちもっと熱くて甘い・・・  
 
「敦賀さんなら・・・もっともっと美人のグラマーさんが  
 よりどりみどりでしょう・・・」  
「女好きのショータローと暮らしてても、肩すら抱かれなかったのに・・・  
 私なんかに、どうして・・・?」  
 
途切れ途切れの息遣いで彼女が呟く。  
・・・日本に来てからは、  
女性からは媚びた視線しか向けられなかった所為か、  
誰にも特に興味は持たなかった。・・・君に再会するまでは。  
君にしか心が動かない。君しか俺を迷わせない。  
伝えたくても伝えられない想いがそのままの衝動で行為になる。  
 
そんな憎まれ口をきくのなら、その可愛い唇を塞いでしまおう。  
他の男の名前なんて思い出せもしない様、深く隈なく全てに触れよう。  
君がどれほど魅力的なのかをその身体に焼付けよう。  
肩を噛み、指先で君を奏で、君の目が俺しか映さなくなるまで。  
そして、どうしても俺を見ないのなら、  
もう他の誰を見ることもない様に引き裂いてやりたい。  
 
挿している指を二本にすると、彼女の声がひときわ高くなった。  
空いている手を彼女の手のひらに絡め、乳房に舌を這わせる。  
目尻の涙を舐め、息を奪うように口付け追い詰める。  
 
足の間に大きな体が滑り込んできてあそこに口付けされ、  
充分に融けていた私の身体はすぐにいってしまった。  
この人とこうしていると、自分が自分じゃなくなるようで・・・  
触れる指先は確かに優しいのに、  
ひとつひとつに悲鳴のような声をあげ、  
彼の身体に掴まってもどんどん意識が落ちていって・・・  
 
覆い被さられた時には、ほとんど何も考えられなくなっていた。  
突き上げる熱さと激しい甘さで自分が壊れてしまいそうで。  
彼の背に手を廻してしがみついていると、不意に身体を起こされ  
彼と向き合いながら座っていた。・・・彼が入ったままで。  
 
眠ってしまったときと同じくらいに近くて、  
でも比べ物にならないくらい私も敦賀さんも熱くて。  
揺すり上げられて背を反らすと敦賀さんに口付けられる。  
胸を摘まれ、燃える様な突起を摘まれて・・・何も分らなくなった。  
自分が上げたはずの高い声が、白い意識の中で遠くに感じた・・・  
 
・・・本当に、愛と憎しみは本当によく似てるよ。  
そうさ、この姿勢はわざとだ。  
君が安心していたこの姿勢は、君を引き裂くことも出来るんだと、  
とことん思い知らせてやりたい。手を君の身体に踊らせながら、  
自分でも限界を感じるくらい突き上げのスピードが増していくと  
君はふいに激しく締め付けて・・・いってしまって。  
俺もそれで自分を思う様解き放つ。君をしっかりと抱きしめて・・・  
 
力の抜けてしまった君を寝かせて静かな寝顔を見ていると、  
普段なら絶対に思わないことまで思ってしまう。  
不破にはある意味感謝しなくちゃな。  
奴が馬鹿だったおかげで、  
薔薇が今こうやって俺の腕の中に居る。  
たとえこの一瞬のことだとしても・・・  
 
望んではいけないのにキスを望み、身体を望み。  
とうとう君の心を望むのを止められなくなり。  
想いが溢れる。想いに溺れる。  
俺はいつかきっと自分への最後の戒めを破ってしまう。  
 
愛を受け止められないと悲しむ君は、  
その時俺にどんな目を見せるのだろう・・・  
確かな恐怖を感じながら、彼女を抱いて俺は眠りについた。  
目が覚めないことすら祈りながら―――……  
 
 
目覚ましの音で目を覚ますと、敦賀さんも同時に目を覚ました。  
私をシャワーへ促して、どうもコーヒーを入れてくれているみたい。  
身体を動かすと昨日の余韻が奥の方から滲んできて、  
やわらかいお湯を浴びながら私は心底困惑していた。  
 
・・・どうして・・・  
 
あの人はあんなに優しいのだろう?  
私はあの人の前でこれほど安心してしまうのだろう?  
未だに信じられないことまでされていながら、  
私はあの人を嫌いだと思っていたことはあっても・・・  
怖いと思っても、意地悪だと思っても。  
嫌悪したことは一度もなかった―――……  
 
貴方は、尊敬と愛はよく似ている、と言ってました。  
・・・この気持は、尊敬からですか?  
それとも・・・何か他に、理由がありますか・・・?  
絶対に開けてはいけないパンドラの箱を覗いた気持になって、  
私は自分に湧きおこった疑問に無意識に蓋をした。  
 
・・・私はただの後輩なのだから―――……  
 
目を覚まして、コーヒーを入れながら社長との会話を思い出す。  
 
「なんで告白しない?  
 ・・・まぁ、お前が他人と必要以上に親しい  
 つき合いしたくない気持もわかるがよ・・・  
 彼女はお前の全てを知って、お前を拒絶したり軽蔑したりする人間か?  
 俺は違うと思うがなぁ・・・」  
 
「俺だって違うと思いますよ。  
 彼女は多分・・・俺の過去を蔑すんだりはしないでしょうね。  
 でも、彼女は俺のことを事務所の先輩、とだけ思っています。  
 男としては見てもらえていませんから・・・」  
 
「フラれるのが怖いか?人に惚れるって怖いだろ。  
 でもなあ、もっと怖いことがあるんだぞ?  
 想いを告げないまま、彼女が他の男に浚われるのを  
 指をくわえて見ていることさ。  
 あれほど生きてることを後悔する事って無ぇぞ。  
 ・・・手遅れにならないうちによく考えておけよ」  
 
「・・・はい」  
 
・・・俺は、いつになれば、その一歩を―――……?  
 

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